神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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漁師。ダナ

第54話 デルデン君

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「おれがデルデンだけど」

 教えて貰った家に行くと、一人のとっちゃん坊やが出てきた。
 見た目がね、お笑いコンビ、バナナ○ンのツッコミ担当をしている方がちょっと痩せて、こじんまりした感じと言えば分かるだろうか?

「俺はカグラという冒険者だが、今仕事は何をしているんだ?」
 そう聞くと、彼は答え辛そうに答える。

時化しけで船が壊れて、それからは、おっかあに食わせる分だけ岩場で何かを捕って暮らしている」
 話しを聞くと、小魚やタコ。貝などを捕まえて暮らしているようだ。

「それは大変だね。さあ仕事をしよう」
 そう言って、俺は笑顔で彼の手を取る。

「ちょっとまて、あんた一体何だ?」
 つい条件的にぴったりだったので、テンションが上がってしまった。

「ああ悪い。たまたまダナと知りあって、助けるついでに何か仕事ができないかと思ってね」
「ダナか、そうだな。何とかしてあげたいが、うちも精一杯なんだ」
「その様だな」
 彼が住んでいるうちも、ダナのところと大差ない。

「お母さんは、どこが悪いんだ?」
「さあ? もう半年以上寝たきりだ」

 そう言うので、中へ入らせて貰い、様子を見てみようとした。

 人の顔を見ると、布団に転がっていたおばさんは、布団代わりの上着を蹴りあげると、ブレイクダンスのウィンドミルを極め、スチャッと正座をする。
 ウィンドミルは背中で、クルリと回転をする技だ。

「このように、みすぼらしいところにようこそ」
 深々とお辞儀を頂く。

「いえ。お体の具合が悪いと聞いたものですから」
 そう聞くと、苦笑いをされる。
「それはまあ、年寄りですから多少はがたもきます」
 とりあえず、チェックをする。

 見つめたせいか、おばさんの頬がぽっと赤くなるが当然無視。

 だけどまあ、特には問題無さそうだ。
 一応浄化と治癒魔法を掛けておく。

「この光は、神の奇跡」
 そう言って、拝み始めてしまった。

「とりあえず、家も直そう」
 すこし強引にだが、外に出て貰う。
 手を引くと、何かスキップぎみのステップを踏んでいる。
 おばさん。元気そうに歩いているな。

 表に出た瞬間、町を囲む見慣れない壁の方が気になったようだ。
「なんだいこりゃ?」
「ああさっきカグラが造ったの。風よけと盗賊避けだって」
「こりゃすごい。んなっ」
 向き直れば、家がすでに無かった。

「家が」
 家が無いと言おうとしたら、基礎が生えてくる。
 そして、外側の外壁として石垣が囲み、中に柱がいきなり登場。

 まあやることは、ダナの家と同じだ。
 あっという間に家が建つ。

「できたぞ。ちょっと説明をする」
 台所に生えた水汲みタンクと、蛇口。

「これはぐるぐる回して、このパイプから水が流れ出せば満タンだ」
 そうタンクのオーバーフロー水が、出る様にしている。
 タンクは、一日分くらいだから四十リットルくらい。

「こっちは風呂。水を張って、横の循環式風呂釜で木をくべればお湯が湧く」

 各部屋と、ベッドも説明。

 何か二人とも動きがロボットのようになっていた。
 そうして、建築代を体で返すとか……
「気にしないでください」
 強引に騒動をおさめて、仕事について話すことにする。


 ズィクムントの町へ帰ったとき、知らぬ間にできていた冷蔵庫。それを改造をした冷却魔導具を備え付けた冷蔵庫も完備。そうこの前、薬局のアバドンが嬉しそうに見せてくれた。
「これの原理、説明したのは俺だったよな?」
「そうじゃったかの?」
 そんな感じで、いきなりじじいがボケじじいになる。当然、振りだ。
 売り上げの三十パーセントをじじいが取っているらしい。

 まあ良い。
 冷却コアの創り方もおかげで習得できた。
 そのおかげで、冷凍庫も創れるようになった。
 絶対零度モデル。『凍るんです。初号機』瞬間冷凍機能付き。
 無論危険だから、ダナとか、一般用には付けていない。

 
「さてそれでは、話を始めよう」
 俺は口元で手を組み、掛けていないはずのレンズが白く光る。
 テーブルを囲む面々に緊張が走る。

「特産品開発アンド販売計画。その一だ」
「特産品とは?」
 なんか、ディアナがノリノリだな。

「まず最初。俺が海に来た第一目標。鰹節の作製」
「おおおおっ?」
 円卓に座る皆が大げさに驚く。
「鰹節って何?」
 皆が、うんうんと頷く。
 さっきのおおおって言うのはなんだよ。

「魚は干せば干すだけ美味くなる。その究極の逸品だ」
 そう言えば、なんとなく分かる様だ。
「どうやって使うの?」
「必要な分だけ削り、湯で煮込む。するとな、うま味がジュワー―と溶け出すんだ」
「へーすごい」
 皆が驚いてはくれたが、現物が無いから感動が薄いな。

 そして、ツッコミが来る。
「どうしてそんなものを知っているの?」
 ディアナの笑顔。だが、目は笑っていない。

「俺の暮らしていたところでは普通にあったんだよ」
 その場がざわざわとなり、ディアナが仕切る。
「それはどこ?」
 場のついでだろうが、踏み込んできた。

「日本だ。日本の四国」
 そしてざわざわ。
「それはどこなの?」
「さあ、俺にも解らん。気がついたら、ヴァーラ国のズィクムント近くにいた。山中でゴブリンに殴られていたよ」
 これは本当のことだ。途中が飛んだだけで。

「日本ですか。行ってみたいですわ」
 ヴァイオレットがうっとりしている。
 さっき説明をした、ホールケーキのせいだろうか?

「さて、まあそれは良い。こんな魚を知っているか?」
 カキカキと白い紙に、鉛筆で絵が描かれていく。
 問題は、どんな模様だったのか? 鰹って…… 腹側に線が入っていたよな。

 なんとなくで絵を描いてみせると魚だという。
「うん。魚だけど。こっちではなんと言うの?」
 そう聞くと、ダナもデルデンも魚だという。

 大きな魚、小さな魚、平べったい魚。
 特徴がつくようだが、すべて魚。
 小さな魚が、大きくなる途中で、変化をするという理解のようだ。
 ちなみにウナギとか穴子とか、細長い魚も蛇だそうだ。
 当然、陸蛇と水蛇。

 ワームはすべてワームだったな。
 芋は毒芋と芋だったし…… この世界って……
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