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最悪な国、ニコ国
第26話 ニコ国の事情
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それは、二年ほど前に遡る。
「何? 姫が?」
「はい。申し訳ありません」
王であるアルバートの元に、その凶報がもたらされた。
隣国であるニスカ国へ、友好のため外遊していた、第一王女ヴァイオレット姫が盗賊に拉致された。
ニスカ国の第一王子、ブリエルはその当時十五歳、婚約者同士として顔合わせが今回周遊の目的だった。
道中は危険だと判っているが小国の悲しさ、どうしたって多くの兵を付けることが出来なかった。
だが、腕利きである近衛などを数人混ぜていた。
総勢百人ほどの兵達。
この規模なら、普通の盗賊なら手出しなどしない。
だが、敵は少し変わっていた。
良くある、街道への倒木からそれは始まる。
「ええい。人通りの無い時間を選択をしたのが間違いか」
今回の遠征隊長、姫付きの侍従長でもある、シェルト=アンドレアス伯爵はぼやく。
当然兵達には緊張が走り、一部の者達は倒木を退かせるために走る。
「あれでいいのか?」
「ええ、計画通りです」
疑問を口にしたのは、盗賊の頭であるラルス。
彼は、盗賊らしい欲望に忠実な腕力バカ。
最初は十数人から始まり、こそこそと街道沿いで仕事をしていた。
そこに紛れ込んできたのは、ダミアン王国から逃げてきた貴族の子弟。
副官となったバークヘアは、元のウィリアム子爵家。
目の前で父と母が殺され、それを見たときに彼の中で何かが壊れた。
子供の頃から、色々な物に興味があり、小さな生き物を殺していたが、教会の教えと両親の教えにより自制していた。
だが目の前で両親が殺され、あふれ出した臓物を見たとき、彼の興味が再燃をする。
彼は、目の前に現れた盗賊に力を貸し、あっという間に副官となった。
彼にとって、人体を解剖できる環境は非常に都合が良かったのだ。
「木を倒せ」
森の中を走る街道、武器は周囲に生えており、無尽蔵といえる。
街道の両側から、木が次々に倒れてくる。
倒木を迂回するため、森に入り込んだ兵達は、落とし穴におもしろいようにはまっていく。
立派な馬車の周り、残った兵は強敵だったが、毒の塗られた矢の雨や投石により弱らされて倒されていく。
「一体何が?」
その当時十四歳だった姫は声を上げる。
「しっ、姫、お静かに」
乗っているのが姫のため、従者も護衛も女性。
緊張をしている室内に、音が響く。
そう、ドアが破られて、室内に光が差しこむ。
「頭、こっちです」
「おう行く、手を出すなよ」
「へい」
だが護衛である、クレマンティーヌ騎士爵家の娘、ディーナは盗賊が横を向いた隙にその首へと剣先を突き出す。
「ぐわぁ、このあ……」
当然首を突かれた盗賊は、失血により一瞬で意識を飛ばす。
「姫様」
手を伸ばし、従者と共に馬車から飛び出す。
だが周りは、倒されている木によって葉が茂り、視界を遮る。
見回し、進めるのは森の中。
「こちらです」
だが、背後から声が聞こえる。
「こちらですじゃないんだよ。あーあ、仲間を殺っちまって。おいたをする子は折檻が必要だな」
さっきのやり取りで、やって来た頭目ラルス。
彼はこの世界にしては大柄で、百九十センチ近い。
そして皆を従えるために、努力家で筋トレが趣味である。
手に持つのは太さ五センチくらい、長さ二メートルほどの棒。
護衛であるディーナを一瞬だけ見た後、その棒を一薙ぎ。
それを止めようと、立てたまま腰の前に突きだした剣だったが、それごと体をなぎ払われる。
「げはっ」
その一撃で、左手首にヒビが入り、もろに棍棒が当たった上腕がポッキリと折られた。
「ディーナ」
ニコ国、第一王女ヴァイオレットは叫ぶ。
ともに居るのは、従者であるベレニス。
彼女はフレデリーク男爵家次女である。
多少の心得はあるが、無意味だった。彼女達はあっさりと拉致をされる事になる。
相手は盗賊達、当然、国同士の協定なども無く、自由気ままに戦利品を弄ぶ。
「さあこれで、王城へ乗り込み、話しを付けよう。交渉相手は第二王子エーバリ十六歳。まあほぼ話しはついているがな」
副官バークヘアは、珍しく笑顔を見せる。
すでに計画は始まり、商人を通して話は通じている。
この時、ラルスの手下はすでに百人近かった。
その中で異質。
副官バークヘアは、人を解剖しては、何かを紙に書き込んで、にんまりしている男だった。
そして、たまに発案をして作戦書を作る。
それに従い実行するだけで、彼らは勝ち続けて規模を拡大していった。
そして今回、寒さが残る時期。雨の後だった。
突然、彼が言いだしたのである。
「いい加減野宿も飽きた。ラルス、国を取ろう。王は流石に血族がいないと面倒だからな。だが、王にならずとも国は操れる。さて……」
そう言いだしたのが、わずか半年前。
無論、今回の姫様の周遊予定も、話しは流れてきていた。
そう彼女は、兄により切り捨てられたのだ。
元々、兄が王太子となり、エーバリの王位継承順位は低かった。
すべてに兄が優先。物心が付いたときから、それを忌々しく思っていた。
そんな時に、声が掛かる。
「エーバリ様が、第二王子というのが惜しまれますなぁ。私どもからすれば、賢く先見もある。国のためにどちらが…… おっと、失礼」
いくつか布を合わせながら、話が弾む。
「エチゴーヤ。王城内で、めったなことを言うで無い」
第二王子エーバリは、年末のパーティで着るための服をオーダーするために、服飾ギルドを通して、布問屋であるエチゴーヤ商会。ボタン問屋であるオイセ―商会、そして、仕立てを行うミノーヤ商会などを呼んでいた。
そう彼らは、盗賊どもとも通じている。
稼ぎになればどうでも良い連中。
自分たちの荷物には、目印を立てれば襲われない。
盗賊と懇意になるのは、彼らにも利がある話。
そう、この時から、ニコ国の終わりが始まった。
「何? 姫が?」
「はい。申し訳ありません」
王であるアルバートの元に、その凶報がもたらされた。
隣国であるニスカ国へ、友好のため外遊していた、第一王女ヴァイオレット姫が盗賊に拉致された。
ニスカ国の第一王子、ブリエルはその当時十五歳、婚約者同士として顔合わせが今回周遊の目的だった。
道中は危険だと判っているが小国の悲しさ、どうしたって多くの兵を付けることが出来なかった。
だが、腕利きである近衛などを数人混ぜていた。
総勢百人ほどの兵達。
この規模なら、普通の盗賊なら手出しなどしない。
だが、敵は少し変わっていた。
良くある、街道への倒木からそれは始まる。
「ええい。人通りの無い時間を選択をしたのが間違いか」
今回の遠征隊長、姫付きの侍従長でもある、シェルト=アンドレアス伯爵はぼやく。
当然兵達には緊張が走り、一部の者達は倒木を退かせるために走る。
「あれでいいのか?」
「ええ、計画通りです」
疑問を口にしたのは、盗賊の頭であるラルス。
彼は、盗賊らしい欲望に忠実な腕力バカ。
最初は十数人から始まり、こそこそと街道沿いで仕事をしていた。
そこに紛れ込んできたのは、ダミアン王国から逃げてきた貴族の子弟。
副官となったバークヘアは、元のウィリアム子爵家。
目の前で父と母が殺され、それを見たときに彼の中で何かが壊れた。
子供の頃から、色々な物に興味があり、小さな生き物を殺していたが、教会の教えと両親の教えにより自制していた。
だが目の前で両親が殺され、あふれ出した臓物を見たとき、彼の興味が再燃をする。
彼は、目の前に現れた盗賊に力を貸し、あっという間に副官となった。
彼にとって、人体を解剖できる環境は非常に都合が良かったのだ。
「木を倒せ」
森の中を走る街道、武器は周囲に生えており、無尽蔵といえる。
街道の両側から、木が次々に倒れてくる。
倒木を迂回するため、森に入り込んだ兵達は、落とし穴におもしろいようにはまっていく。
立派な馬車の周り、残った兵は強敵だったが、毒の塗られた矢の雨や投石により弱らされて倒されていく。
「一体何が?」
その当時十四歳だった姫は声を上げる。
「しっ、姫、お静かに」
乗っているのが姫のため、従者も護衛も女性。
緊張をしている室内に、音が響く。
そう、ドアが破られて、室内に光が差しこむ。
「頭、こっちです」
「おう行く、手を出すなよ」
「へい」
だが護衛である、クレマンティーヌ騎士爵家の娘、ディーナは盗賊が横を向いた隙にその首へと剣先を突き出す。
「ぐわぁ、このあ……」
当然首を突かれた盗賊は、失血により一瞬で意識を飛ばす。
「姫様」
手を伸ばし、従者と共に馬車から飛び出す。
だが周りは、倒されている木によって葉が茂り、視界を遮る。
見回し、進めるのは森の中。
「こちらです」
だが、背後から声が聞こえる。
「こちらですじゃないんだよ。あーあ、仲間を殺っちまって。おいたをする子は折檻が必要だな」
さっきのやり取りで、やって来た頭目ラルス。
彼はこの世界にしては大柄で、百九十センチ近い。
そして皆を従えるために、努力家で筋トレが趣味である。
手に持つのは太さ五センチくらい、長さ二メートルほどの棒。
護衛であるディーナを一瞬だけ見た後、その棒を一薙ぎ。
それを止めようと、立てたまま腰の前に突きだした剣だったが、それごと体をなぎ払われる。
「げはっ」
その一撃で、左手首にヒビが入り、もろに棍棒が当たった上腕がポッキリと折られた。
「ディーナ」
ニコ国、第一王女ヴァイオレットは叫ぶ。
ともに居るのは、従者であるベレニス。
彼女はフレデリーク男爵家次女である。
多少の心得はあるが、無意味だった。彼女達はあっさりと拉致をされる事になる。
相手は盗賊達、当然、国同士の協定なども無く、自由気ままに戦利品を弄ぶ。
「さあこれで、王城へ乗り込み、話しを付けよう。交渉相手は第二王子エーバリ十六歳。まあほぼ話しはついているがな」
副官バークヘアは、珍しく笑顔を見せる。
すでに計画は始まり、商人を通して話は通じている。
この時、ラルスの手下はすでに百人近かった。
その中で異質。
副官バークヘアは、人を解剖しては、何かを紙に書き込んで、にんまりしている男だった。
そして、たまに発案をして作戦書を作る。
それに従い実行するだけで、彼らは勝ち続けて規模を拡大していった。
そして今回、寒さが残る時期。雨の後だった。
突然、彼が言いだしたのである。
「いい加減野宿も飽きた。ラルス、国を取ろう。王は流石に血族がいないと面倒だからな。だが、王にならずとも国は操れる。さて……」
そう言いだしたのが、わずか半年前。
無論、今回の姫様の周遊予定も、話しは流れてきていた。
そう彼女は、兄により切り捨てられたのだ。
元々、兄が王太子となり、エーバリの王位継承順位は低かった。
すべてに兄が優先。物心が付いたときから、それを忌々しく思っていた。
そんな時に、声が掛かる。
「エーバリ様が、第二王子というのが惜しまれますなぁ。私どもからすれば、賢く先見もある。国のためにどちらが…… おっと、失礼」
いくつか布を合わせながら、話が弾む。
「エチゴーヤ。王城内で、めったなことを言うで無い」
第二王子エーバリは、年末のパーティで着るための服をオーダーするために、服飾ギルドを通して、布問屋であるエチゴーヤ商会。ボタン問屋であるオイセ―商会、そして、仕立てを行うミノーヤ商会などを呼んでいた。
そう彼らは、盗賊どもとも通じている。
稼ぎになればどうでも良い連中。
自分たちの荷物には、目印を立てれば襲われない。
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そう、この時から、ニコ国の終わりが始まった。
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