神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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精霊国。ソルヴェイ・オーセ・ネレム姫

第74話 化け物みーつけ

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 その後も、地響きと咆哮の嵐。
 情けないが、動かない体を抱えて丸まり、崖下で蹲っているしかなかった。

 だがその時だ、声が変わり、バタバタと暴れ始める音がし始める。

 無論俺は…… 怖くて見る事など出来ない。
 震えながら、ただ時が過ぎるのを待つのみ。

 そしたらだ、奴はあろうことか倒れ込んできたようだ。
 目の前が暗くなり、小さな崖は崩れ俺は埋まってしまう。
「ミミちゃん。ごめんよ」
 それだけなんとか言って、俺は気を失った。


 その頃。
「最近獅子族のかれ、姿を見ないね。付き合っているんでしょ?」
 そう言うと、彼女は冗談じゃないという感じで手を振る。
「えー、あのお客さん? 付き合ったこともないし。金払いが良いしプレゼントをくれるんだもの。そりゃ仲良く位するわよ。えっ? 付き合う? 無理でしょ。私はかわいい系が好きなの。猫族の子とか、ゴロゴロと甘やかすの。最高でしょ。それにテメライオスさんて獅子系でしょ。本当は近くにいるだけで怖いのよ」
 そう言われて納得をする。
 種族の本能的上下関係。

 獣人族の本能だから、これは仕方が無い。
 それは越えられない物、遺伝子に刻まれた性質である。


「こっちに、生きていそうな奴がいるぞ」
 ヒュドラーが倒れた時、崖下にいて運良く助かったらしい。
 岩に押しつぶされて、怪我や骨折はしているようだ。

 意識がないうちに引きずり出されて、彼は白い光に包まれる。
「治療は終わった。一応縄をかけて転がしておけ」
 そんな声が聞こえて目が覚めた。

 だが、そこにいたのは、体中から炎のように魔力を放出をしている男。
 体の三倍くらいは高いエネルギー放出。これは、獣王どころではない。まるで伝承の魔王だ。
「ひぃぃぃ」
「大丈夫だ。もうヒュドラーは倒した」
 そう言ってにっこり笑顔。
 違う、怖いのはあんただよぉ。
 笑いかけてくるのだが、目が笑っていない。殺されるぅ。
 そこで、また意識が飛んでしまった。


 次に目が覚めた時、紐で結ばれ動けなかった。
「おっ目覚めたようだ。おい司令官を呼んでこい」
「司令官? 副じゃなくて?」
 そう聞くと、アンネセサリー様は考え込む。

「副だな」
「承知しました」
 王太子は、すべてが終わった後、のそのそと馬車から出てきて、顔だけ馬車から出して状態を確認。すべてが終わった事を理解した後は、元気になった。
 今は人を連れて、周囲散策中だろう。
 いや探査だったな。

 周囲の森は、大分焼かれてその中に転がる焼死体。
 全部集めると二十数体。
 炭となってハッキリ分からない物も多い。

 穴を掘り適当に埋葬をして、浄化石という特殊な石を投げ込む。
 モンスターが持つ魔石に、聖なる力を込めたものらしい。
 価格は貨幣ではなく、金の粒を一つ。
 そう、精霊国では物々交換。
 
 宝石ポイものや、金属類の価値が高い。
 ハチミツなどは高級品。
 おかげで、あの一発でお金持ちとなってしまった。

「アポストロ司令官。あっいや副司令官、これからどうなさいますか?」
 カグラの前に、兵達の班長が並ぶ。
 
「犠牲者の埋葬も済んだ。これから上陸部。つまり海岸線の探査に向かう。まだ来ているかもしれないからな」
「「「はっ」」」

 そうそこから、海岸へ赴き、海を見ただけでなぜか俺が泣いていた頃……

「おい、兵達は何処へ行った? 馬車は?」
「はっ不明です」
 王太子のお散歩に付いて行っていた、腰巾着や太鼓持ちの兵は、元気よくお返事をする。

「探せぇ」
「はっ」
 そうして、十人ほどの兵は周囲に散らばる。

 焼け尽くした、谷でぽつんと一人。
 炭になった木々はその効果を発して、非常に清浄な空気が周囲を満たしていく。
 炭には、浄化能力があるから、王太子の体調も復活をするだろう。

 ただ兵糧も部隊とともに移動していた。
 王太子危うし。


「アポストロ司令官、お願いいたします」
 そう言って兵が下がる。

 海を見た瞬間、なぜか涙が出てきた俺だが、獣人達はやはり来ていて強かった。
 無手の者が多く、たまに戦斧などを持っている。

 鬼よろしく鉄棒とか棍棒とか?
 精霊族は、基本魔法頼りで腕力は強くない。
 タイミングとスピードで戦い、中長距離は弓を使う。

 だが獣人達は、無手で矢を払う。
「なんと言う者達だ。ええい、司令官にお願いしよう。にげ、いや伝えに行こう」
 連絡しあった訳でもないのに、そう言って俺の周りに全員が集まってくる。

 お願いですと言いながら、物理的に俺の背中が押される。
「おい押すなよ」
 文句を言うと予想外の返事がやって来る。

「いえ、ここは司令官にお任せをいたします。司令官ですから」
 なんと言う事だ。こいつら寿命が長いから向上心が全くないな。

「俺に任せて良いのか? 折角の手柄だぞ」
「それもそうか?」
 おっ反応をした。

「じゃあ、お前が行けよ」
 なんとか例のパターンに持っていき、楽しもうかと思ったが、獣人さん達は空気を読んでくれなかった。

 『じゃあ俺が行くぞ、どうぞどうぞ』と言う所までが絶対の決まりだというのに…… 攻撃が来たので、仕方なく俺が戦いに出る羽目になったが…… ?
「遅いな」
 気合いが入った瞬間、敵達の動きがスローになり、パンチをかわして足を払ったらそれだけで足首が折れたようだ。

「うぎゃあぁ」
「やかましい」
 頭を蹴って黙らせた。

「この野郎、なに者だ」
「さあ? 記憶がないんだ。教えてくれ」
「なっなんだと。それは大変だな」
 そう、素直な彼等、困惑された。

「まあ良い、殴れば思い出すかも知れん」
 そう言われて、なるほどと思ったが、相手の手に、にょきっと爪が伸びてきた。
「虎系獣人恐るべし。痛そうだからやだ」
 軽く出したパンチが、ちょっと出っ張った口吻、つまり鼻先へパンチがあたった。

 すごく痛かったようだ。
 泣きながら逃げて行ってしまった。

 彼は思った。この大陸にいる奴は、ちょっと脅せば逃げるような奴らだった。
 だがあいつは、なにか違う。どこで見つけてきやがったぁ。
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