神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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漁師。ダナ

第59話 生まれ出ずる物

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 米ができる数日前。

「なに? 誰も居ないだと」
「へい」
 そう聞かされて、素直にそうかと言えない都合が彼等にもある。
 こいつらをまとめる、コーアクとコボス兄弟は頭を抱える。

 普段から、なにかあったときのために、数人は多めに確保していたが、まさかあの場所から逃げられるとは思っていなかった。

 彼等は、人を仕入れて売り払い、それは上納金として納め。領から多少の悪事や、商売において便宜を図って貰っている。

 この兄弟、表では運送業や大工、土木工事の口入れなども行っている。
 まあ地球でいう、人材派遣業の元請けのような立場。

 現場で余所ともめたときには、手土産が多かった方が勝ったりする。

 そう伝達が遅いこの世界。
 どこかの工事現場の依頼を受けて、いざ来てみると、別ルートからの依頼ですでに工事が始まっていたりする。

 当然それまでには、工事するための人夫や食料、木材なども必要だ。
 木材も地球のように、製材所などで売っているわけではない。
 必要に応じて切り出して、加工をする。
 乾燥させるには、年数を掛けるか、魔法での処理を依頼しないといけない。

 そう、現場でかち合って、引けば大損だ。
 それに、一度引けば舐められることになる。

 そのための、上納金だ。
 より上位の権力者へ。

 無論、一般の民が男爵邸などに行っても、会ってなどもらえない。
 そのため、下級貴族から話を通してもらう事になる。
 その階段に座る人数分だけ、金額は大きくなっていく。

 まあ中間マージンだな。
 上位にある程度大きな金額を納めようと思えば、かなり大きな金額となる。

 そうだな、某組織○Aが四十七パーセントほど納入価をあげて、それでも六十キロ一万四千円程度の米が、小売りに回るときには五キロが四千円を超える状態と言えば分かりやすいだろうか? 半年苦労して育てた米が一万四千円。割れば五キロ一千百六十六円程度がだ、数日間で四倍になるという事だ。

 某作者は、二年前から作っていないらしい。
 馬鹿らしいとか、一度気持ちが冷めると、ああいうボランティアは駄目なようだ。
 決して機械が壊れたせいではない。ただ機械が壊れて、J○とやらで機械が必要な作業をやって貰うと、採れる米の倍以上金が掛かったとか……



 さてさて、それはさておき、彼等なりの事情があり焦り始める。
 毎回、店側とも人数を調整して話しを通している。
 今回は無理だったという言葉は通用しない。

「近場が無理なら、少し離れてもいい。数をそろえろ」
「へい。お前達行くぞ」
「「「「「おう」」」」」
 そう言って彼等は外へ出る。

「うん? 他に誰かいなかったか?」
「いえ。全員いますぜ」
「気のせいか……」
 皆をとりまとめているパシリは、首をひねりながら、街道を移動し始める。

 なにか忘れているが思い出せない。
 だがふと、そいつは人なつっこい笑顔だったのだが、目が笑っていなかったことだけをを思い出す……

 背筋をなにか冷たい物が流れた気がした。
 その背中には、少し丸い草の実『オナモミ』型の魔導具が二つくっ付いていた。
 『オナモミ』は、よく空き地などに生えている。ラグビーボール型でかぎ針のような針が生えていて、服などにくっ付く種子である。

 魔導具名、『絶対あなたを離さない』と『ずっと聞いているの』。その二モデル。
 受信装置は、『今あなたの後ろにいるの』この三点セット。
 本来は、『私見たの』と『お命頂戴……』の全五点セットだ。
 『お命頂戴……』は、リモート型の自爆装置。
 ただ大きいから改良の余地がある。『……』は初期型についていた導火線の名残だ。


「動き出したか」
 結局奴らは一日動かず。
 残りがあと一日しか無くなって焦ったのか、隣の領へと遠征をするようだ。
 それも真っ昼間に。

「隣は確か、海岸線が崖ばかりで、仕方なく作った香辛料が領の財政を潤してウハウハなところだよな。商人の往来も多くて、都合が良いだろう」
 なんだ今のは? 周りには誰もいないのに、つい説明するかのように口が勝手に情報を……

「隣はオレガノ=ハーブ侯爵領。奥さんがアニスさんで、娘のクミンさんとディルという息子がいる」

 そう言いながらも、俺は『今あなたの後ろにいるの』で光る光点を見つめる。
 走りながら……

 さっきうっかり、立木にぶつかり倒してしまった。
 気を付けよう。
 クミンとかさ、確か例のブツに必須スパイスだったはず。
 後は肝臓のお薬、ターメリックとカイエンやコリアンダー、ガラムマサラだった気がする。

「ふふふっ。問題は、名前を知っていても、元の状態を知らないおれ……」
 普通スーパーって行っても、瓶や缶でしか買わないもの。スパイスなんて……
 俺ってすげえじゃんという感じで、嫁さんと付き合いだしたときに、作ったんだよ。
 ヨーグルトとか入れてさぁ。

 カレーを入れるソースポットも買ってさぁ。
 ドヤッて振る舞った、懐かしい思い出。
 なぜか涙が流れる。
 最近泣いてばかりだな。

 だが、この世界にカレーを誕生させてやる。
 俺は気合いを入れて、街道を走っていく。

 でもさぁ、カレーって…… まあいいや。
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