神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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この世界に平和と愛を

第99話 騒動の果てに

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「うぉ。そうじゃ。手は出すな」
 やっと王様も反応。

 カグラは渋い顔。
 異世界で、時代劇のノリを期待する方が無謀なのだが、気に入らなかったようだ。

 さて此処で、王は考える。
 冷静にたおやかに、一生懸命平静を保ちながら……
 熱い御茶を流し込む……

「うわっちゃぁぁ」
 それをきっかけに、王妃様が口を開く。

「精霊国では、それが普通なのでしょうか? その…… フェンリル様が、それも人化が行えるということは初めて聞いたのですが? ひょっとして、この町中にもそういう方がいらっしゃると言う事でしょうか?」
 その言葉が終わると、すぐに答えが返ってきた。

「無いな。この大陸にいるのは獣レベル。我らのような高位のものはおらんだろう」
 珍しく、ここだと思ったのだろう。カリニャーが上から目線で諭す。

「それに、向こうの大陸でも、我らに手出しをして認められたのはこのカグラ様のみ。それまでは一方的に精霊族が我らを祀っていたようだが。あの偉そうなユージーンが鱗を毟られて泣いていたとか。見たかったぞ」
「ユージーン様と言うお方? 鱗?」
 王妃が周囲を見るが……

「ああ彼等は、この大陸の南側を回って貰っている」
 カグラが口を挟む。

「奴らは別経路でお使い中。私のみがカグラ様からお付きの許可を頂いた」
 そこでやめれば良いのに、ペラペラとカリニャーが喋る。

「ドラゴン、スフィンクス、グリフォンなど図体ばかりでわれらフェンリルほどの知識は無いからな」
 その言葉を聞いてぎょっとする。

「その方達も人化を?」
「ああ無論。元の姿だと人は驚くようだからな」
 そりゃ驚くでしょうよ。

 伝承に残るモンスターばかり。
 それを従えて従者?
 あーこれは。
 こんな小国など、国を名乗るのもおこがましいのかも知れない……

 場の雰囲気が奇妙な事になっていく。
「あのーカグラ様は、どのような女性が好みなのでしょうか?」
 奇妙な静寂の中で、いきなり流れをぶった切る質問が出てくる。
「「「はっ?」」」
「あっこれは、娘のナディーヌ。ロジーヌとにておろう」

 王様は勘違いをしていた。
 カグラが美醜でロジーヌと仲良くしていたと。
 順番が逆で、彼女を救うためにカグラは一生懸命となり、その中で愛情ができた。
 まあ王家の都合で勝手に引き剥がされて、他国の嫁となったのだが……

 そうカグラは、妹だからとか、見た目でとか興味は無い。
 王女といっても見た目は、普通のお嬢さん。
 そう日本なら、学校の教室で八割を占める雰囲気。
 普通なのだ。

「特に好みと言う物はありません。合うか合わないか……」
 そう言いそうになって口を噤む。ついノリで、それは魂が引き合うものとか言いそうになった。人は引かれ合い、その時が来ればわかり合えるのだと。

 まあそこまでの言葉で、ナディーヌは向かいに座る面々を見る。
 中年に近い女が二人。
 結構大きい息子さん。
 そしてフェンリルだとか言う、耳の生えた女。

 本人は、自分よりも若いように見える。
 歳上が好きなのかしら? などと考える。

 ナディーヌも色々と縁が無く、まだ独身。
 国内といっても貴族は少なく、他国は統廃合があったりしているし、大きな国はさらに大きな国との婚儀を行っている。
 そう小国であるため、国が減ると道が減る。

 そんな所に降って湧いた獲物。
 話しを聞けば聞くほど超大国。

 だが、知り合いでもあり関わりもある。
 とまあ考えていたこちらだが、カグラ達もこの大陸に帰って来てから、色々と話はしたのである。

「ヒモロギの母親は、精霊族と言って千年は生きる長命種。普通の人とは違う」
「あーそれでかなぁ。カグラもそっち系じゃないの」
 考えていないようで、ディアナが核心を突く。

「言われてみれば、お若いまま。ずるいですわ」
 そう言ったヴァイオレットは、少し考えて答えに行き着く。
「だから御子ができないんだ……」
「えっ? 頑張ればできるんじゃない?」
 そう言いながら、ディアナが十年分やると言って、脱ぎだしたのでうやむやとなった。

 そう、それだけやっても、できなかった。
 ただ、いつかディアナが言ったように、いただくと滋養強壮に優れて体の調子が良くなるのは確か。気持ちも良いしまあ良いかと、二人は相変わらず張り付いている。

 その後お話し合いで、王族にも入ったし。
 まあ。

 だから別に、他の嫁をこちらの大陸で増やす気は無いのだ。

 それに、今まで会った人が、特段変だっと言うのもあるのだが。

 そんな事を言っている間に、なぜか、傘下へ入る調印が行われていく。

 そう、娘はよく分からなかったようだが、カグラの興味の無さに親達は気がついた。
 そして最善手。これが神の導きによる。この一手を決める時だと思い。願い出た。
「我が国も傘下へ入ります。末永くよろしくお願いいたします」
 そう国ごとカグラの元へ納まった。

 そしてその事が、国中へ触れられると喜びが起こった。
 そうカグラは、伝説となっていた。

 ふらっと現れて、紙や磁器。衛生環境を整えて消えた人間。
 その時からこの国は、他の国から名を知られるようになっていたのだ。
 あの三つの商店は、本店の形はカグラが帰ってきたときに分からないと困ると変更をしていないのだが、馬鹿でかい支店は建ち大店となっていた。
 まあ商品が馬鹿売れで、十年も経てばそうなるだろう。
 大国の端イーデン王国にまで、商品は広がっていたようだし。

 そうして発表は好意的に受け入れられた。
 
「どうして皆カグラ様を知っているの?」
 俄然興味が湧いて、気になりだしたにわかファンが一人。
 柱の角から覗いていた。
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