不運だけど、快楽と無双を武器に、異世界を生きていく。

久遠 れんり

文字の大きさ
5 / 135
第1章 新しい人生の始まり

第5話 困った俺

しおりを挟む
「とりあえず。稼ぎの良いお仕事をください」
 にっこり笑って聞いてみる。

「うーん。えーと。ヨシュートさん強そうだから大丈夫かな?」
 パラパラと、閉じられていたカードを捲る手が止まる。

 ここから、この世界での本当の一歩が始まった。

「ゴブリンの巣があるらしいので、調査をお願いいたします」
「巣、調査?」
「はい、場所と大体の数。もし捕まっている人がいるなら、人数ですが、ホントに分かる範囲でいいので無理をしないでください。それで討伐をした個体が居たなら、右耳。こちら側の耳を切り取り持って帰ってください。一個で銅貨三枚です」
「判った」
 俺が間違えないように、自分の右耳を引っ張って教えてくれた。

「そんなに引っ張って、痛くなかったか?」
 つい彼女の耳をなでる。

「ひっ。ひんっ。あっ。やっ。あうっ。だめっです」
 そう…… おれが貰った能力が発動し、彼女の大事な所を撃ち抜いた。当然そんな事には気がつかない。

「やっぱり痛かったんだな」
 そう言いながら、耳をぐにぐに。

「やっ、ちが。あうぅ」
 ガクガクして、彼女はまた机の下へと入ってしまった。

「行ってくる」
「あううぅ。ばかっ」
 真っ赤な顔で、彼女は見送ってくれた。

「私って、耳…… 弱いんだ。知らなかった」
 彼女は、自分の体に潜む神秘を発見したようだ。


 俺は、門番さんに頭を下げて、外に出る。
 地図の通り、来た道を戻る。

 山は、あそこ。手前の森を折れて、迂回するように向こう側。

 もう周りが真っ暗になった頃。山の麓へとたどり着く。
 ユキに、この前作った燻製猪足を与えて、俺はたき火で薄切りの燻製肉を炙る。
「やっぱり塩が欲しいな」

 そんな穏やかで、やさしい月の光の中。
 森の方で声が聞こえる。
「ぷぎゃああああぁ」
「ぶぼー」

「あれが言っていたゴブリンかな。変な声で鳴くんだな。あっちか」
 ユキと二人。森の奥へそっと入っていく。

 板壁で囲いが適当に造られた村。

 壁は到る所抜けて意味は無さそうだが、中には生き物の気配が沢山ある。

 今度は間違えない。
 ヒトでは無く、ぶたっ鼻の奴ら、身長が二メートルから二メートル五十。

「大きいな」

 その時、奥の小屋から間違いなく人の声。
 それも女性だ。
「いやあぁ。助けてぇ。モンスターの相手なんてもういやあぁ」

 彼女は、髪を引っ張られながら、別の小屋へと引きずられて行く。

「いやあぁ」

「様子見だと言っていられん。行くぞ」
 力を解放する。

 その時、周囲に風が吹き抜ける。
 怒りのあまり、力を解放をした時、威圧まで乗ったようだ。

 周りが静かになる。
 虫の声まで止まる。

 その中を突き進み、小屋の戸を開ける。

 そこには、五人ほどの女性が捕まっていた。
 簡単な木の檻。
 手で引っ張ればドアが壊れるほどのもろさ。
 ドアは壊したが、肝心の女性達は、白目をむいて失神中。
 中には漏らしている者達も。

「ひどいな」
 とりあえず白目をむいている二匹ほどのゴブリンをぶん殴り、討伐証明の右耳をむしる。
 この前に、川で見た奴より大型だ。
 きっとあれは子どもで、こっちは成獣? なんだろう。

 落ちていた布きれにそれを包む。
「女性は後回しだ」

 さっきの、女性が引っ張り込まれた小屋へと入る。
「ゴブリンが三匹で一人を回そうとしたのか。ひどいな」

 倒れているゴブリンの顔面を殴り耳を取る。
 恐怖のあまりなのか、女性は気を失っていた。

 他の小屋を回りながら、ゴブリンを退治していく。

 全部で二十匹くらい。
 そして、村のちょっと外に、女性に産ませたのか、小さな個体が沢山引っくり返っていた。
 そうそう川で見た奴ら。

 小さいせいか、耳が少し尖り、鼻も尖っていた奴ら、三十ほど泡を吹いて倒れていた。顔面を潰して耳を取る。

 周囲を探査したが、これでこの森近辺には他に居ないようだ。

「集落で、五十匹か。こんなモノなのか」

 女性達を一つの小屋に集めて、浄化?を掛ける。
 これは川の側で覚えた魔法。
 綺麗にしたいと思ったら発動をした。

 服が破かれ、色々見えているが、まあ俺は気にしない。
 小屋の入り口で、夜が明けるまで一応見張る。

 夜が明けた。
「おい。大丈夫か?」
 起きては居るが、息を潜めていた女の人達。

「はっはい」
「立てるなら町へ帰ろう」
 そう言って、帰ろうとしたが、服を欲しがったので着られそうな服を探す。

 そして、六人を引き連れて、町へと帰る。

 入り口で止められて、ギルド証を見せる。
 だが女性達は持っていない。
「六人か。おまえ、奴隷売買とかじゃないだろうな」
 昨日の人と違って、口が悪い。

「ゴブリンに捕まっていた人達だ」
「馬鹿野郎、早く言え」
 叱られた。

 その後、彼の女達は兵に連れて行かれてしまった。

 とぼとぼと、ギルドへと帰る。

「おはようございます」
 なんかすっきりした顔のベルトーネさん。

「退治してきたよ」
「退治? 調査じゃ無く?」
「ああ色々あって。これ」
 カウンターに耳の入った布を置く。

 紐をほどいて、その布で彼女は真っ赤になるが、顔は深刻。
「被害者がいたんですね。でも、わざわざ、これを使わなくても、他のものでも」
 彼女が赤くなったのは、この布が女性用の下履きだったらしい。
 知らんがな。

「個数は五十ですか。よくぞご無事で」
 そう言って、コインを数えて別の革袋をくれる。

 三掛ける五十。
 百五十ピクニアだが、きっちりと証文が出てくる。
 人頭税百ピクニアは後にして、百ピクニアが残り。だが門番に二十五返さなくてはいけない。

 少し悲しいが、詰め所に行って銀貨を一枚払う。
 残り二十五ピクニア……


「本当に五十でしょうね」
 ベルトーネは数え出すが、上の方はゴブリン。
 だが下は、二十個はオーク……
 オークの討伐は、一匹で大銀貨つまり百ピクニア。
 銅貨三十枚分しか払っていない。
 二千から六百。つまり一千四百ピクニア不足。

 ベルトーネは飛び出すが、そこにはもうヨシュートの姿は無かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...