神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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漁師。ダナ

第51話 ダナという娘

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 山岳民族小国家群から北西にカレール帝国があり、香辛料のおかげで隆盛を誇っていた。

 この大陸は四国を大きくしたような形で、丁度香川県辺りがカレール帝国だ。
 そしてさらに北へと進み、港町シェーンバリへと到着。

 大きな川がこの国自体を分断している。
 港町シェーンバリは川の西側、東側がヘルマニュスの港。
 町としてはヘルマニュスの方が大きいのだが、なんとなくひなびた方へとやって来た。

 だが、来てみると、なんと言うか日本昔話に出てくるような港町だ。
 オッサン達はふんどしで歩き回り、子ども達がフルチンで走り回っている。
「暖かいから、泳いでいたのか?」
 通り良すぎていく子ども達と目が合う。

「カグラ、なんだか匂いがしますわね」
 ヴァイオレットが、少し不機嫌そうに口元を覆う。

「海独特だろう。これが、潮の匂いだ」
「塩? あれはこんな匂いはしないよ」
 ディアナが首をひねる。

「海水や海藻。その他が混じった匂いだよ」
 トリメチルアミンやジメチルスルフィドの匂いらしい。
 ディアナとヴァイオレットは珍しいのだろう、キョロキョロしている。

 俺は別の意味でキョロキョロしている。
「さっきから見ているが、この町の中ギルドも何もないな?」
「そう言えばそうね」

 適当に声をかけるが、オッサン達は向こうで船を引き上げているし、こっち側。
 つまり防風柵に囲まれた、家がある辺りには、子どもを抱っこした女の人しか居ない。

「うわー、赤ちゃんですか?」
 ディアナとヴァイオレットが走っていく。
「はい。まだ首も据わっていなくて」
「首が据わる?」
「ああ。生まれてから、そうだな四ヶ月か五ヶ月か。その位は赤ん坊の力が無くて、首がふにゃふにゃなんだ。気を付けないと死んでしまうぞ」
 説明しながら、地球での暮らしを思い出した。
 神楽が生まれて喜び、抱かせて貰おうとして、看護師さんに叱られた思い出。
 男は普通、生まれたばかりの赤ん坊の首が、普通に抱くとどうなるのかなど知らない。
 
「抱くときには、背中側から腕を回して、頭を一緒に支えてください」
 そんな事を教えられたが、最初に抱いたときは怖くて固まってしまった。
 何もかも懐かしい。

「どうしたの? 涙が」
「えっ。そうか?」
 知らぬ間に泣いていたらしい。

 そう言って覗き込んだとき、赤ん坊の様子があまりよくない感じがした。
「ちょっと失礼」
「何をするんですか!!」
「この子顔が赤い。熱があるだろ」
 そう言うと、ビクッとする。

「じゃあ今朝、おっぱいを飲まなかったのは、そういうこと?」
 思い当たることがあるようだ。

「とりあえず、日の当たるこんな所は駄目だ。家はどこだ」
 そう言うと、一軒の崩れかかった小屋へ入って行く。

「うわあ、うちの家よりボロい」
 ディアナの言う、うちは実家のことだろう。

「確かに。これはひどいな。あんた旦那は漁に出ているのか?」
 そう聞くと彼女はふるふると首を振る。

 彼女が見る方には、木箱の上に適当な石と花が添えられていた。
「あれは?」
「漁に出て、海にのまれてしまい、遺体も無いからです」
 そう言って泣き始めてしまった。

「分かった。あんたきちんと食えているのか?」
 一瞬固まり、ふるふると首を振る。

「とりあえず家を直そう」
 さっきの、旦那さんの墓代わりが消える。

 それを見た奥さん。目がこれ以上開かないくらい見開いてしまう。目が落ちるぜ。
「いったん出てくれ」
 折角、子どものことを気にして中に入って貰ったのだが、天井も半分無くて、土間の床。これでは底冷えがする。

「家がこんなになったのは、嵐でも来たのか?」
「はいそうです」

 集落全体を木の板で囲ってあるが、それ自体がボロい。
 此処の家だけというわけにもいかないので、集落を囲む壁を作る。

 貴族からもらった屋敷の資材とかが十分ある。
 周囲には盗賊達も居るだろうから、三メートルは最低いる。
 この位高さがあれば、台風の風も屋根を…… 壊しそうだな。

「もうちょっと高くしよう」
 中央にこそっと、土魔法で壁を作り、それに合わせて石を積んでいく。
 それに、土を探しに行ったときに集めてきた、火山灰や石灰などを混ぜて、ローマンコンクリート方式のモルタルを作り、間を埋めていく。
 このコンクリートは、塩水や水で硬化していく。

 入り口の扉は、スライド式にして強度を上げる。
 外側と内側に扉を付けて、丈夫にしておく。

 壁はできたが、それでも丈夫にこしたことが無いので、掘っ立て小屋は収納をしてそこに基礎を作り、その上に柱を立てていく。

 柱のほぞは、イメージだけで空間魔法で切っていく。
 通し柱とおしばしらを立てて、その上に梁を架けて、ガンガンに造っていく。

 下半分は石組みにして、雨対策。
 当然木も表面を焼き、防水の壁を造る。
 屋根は、瓦だが日本瓦ではなくスレート。
 この辺りは木の皮や、板で屋根を作っている様なので、見た目をそれに合わせる。

 大引を入れて、根太をはり床を造る。

 家を壊したとき、トイレはボットンだった。だが、適当な石組みで周囲が砂のため自然吸収させているようだ。
 そう村の中心に浅井戸があるようだが、無茶苦茶衛生的によくない。

 勝手に、浄化槽を造る。
 周囲のトイレ付近も汚染されているだろうから、石化させて、勝手に下水道を造り、浄化槽へ導く。

 
「あれは、手を上げて何をしているのでしょうか? それに家があっという間に出来上がって」
「まあまあ。ああやっているときには、まだ何か造っている最中だから。あっ私、ディアナ。あそこにいるのがヴァイオレットで、今魔法を使っているのがカグラ」
「あっ私は、ダナで、この子はバルトロです」
 ほのぼのとご挨拶。
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