神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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依頼者シュザンヌ嬢は微笑む

第3話 地獄の裂け目

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「ああっ、ふざけてんのか?」
 ユスティが怒った。

「ふざけちゃ…… いない…… さっ」
「んっ、んああっ……」
 今、絶賛抱っこ中。

 見習い卒業をお祝いして、ギルド併設の酒場でお祝い。
 帰ると、早々にお誘いが来て絡み合い。
 途中で、死招き草の事について聞いたのだが……

「依頼人がかわいいって、あたしを抱きながら言うか?」
 なぜか、そう言って怒り出した。

「良いだろ別に」
 彼女は、怒って離れようとしたが、彼女の体はなぜか離れるのを嫌がっているようだ。

「とっ、とにかく私は嫌だ。受けるなら自分でなんとかしろ…… ふっ、ああっ」
 彼女は、結構怒っていた。喜び腰を振りながら。

 余所の女に目移りなど、だからすねた。
 それに、あれが採れるのは、地獄の裂け目と呼ばれる危険な所。
 素人がいける場所じゃない。
 私が助けなければ、諦めるだろ。

 こいつを、危険にさらしたくない。
 あんなのは、もういやなんだ。


 あれは……
「―― ユスティこれ」
「なんだ、良いものがあったのか?」
 ジルヴィが持っていたのは魔力茸の採取。
 緊急なのか、なかなかの報酬。ポーションの原料になるが、希少で見つからない。

 あれの群生地は、本来仲間でも言わないレベルだ。
 ジルヴィと秘密の群生地に向かい、途中の森で、運悪くオークと出くわした。
 群生地は崖の中間。
 あそこな、らオークは追って来られない。
 急いでそこへ向かって逃げたが、馬鹿なジルヴィは崖を降り始めるときに、足を滑らした。
 彼女とは五年もコンビを組み、馬が合った。

 あいつは、彼氏と一緒に田舎から出てきて、数年は仲良くやっていた。良くある話だが、喧嘩分かれと共にコンビを解散。
 知り合いの仲間となったが、野営中に襲われそうになり離脱。

 まああいつは、襲ったわけではなく、本気の告白だったが、顔が怖いから……
 それを、私が仲裁して、そのまま懐かれた。
 色々教えたのに、あっけなく逝ってしまった。

 ぐちゃぐちゃなあいつは、そのまま崖下に埋めた。
 でも…… 今でも部屋はそのままにしてある。
 なんとなく、今でも彼女が『ねえユスティ』そう言って出てきそうな感じがするからだ。
 出てくれば、ゴーストだがな……


 とにかく、こいつは死なせたくない、だけど、いまは私が死にそう……
 私が怒っていると、かわいい奴めと言いながら、容赦が無い……
「んああああぁぁぁ」
 また止めようと思うのに、声が……
 井戸であったときに、またおばはん達のニヤニヤ顔が……


 寝ている顔は、そう、教会で見た彫像のような。
 神の使い、そう天使とか言う生き物に似ている?
 さらさらした髪をなでると、彼はクルリと体をまるめる。
 背中に羽はない。
「依頼人がかわいかったから、受けたいだと…… ばかっ」
 そう言いながら、彼の背中に張り付き眠る。

「いくぞ」
 今朝もまだ、彼女はご機嫌が斜め。

 仕方が無いので、レーナに聞く。
「ええっ? 本気ですか?」
 そう言って悩み始める。

「死招き草は、地獄の裂け目に、生えてはいますけれど…… 場所も危険だし、死招き草その物が毒なんです。特に花とかは、大型のモンスターが一発で死にます」
「えっ、そんなやばいものを飲むの?」
 そう聞くと考え始める。

「詳しくは知りませんが、根っこが瘤…… ええと球根と言うんでうが、そこを何とかするとお薬として使えるらしいんです。詳しくは薬師さんに聞いてください。あっ、あの大きな薬屋『暗黒堂』は駄目ですよ。絶対教えてくれません」
「判ったありがとう」
 そう言って、カウンターを後にする。

「カグラ君て、かわいいわよね」
 フィネッティが言った言葉に、レーナは驚く。
 学のない冒険者など、普段はぞうきん扱いの彼女。

 私にとっては、病気療養中の女の子が、立ち上がるよりも、大きな驚きだ。
「月に銀貨一〇枚くらいで、付き人をしてくれないかしら」
 銀貨一〇枚って、私たちのお給料全額じゃない。
 私たちは、多種多様な知識に計算、そして若く、そして強くてかわいくなくてはならない。
 超特殊技能者なのだ。

 信じられない物を見た。
 大体目が腐ると言って、普段は見ない酒場の方を見つめている。
 うっとりしていると、こんな優しい目をするんだ。
 フィネッティの、めったに見ない一面を見た。

 恐るべきは、カグラくん。
 ユスティさんに、フィネッティ。そして私……
 多分皆、彼が好き……
 神が創り上げた、芸術品のようなかわいい顔。

 彼と子どもを作れば、きっと美形な子どもが出来るわぁ……


 ギルドのカウンターで仕事が滞っているとき、カグラは昨日知りあった冒険者チーム、『黄昏の五人トワイライト・ガーディアン』達がいたので話を聞くことにした。そんなチーム名だが、別に黄昏れてはいない。朝から元気な奴らだ。

「おう、地獄の裂け目なら、行ったことあるぜ」
 二十一歳のルッツがそう言うと、十八歳のリューベックとマルティネスが嫌そうな顔をする。

「あるんだ。どんなところだった?」
「どんなって…… なあ」
 ルッツとマルティネス達が、顔を見合わせる。

「まあ、ざっと説明するとだな。こう、小高い丘がバカッと切られた様な造りで、降りられる所は、一つ。手前北側の崖からは降りられる。それとその道は東からは見えるが西からは見えない。それに、崖の模様で見にくいぞ」
「ふーん。変わっているな」
 とりあえず、羊皮紙に大事な情報はメモをする。

「まあ、それは良いんだよ」
 マルティネスがため息を付く。

「虫がなぁ」
「ああ、そうだな」
 彼らはそこで、仲間を二人失ったそうだ。

 あそこに居るのは、虫だと大ムカデ、ただし体長は一〇メートルくらい。
 ワーム。太さ一センチくらい。長さ一〇センチ。
 奴らは、噛みつき体内へ入り込んでくる。
 絶対、土とか砂場では、寝るなとの事だ。
 動きを止めると、食いついてくる。

 ゴブリン、コボルトはどこにでもいるから仕方が無いが、ほかはアラクネー達の巣がある。
 出会うと、仲間を呼び、集まってくる。

「そう、土の上で寝ると、体の中に入られている」
 うんうんと、皆が頷く。

「寝るときには、体全部を岩場から出しちゃ駄目だ」
 彼らは、仲間が死んだときに、結構おぞましいものを見たようだ。

「その後、私たちが入ったのよね」
「そうだ」

 彼女達は、村に食い物がなく、田舎から出てきた女の子二人。
 カーラは一八歳。亜麻色の髪ブラウンの瞳。
 カニッリャ、一六歳。カーラと姉妹で同じく、亜麻色の髪でブラウンの瞳。

 どうも、冒険者の下世話な噂では、三人で二人を使っていると噂。
 何にとは言わない。この世界、弱い毒だが、避妊薬がある。


「それと、死招き草は扱いが難しいらしい。明日、薬師を紹介してやる」
「おっ、ありがとう」
 ちなみに、今はまだ朝。
 彼らは、朝食から結構飲んでいた。
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