神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー　異世界、世直し道中記　ー

久遠　れんり

文字の大きさ

大中小

112 / 117

魔神討伐

第111話　復活の日

しおりを挟む

「えらい目にあったわ」
　彼等は疲れていた。
　適当に逃げてきた土地。だがこの地の空気には、瘴気が含まれており心地が良い。
　
「ここは良いな。力がみなぎる」
　彼等は無邪気に喜ぶ。

　そう。だが、彼等の体自体が瘴気のかたまりのような物。
　その高濃度の瘴気が、この地に眠るラスボス。
　魔神を刺激する。

「ぬっ。餌が来たのか」
　地上に、魔がはびこるときが、目覚めの頃合い。
　彼等悪魔は、魔神に朝ご飯だと認識をされたようだ。

　やっといやな光から逃げてきたのに、その日魔大陸に激震が起こる。
　大陸全体に直下型地震でも発生をしたような揺れ。
　大陸の一部が割れて、封じられていた男？　が復活をした。

　長い髪をたらし、裂け目から這い上がってくる。
　その姿は、某呪いのビデオに出てくるお方のようだった。
　彼はゴキゴキと、なまった体を慣らしていく。
　
　適当に近場の集落へと行くと、住民を襲う。
　地震で彼等はパニック状態だった。それなのに、それ以上の厄災が襲ってきた。

「そこの奴。裸でどうしたんだ。水浴びでもしていたのか？　ほらこれで良いなら着ろよ」
　農民が出してくれた服。

　そう彼は、単なる良心で出したのではない。
　嫁さんが、「わあすごい」などと少し嬉しそうな声を出したからだ。
　そう彼の髪は長く、ボサボサだったが、超美形で雄々しく立ち上がった何者かがその存在感を示していた。

　そう農民の男達は敗北を悟り、嫁や娘からそれを隠すために服を彼に与えた。
　それをどう感じたのか、彼は少しぼうっーとしていたのだが、その村は奇跡的に被害を免れた。

　それから彼は、まっすぐに海岸へと向かう。
　そうこちら側へきて受肉をした悪魔達。
　彼等は餌として認識されるという不運。
　この魔大陸に生息をしている全種族の中で、飛び抜けて美味そうな匂いでもしていたのだろうか？

　
　カグラの聖なる光から逃げてきた彼等は、肉体を維持するために近くの村を襲った。
　そう文字通り蹂躙。
　奪い犯し喰らう。
　元々悪魔なので倫理観は薄い。
　
　そんな所に魔神さんが登場。
　この世界において最も悪い者が、その村へ救世主として現れた。

「ぬわあぁ」
　アグラット達は調子に乗り、村人を犯しながら泣きわめく様子を楽しんでいた。

　その時、ふと凶悪なほどの魔力を感じた気がした。
　それは一瞬。
　風のような物が吹き荒れる。
　受肉をしていた体が、ズレた。
「はれっ？　なんら？」
　生体活動が止まり、一瞬だけ意識が飛ぶ。
　だが悪魔達は基本精神体であるため、すぐに復活をする。
　つもりだった……

　依り代を探して、精神体でうろつき始めるが、その意思に反して、体が引き寄せられる。
　そうその男が掲げた手に向かって……
「うわっ。なんだこれ」
　ジタバタとするが引かれる。
　不可視にしたり色々するが、簡単にアグラットが捕まる。
　そして、躍り食いをされてしまう。

「ぎゃあー。たすけろぉ」
　悲痛な念波が皆に聞こえる。

「あれは？　アグラットが食われているのか？」
　蹂躙の手が止まり、やっと皆の目が一人の男を見つめる。

　そうその目を見た瞬間、彼等はその男に惹かれる。
　何だあいつは？
　波長が違うので悪魔の同士ではない。
　だがものすごく魅力で、そう彼のことが欲しくなる。

　それは悪魔ホイホイ。
　目を見た者達は魅入られてしまった。

　そんな中で、上位の者達はその誘惑を断ち切り、攻撃をしかけていく。

　だが彼等の使う闇属性の魔力はことごとく彼に無効化をされてしまう。

「あああっ畜生。誰か透けてくれぇ」
　悪魔達の叫びが聞こえ始めた頃、カグラ達は……

「あー浄化」
　何もなくなり、土は焼け。石化をしていた。
　一帯はまるで噴火後のようである。

　
「カグラ殿、これからどうされます？」
　聞いてきたのは、ユーリ＝カウペルス伯爵。
　彼等自身自分たちの領地は蹂躙されて、どうしようもなかった。
「できればこのまま、王都へ向けて移動をお願いしたいのですが」
　そう言われて、周りを見回す。

「他国の軍が入り込むのは良くないんじゃないか？」
　そんな今更な事を言い始める。

　伯爵は、やれやれと首を振る。
「私がお願いして他国の軍を頼ったといたします。何かを言われましたら責任を持ちます」
　そうお願いをされて、カグラも覚悟を決める。
　モナリチア王国内部へ向けて進み始めたとき、カグラ以外は、この国も傘下に入るのねと感じて、ヴァイオレットたちは条約の文章を作り始める。
　
　カグラの奇蹟によって、ほとんどの死人達は浄化をされていたのだが、地下にでも潜んでいたのか途中でまだ、生き残って？　行動をしていたゾンビと軍が戦っていたのを助ける。
　侯爵家エドアルト＝ヴォルコは彼に礼を言った後、どこかで見たことがあるとふと思うのだが思い出せなかった。

　その近く。
　侯爵家の屋敷では、旧姓マリアンティーヌ＝クヮールがアンニュイな感じで外を眺めていた。そう彼女は、　王都ヴァハマーのギルドでマリレーナと名乗っていた女の子である。生まれた子どもが、いまは実家を守っている。無論知り合いが摂政となって政を行っている。
　遠くの街道で、土煙を上げて疾走する集団がまさかカグラの物だとは想像もしなかった。
　そしてその事を後日、風の噂で知り、また彼女はカグラの手を、ギリギリで取ることができなかった、

しおりを挟む