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漁師。ダナ
第50話 旅立ち
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「海へ行こう」
悲しそうな顔をしたカグラが、ぼそっと言った言葉。
「海ってなあに?」
ディアナは山育ちで、農村出身だから、海を知らなかった。
「海とは塩が取れるところじゃな」
ヴァイオレットは知っていた様だ。
「ヴァイオレットは、海を見たことがあるのか?」
「ない。王国から出たこともあまりなかった」
「なら初めてだな。そうだな。機械や焼き物のまにゅ、手ほどき書を書いて、二人がそれを見て作れるか確認。その後出発をしよう」
なぜかあっさりと、そんな話が決まった。
海という事は、山岳民族小国家群を出るということ。
大陸の中央に存在する山岳国家の集合体が此処だが、その外には、大きな六つの国がある。
イーデン王国、クロムウェル王国、カレール帝国ここでは香辛料が取れる。
怖い女帝が治めるフロール王国。雨が少ない、ヴィレムセン商国。
そして、魔法大国のエザリントン帝国。
そう、カグラは薬草や香辛料の繋がりで、カレール帝国のことを聞いた。
料理用スパイスと薬草は似たようなものだ。
そして、なんとなく聞き覚えのある名前だし、気になっていた。
そう。そして、出発前にやることがある。
「畜生、当てが外れたわい」
ハーナシ=ヘイッキ=ナイトメヤ伯爵はイーリスから盗賊どもにされた非道を聞きだし、楽しみながらイーリスをいじめ…… 可愛がろうと思っていた。
そして無論、紙のこともだ。
だがそんな記憶はほぼ消されて、話しを聞いても、今はカグラとの嬉しかったことしか覚えていない。
そのため、興をそがれた伯爵は、今までの娘と同じように、彼女に手を掛けてしまった。
彼女は、家のためと思い、カグラと暮らした二年間の楽しい思い出を糧に気持ちを強く持ち、いじめに耐え抜いた。
そのため、逆に伯爵は怒り、無茶をしたのである。
そのおかげで、苦しみが短くて済んだとも言える。
水攻めをされても負けず、にらみ返した彼女は、水の中で意識を失い。戻ってこなかった。
「カグラ。好き…… 愛していたの…… でも、ごめんなさい」
狭い国とはいえ、通常ならナイトメヤ伯爵が代官を務める、フウンドウーシ侯爵領まで二日は掛かる。
カグラはそれを、一日で走りきる。
いま、ディアナとヴァイオレットは、マニュアルを片手に機械と格闘している。マニュアルというのは意外と難しく、判った人間には一般常識として理解ができても、やったことがない人間には理解できないことが多い。そのため書いた物を試して貰い、手直しをおこなうのが普通である。
彼女達が格闘しているその間に、カグラは忘れ物を取りに来た。
折角助けて、元気になった彼女を殺した屑ども。
トシュテン商会のおやっさん、スキフネーさんはまた体を壊して寝込んでしまった。相手が貴族だからと泣き寝入りである。
なぜかカグラに対して、ひたすら済まないと謝ってきた。
一般の民は泣き寝入りをしても、俺は許さない。
奇妙な正義感が心を支配する。
外から屋敷をうかがい、防犯カメラ系の魔導具が無いことを確認。
いつもの様に正面から屋敷に入る。
そこにいた執事を捕まえて、詳細を聞く。
「あのお方は、ご病気なのです」
「そんな事は関係ない。何があった話せ」
そうすれば、イーリスのことだけではなく、今までの非道を教えてくれた。
「うむ。情状酌量の余地無し。世の中に巣くう害悪と判断」
自身で判決を下して、執事に案内をさせる。
途中侍女とかがいたが、不思議なことにカグラと出会う前に廊下で寝込んでしまう。疲れているらしい。
「こちらでございます」
ドアの一つ。
部屋の前に立つだけで、ナニをしているのか分かる。
「ああっ、おやめください」
ビシバシと乾いた音がする。
ドアを開けて中へ入る。
奥にもドアがありそこが寝室のようだ。
中へ入ると子豚のような男が、奥方の背後から突き入れながら、鞭でしばいている。
無論認識は阻害されて、彼等はカグラに気がつかない。
奥方の背中には、みみずばれの様な傷跡が多数あり、ボロボロだ。
鞭を振り上げたときにスチャッと取り上げる。
「うん? なんだ」
振り向き背後を見ると、何もない空間から男が浮き上がってきた。
阻害されていた認識が、解除されてカグラの姿を捉える。
「何者だお前?」
「やかましい。口をきくな。すべては聞いた」
その瞬間、手に持った鞭が音速を超えて伯爵にあたり皮膚を裂く。
「ひぎゃあぁ」
何かに叩かれたのは分かった。だがスピードが速すぎて痛みがなかった。
刀とかで切られたとき、棒で叩かれたような感覚がするらしい。
そして、後から痛みと出血がやって来る。
「騒ぐな」
冷酷な責め苦は、生かさず殺さず数時間続いた。
伯爵が殺してくれと懇願してもなお……
最後には、体を包む皮膚はなく、血だらけの肉塊が転がっていた。
奥方に話しを聞き、知っていたことを聞いて悩んだが、状態からすると逆らえ無かったのだろう。
私財没収と、物理的な屋敷のお取り潰しでなんとか納得をした。
「被害にあった娘達の墓はどこだ」
案内をさせると、比較的まともに埋葬はされていた。
「対外的な見栄がありますので」
執事が言うには、そう言うことらしい。
周囲ごと浄化を行い、イーリスだけではなく周囲の墓にも花を供える。
「ごめんな」
そう言って彼は屋敷を後にして、もう一軒へと走る。
その屋敷では、蓄えた私財が隠し財産ごとすべて無くなり、悪事の書類が後日、なぜか王の居室から発見された様だ。
「あの説明書でいけるか?」
「はい。できました」
二人に確認をすると、ニコニコでそんな返事が来た。
数日後、ミノヤキーノ商会とトリヤキー商会には結婚祝いとして過分な金銭が置かれ、トシュテン商会にはお悔やみとして金銭と説明書が残されていた。
そして、カグラ達はどこへ行くとも、残すことなく姿を消した。
悲しそうな顔をしたカグラが、ぼそっと言った言葉。
「海ってなあに?」
ディアナは山育ちで、農村出身だから、海を知らなかった。
「海とは塩が取れるところじゃな」
ヴァイオレットは知っていた様だ。
「ヴァイオレットは、海を見たことがあるのか?」
「ない。王国から出たこともあまりなかった」
「なら初めてだな。そうだな。機械や焼き物のまにゅ、手ほどき書を書いて、二人がそれを見て作れるか確認。その後出発をしよう」
なぜかあっさりと、そんな話が決まった。
海という事は、山岳民族小国家群を出るということ。
大陸の中央に存在する山岳国家の集合体が此処だが、その外には、大きな六つの国がある。
イーデン王国、クロムウェル王国、カレール帝国ここでは香辛料が取れる。
怖い女帝が治めるフロール王国。雨が少ない、ヴィレムセン商国。
そして、魔法大国のエザリントン帝国。
そう、カグラは薬草や香辛料の繋がりで、カレール帝国のことを聞いた。
料理用スパイスと薬草は似たようなものだ。
そして、なんとなく聞き覚えのある名前だし、気になっていた。
そう。そして、出発前にやることがある。
「畜生、当てが外れたわい」
ハーナシ=ヘイッキ=ナイトメヤ伯爵はイーリスから盗賊どもにされた非道を聞きだし、楽しみながらイーリスをいじめ…… 可愛がろうと思っていた。
そして無論、紙のこともだ。
だがそんな記憶はほぼ消されて、話しを聞いても、今はカグラとの嬉しかったことしか覚えていない。
そのため、興をそがれた伯爵は、今までの娘と同じように、彼女に手を掛けてしまった。
彼女は、家のためと思い、カグラと暮らした二年間の楽しい思い出を糧に気持ちを強く持ち、いじめに耐え抜いた。
そのため、逆に伯爵は怒り、無茶をしたのである。
そのおかげで、苦しみが短くて済んだとも言える。
水攻めをされても負けず、にらみ返した彼女は、水の中で意識を失い。戻ってこなかった。
「カグラ。好き…… 愛していたの…… でも、ごめんなさい」
狭い国とはいえ、通常ならナイトメヤ伯爵が代官を務める、フウンドウーシ侯爵領まで二日は掛かる。
カグラはそれを、一日で走りきる。
いま、ディアナとヴァイオレットは、マニュアルを片手に機械と格闘している。マニュアルというのは意外と難しく、判った人間には一般常識として理解ができても、やったことがない人間には理解できないことが多い。そのため書いた物を試して貰い、手直しをおこなうのが普通である。
彼女達が格闘しているその間に、カグラは忘れ物を取りに来た。
折角助けて、元気になった彼女を殺した屑ども。
トシュテン商会のおやっさん、スキフネーさんはまた体を壊して寝込んでしまった。相手が貴族だからと泣き寝入りである。
なぜかカグラに対して、ひたすら済まないと謝ってきた。
一般の民は泣き寝入りをしても、俺は許さない。
奇妙な正義感が心を支配する。
外から屋敷をうかがい、防犯カメラ系の魔導具が無いことを確認。
いつもの様に正面から屋敷に入る。
そこにいた執事を捕まえて、詳細を聞く。
「あのお方は、ご病気なのです」
「そんな事は関係ない。何があった話せ」
そうすれば、イーリスのことだけではなく、今までの非道を教えてくれた。
「うむ。情状酌量の余地無し。世の中に巣くう害悪と判断」
自身で判決を下して、執事に案内をさせる。
途中侍女とかがいたが、不思議なことにカグラと出会う前に廊下で寝込んでしまう。疲れているらしい。
「こちらでございます」
ドアの一つ。
部屋の前に立つだけで、ナニをしているのか分かる。
「ああっ、おやめください」
ビシバシと乾いた音がする。
ドアを開けて中へ入る。
奥にもドアがありそこが寝室のようだ。
中へ入ると子豚のような男が、奥方の背後から突き入れながら、鞭でしばいている。
無論認識は阻害されて、彼等はカグラに気がつかない。
奥方の背中には、みみずばれの様な傷跡が多数あり、ボロボロだ。
鞭を振り上げたときにスチャッと取り上げる。
「うん? なんだ」
振り向き背後を見ると、何もない空間から男が浮き上がってきた。
阻害されていた認識が、解除されてカグラの姿を捉える。
「何者だお前?」
「やかましい。口をきくな。すべては聞いた」
その瞬間、手に持った鞭が音速を超えて伯爵にあたり皮膚を裂く。
「ひぎゃあぁ」
何かに叩かれたのは分かった。だがスピードが速すぎて痛みがなかった。
刀とかで切られたとき、棒で叩かれたような感覚がするらしい。
そして、後から痛みと出血がやって来る。
「騒ぐな」
冷酷な責め苦は、生かさず殺さず数時間続いた。
伯爵が殺してくれと懇願してもなお……
最後には、体を包む皮膚はなく、血だらけの肉塊が転がっていた。
奥方に話しを聞き、知っていたことを聞いて悩んだが、状態からすると逆らえ無かったのだろう。
私財没収と、物理的な屋敷のお取り潰しでなんとか納得をした。
「被害にあった娘達の墓はどこだ」
案内をさせると、比較的まともに埋葬はされていた。
「対外的な見栄がありますので」
執事が言うには、そう言うことらしい。
周囲ごと浄化を行い、イーリスだけではなく周囲の墓にも花を供える。
「ごめんな」
そう言って彼は屋敷を後にして、もう一軒へと走る。
その屋敷では、蓄えた私財が隠し財産ごとすべて無くなり、悪事の書類が後日、なぜか王の居室から発見された様だ。
「あの説明書でいけるか?」
「はい。できました」
二人に確認をすると、ニコニコでそんな返事が来た。
数日後、ミノヤキーノ商会とトリヤキー商会には結婚祝いとして過分な金銭が置かれ、トシュテン商会にはお悔やみとして金銭と説明書が残されていた。
そして、カグラ達はどこへ行くとも、残すことなく姿を消した。
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