不運だけど、快楽と無双を武器に、異世界を生きていく。

久遠 れんり

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第5章 獣人国平定

第75話 うやむやのうちに

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「うん? ここは……」
 立派な室内。
 見慣れない天井。

 意識が覚醒をして思い出す。
「はっ、あれは一体何が?」
 ヨシュートか言う、謎の男に会うためにホテルに出向いた。

 我々は、闇の集団であり、ある程度の決まりがある。
 『物陰に潜み出番を待つ、その事に相手が先に気づけば、相手はそれなりに使える強者。そういう相手には十分気を付けろ』
 先代である、父の言葉。

 目の前の箪笥がいきなり消えたと思ったら、私の胸に手が……
 そこから、温かな何かが広がり……
 ―― お漏らしをした気がする……

 そっと布団を捲ると、見たこのとのない衣装。
 すごく薄く、透けてはいないが下着も付けていない。
 体に、違和感はないから、襲われた訳ではなさそうだが、気持ちの良かった余韻が体中に残っている。
 肩がこり、腰痛もあった。
 それが、さっぱりなくなっている。

 まあそれは振動と、治療魔法。
 どちらの効果が高かったのか、それは分からない。

 音を立てず、そっとベッドから彼女は降りる。
 床には、長い毛足の絨毯が引かれていて、ふかふかだ。

 周囲の音、そして匂いを嗅ぐ。
 違和感。

 彼女はそっと窓の外を見る。
 すると、なんと言うことでしょう……

 眼下には見たことのない街が広がっていた。
 無茶苦茶きっちりと造られた町並み。
 だが道路に、訳の分からない無意味と思える、曲がり角が作られている。

「城郭都市、だがこんな巨大な街を私は知らない」
 そもそも、町を移動する間、私は何週間も寝ていたのか?
 いや、だが、体に衰えはないし、かえって調子がいい。

「一体何が……」
 それしか言葉が出ない。

 廊下側、ドアの前に気配がする。
 彼女は、当然だが最大限の緊張と警戒。

 だが、普通にノック音がする。
 重厚なドアが無音で開き、人が入ってくる。

 金色が混ざった、白い髪?
 目も同じ。

 だけど、猿系の混ざり物らしく、毛が生えていない。

「此処の使用人? 此処はどこ?」
 そう聞くと、彼女は怒るわけでもなく優雅に答える。

「この城の持ち主、ヨシュート様の妻、その一人でユキと申します。『神の光芒』主宰パラディウスさん。そしてここは、ヨシュートオピディウム。正式な名前ではありませんが皆さんそう呼んでいます。さて……」
 淡々と語られるが、謎ばかり。

「ちょっと待て、そんな街を私は知らない、それに城だと、ヨシュートというのは…… ぐっ放せ」
「主人を呼び捨てにするなど、殺すわよ。下等生物が」
 ユキの中では、どうも獣人は半端物という意識がある様だ。
 フェンリル時代の意識なのか、細胞レベルの記憶なのか?

 信じられなかった。
 会話中、距離は三メートルほどもあった。
 その間合いが、瞬きをする間につめられて、片手で顔を掴まれて持ち上げられた。

「悪かった。その、ヨシュート様に会いに行ったとき、仲間がいたはずだが」
「ああそれなら、会議室で今協議中です。これから先我々の手足となって貰うために」
「はっ? なんで、私は寝ていたのに誰がそんな事を決めて」
「私が願ったからです。皆良い子ですね」
「まさか、闇の魔法、洗脳か?」
「いいえ、この近くでまだ気がつきませんか、相当に鈍いですわね」

 そう言った、ユキの雰囲気が変わる。

 それは、絶対的な上位者。
 神獣の気配が、彼女を飲み込む。

 体は震えて、抵抗などをする気も無くなる。
 絶対的な、服従。
 それは本能である。

 彼女は無意識のうちに、床へと座り込み、頭を下げる。
 もう少し力の解放が強ければ、腹を出して好きにしてとなるところだ。

「あなた様は一体?」
「今は人化をしていますが、一般的にはフェンリルと呼ばれているそう」
「ふぇぇんりりゅさみゃあ。ご無礼お許しください」
 まあこの行動は、獣人なら仕方が無い。

「そして、あなたの組織ですが、便利そうなので。そうですねあなたの仕事が無きときは少し使わせていただきます。よろしいですね」
「はひ、よっよりょこんでぇ」

 あっさり売ってしまった。

 そしてそこから、ヨシュートの元へ案内をされるのだが。
 その前に、ユキが来た目的。
「あなたが着ていた物は、服がくたびれていたようで、ちょっとした手違いで粉砕されてしまったようです。これならあなたにサイズが合うと思います。デザインも良い感じだと思いますが、着てみてください」
「はいっ、ありがとうございます」
 かっこつけていた、パラディウスだったが、なんだかヴァレリーと同じ感じになってきた。

 冒険者も、闇の組織も体育会系の様である。

 前の服をイメージしたと言っていたが、ふんだんに柔らかい革が使われて、肌に吸い付き柔軟に形が変わる。
 まるで服その物が、自身の皮膚となったよう。

「へっ? ミノタウルスの革ですか?」
「ええ、ヤリで突かれても刺さらないはず。まあ衝撃は通りますけどね」
 肘や肩、脇腹や背中などは、中にワタまで入っているようだ。
 そして、金属入りの防具。
 見た目は、服と一体化をして目立たない。

 指ぬきのグローブには、金属の鋲が打たれている。
 しっかりと、目立たぬように黒く塗られているのが少し残念だ。

 気がつけば、上着の内側には、ナイフなどが刺せるように、革製の鞘が縫い込まれている。
 ワイヤーも装備されて、大人二人までならこれを使った垂直降下が出来るようだ。
 あと、靴に力を加えるとナイフが飛び出た。
 つま先をコンと打ちつければ踵から、踵を打ちつければつま先からナイフが飛びでる。
 
「押し込むと引っ込むから、刺すのじゃなくて回し蹴りの要領で切るように使ってね」
 ヨシュートが、嬉しそうに教えてくれた。
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