神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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精霊国。ソルヴェイ・オーセ・ネレム姫

第71話 意外と危険

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「蜂騒動は終わったのに、今度は何?」
 そう聞くと、彼女はもじもじとし始める。

「あのね。父上が私と婚儀をあげるのであれば、力を示せって」
 そう言って、またもじもじ。婚儀? まあ良いか。嫌いなタイプでは無いし、俺が寝込んでいる間、一生懸命看病をしてくれたのは、シクステンから聞いている。
 ただ、何か……
「力ねえ?」

「この大陸って、近くにある大陸から、獣人けものびとたちがたまに来るのよ」
「獣?」
「ええ。言葉は話すんだけど、話が通じないの」
 そう言って少しむっとした顔。真ん中によった眉がなんかかわいい。
 基本、スタージア達の顔はあっさり顔なんだよなぁ。
 銀髪の碧眼。そうカグラと同じ様な系統。違うのは耳の長さ。

「言葉が違うのか?」
 そう聞くと彼女は首を振る。

「何をしに来たっのかって、お兄様は聞いたの。すると話しをするなら、まず戦えって」
 少し呆れたように彼女がぼやく。

「あーうん。脳筋な奴なんだな」
 そう言うとまた表情が変わり、きょとんする。
 コロコロ変わる表情がおもしろくて、つい頭をなでる。

「ノーキンてなに?」
 嬉しそうな顔をすると、俺の胸元に倒れ込んでくる。
 そうベッドの上で、向かい合って話し込んでいたのだが、押し倒された。

「難しいな。うーん。さっきみたいに、こちらが話をしようと思っても、殴り合えば人は分かりあえるとか考えている奴かな?」
「へー言葉があるって言うことは、そういう人達ってどこにでもいるのね」
 そうって、すりすりされるとこそばい。

 顔とかはあっさりなのに、そういう周期なのか彼女は意外とエッチが好き。
 普段は、十年や二十年そんな気も起こらないらしいが、スイッチが入るのだとか。
 実際お兄さんとは、百歳以上も年が違うとか言っていたな。

 さて、遠征に行っていたお兄さんとは、どんな人なんだろう。
 次期王か……


 そのお兄さんは怒りまくっていた。
「あの獣どもは話が通じんし、軍でもないのに戦いとなると連携をして来やがる。おまけに飛んできた矢を手で掴みやがった」
 酒を飲みながら、お怒り中。

 五年ぶりに会った王太子妃タバサ・ヨーエン・ギャラウェイ八十七歳は、ほっぽりっぱなしだが、こちらはこちらで、カグラのことに興味芯々で王達と話をしている。
 今の呼称はアポストロと呼ばれる事が多いが、最近ヌンチアスデマリ海からの使者などと言う呼び名も増えてきたようだ。

 蜂の一件で有名になり、あれは誰だと話が出る。すると海辺の部族から話しを聞いた者が言うには、彼は海神様とともに現れた。彼はヌンチアスデマリだと言ったようだ。
 

「神様の使いねぇ」
「ああっ、スタージアが見たところ、精霊力は歴代の王など子どもレベルだそうだ」
 お父さん、そう言いながら少しすねている。
 だが、幻と呼ばれる空間魔法を使い、場所を繋げるのではなく、内部に自ら世界を創造していたということは、神と言っても大げさでは無い。
 さらに力が増せば、別の世界を造れるかもしれないのだ。

「記憶を失っているのが、また意味深よね」
 王妃がうっとりした顔でそんな事を言う。

「盗ると、スタージアが泣くぞ」
「あら珍しい、焼き餅ですか?」
「そういう事ではない」
「あらあら」
 そう言って嬉しそうだが、タバサの中で興味が増していく。
 クリストフェルとは、王族だから部族長の命令により結婚をしたのだが、お互いにその周期ではなく関係は浅い。

 スタージアちゃんと婚儀をして、彼が王族に入れば乗り換えても良いのでは?
 などとふと思ってしまう。
 王族を凌駕する素質。
 それさえあれば…… いま、ネレム族のオーセ家が王として君臨をしているのは強いからに他ならない。
 いくつかの部族が管理をする、コロニーを束ねて守るのが王の役目。

 だけど実際は、神獣が暴れれば逃げるしか無いし、獣たちにも幾度か敗退をしている。
「会えるのが楽しみね」
 すぐ近くの宮に滞在をしているのは知っているが、いきなり行くほど無粋でもない。


 それはすぐにかなった。
「お前が、ヌンチアスデマリか」
 王太子にそう聞かれてカグラは首をひねる。

「スタージアには、アエクオと呼ばれていますが」
「ええい。誰でもよい。獣たちを討伐しに行く。従軍しろ」
 振り返ると、スタージアがごめんという感じで謝っていた。

 実際病み上がりだし、無理はさせたくなかったのだが、従軍で力を見せれば色々と進展しやすいのも確かなのだ。

 そして、その後ろでタバサの目が光っていた。
 種族が違う様だけど、かわいい感じ。
 カグラはこの世界に来て、大分身長も伸びていた。
 来た当時は百六十センチくらいだったが、今は百七十五センチ程度はある。
 周囲にいる森の民達からすると、少しだけ背が高い部類に入る。

「うん。いいかも」

 王の訓令が発せられる。
「それでは、あのやかましく礼儀のない連中を追い返してくれ。それでは出発せよ」

 隊の平民とは違い、カグラも馬車に乗せられる。

「地形図と奴らの配置だ。無論距離があるから今はどうなっているのか分からんがな」
 自分は王太子だというのに、自然体でかしこまってこないカグラに少しいらつきを覚えていた。私は王族だというプライドがある。
 得てして、力の無い者の方が、肩書きや常識にこだわりやすい。
 そう、自身に自信が無いから、それを保つのにこだわる。

 よくいる、虎の威を借るという奴だ。
 セリフの中に、皆がとか、常識ではとか言う奴は近寄らない方が良い。
 王子クリストフェルのように、勝手にむかつき何とかしてやろうと画策を始めるからだ。
 そう、よりにもよって、カグラ相手につまらないことをしかけようと思いついた。
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