神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

文字の大きさ
11 / 117
依頼者シュザンヌ嬢は微笑む

第10話 ギルドの騒動

しおりを挟む
「なにい、盗賊の村をオークが占拠?」

 事情が事情なので、ギルド長さんに呼ばれた。

 ズィクムントの町ギルド長、アンジェラ=ベレフキナ。女性だが騎士爵を持っている。
 元金級のメンバー。噂では領主の愛人とか?

 捕まっていた商人の娘エマと、銅級冒険者テューニが代表で話をする。
 盗賊に捕まったのは三ヶ月も前。
 積み荷は、東の大国。カレール帝国で仕入れてきた香辛料だった。
 きっと盗賊は、ウハウハだったのだろう。

 それから毎日のように、宴会が続いていた。
 父を殺され、自身も汚されて、血の涙を流した彼女はそれを見続けた。

 まあそんな話しを聞き、憤慨したギルドマスター。

 だーが、救出時の話しがおかしい。
「新人君。つい最近登録した様だが、どこかで冒険者をしていたか、それとも名のある貴族のお坊ちゃまか?」
 立っているため、見下ろす迫力がすごい。
 ユスティの一・五倍はありそうだ。

「実は……」
「実は?」
 皆の緊張感が、なぜか高まる。
「えー、実は……」
「「実は?」」
 さらに、ゴクリと生唾を飲む音まで……

「判りません」
 なぜか、皆転けた。

「判らないとは何だ?」
 床から這い上がりながら、ギルド長さんが聞いてくる。

「いや、記憶が曖昧だし、気がついたら山の中で寝ていたんですよ」
「山の中で? よく生きていたな?」
 なぜか、呆れたような顔で見られる。
「ええ。起きたら、ゴブリンに棍棒で殴られていました」
「「「はっ?」」」
 商人の娘、エマ以外が皆驚く。

 そして俺をのけ者にして、話し合いが始まる。
「おい、ユスティ。あいつとやったんだろ?」
 ギルドマスターからの質問。
 この二人仲が良いのか?

「えーあーはい」
 そこに割り込むテューニ。
「ずるいっす、姉御」
「テューニは黙っておけ」
「へーい」
 返事はしたが、彼女は俺を見て、ユスティを見て赤くなる。

「ずるいっす」
 まだブチブチ言っている、彼女。
 だがそれは放置されて、話しが続く。

「それでだ、奴の体おかしな所は?」
「ない。言えば綺麗? ほくろの一つも無いぞ」
「ほくろが無い?」
 そう言って、ギルドマスターは考え込む。

 そして突然、俺に向かって聞いてくる。
「神様は、何か言ってなかったか?」
 そう、それはものすごく普通に聞かれて、俺はつい答えてしまった。

「いや別に? 好きに生きろと」
 言ってから気がつき、口を押さえる。

「「「「はっ?」」」」
「えっ? あっ……」
 ちょっとあせる俺に向かって、ギルド長が詰め寄って来る。

「おまえ、神の使徒だな、この世で何が起こる? 教えてくれぇ」
 そう言って、胸ぐらを掴まれる。
 近い、結構な年だけど、美人さん。
 向こうが立っていて、こっちが座っている。
 目の前で揺れる胸。
 そして、バカみたいに力持ち。

「あーいや、本当に何も聞いていないから」
「本当か?」
 近い、これ以上近くなるとキスしてしまう。

「だあ、アンジェラ離れろ、俺のだ」
 ユスティが割り込む。

「ちぃ。さて、使徒君。君のような人間は、今までこの世界に幾度も現れてきた。その時の多くは動乱の時代。国が荒れて、人々が救いを求めた時代だ。彼ら、いや彼女もいたが、全員奇蹟のような力を持っていた。君は覚えがあるかね? オークは簡単に倒したようだが」
「えーと、まだよく判りません」
 すると、ユスティが耳打ちをする。

「なに? 何もかも漏らして、気を失うくらい?」
「だぁ、口に出すな」
 そう言って、ユスティは真っ赤になってしまった。

「それは一度試してみたいが……」
 そう言うと、ユスティは剣を抜く。

「今なら勝てるかもしれん」
「ちょっと待て、抜くな。だが…… そっちは追々試すが、下へ行って力を見せてくれ」
 聞き捨てられない台詞。そっちは追々って何だよ。

「力?」
「魔法と剣技、組み討ちとかだな」
「はあ?」
 そう言って、訓練場へと向かった。
 ギルドの裏に、こんな所があったとは。

 壁のない小さな体育館くらい。
 まあ良くある武道場くらいかな。

「的はあれだ、魔法を放て」
 見ると、金属製のトーテムポールみたいなものが立っていた。

「属性は?」
 そう聞くと、ちょっと変な顔をされたが回答は。
「何でも良い」
 との事だ。

 まず試しに水球。
 五本立っている奴らに、三十センチくらいの水球が、どばしゃと命中。
 それだけで、皆の目が丸くなっていることに、俺は気がつかなかった。
 背中側だしな。

 次は十センチくらいの石つぶてが飛んでいき、カーンといい音がする。
 さて炎、槍にして投げる。
 すると、刺さって燃えてしまった。
 あわてて水。

 そして、例のエネルギー弾。
 なんちゃって、光の槍。

 衝撃波と、音速を超えた為、ドーンという音がする。

 問題は、的が無くなった……
「あー壊れた」

 背後からも、呆れた感じの声が聞こえる。
「ああ、壊れたな……」
 呆然としていた四人。
 そして、音が響いたために、ギルドにいた連中が集まってきた。

 まずくないかと思ったら、その集団から、二人ほど呼ばれる。

 剣技アルヴィン。彼は没落騎士爵。
 体術ルッジェーロ、共に隣の国からの逃亡者。
 隣のダミアン王国では、五年ほど前から、内紛が起こっていた。父親である王と、王太子の兄を、王マルテンが陰謀の上、誅殺したと噂になっている。

 その時に、王権派の貴族達も多数、陰謀の上、潰されたと聞いている。

「まず剣技、アルヴィン対ししし…… えー」
 しししって何だよ。

「カグラだ」
「アルヴィン対カグラ開始」
 獲物は当然の様に、竹刀では無く木剣。
 当たると死ぬんですが……

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...