ダンジョンのできた世界で、俺は世界を救えと望まれる。えっ、やだよ。ーその男、神の遊戯に巻き込まれて最強となるー

久遠 れんり

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始まった新世界

第58話 知らなかったこと

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 このダンジョンで競い合う二チーム。
 大学生チームの『トワイライトウォーリア』と高校生チームの『暁の兵団』。

 どちらかと言えば、身体的には『トワイライトウォーリア』の方が優勢なのだが、彼等はナンパという崇高な思いがある。

 その点、不純な動機が少ない『暁の兵団』の方が見込みはあった。

「うし。バットも金属に変えた」
 ゴブリン棍棒から武器が進化をして、マスコットバットだったり木刀だったり、各自の装備を揃えた。

 公的には、五階のボス部屋は、突破されていない。
 ただし、あくまでも公的にはである。
 その現実を知ったときに、努力をした者達が受ける衝撃はいかほどのものか……
 ダンジョン管理室は、そこまで考えていなかった。

 秘匿されている富士山のダンジョンでは、当然突破されて、十階すら突破。
 今、彼等は泣きながら、十一階をゾンビと共に彷徨っている。
 暗いし、臭いし、罠があり危険なため、上司からの『命大事に』という命令により、少し探査スピードが落ちている。

 そして今、民間ダンジョンで、その悲劇が幕を開ける。

 民間ダンジョンでは、羨望の五階突破。
 なぜかボスの正体は公開されている。

 逃げ場のないところでの、オーク討伐。
 人数が十人までなら一匹。
 以下、単位を超えるごとに、オークが増える。

 これは管理室の廊下に、ダンジョンの注意として貼られている。

 彼等は特訓を重ねて、各自がオークを倒せるくらいに強くなった。
「もう、流石に大丈夫だろう」
「そうだな。明日行くか」
「おう」
 彼等は高校生なので、ダンジョン内での泊まりは基本許可されない。

 翌朝、六時に集合。
 気合いを入れて入ダンをする。
「早いですね」
 ダンジョン入り口で、警備のおじさんに声をかけられる。
「ええ。今日こそ五階のボスを撃破します」
「そうですか。怪我のない様に頑張ってください」
 おじさんは知らない。

 ボス部屋は、生きるか死ぬか。
 倒すか倒されるか。
 そうしないと、通路の封鎖が解けない。
 怪我がないようにだと、勝つしか無い。

 まあチームなら、数人死んでも勝てば良いのだが、そんな身も蓋もないことはみんな考えていない。


「うらあっ」
「おらっ」
 人のいないダンジョンに、彼等の叫びがこだまする。

 その声に導かれて、わらわらとゴブリン達がやってくる。
 彼等は気合いが入ったおかげで、自分たちの首を絞める。

 ポップアップ後、倒されないと当然消えないゴブリン達。
 今はほぼ全員集合状態。叫ぶ声でゴブリン達を呼び寄せる。

「声がするから行くベ」
「行くベ」
「行くベ」
 と、仲間を誘ってゴブリンさん達が大集合。

「だぁー。何だよこれぇ」
「なんか、無茶苦茶多いな」
 文句を言いながらも、彼等は進む。

 多くても、ゴブリン数は基本の数だけ。
 現在、おまけ増量にはなっていない。
 ある程度の人数が入ると、おまけポップアップが始まる。
 すべての人に攻撃のチャンスをあげなけりゃいけないという、とっても迷惑なシンからのプレゼント。

 暴走をしたり本当に迷惑な機能である。


「うりゃあ」

 四階の終端。
 ここまで三十キロを急ぎ足で戦って来た。
 だが敵が多く、予想以上に時間がかかっていた。

「もう昼か」
 疲れた顔で、導人が腕時計を見る。

「そうだな。休憩をして、五階は十五キロ。オークがいないと良いがな」
 神保も疲れたのか、そんな弱音が漏れる。

「ああ。でも、たまに、二回出会ったりするんだよな」
 各自、ぶつぶつと言いながら弁当を広げる。 
 お気づきだろうか? 彼の言った言葉。それはフラグという……
 喜びたまえ。紫雲しうん 光輝こうき
 君は今、立派なフラグを立てたのだぁ。
 そして、フラグは神への願い。
 無事に果たされる。


 下へ降りる階段前は、安全地帯である。
 最近は東屋あずまやとか四阿しあと呼ばれる建物が生えてきた。
 無論トイレも完備。
 水場もある。

 ドンドンと……
 しかし、こそこそとダンジョンは姿を変えて、便利になっていく。
 そのため最近では、宇宙人侵略説や、これから起こる侵略と闘う為に修行の場として作られたとか言われている。
 政府の発表は、神の試練一辺倒だ。

「さて行くか」
 休憩後、気合いを入れて、彼等は進む。
 前人未踏の六階を目指して。

「だから何で、オークと二回も当たるんだよぉ」
「黙ってないで戦え。こいつ、強い方だ」
 モンスターには、強さのばらつきがある。

 ゴブリンや、コボルトでも素早さや魔法。そして使う武器なども違う。

「いけえぇ」
 神保が背中側に回り込み、背後からフルスイングでオークの膝を壊す。

 倒れ込んだオークは、これでたこ殴りの運命から逃げられない。
 彼等が周りを囲む姿は、浦島太郎がいれば思わず助けに来るような光景。

 囲んでボコる。
 実にむごい……
 だけどそうしないと、人間側が食われるんだけどね。

 たまに男でも襲われるらしいし……
 そのときに受ける、精神的なダメージはもう……

 とにかく、見たら逃げるか殲滅。

 彼等は何とか三時間以上をかけて、十五キロを走った。

「ようし。休憩後、俺達はボスに挑む」
「「「「おおおうっ」」」」
 気合いを入れて降りていく。
 そして、階段の終端前で神保は振り返り、彼等の顔を確認する。

 紫雲しうん珠水たまみず龍端りゅうばた高原たかはら

 全員、気合いが入った顔をしている。

「よし、行こう」
「「「「おう!!」」」」
 階段をりて、ボス部屋にはいる。

 そっと階段の境目を確認すると、すでに見えない壁があり、戻れなくなっていた。

「見えない壁がある」
 各自が壁を確認する。

 フロア側の中央には、棍棒を持ち仁王立ちのオークがじっとこちらを見ていた。
 まるで、巌流島で、遅れてきた武蔵を待ちくたびれた佐々木小次郎のように。
 だが、苛つく様子はなく、その落ち着いた姿を見て、みんなに緊張が走る。

「あいつだな。気合いを入れろ」
 試合開始の宣言などはない。
 彼等はオークを囲むように走っていく。

 その光景をじっと見ていたオークだが、にやっと笑った気がした。

 クルリと向きを変えて、背後に回った高原へ向けて、長めの棍棒がすごい勢いで迫る。

「うぉっ」
 何とか躱そうと身を低くすると、なんと言うことでしょう……
 棍棒が軌道を変えて、下がるではありませんか。
「おわっ」
 身をかがめようとしていた彼は、慌てて逆に飛びあがり前転。
 何とか棍棒を躱したのだが、かなり焦った。

「こいつは五階のオークとは違う。気を付けろ」
「「「「おうっ」」」」

 つい、額に角が生えていないか確認をする。
 隊長機には角が……

「おわっ」
 色々と考えて足が止まった珠水を、目ざとく見つけたようだ。
 凶悪なスピードの棍棒。
 そいつが空中で、いきなり跳ね上がる。
 賢いオークは振っている途中で、もう一方の手を当てて軌道を変更していた。

「なんと言う奴だっ」
 珠水が叫ぶ。

 当然だが、それは見逃されはしない。
「「「「オークだ!!」」」」
 お約束のようにみんなが突っ込む。

「そうだけど違う。みんな、なんで余裕があるんだよ」
 その質問に、紫雲が答える。

「強くとも一匹。狙われてないと暇なんだよ」
「馬鹿野郎。それなら待ってないで攻撃をしろよ」
「良いのか? タイマンでは?」
「違うだろ」
 まあ、なんと言うか、彼等は見切っていた。

 準備を行い、命が掛かっているので、しすぎなくらいの練習を行った。
 多少ザコオークに比べて強いのだが、所詮はオーク。

「オラこっちだ」
 誰かが誘い、その隙に別方向から攻撃をするはめ技。
 おバカな彼等は、攻撃を食らうとそっちを気にし始める。

 一対多の試合なのだ、各自に力があれば、オークには勝ち目はない。

 彼等は当然の様に勝ち、初宝箱をゲットする。
 中に入っていた、功労の割にはショボい報償を貰って、多少落ち込みながら階段を降りた。
 
 そこに広がっていたのは、夕暮れが近い自然。山と谷が見える。
 そして……

 オッサンと、かわいい女の子のラブラブな姿。
「営業までに帰らないとな」
「うん。チャーハン大盛りね」
 ひろみが注文。

「大丈夫か? 最近大分育っただろ」
 そう、少しふくよかにメタモルフォーゼしていた。

 その瞬間に、きっちり腰が入った、彼等の目では追えないスピードのパンチが、ドンと言う重低音を響かせる。凶悪なパンチは、湯霧の鳩尾を襲った。
 だが……

「もう、痛いじゃないかぁ」
 そう言って、平気なオッサン。

 そして他の女の子も、「今日はあまり採れなかったね」などと言いながら、階段横の石板に触れて消えていった。

「えっ、一番乗りじゃなかったのか?」
 彼等は、初六階を目指していた。
 それなのに、そこにはまるで、日常的な何かが広がっていた。

 チーム司は、有能チームの心を、この日少しだけ壊した。

 後日、レッドラスティネイルの会話を聞いて、彼等にとどめを刺したのだが……
 この時には、そんな悲劇など、まだ知らない。

 とにかく、一般人としての初踏破。
 おめでとう。
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