不運だけど、快楽と無双を武器に、異世界を生きていく。

久遠 れんり

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第5章 獣人国平定

第58話 試合開始?

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「さあ、会場は大盛り上がりです」
「地方会とは違い、ここからが本物ですね。弱者は淘汰されここからが……」

 解説が言っているそばから、異様な雰囲気。

 大体はこの地方で力を持つ虎人同士の、ネコパンチ合戦になる予定だが、今闘技場の上では異様な雰囲気になっていた。

 またも、審判と相手が震えている。

 ―― 相手は、混血と思える禿げた猿一匹。
 なのになぜ、俺の体は震えているんだ、これまで村では最強の男と呼ばれているんだ、あそこには俺の舎弟どもが並んで見ている。不様はさらせねえ。

「さて、東の開拓村、次期村長候補、赤い咆哮アムール選手」
「かれが通った後には、相手の血により赤い道が出来ると紹介文です」
「いやあ、虎系の獣人らしくやんちゃですね。相手は、すべて不詳。港町ツッキジから、ヨシュート選手。あっいや、これがプロフィールですかね」
 何か書類を見つける。
 そこに書かれた文字。

「あーヨシュート選手。えーとなになに、天才料理人、味の魔術師、人たらし、天才商売人、後家殺し、男の敵、全旦那を泣かした? 神、帝」
「何ですかそれ?」
 アナウンサー達は顔を見合わせる。
 次のページには予選の結果があったのだが、気がつかなかったようだ。
 すべて、開始一秒以内に対戦者が戦闘放棄か、戦闘不能と書かれていたのだが。

 さてさて、対戦場の上では、今まさにそれが起こっていた。

「それでは、はじめぃ」
「「「「「どわー……」」」」」
 会場では歓声が一瞬だけ上がる。

 だが、それは一瞬。
 会場全体が静まる。

 対戦場の真ん中にいる一人の男。
 そこから放たれる何かは、会場全体を支配する。
 怖い……
 あそこに居るのは、禿げた猿。
 なのに、怖い……

 その場に居た獣人達を、恐怖が支配する。
 種族性なのか、危険に対する感受性が高く、その恐怖はいかほどか。

 当然、対面している相手はさらに……
「くっ、動け俺の足」
 初めての恐怖、相手は猿。

「なのに…… うっ、うらあぁ」
 何とか、虎人の意地なのか動き始めて、躓き転ぶ。
 平らな武闘場の床で躓く。

「すっ、スリップ」
 審判さんは、長年の戦士。
 戦いで盛り上がった選手が、たまに襲ってくるため実は強い。
 だが彼も、何とか恐怖を押し殺す。

 会場全体が異様な雰囲気。
「早く立ち上がって」
 そう促すが、態度がおかしい。

「足が…… 立たねえ」
「試合放棄か?」
「いやだ」
「じゃあ、立て、立つんだ」
「うおおおおおぁ」
 気合いが入る。

 一方、ヨシュートは。
 俺は一体何を見せられているんだ?

 審判が、対戦相手に掛かりっきりで、立てぇ、立つんだと励ましている。
 相手も何とか、それに応える。

「立った、アムールが立った」
 なにか、感動の名作が出来上がったようだ。

「いけるか?」
「おう」
「ふぁい」
 茶番が終わったようだ。
 だが……

「もう良いのか?」
 一応声をかける。

「おう、こいやあ」
 意外と元気の良い相手。
 だが、ものすごく器用に、下半身はツイストを踊っている。
 ツイストは、1960年代に流行っていたダンス。
 下半身をひねるように踊る。

 ガクガクヒュンヒュン、膝が笑い、それを抑えると踊りのようになるようだ。

 倒れこむように、縮地で近寄り、ボデイ。
 様子見の軽い一発。

 だが、それで十分。
「ガッ…… うがあぁ」
 腹を抱えて蹲り、いい加減立たなかった足は、もう言うことを聞かない。

 まるで、切腹でもした後のように前に向けて座ったまま倒れ込む。
 床に、血のように広がるもの……

 だが広がるのは、鉄臭い匂いではなかった。
「勝負あり。勝者ヨシュート。治療を早く。それと清掃」
 現場があわただしいが、騒いでいるのは審判だけ。

 周囲は誰も動かない。
「あっ」
 気がついて、気合いを抜く。

 途端に戻ってくる音。
 だが歓声ではなく、ざわざわと言う騒めき、どこかで大勝負でもしているかのようなざわざわ……

 促されて、舞台を降りる。
 やっと、応援団から歓声が聞こえ始める。

「いやあ、最近癖になってきた。あのぞくぞく良いなあ」
 死を感じる緊張と緩和、そうそれは、慣れると快楽へと変わる。

「いやん、濡れちゃってる」
 女性の場合は、防御反応で色々と起こるようだ。
「俺も濡れちまった」
 男も、別の意味で濡れたらしい。

 闘技場前の噴水に、飛び込む連中があふれたようだ。
 色々な物を、洗い流すために。
 ごまかすために……

 だが、彼女の横、椅子にはその証拠が残され、滴っていた。

 ネコ系の、おしっこって臭いんだよね。
 飼い猫も、たまにストレスなどがあったのか、トイレ以外でいたすことがある。
 その場合、半年経っても匂っていることがある。

 どこかの作者は、寝転がっていたら、背中に掛けられた事があるらしい。

 遊んであげなかったのが、気に食わなかった様だ。

 そこからしばらくは、いつもの戦いとなり、競技場は盛り上がる。
 おかげで、売り上げもうなぎ登り。
 そして、彼らが嬉しそうに小袋を持って走り回っていた。

 裸の猿に掛ける人は、身内以外にはおらず、結構なオッズだったようだ。
 期待はしていなかったが、入隊希望者も増えたようだ。
 そう彼らも、腹をくくったようだ。

 裸の獣人達。
 おかげで、この大陸での勢力は増えていく。

「あいつは何だ……」
「絞めるか?」
「やめとけ、お前達には判らねえだろうが、あいつはただの猿じゃねえ」
 対戦して、骨の髄まで恐怖を堪能し、少し大人になったアムールくん。

 彼は数年後、善政を敷く、良い村長となったようだ。
 昔はやんちゃだったよ、晩年、彼は語っていたとか……
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