ダンジョンのできた世界で、俺は世界を救えと望まれる。えっ、やだよ。ーその男、神の遊戯に巻き込まれて最強となるー

久遠 れんり

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始まった新世界

第35話 不埒な悪は、死の国へと誘われる

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「何だよここわぁ。おおうぅ」
「何が起こった?」
 飛ばされたことに驚き、そして叫ぶ。
 彼等は、何かがあれば、とりあえず恫喝をする決まりがあるようだ。


 事務所にいたのに、急に視界が変わり、真っ暗な所へと来てしまった。
 左右には壁があり、周囲には腐臭が漂う。

 彼等は、魔法を得たのに正しいことに使わず、おのれの欲を満たすために人に害をなす、いわば神力を悪事に使用した愚か者達……
 その事が、シンの閾値いきちを超えた。
 そう神の癖に、以外と限界値が低い。

 悪事に魔法を使う者達は、生きながらにして、地獄ヘと誘われる事になるなど、この時は誰も知らなかった。
 まあ話を聞いて、出発前にシンが急に決めたから……

 そう、現世にダンジョンが生えてから、この階には誰もまだ到達をしていないのだが…… 彼等が、初のお客さんとなった。
 ダンジョンの十三階には死者の国が…… 冥王のラビリンスが存在するのだ……



「―― へへっ。簡単なもんだな」
「ああ、車をパクるより儲けになる」
 彼等は最近まで高級車を盗み、荒稼ぎをしていた。

 昔流行ったCANインベーダーなどとは違い、今は近くに行っていれば、電磁波でスキャンを掛けられる。

 だが、壊さなくて良い分だけ時間は掛かる。
 それに各メーカーの防御プロテクトもキツくなり、クラック道具を買うのにもかなりの金額が掛かる。

 売る相手も、「別にいやなら余所へ行けよ」などと言って、訳の分からない名目手数料を引かれて、稼ぎは小さくなっていた。


 だがそんな時に、この世界に魔法が現れた。
 彼等は、魔法回路を得た後、便利な力を使うために多少は努力をした。

 超能力で有名な、テレポーテーションなどは使えないが、汎用のドアノブや鍵など、道具を使わずに壊せるようになった。
 ちょっとした超人だ。

 見つかっても、魔法で蹴散らすことができる。
 そうそれは、警官でも同じ。
 銃など通じないのだ。

 武道をしている相手だろうが、クロックアップすれば止まったように見える。

 彼等は自身が無敵状態になったと思い、好き勝手をして、現金を盗んでいた。


「あやつらが、検非違使けびいし。いや、警吏けいりの言っておった愚か者じゃな」
「警官な」
 ぼやいているのは、マフラーのように、ネコを肩に乗せた怪しい男。

 革のロングコートにサングラス。
 手には、指無しの革手袋。

 その後ろには公安が数人。

 相手が魔法を使う相手で、警官達が蹴散らされた。
 困った末に、司に相談をしに行く事になった。

 すると、思ったよりも乗り気だった。
 奴らは、上手く監視カメラを掻い潜り、どうやっても居場所がつかめなかった犯人達。
 
 だが、司は普通に散歩に出るような感じで、「こっちだな」などとそう言って、彼等はあっという間に特定してしまった。
「くれぐれも無茶はしないでください。殺人は駄目ですよ」
 そんな忠告を受ける。無論、彼等の一人が後ろで警察に通報中だ。

「分かっているよ」
 そうして彼等は、愚か者達の後を付ける。

 空き巣。
 人のいない店の裏へと回り、勝手口をぶち壊し入って行く。
 レジだろうが何だろうが破壊をして、金品を盗っていく。

 そして彼等は、ウキウキと出た所に、ぬぼーっと立っていた男に出会う。
 そう、ネコを肩に乗せた奇妙な男だ。

「何だお前。文句でもあんのかぁ。おうぅ」
 反射的に、いつもの様に恫喝。
 だが、相手の反応は皆無。

 そして、問われる。
「ああ、ある。盗ったものを返せ」
 じろりと睨まれて、彼等は一瞬だけひるむ。

「ちっ、店の人間かよ」
 言うのが早いか、もう殴ってきた。

 魔力の流れから、身体強化が効いた一発だと分かる。
 だが……

 司先生からすると、彼等の身体強化は、魔力の練り方が甘く、司にすれば未熟と言いたくなる。
 そんなレベルじゃ、自身の体が壊れない。
 壊れなければ強くなれない。
 司の経験による、正解の方法だ。
 それは、筋トレの世界では、超回復と呼ばれている物と同じである。

 彼の身体強化の甘さ。
 それは、我流の限界なのだろう。
 やはり優秀な師に付き、奥義を習わねばならないようだ。


 パチッ。
 司の右頬でパンチが止まり、相手の手首がぐにゅっとねじれる。
「うわっち。手首がぁ」
 殴ったのに、自分の手首がぐねってしまった。まるで鉄板でも殴ったような痛み。かなり痛かったようだ。

「これで、正当防衛で良いのか?」
 一応確認をする。
「はい、見ていました。暴行傷害の現行犯ですね。あっ、殺しちゃ駄目です」
 担当者が「はい」と言った瞬間に、殴った。
 相手は腹に拳を受けて、数十センチ宙に浮く。

 だがそれは、まるで腰の入っていないパンチ。司にすれば、ただ拳を持ち上げただけ。

「グハッ」
 それを見た仲間達。
 身体強化を使い、一気に逃げ始める。

「おい、忘れていったぞ」
 彼等は、倒れ込み苦しんでいる一人を残して、いなくなってしまった。

 だがその時、誰も気がつかなかったのだが、司の肩から黒猫シンが消えていた。


 彼等は、あらかじめの取り決め通り、バラバラに逃げた。
 だが奇妙な感覚を感じて、幾度も後ろを振り返る。

「何だよ一体?」
 何処まで行っても、視線を感じるのだ。
 それはまるで、恨みでもこもったような。
 じっとりとした感覚。

 下手に振り返って何かが居れば、ちびるほど驚く事になるのだが、自身を襲ういやな予感と不安。振り返らずにはいられない。

 そう、それはまるで、被害者達の目。
 なにも出来ないくせに、感情のままに睨んでいたあの視線。
 それに近い視線だが、何かが違う。体が怖がっているのだ。

 あれは…… ふと気がつく。
 道の端に黒猫がいて、こっちをじっと見ている。

 奇妙な事に、彼等の仲間達も、離れた場所で同じ光景を見ていた。

 どこまで逃げても、黒猫がいる。

 彼等は公園で落ち合った後、ケツ持ちと言われる上位グループの事務所へと飛び込んだ。

 そう、異常なほど監視カメラが設置された建物。

 そのカメラのどれにも黒猫が映り込んでいたことは、後になって警官が確認をする事になる。

 司達は、警官に一人の身柄を受け渡す。
 そして、歩き始める。
 迷うことなく、その事務所に向かって。

 警官に引き渡された被疑者。
 魔法を警戒をしたのだが、魔力回路はあるのに、魔法が使えないことに気がついた。
 魔力回路の中心にある魔石。それが変質していたことに、気が付く者は誰も居なかった。

 そして、その後。悪さに魔法を使用すると、その度合いにより魔力が封じられる様になったようだ。また急に決まった決まり事。

 まるでそれが、世界のルールでショと言わんばかり。
 口を開く度にルールが増えていく。

 きっと、付き合いたくない人間、ナンバーワンになれるだろう。



「すいません。ドジ踏みました」
 彼等は、事務所にたどり着くと報告をする。

「どうした?」
粋刈いきがりが捕まっちまって」
「ちっ、仕方がねえな。手を回す。上がりは?」
「これっす」
 持っていたザックから物を取り出す。

「その黒猫は何だ?」
 そう言われて、彼等はビクッと少し飛び上がる。

「ネコ?」
 背後を見ると、ネコが……

 変化をして、怪しい男へと変化をする。
 そう、彼は司ではない。
 シンだ。
 彼は、司以上に世の中にある、決まり事には縛られない。
 そう自由人である。

「貴様ら、神意により与えられた力を、悪事に使いおったな。どれ、貴様らは似合いな所へと送ってやろう」
 そう言って、にやっと笑う。

「化け物め」
 刀やら銃弾やら、躊躇無しに打ち込まれた。
 そう、屈強な彼等が、とてつもない恐怖を感じて、無条件に反撃へと出た。

 そうしなければ、自分は死ぬ。
 そんなものを感じて……

 だが、そんな反撃など、所詮はこの世の物理法則に則ったもの。
 超越をした存在に効くはずもない。
 部屋に飾ってあった神棚が、なぜか『ガラガラ』と音を立てて落ちた時、この建物から人が消えていた。

 司が到着をして、開きっぱなしのドアを入った時に、猫の姿をしたシンが出てきた。

 そして、ぴょんと肩に乗る。
 この後、この団体の関係者が、この建物に入る度に神隠しが発生。
 そのため、土地ごと安く売られることになった。



 消えた者達は、ダンジョンの十三階へと飛ばされていた。
 ここは、リッチが治めるラビリンス。この世にダンジョンができて一月。まだ到達した者は誰も居ない。

 ダンジョンの五階から十階までは、命あふれる世界。
 次郎が喜んで仕入れをしている、夢のあふれた平和な世界。

 そして、十階のボス。オーガを倒した者は、世界の深淵へと、いよいよ足を踏み入れる事になるのだ。

 そう…… 十一階から十五階は死の世界。
 まるで、冥界だ。

 特に、十三階は司が良くない数字と言ったおかげで、逆方向のボーナスステージになっている。
 その中央には廃城があり、そこの宝箱には悠久の命を得られると書かれた『冥王の雫』という物を得ることができる。

 この薬、ラベルの文字はかすれて読みにくいのだが、説明には『この霊薬、飲み干せば命の限りはなくなる。肉体なる無用な器から今こそ解き放たれよ。深淵を求めるならば……』そんな事が書かれている。

 要約すれば、飲めば長生き出来るよ。
 肉体は無くなるけどね。
 となる。

 そんな冥界が顕現したような地下迷宮。そこで彼等は彷徨うことになる。
 司ですら、苦行だとぼやいたフロア……
 そんな場所で……
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