不運だけど、快楽と無双を武器に、異世界を生きていく。

久遠 れんり

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第5章 獣人国平定

第57話 トラ人の心意気

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 ここは、チュカーンの町を越え、領都スラバヤ。
 城郭都市の一角に、飛び出したエリアが二つ。

 そうこの都市、丸に二つ出っ張った丸がくっ付いた形。
 これを絵に描くと、当社のキャラじゃ、使うなら金払えと言ってくる形に近い。

 出っ張った耳の一つが闘技場。

 今回も、ベンガルさんの口利きで、一区画だけだがテントが出せた。
 間口が狭くとも、奥はある程度まで使って良い。
 それで十分、客を誘う匂いをぶちかましてやる。

 最初、出店の説明会に挨拶をしに行ったら、フンという感じであしらわれた。
 毛の無い獣人は混血がおおい。
 つまり、身分がそれだけで低いという事。

 ここに来て、ちらほらと毛の無い獣人を見かけるが扱いは悪いようだ。
 うちの商店で…… 違う。うちの軍で全員高給で雇ってやろうか。

 そう思って、つい力が入る。

 そして此処で、毛が無いが偉そうな奴らが居た。
 竜人族と言うらしい。
 でも、種類はいくつかあり、ワニだったり、カバだったり、サイだったり、どの辺りが竜なのか判らないが、ひっくるめて竜人族と言うらしい。

 だけどそんな中で、本物がいた。
 ワニとかカバとは違う。
 ドラゴン種を祖に持つと言われている。

 この世界、ドラゴンが居るんだよ。
 ワイバーンとかを含めた亜種は結構人の居る大陸にもいたし、あの時も、あいつが操り石を持たせて投げてきた奴らもそうだ。

 だけどそんなのと違う、エンシェントドラゴンのグループがいる。
 人間に変化へんげし、子をなすことが出来るとか、そいつらの子孫が本当の竜人種。

 スタジアムの上段、貴賓席の中で立って、こちらを見ていた。
 そう出店の組合で、総スカンの雑魚扱いをされていたとき。
 本当は、先祖代々場所が決まっていたのに、俺が割り込んだせいだが、そんな都合など知らんがな。


 だがまあ、相手も判ったらしい。
「なんだあれは、化け物がいるぞ」
「化け物? ああ毛無しの猿でしょう。混血して目障りな」
 そういう問題ではない。
 これだけ離れていて、感じる力。
 本当に、猿なのか……
 まさか、伝説の…… 神を怒らせて山に封じられた猿か?

 この世界にも、聞いたことのある様な物語りがある様だ。
 当然、旅をする話ではなく、閉じ込められただけだったようだが、力があっても所詮は混血種のおろかさみたいな話し。

「出店の中に、地方代官が権力を使ってねじ込んだので、皆怒っていましたよ」
 やれやれという感じで説明をする。
 だが案内人も、いい加減目が良いな。

「本当は、どうやって決めるのだ?」
「昔からの決まりで、新しい連中など入れません」
 それを聞いて思った。
 だから、代わり映えがなく、売り上げが落ち、皆が弁当を持参するのだと。

「どこもかしこも、改革が必要なようだな」
「権力も考えようですね」
「そうだな」
 主としたものは違うが、案内人と意見は同じ様だ。

 方や代官の権力ごり押し、方や、既得権のごり押し、真反対だが両者納得でその場を後にした。

 あいつが出てくれば、試合が出来そうだ。
 つい嬉しくなってしまう。
 お互いがそう考える。


 さて、領内代表決定戦。
 今回当たるのは、ネコ人ではなく虎人が多い。
 
 現場である闘技場は大盛り上がり。
 うちの出店の前には長蛇の列。
 他の店は、毎回同じ物しか出ず、しかも歴史と伝統の上にあぐらをかいた商売。
 適当な物でも、そこそこ売れて商売になっていた。

 だが、今回は違った。
 権力を使い割り込んできた新参者。

 そこから流れ出る煙は、少し従来の煙とは違っていた。
 
 そう、圧倒的な暴力。
 遠くに居ても匂ってくる香ばしい匂い、レバーブローのように腹に来る。

「なんだこの匂い」
 引き寄せられた客が、よだれを流しながらゾンビのようにやって来る。

 実は、炭の上にマタタビ粉を少しまぶした。
 このエリア、ネコ系が多い。
 ご禁制だが、山にあったので少し。

 タレの焦げる匂いの中に、本能に訴える匂い。
 掴みは完璧。

 ゴロゴロ言いながら、どんどんブツが売れていく。
「らっしゃい、らっしゃい」
 売っているのは港町ツッキジの人間。
 だが奥へ入れば兵達が控える。
 そう人間切羽詰まれば、安易に暴力に訴えようとするからだ。

「おらてめえら、誰に断って此処で商売をしてやがる」
「お代官様だ」
 強面の虎人が、言いがかりを付けてきた。

「こんな訳の分からない物を売りやがって……」
「何だ知らないのか、田舎者だな」
「なっ、とっ、当然知っているさ」
 そう言って、あたふたし始めた。
 よく見れば、口元からよだれ。
 しっかり匂いにやられている。

「じゃあ、訳が分かっているじゃあないか」
「そういう事じゃねえ」
 怒りなのか、プルプルし始めた。

「なんだ、欲しいなら並べよ。うまいぞぉ」
 鼻っ面で、烏賊の一夜干しを炙ったものを振ってみる。

 目に見えて、よだれが、ぽつりぽつりと落ち始める。
 口の周りの毛が……

「しょ、そんにゃ物、だれがくうかぁ」
 そんな事を言いながら、走って行った。
「おおっ? 意外と我慢強いな」

 ナニをしに来たのか判らん話しだが、出店代表で嫌みを言いに来たのだろう。

 ただそいつの所にいる、混血種。
 そう毛のない連中が、慣れない大金を持たされて、並んでいるのを知っている。
 ブツを多めに渡しながら囁く。
「うちで雇ってやる。高給だし美味いものも食えるぞ。仲間が居るなら伝えてくれ」
 こいつら用に別の包みも渡す。

 そして、極めつけ。
 ―― 『光栄戦士選出投票は、ヨシュートにしろ』
 そう囁く。

 壊れた張り子の虎のように、その子は首を縦に振る。
 ちょっと力を使い、頭をポンポンしたから効いただろ。
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