ダンジョンのできた世界で、俺は世界を救えと望まれる。えっ、やだよ。ーその男、神の遊戯に巻き込まれて最強となるー

久遠 れんり

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迫り来る脅威

第154話 やっちゃった

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「なに? 車体重量が百五十キロ軽減?」

「はい」
「何をしたんだ?」
「エンジンが変わっています」
「エンジンだと? EV化をしたのか?」
「いいえ。これからは魔導エンジンです。セキュリティもバッチリ。個人の魔力パターンで開錠も始動も出来ます。クラックされまくったイモビライザーなど必要ありません」

 EVと違い、走行用バッテリーが必要ない。
 そして、百五十キロから二百キロもあったエンジンが数キロに成った。
 これは大きい。
 魔石のセルが一つで三万から五万キロ走れる。
 これなら、車検時に交換することでずっと走れる。

「魔力パターンはどうやって登録をするんだ?」
 聞かれて資料を捲り始める。
「ギルド…… えーと、ダンジョン管理室に登録する際ライセンスに記録されるとのことです。それを車のシステムに登録を行うということです」
「登録が簡単にできるなら、模倣出来るじゃないか?」
「それが登録時はこのネットシステムに接続、あらかじめ登録された拠点でしか変更ができない様です。そのため登録や変更が出来るのは、ディーラー内部の人間だけですね」

 言われているように、ラプラス管理下でしか変更が出来ない。
 拠点でも、営業時間内しか扱えない。
 緊急時、つまり災害時にはセキュリティが解除されることになっている。
 放置車両を警察官などが移動出来ないと、さらなる混乱が起こるためだ。

 そんな物が、主要メーカーで話題になっていた頃、あるサーキットにのっぺりした車が持ち込まれていた。
 MPA零型。
 Magic-powered Automobile。

 司の趣味で造った車。
 魔導エンジンと、各種魔法を搭載。
 空力と重力を、このマシンは支配下に置く。

 すでに、獣人達の国では幾つも実用的な車が走っており、データは取れている。
 獣人の国は舗装すら必要なく、道路表面は石化魔法により固められている。

「この車、適当に走ってもそこそこ早いはずです。ミスってもぶつかったりしませんから安心してください」

 テストドライバーは、もとF1ドライバー中嶋右京。

「大丈夫なのか? 見た感じ、台所に出るあれみたいだな。それに会社も研究所?」
「ええ、形はそうですね。でも早いですよ…… あーもし、気を失っても車が勝手に戻って来てくれますから」
「気を失う? 俺が? まだそこまで落ちちゃいないよ」
 彼はまだいくつかのレースに出ていて、多少の衰えがあるとは言え現役だ。

 そのプライドが言葉からにじみ出る。

「最初はあまり踏まずに行ってください。それとパドルはありますが、基本は無段変速です」
「そうなのか?」
 覗き込むと足元は2ペダル。

 そして、バケットシートと五点支持のベルト。
 中に乗り込むと、かなりはまり込むような感じとなる。

「カートみたいだな」
「でしょ。エンジン音が無いから気を付けてください」
 それを聞いて、フォーミュラEのような物かと理解をする。

 ドライバーは、エンジン音や排気音で回転数などを判断するところがある。
 音が無いと、戸惑うことになる。

「判った」
「もう動きますからね」
「ラジャー。行くぞ」
 ドアが閉められて、彼はゆっくりとアクセルペダルを踏み込んでいく。

「ペダルは適度なテンション。良い感じだな」
 確かに無音で走り始めるのは違和感だ。
 EVのようなモーター音すらしない。

 バラバラとタイヤが路面の砂を噛み、タイヤハウス内に撥ねる音のみがする。
「ふーん」
 足を乗せた状態から、もう少し、深くアクセルペダルを踏み込む。
 彼は足の裏で、数ミリ単位のペダルコントロールができる。

 踏み込んだ瞬間、体がシートに押しつけられて目玉が飛び出しそうになる。
 トラクションコントロールが動作をして、タイヤのスリップは発生しない。
 一般の市販車用タイヤ、245の40扁平タイヤががっちりと路面を捉える。

「おおっ? 四駆なのか。すげえな。うわ、直線が終わる」
 慌てて、ペダルを踏み換えてアクセルからブレーキに踏み換えてタイヤの限界を探ろうとするのだがアンチロックブレーキシステムが働き、かなり手前で減速が終わってしまう。

「ちっ、素人かよ」
 ヘルメットの中で苦笑いしながら、彼はアクセルを踏み直す。
「GT並みだな。市販車じゃないということか」
 この時彼は、違和感に気がつかなかった。

 風魔法と、重力魔法が作用をして、この車はあり得ない速度で止まるし曲がる。
 GT用の30サイズのタイヤでもないのに、それと同等以上の挙動を見せる。

「うん? なんだこれ?」
 コーナーを回りながらアクセルを踏んでいくのだが、滑る様子が無い。
 その速度は、体に染みついた限界速度を遙かに超えていく。

「やべえ、やべえ、やべえ。おい、こんなの死ぬから。うわぁ、次のコーナーが来る」
 ブレーキを当てず、ステアリングを切るだけで車は狙ったラインをトレースする。

 その横Gはすごく、視界がおかしくなる。
 横向きに強力な遠心力が掛かると、体内の血液がカーブの外側へと移動する。
 軍用のパイロットは旋回時に脳への血流が減り失神をすることがあるために下半身や腹部に耐Gスーツという物を装着する。

 だが今回は旋回は横方向のみ。

 目の毛細血管が切れて充血をする。
「おわあ。減速しなくても回るが、俺の体が死ぬ。なんだよこの車ぁ」
 かれは、非常識な速度で走行をして後、どのレースでも、車の限界を越えてもコントロールが出来るようになっていた。
 上位のレースを体験すると、下位のレースは余裕が出来る。

 まあ、車が変わって一発目は、低い限界のせいで、曲がれずに突き抜けるのだが……

「結構良い感じですね」
「人間の限界を超えているな」
 司から見てもそう思う。
 なんせFHRシステムをつけていてもドライバーの首が、横Gに負けて外に流れているのだ。
 FHRシステムとは頭部前傾抑制装置で肩の上に乗っているサポーターで、ヘルメットとベルトで繋がり、ぶつかったときなどに、限界を超えた減速Gにより、必要以上に首が曲がらない様にしている。
 首の骨を守るためだ。

「でも安全でしょ」
 満足そうな司と、あきれ顔の開発に携わった自動車メーカーの担当者。
 何が何やら、よく判っていない国土交通省の担当官……

「とにかく安全です」
 メーカーの人間は語る。
「判りました。持ち帰り審議に掛けます」
 その言葉を鵜呑みにする担当官。
「よろしくお願いします」
 怪しい笑顔で見送る司。

 これによりEVすら、時代遅れとなっていく。
 何せ、魔法シールド付き。
 人をはねてもぽよんと包み込み、怪我をさせない安全装備付き。
 事故りそうになってもラプラスの制御が入る。
 まあ本当なら、運転すらする必要は無いんだけどね。

 これにより戦略物資がまた一つ。
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