ダンジョンのできた世界で、俺は世界を救えと望まれる。えっ、やだよ。ーその男、神の遊戯に巻き込まれて最強となるー

久遠 れんり

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始まった新世界

第59話 夢を見る

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「司さん。隙です。あっいえ、好きです」
 気合い一発。とうとう彼女は言った。

 昨日、十五階のボスであるミノタウロスを撃破した。
 地獄の番人ともいえる彼は、手に戦斧を持ち、彼女達を見た瞬間、確実に殺しに来ていた。
 ただ、なぜだか、司とは決して目を合わせなかったのだが……

 彼女達は、相手がウマ面のため、表情が読めずに戦闘には苦労をした。
 だが、気負うことなく、まるで何かの奥義のように、ゆらりゆらりとその戦斧を躱し、的確に攻撃を当てていった。

 その姿は、地獄の番人に攻撃を加える、死に神のようだったと司が褒めた。
 えーとそれって褒め言葉ですよねとは思ったのだが、笑顔でありがとうございますと答えた。

 その様子は、気配を隠し、陽炎のように姿が薄い彼女達が、ゆらりゆらりと襲いかかる。
 意識から外れると、彼女達の姿はもう追えない。
 それは暗殺の奥義のようなもの。

 ボス部屋は、レンガ作りの一辺が二十五メートルほどある大きな広間。
 各辺に数本ずつ、松明の明かりが揺れる。

 だが、相対的には薄暗い。
 そんな暗闇から、ふっと現れて死の鎌を振るう彼女達。
 的確に、急所を狙う。
 アキレス腱を切り、各関節を壊す。
 最後には頸動脈…… そう首が切られて終了だ。

 結果的に、誰も怪我などすることもなく勝ってしまった。

 そして、結衣。
 彼女は興奮が残っていたのか、昨夜見た夢は、結構過激な司との睦み合いだった。

 その勢いのまま、彼に告白をする。
 彼女達も十七歳とか十八歳。いい加減、体も精神も大人に近くなっている。

 昨夜見たその夢は、かなりリアルに司に愛される様子。
 無論、そんな夢も初めてではない。だがいつも、良いところで目が覚める。

 その先を、ぜひお願いしたい。
 そうして、意を決して告白をしたのだ。

 だが……

「「好きです」」
 させるものかあという感じで、横から、亜矢と杏華も告白をする。

 これにより、思いを込めたラブは、ライクへと変異する。
「おう、そうなのか。ありがとう。俺もみんなのことが好きだよ」
 はうっ。これはこれで嬉しいのだが、違う違うのよぉ。
 結衣は心の中で焦る。

「違うんです。それじゃなくて、付き合ってください」
 司はそれを聞いて、和やかな笑みを浮かべる。

「よし分かった。じゃあ行こうか」
 そうして、転移石で十六階へと向かうのであった……

 付き合う…… そう特訓へ。
 そんなに、強くなりたいのかと司は感動をした。
 あんな悲劇的なことにならないように。
 彼は、いまでもあの光景を思い出す。

 色々な方向に折れ曲がった結衣の手足。
 むしり取られていた亜矢の腕。
 残酷にも裂かれていた杏華。

 オークの百匹や二百匹。瞬殺できなければ強者とは言えない。
 そのためには、まだまだ修行が必要だ。
 
 彼女達の才能は素晴らしいのだ。
 立派な戦士へと育てよう。

 今だって、特訓に付き合ってくれと、あんなに気合いを入れて言ってくれた。
 嬉しいことだ……
 司の目に、感動の涙が浮かぶ。

 任せてくれ。
 俺は君達を強くする。
 彼女達にとって、修行は辛く厳しいものとなるかもしれない。
 だが、君達の意気込み。
 それに応えよう。

 うんうんと納得をして、精霊獲得の階層へと足を踏み入れる。



 ―― 少し前。
 学校では登校日なるものがあった。
 暁の兵団やレッドラスティネイルは同じ学校。

 二年生の暁の兵団は、三年生のレッドラスティネイル達を見かけて、その雰囲気にのまれた。

 そう周りに居る、凡庸な学生とは違う。
 単にお喋りをして歩いている。それだけなのに強さが感じられる。

 なんと言うのか、体運び。
 一歩足を踏み出す。
 その所作だけで強さが分かる。

「何だよあれ?」
 珠水が真っ先に気がついた。
 彼は元々剣道をしているために、強者を理解しやすいのかもしれない。

 言われて、見てしまう。
 そこには、強者のオーラに包まれた何かがいた。

 彼女達は今、少しだけ色ボケだが、周囲の探査はもう癖となっている。
 見られていることに気がつき、そちらを三人が同時に見る。

 品定めをする厳しい目。
 敵か味方か、どんな武器を持っている? どんな魔法?
 そんな、すべてを見透かすような目だ。

「うげっ。寒気がする」
「お前もか?」
 彼等も戦いの中で強くはなった。だから少し理解ができる。
 あの研修の時とは、桁違いに強くなった彼女達。

「ちわっす」
 怖くて足が震える中で挨拶をする。

「あらっ? 見たことがあるわね」
「はい。暁の兵団て言う、チームを組んで探査しています」
「そうなのね」
 そう言ってにっこり。
 美人系である結衣の笑顔は、二年生くらいの男子には攻撃力が抜群だ。

 
 少しヤンキーぽい亜矢と、かわいい系の杏華。
 三人揃うと、オールジャンルがカバーできる。
 だから、彼等も張り切ってしまう。

「俺達この前、五階のボスを倒したんです」
 それを聞いて、冷めた感じで亜矢が口を出す。

「ああオークね。弱いけれど、最初は苦労するわね」
「なんか懐かしいわね」
「ええ、まあ」
 なんだか、三人共が遠い目をする。

「まあ、頑張りなさい」
 彼女達は、移動を開始しようとする。

「先輩達、今どこを行っているんですか?」
 そんな問いかけをしてしまった。
 
 さっきの言葉に、不穏さを感じたからだ。
 俺達が公的には初だと、記録には残ったのだ。
 先輩達は先に行っているはずは無い。

 それなのに、弱いけれど、最初は苦労する? 懐かしい?
 その答えはおかしい……

「私たちは、今地獄…… 何階だっけ?」
 結衣が首をひねる。

「ボスは…… ミノタウロスだって言っていたから十五階かしら?」
「あーそうかも。やっと骸骨から解放されるわ……」
 そんな感じで、表情が無くなった彼女達が答えてくれた。
「そうですか」
 訳が分からないのだが、とりあえず答えを返す。
 彼女達が、なんだかんだと言いながら、離れて行く後ろ姿を見送る。


「―― えーと、今、なんつった?」
 彼女達がいなくなった後、神保達は顔を突き合わせる。

「ミノタウロス? 骸骨? なんだ?」
「さっき、地獄って言ったぞ」
「そうだな」

 その言葉の意味を知るのは、まだ随分先である。

 彼等が、必死で追いかけても、その差は縮まる事は無い。
 彼女達は愛されているから……
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