44 / 117
トシュテン商会の娘イーリス
第43話 密談
しおりを挟む
「カグラがそんな事を?」
「ええ、申し訳ありません。私がついうっかり、つまらないことを言ったばかりに」
「本当にそうね」
「はぅっ」
ヴァイオレット様厳しい。
彼女達は、記憶をなくした?
いえ、多分封じられていた。
私たちを含め、ディアナさん以外は、カグラさんに救われたのだと話した。
そう、彼女達も、馬車の事故と言うには、おかしいと思っていたようだ。
特に、ロジーヌ様はヨウシア国の姫である。
怪我をしたからと言って、王族として、一般民が暮らす家で……
しかも男性の家で、暮らして良いわけがない。
「普通では無いと思っていた。そうか…… 私もなんだな」
なんて言うことがあった。
ニコ国がなくなって、ヴァイオレット様は、少し悲しそうだったが。
「これで、一般の民となった。皆よろしく頼む」
祝勝会のとき、そう言って、泣き笑いをしていた。
そうして、この時から、秘密の会合を開くことが決まった。
そうなのよ。カグラ様の情報共有会が発足をした。
そして……
「なに? 安価で白く柔らかな紙だと?」
「はい。それに薄いです」
そう言って、番頭が出してきた現物を見る。
サイズは、ほぼA4サイズ。
この世界の紙より少し大きい。
「出所はどこだ?」
「それが、あの王都アルドリットに店を構える、トシュテン商会だそうです」
「なに? 工作はしていなかったのか?」
「していました。鹿を三〇匹ほど放ちました。流石に切るとまずいので」
「そうか…… だが、この紙、何か違うな」
流石に店主、ヤギーヌ。手触りで何かを感じ取ったようだ。
「これは、紙の木とは違う。手の者を放ち、情報を探ってこい」
そう此処は、ヨウシア国でもニコ国側。
王都よりも東側に位置して、丁度北へ向かう街道近くにある小さな宿場町ポストハブ。
東西は裏街道。北へ行けばヴァーラ国へ向かう街道分岐点の近く。
そうあの盗賊の村から近く、イーリスの奪われた荷を買ったのはこいつらだった。
ゴート商会はそんな地の利を生かし、紙の販売で生計を立てていた。
無論王都近郊よりも自然が豊かで、紙の木も多い。
店主ヤギーヌと番頭オビスーはここに来て、王都での販売がいきなり減ったと支店から連絡が来ていた。
それはこの紙を、カグラが王に見せた。当然だが、王は一目で気に入り、王城で使うことを決めたからだ。
ゴート商会から命令を受けた手の者は、フェルミン、ポンセ、パーテルマ、ロズ、リーヌの五人。
近くの村から出てきて冒険者となった五人。
うち、ロズとリーヌは女性。
彼らはそんなに強くなく、基本は自然豊かなこの周囲で薬草採取に携わり、そこそこ生計を立てていた。
それでもまあ、貢献度は上がり、銅級から銀級へと昇級するに合わせて、商会の護衛をした。
その縁で、たまに依頼を受けているだけで、商会側とは少し関係性に齟齬があるようだ。
店主は手の者と言ったが、彼らはそんな気は無い。
たまに変な依頼を、ギルドを通さずされるだけ。
最近は、鹿を罠で獲り、王都近くの山へ一生懸命運んでいた。
それは多分、商会の大事な木を、囓るからだろうと納得をしていた。
それだけで、幾枚も金貨を貰い、上客であるのは間違いない。
「あん? 商会の情報収集?」
鹿の見張りをしていると、ロズ達がやってきた。
今朝、商会から使いが来て、呼ばれていた。
「だってさ。それと鹿はもう良いみたいよ」
ロズがそう言うと、フェルミンが嫌そうな顔をする。
「折角捕まえたのに。どうすんだよ」
ポンゼが文句を言う。
だけど基本、ポンゼはめんどくさがりで、あまり動いていない。
「ギルドへ連れていけば良いだろう。それより、そのスパイみたいな依頼どうするかなぁ?」
当然だが、フェルミンがぶった切る。
「行って、周囲で聞けば良いんじゃ無い。それか、意外とお店の人に聞けば教えてくれたりしない?」
「内容は?」
「えーとね、新しい紙の作り方だって」
ロズがメモを読み上げる。
「えーとそれって、商店にとって重要な情報じゃないのか?」
「どうだろう? 串焼きやだって、タレは教えてくれないけれど、肉の種類とかは教えてくれるぜ」
「その、タレの方を、教えてくれって言う事じゃないのか?」
「だとしたら駄目かなぁ」
面倒なのだろう、ポンゼが嫌がる。
「とりあえず王都へ行って、その商会。周りを調べれば材料とか判るだろうし、女の子がお願いって言えば、教えてくれるかもな。リーヌは美人だし」
「はっ? リーヌ? 私は?」
「ロズは上手く行かないと怒り出すだろ。向いてない」
「わっ私だって、色気くらいあるわよ」
ロズもリーヌも一八歳。
この世界では少し、行き遅れに入ってきている。
農村出身者で、子供の頃から川や野原を男の子と一緒に掛け回り、日々食べる物を狩っていた。
確かに体つきは女の子らしくなってきたが、性格はすぐには変わらない。
「とにかく行くわよ」
捕まえた鹿は、ギルドがしばらく飼うことになった様だ。
多分すぐに肉屋から注文が入るだろう。
だがしかし。
「餌代と手間賃はさっぴくからな」
そう言われた。
まあとにかく、依頼を受けて彼らは王都へ向かうようだ。
チーム名『暁の戦士達』は、町の外へと出ていった。
もう幾度となく通い慣れた道。
今日は鹿を隠す箱が無いため、非常に楽だ。
しかし彼らは知らなかった、それが彼等にとって、悲劇への第一歩だという事に。
「ええ、申し訳ありません。私がついうっかり、つまらないことを言ったばかりに」
「本当にそうね」
「はぅっ」
ヴァイオレット様厳しい。
彼女達は、記憶をなくした?
いえ、多分封じられていた。
私たちを含め、ディアナさん以外は、カグラさんに救われたのだと話した。
そう、彼女達も、馬車の事故と言うには、おかしいと思っていたようだ。
特に、ロジーヌ様はヨウシア国の姫である。
怪我をしたからと言って、王族として、一般民が暮らす家で……
しかも男性の家で、暮らして良いわけがない。
「普通では無いと思っていた。そうか…… 私もなんだな」
なんて言うことがあった。
ニコ国がなくなって、ヴァイオレット様は、少し悲しそうだったが。
「これで、一般の民となった。皆よろしく頼む」
祝勝会のとき、そう言って、泣き笑いをしていた。
そうして、この時から、秘密の会合を開くことが決まった。
そうなのよ。カグラ様の情報共有会が発足をした。
そして……
「なに? 安価で白く柔らかな紙だと?」
「はい。それに薄いです」
そう言って、番頭が出してきた現物を見る。
サイズは、ほぼA4サイズ。
この世界の紙より少し大きい。
「出所はどこだ?」
「それが、あの王都アルドリットに店を構える、トシュテン商会だそうです」
「なに? 工作はしていなかったのか?」
「していました。鹿を三〇匹ほど放ちました。流石に切るとまずいので」
「そうか…… だが、この紙、何か違うな」
流石に店主、ヤギーヌ。手触りで何かを感じ取ったようだ。
「これは、紙の木とは違う。手の者を放ち、情報を探ってこい」
そう此処は、ヨウシア国でもニコ国側。
王都よりも東側に位置して、丁度北へ向かう街道近くにある小さな宿場町ポストハブ。
東西は裏街道。北へ行けばヴァーラ国へ向かう街道分岐点の近く。
そうあの盗賊の村から近く、イーリスの奪われた荷を買ったのはこいつらだった。
ゴート商会はそんな地の利を生かし、紙の販売で生計を立てていた。
無論王都近郊よりも自然が豊かで、紙の木も多い。
店主ヤギーヌと番頭オビスーはここに来て、王都での販売がいきなり減ったと支店から連絡が来ていた。
それはこの紙を、カグラが王に見せた。当然だが、王は一目で気に入り、王城で使うことを決めたからだ。
ゴート商会から命令を受けた手の者は、フェルミン、ポンセ、パーテルマ、ロズ、リーヌの五人。
近くの村から出てきて冒険者となった五人。
うち、ロズとリーヌは女性。
彼らはそんなに強くなく、基本は自然豊かなこの周囲で薬草採取に携わり、そこそこ生計を立てていた。
それでもまあ、貢献度は上がり、銅級から銀級へと昇級するに合わせて、商会の護衛をした。
その縁で、たまに依頼を受けているだけで、商会側とは少し関係性に齟齬があるようだ。
店主は手の者と言ったが、彼らはそんな気は無い。
たまに変な依頼を、ギルドを通さずされるだけ。
最近は、鹿を罠で獲り、王都近くの山へ一生懸命運んでいた。
それは多分、商会の大事な木を、囓るからだろうと納得をしていた。
それだけで、幾枚も金貨を貰い、上客であるのは間違いない。
「あん? 商会の情報収集?」
鹿の見張りをしていると、ロズ達がやってきた。
今朝、商会から使いが来て、呼ばれていた。
「だってさ。それと鹿はもう良いみたいよ」
ロズがそう言うと、フェルミンが嫌そうな顔をする。
「折角捕まえたのに。どうすんだよ」
ポンゼが文句を言う。
だけど基本、ポンゼはめんどくさがりで、あまり動いていない。
「ギルドへ連れていけば良いだろう。それより、そのスパイみたいな依頼どうするかなぁ?」
当然だが、フェルミンがぶった切る。
「行って、周囲で聞けば良いんじゃ無い。それか、意外とお店の人に聞けば教えてくれたりしない?」
「内容は?」
「えーとね、新しい紙の作り方だって」
ロズがメモを読み上げる。
「えーとそれって、商店にとって重要な情報じゃないのか?」
「どうだろう? 串焼きやだって、タレは教えてくれないけれど、肉の種類とかは教えてくれるぜ」
「その、タレの方を、教えてくれって言う事じゃないのか?」
「だとしたら駄目かなぁ」
面倒なのだろう、ポンゼが嫌がる。
「とりあえず王都へ行って、その商会。周りを調べれば材料とか判るだろうし、女の子がお願いって言えば、教えてくれるかもな。リーヌは美人だし」
「はっ? リーヌ? 私は?」
「ロズは上手く行かないと怒り出すだろ。向いてない」
「わっ私だって、色気くらいあるわよ」
ロズもリーヌも一八歳。
この世界では少し、行き遅れに入ってきている。
農村出身者で、子供の頃から川や野原を男の子と一緒に掛け回り、日々食べる物を狩っていた。
確かに体つきは女の子らしくなってきたが、性格はすぐには変わらない。
「とにかく行くわよ」
捕まえた鹿は、ギルドがしばらく飼うことになった様だ。
多分すぐに肉屋から注文が入るだろう。
だがしかし。
「餌代と手間賃はさっぴくからな」
そう言われた。
まあとにかく、依頼を受けて彼らは王都へ向かうようだ。
チーム名『暁の戦士達』は、町の外へと出ていった。
もう幾度となく通い慣れた道。
今日は鹿を隠す箱が無いため、非常に楽だ。
しかし彼らは知らなかった、それが彼等にとって、悲劇への第一歩だという事に。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる