神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

文字の大きさ
12 / 117
依頼者シュザンヌ嬢は微笑む

第11話 曝露

しおりを挟む
 その試合を見ることになった大多数のギャラリーは、かわいい兄ちゃんを、アルヴィンが打ちのめす光景を想像していた。

 だが……
「始め」
 ギルドマスターのドスのきいた声が響くと、驚いた顔をしたアルヴィンの額に木剣がピタリと止まっていた。

 彼は、気を抜いてなどいなかった。だが全く動く暇すらなくこの状態。
 そう、全く見えなかった。
「なっ、何だお前」
「何だと言われても、普通に打ち込んだだけです」
 そう答えるしかない。

「あーちょっと待て、先にアルヴィンが打ち込んで、カグラが受けるか、はらうかしてくれ」
「ぬっ」
 ギルドマスターの提案に不服があるが、アルヴィンは構えて静かに言った。
「行くぞ」

 それは、非常にゆっくりとした見本のような剣技。

 いやそれは、俺から見てだ。行くぞと声が掛かった瞬間に、世界はゆっくりになった。

 剣に剣を沿わせて、流す。
 流す流す流す。

 全て流していると、アルヴィン君は剣を地面に叩き付けた。
「くそがぁ、何者だお前?」
「さぁ」
 俺が言ったその声に、テューニの声がかぶる。

「使徒だってさ」
「「「あっ」」」
「えっ?」
 全員の視線が、テューニへと向く。

「バカモンがぁ、皆今聞いたことは、他言無用だ。いいなあぁ」
 ギルドマスターがそんな事を言うから、信憑性が出てしまった。

「使徒」「使徒」「ぴっちゃん」
 はっ、つい、つまらぬ合いの手を入れてしまった。
 みんなが使徒使徒言うからさぁ。
 昔、雨うちそぼ降りての訳で誰かが言ったんだよ。
 『雨がしとしとぴっちゃんと降って』そんな感じで、妙に受けたんだ。

 古文は不得意なのに、そこだけ覚えている。
 諸行無常とか生々流転を訳もなく覚えているのと同じ?
 ご意見無用とか、夜露死苦よろしくとかさ……
 天地無用は、引っくり返したら駄目なんだぞ。
 無用は、するなと言う意味だからな。

 そんなことを考えていたら、アルヴィン君は泣きながらどこかへ行ってしまった。

 そして、次は体術というか組み討ち術。
 対戦相手は、ルッジェーロというごっついけれど、身長は百六十くらいの人。
 子供の頃から、本気で器械体操をやった人のよう。
 器械体操を本気でやると、大抵皆身長が伸びない。
 筋力が成長を阻害するのかなぁ。

 どこかの作者は、高校時代にいい加減に体操をして、ぶら下がり効果か、平行棒とか吊り輪でブンブンしたせいか、一年で身長が十センチ近く伸びた。本気で高校生の時、自衛隊に勧誘されたよ。
 あの当時、握力が六十キロ、背筋が百八十キロくらいあった。
 今では、ペットボトルの蓋すら……


 さて、それはさておき、試合は、まずゆっくりと組む。
 払う、それであっさりこてんと転ぶ。
「はっ?」
「えっ?」

 組み討ちと言うが、剣技が基本からの蹴手繰りとか相撲に近い?
 だけど痛いのはいやだし、引っ張るなり押すなりして、重心が崩れたときに払うと、コロコロと転がっていく。
 どうだ、合気道のビデオを動画配信で見たんだ。

 昔の、通信教育の空手とは違うぞ。

 一子相伝の、奥義まで配信されていたからな。
 だが、秘孔ってどこだよ?
 当て身を試す。

「あたぁ。そこは、ストレスに効く。そして、うーわったぁ。そこは便秘だ」
 秘孔が判らないから、健康のためのツボに攻撃をしてみる。

「どうだぁ、効いたか?」
 だが、予想に反して、ルッジェーロさんは倒れ込んでしまった。

「カグラの勝ち。ルッジェーロ…… 生きているか?」
「生きてます」
「なら良い」
 だけど苦しそうだから、ちょいっと、治癒魔法を投げる。
 目だたないようにしたんだが、光の玉が薄暗い所で飛ぶと目だつんだねぇ。

「なっ、お前まさか」
 驚いたように体を確認をする、ルッジェーロ君。
 その様子でバレた。
「立った、ルッジェーロ君が立った」
 そう言ってみたが、皆の視線は俺から外れない。

「なあ皆、絶対に此処で見たことは他言無用だ。そしてカグラ、後で話がある」
「エッチなら嫌です」
「なぜだぁ。イヤそうじゃ無くてだな、今のは治癒魔法だろう」
「ええまあ」
「教会ともめるから使うな」
 あー良くある、あれか……

「まあ状態によりですね」
 そう言うと、じっと見られる。
「まあいい。なるべくな」
「へいへい」
 なんか短い時間で、言っちゃ駄目なことがすごい勢いでバレた気がする。
 なんでだよ……

「それでだ、情報が入った。皆が集まっているから丁度良い。黄銅級以上の者、オークの集落ができているらしいから潰しに行くぞ」
「おおおぉ」
 なんか喜びの、声?

「なんで喜んでいるの?」
 横に来ていたテューニに聞く。
「集落を潰すと、オーク肉が沢山採れるから、お祭りになるんです。食べ放題飲み放題。そして、お祭りの日は気に入った相手を誘ってエッチし放題。だからしましょうね」
「カグラに嘘を教えるな」
 その時、ゴンという音がして、テューニは地面に寝転がっていた。

「えー。イヤな記憶を消したいんですよぉ」
「お前が辛いのは判る、誰か紹介してやる」
「イヤです、姉御独り占めは駄目ですよ」
「やかましい、俺はカグラを助けてやった恩がある」
 それを聞いて、テューニの目がホント? と聞いてくる。

「ああ。この町に来て、金も無いし。どうしようと思っていたら、拾ってくれた」
「ずるい。私だってそれなら拾いますよ」
「お前、ライナルトはどうした?」
 ライナルトというのは、テューニの恋人だった。

「あー。盗賊達に殺されました」
「そうか。そりゃ悪かったな」
 そうは言ったが、彼女は嫌そうな顔になる。

「でもあいつ、私が盗賊にやられているのを見て、喜んでいたんですよ」
 そう彼女は、悔しさの中で彼に助けを求めた。
 だが彼は、絶対その状態を見て喜んでいた。

 罪深き性癖、NTR属性。
 それは仕方の無いことだが、女性であるテューニにとっては理解ができず、醜悪だった。
 
「そうか…… それは最悪だったな、でも駄目だ」
 そう言って彼女の肩に置いた手は、それ以上近付かせないためか、かなりの力がこもっていた。
「そんなぁ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...