神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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王都ヴァハマー、ギルド受付嬢のマリレーナ

第23話 暗躍とは?

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「畜生あの小僧、手引きをしたのかぁ」
 そんな事を言い始めた。

「いやオッサン。それは違う。俺らは単に依頼を受けただけだ」
 一応、濡れ衣は晴らす。

 意外とオッサン達、緊張感も無く騒いでいる。

「とりあえず何用か聞いてみたら?」
 ついアドバイスをしてみる。

「ぬっそれもそうか」
 灯りを持ち、外に出てくるオッサンたち。
 若い衆は、背中側に剣を持っている。

「そこな者達、何の変哲も無い農場に何用じゃぁ」
 その言い方おかしいから。大体なら『こんな夜更けに、農場に何のご用でございましょうか?』くらいは、普通へりくだると思うのだが……

「トビアス=ハーケス伯爵だな」
 向こうからの返答。すべてご存じのようだ。

「それを知っているとは、何者だぁ」
 オッサンはそれを、ためらいも無く肯定。おいおい。

「王の命令により、貴様らを捕縛する。おとなしくしろ、罪状は騒乱罪だ」
「まだ起こしておらん!!」
 あー…… おバカだ。

 だけど、騒ぎを起こして貰い、それに乗じて王の首を取り、オッサン達の手柄にする方がいいか。
 それとも、素直にオッサン達と手を組むか。
 だけど手を組んだら、すぐにリストに名前が載りそうな気がする。

 どうしよう……
「助けないの?」
 ディアナは簡単にそう言うが、判断に悩むところ。

「騒乱と言うからにはかなり重い罪だぞ。多分死刑だ」
「死刑って?」
「縛り首とかだな」
「げー、それは嫌ね」
 屋根の上で身を潜めていたが、いい加減疲れてきた。

「おっさん、伯爵だったな」
「そうだ、貴様一体どこに居る?」
「どこでも良いから。これから助けてやる。だから、今晩このまま決起しろ。ここに兵が来たということは、他にも手が回っているかも知れない」
「おお、そうかそうだな、助けに行かねば」
 俺にそれを言われて、にわかに騒ぎ始める。

「それじゃあ」
 折角暗いのに、火系列の魔法は駄目だ。

 エネルギー衝撃波は光るしな。
 石を錬成して投げる?
 鏃…… 両側の尖った紡錘形の金属。
 大きさは、一センチくらいで良いか。

 投げるときに、魔力を通して、空気を破裂させる。

「くっ、音は良いとしても手が痛い。そうか、つむじ風で加速して撃ちだそう」
 なるべく静に撃ちだしていく。

 ただ向こうで、どうしたってグッとかウガッとか声が聞こえる。
 早く連続で…… 面倒。並列に起動をして適当に撃ち出す。
 複数の対象をマークして撃つと脳が焼けそうになる。

 そんな様子を、横でディアナは見ていた。
 最初の一発は、手の平で何かを破裂させて痛がっていた。
 だけど、今度は次から次へと風が吹き、矢のように何かが撃ち出されている。

 町に居る錬金術師だって、無から有はできないと言っていた。
 大分目が慣れてきて、うっすらと何かをしていることは判る。
 やっぱり、何もない空間につぶてが突然できあがり、風と共に飛んでいく。

「やっぱりカグラって変」
 ぼそりとそんな事を言われた。

 兵達の隊長は、突撃の命令は出していた。
 だが新月のため周囲は暗く、警戒をしながら進んでいた。
 時折漏れる声。
 
「畜生、やはり何か罠を仕掛けていたのか、周囲警戒」
「はっ、周囲警戒」
 伝言ゲームのように命令が伝わっていく。

 だが、この暗闇でもきちんと見えるカグラは、問題なく攻撃が出来る。

 紡錘型の形状を生かして、回転をさせて撃ち出す。
 それはまっすぐ飛び、兵の額にめり込んでいく。

 そう、質が悪いことに鉛のような色。
 闇に溶け込み、敵兵達には飛んでくるのが見えない。
 そして、周囲に注意という命令により、彼らはゆっくりと進む。
 

 思ったよりも早い時間で、二小隊が全滅してしまった。

「オッサン終わったぞ、近い村はどこだ」
 その晩、彼らを捕らえに来ていた兵達は、小隊単位だったが、奇襲を喰らい全滅することになる。

 気がつけば、その晩だけで三千以上の兵達が死んだらしい。

 それの代わりに王都に向けて、武装した貴族軍が集合をしてくる。

 近場の者達は山に潜み計画を練る。
 大きな国では無いのだが、遠くの者達は山を越えるため数週間かかる。
「まっては居られん、王都に詰めている兵は多くて千名か二千だ。力ですりつぶせ」
「「「「「おおう」」」」」

 決起の連絡は、ダミアン王国の中で急速に広がる。

 それは、ラルカンジュの町へも。
「聞いたか行くぞ」
「判った」
 侯爵家の中で、一人だけ逃げ延びたエドアルト=ヴォルコも冒険者をしていたが、王都へと向かう。

 狭い街道が、人であふれる。
 その異常は、連絡されるが、伝令はなぜか王都へは届かなかった。

 当然伝令達は警戒されていて、途中で頭を射貫かれた。

 それだけで大罪だが、躊躇は無かった。

 この時期になると王の権力は少し陰っていた。
 決起時の約束に比べて実入りが少ないとか、色々な不満が出ていた。
 そんなのは、何もしらない小僧が、当時思いつきで言ったこと。
 一対多で行った約束事。約定を記した書状も無く、詳細など覚えていなかった。
 だが地方の者達はそれを本気にした。

 請求された王としても、予想外な事態。
 だが無い物は渡すことなど出来ない。
 そのため、地方に不満を持たせたまま、基本中央にいる者だけに富を集中させて、自分の立場を守っていた。

 だから、前王残党の決起に、地方領主が乗っかったのである。

「はいはい、この先が集合場所です」
 カグラは、現場で走り回り、手伝っていた。

 別に手柄を望んでいるわけでもないので、顔は布で隠していたのだが。

 気がつけば、反乱軍の先頭を走っていた。
「今こそ、王を殺すために……」
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