神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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トシュテン商会の娘イーリス

第42話 私は救われた

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 私は救われた。

 行商の途中盗賊に襲われて、男はすぐに殺されて、女達は陵辱された。
 普通の盗賊とは違い、村を持ち裕福な暮らしをしている。

 そして、ニコ国の兵や貴族が、この村の中で仲よさそうにしていたこと……

 最悪の状況の中で、商人の娘達がいることが判り、仲良くなった。
 今日は誰の番、今日はどんなことをされる?
 もちろん、嬉しいことじゃない。
 そんな地獄の日々。
 きっと誰かが、助けてくれると信じて暮らす日々。

 そして、どんなひどい目にあっても、私だけはギリギリ正気を保っていた。


 だから助けてくれた後、他の子達のように素直に甘えられなかった。

 そう彼は、綺麗で強くて理想の人。
 だけど、一緒にチームを組んでいるディアナさんと恋人同士みたいなのに、不機嫌だけど恋人じゃないと、ディアナさん本人が言う。

 そして、他の子達から教えられる。
「カグラさんに抱かれると、そのたびに嫌だった記憶が無くなり、前と同じ自分に戻れる。それにね。ものすごく気持ちが良いの」
 そう言って、皆が喜んでいる。

 盗賊達に汚されまくった体、カグラさんに抱いて貰うのに、こっちが躊躇する。
 だけど、長いこと汚されまくった影響か、体が男の人を求めてしまう。

 他の、ジャン君達とかも居るけれど……

「あの、カグラ様」
「君は?」
「イーリスと申します。ヨウシア国の商会、紙問屋で」
「わかった。おいで、怖くない?」
 声をかけた様子で、彼は察して、願いを理解してくれた。

「はい、大丈夫です」
 彼から差し出された手を取り、木箱の上に座っていた彼に、向かい合うように抱っこされる。

 優しく抱きしめられて、耳の側で囁かれる。
「辛かったね、でも君は生きている。生きていれば、幸せにもなることができる」
 そう言って、気のせいか暖かい光が彼から放出をされる。

 幸せで、気持ちが良い光。
 まだ抱っこされているだけで、何もされていない。
 でも体が、心が癒やされていく。

 彼女達が言っていた、嫌なことが消えていくというのが理解できる。
 ただ、背中側に視線を感じる。

 ディアナさんは、夜番の時には張り付くようにカグラさんと一緒にいる。
 なんとなく判るけれど、辛いと思う。
 自分の見ていないところで他の人を抱かれるのは嫌、私はそう思うけれど、この人を独り占めしたいとか思わないのかしら……

 だけど知ってしまった。
 この人に抱かれると、幸せだけども、体が持たない。
 水分がすべて流れ落ちて、私死んじゃう。
 何これ、盗賊との行為なんて乱暴なだけだった。
 ずっと愛されたい、でも、無理。
 
「し…… しぬぅ」
 そうして私は、記憶を失った。

 あさ、目が覚めると異常なくらい気分は晴れやかで、体が軽かった。

「何これ? すごい」
 あの妙な、飢餓感もなくなっていた。
 そう男の人を求めてしまう変な心。

 あれは、必要が無くなったら殺されるという心が産んだ、生きるための希望でもあった?

 助けられても、それがずっとあり、苦しかった。
 助けられたのだから、もう大丈夫、でもこの人達も途中で気が変わり……

 そう、ぐるぐると、心の中で、よどんだ沼のようにあったもの。
 それが、そんな疑念が、消えてはいないけれど、薄くなった。

 その治療は、王都アルドリットへ到着するまで続けられて、私たちはすっかり元気になった。

 まあ店に帰ると、お父さんが死にかかっていたけれど……

 カグラさんに治して貰い、木から紙を作る方法があるとカグラさんが言い出した。
 この人は一体?

 そう旅の途中でも、たまに訳の分からない事を言う。
 ディアナさんも、時たま分からない事を言い出すと言って、苦笑をしていた。
「不思議な人ね」
 一緒に旅をした皆が、そう口に出してしまう。

「車が欲しい」
 そんな言葉をよく言うらしい。
 ただ言った後、必ず悲しい顔をするようだ。

「あの時のカグラを、ぎゅうとするのが私の役目だから」
 ディアナさんにそう言われた。

「彼の、泣き顔は…… そう、なんと言うのかしら? 尊いのぉ」
 そう言って、彼女はでへでへと、よだれをたらしていた。

「「「羨ましい」」」
 皆が叫んだのは当然だ。

 戦争が終わり、ニコ国が消滅をした。
 彼たちも戦争に行っていたが、帰って来た。

 私たちも集まってお祝いをして、久しぶりに愛して貰った。
 ミノヤキーノ商会のターナボッターさんや、トリヤキー商会カモネギーさんも、娘とカグラさんの関係は多分知っている。
 でも、文句は言わないし、漆器や磁器が商会の目玉となってきている。

 その二つも、商会の人達が材料を探しに各地へと向かっている。
 すべてが、火山とか火山跡で見つかる材料だとか。

「熱水鉱床で変性した土が必要なんだ」 
 そんな、謎の言葉を喋っていた。

「カグラさんて一体?」
「気にしちゃ駄目よ」
 そう、暗黙のルール。
 カグラさんは無意識に、この世界ではと言う。
 そこには触れないことにしている。
 きっと、それを知るのは、ディアナさんが一番最初じゃなければ、いけないのだと思う。

「おれは、別の世界で死んで、この世界の女神に助けられた。その時に部品が足りないとか言っていたから、何か人間として足りないのかもしれない。君を傷つけたのなら謝る」
 そう思っていたのに、カグラさんてば、私にとんでもない事を、暴露しやがりました。

 そう、少し盗賊達を切っていたときの、無慈悲な感じが気になったから。
「カグラさんて、時たま、無感情というか、冷たいときがありますよね」
 寝物語でつい、そんな事を言ってしまった私、取り消せぇ。
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