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第1話 導かれた二人
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「行楽の秋です。観光地では円が安いためか、インバウンドの外国人があふれています。きゃあ」
「おー、キュートガール。かわいいですねぇ」
外国人の男性が、突然アナウンサーへと背後から飛びつき、腰を振り始める。
撮影をしている最中に、背後から抱きつかれたアナウンサーは本気で驚く。
彼らは当然エキストラ。
現場は、観光地近くの廃墟で、狙ったとおりだが撮影中は流石にまずい。
「おいカメラ、景色撮れ、音声切れ。おいバイトだろ、しつけとけよ」
ディレクターは振り返り、スタッフに怒鳴る。
現場には、十名ほどの外国人が、原宿辺りで声をかけられて連れてこられていた。
「すみません。おい君達、アナウンサーに絡むな。もう落書きは出来たのか?」
「落書きじゃ無い、アートだ。俺はBanksyを尊敬している。それより、あのキュートガールだ、今晩使って良いんだろ?」
「―― それは、後で交渉しろ」
現場は鄙びた温泉地。
数軒しかない温泉宿がスポンサーとなり、番組協賛となっている。
つまり案件番組だ。
だが今回、温泉はおまけで、実は廃墟巡りと昨今の不景気で、廃墟となった建物が周囲の環境に悪影響だと言いふらすという番組。
過去にどこかで起きた事件を、さもここで起きたと言う体として、夜間には女子アナウンサーやお色気担当ゲストが、廃墟の中でキャアキャア言う。
そう、普通の温泉紹介番組は、秋の初めに撮った。
紅葉がまだ始まって無くって、別の山の画を差しこんだ。
これまた崖の中腹にある洞穴で湧く温泉。そこは混浴で子宝の湯。そこにお色気担当さんが入浴。
アルカリ泉で非常にヌルヌルしていると紹介をしながら、湯船の中で滑って転ぶ。
そして宿から、豪華な料理。
当然普段なら、そんな料理など出ない。
人の減った温泉街としては、期待を込めての番組だったが、予算の都合なのか一本目は良いが二本目は微妙な事になる。
物騒な廃墟が近くにある温泉と紹介されて、誰が来るのか……
「―― へー良いかも」
テレビを見ながら、そんな感想を口にする。
彼女は年末を自宅では無く、カラオケ屋や漫喫を流れ歩き、そして、多目的レンタルブースへと流れ着いた。
ここは椅子では無く、ベッド状の寝転がれるスペースがあった。
そのため、周囲から妙な音、いやくぐもったような抑えた声がするが、ご愛敬だ。
どうして、こんな所を点々としているのか。
それは、職場での他愛ない会話から始まった。
三十を過ぎた既婚者は語る。
「この年で、保育園の運動会とか、行事が多くてつらいわ。子育てはお金がなくとも若いうちが正義ね」
そうぼやく彼女は、お疲れのようだ。
産休から復活をして、いまはシフトが日勤のみという事で来ている。
「旦那さんは?」
「いやそれがさ……」
旦那さんは、保育園の小さなグランドで行われたかけっこで、娘の声援に応えようと張り切り、手を振りながらすっ転んで手を折ったらしい。
「子どもが言うのよ、お父さん頑張れって」
「ああ、それに応えたと」
うんうんと頷く。
「まあ、それは良いんだけどさ、右手を折ったじゃない」
「うんうん」
「すると色々が出来にくいから、手伝わされるのよ」
「あーご飯とか? 新婚気分であーんとかするの? いいわねえ」
「いや、それだけなら良いんだけど、下の……」
彼女の声が小声になると、皆の輪が小さくなり、曝露される。
「ほら、生理中とか…… 男の人って三日くらいで溜まるらしいのよ。それで、自分の手でしていたらしいんだけど、出来ないからって…… その、咥えろって、私、あれ不得意なんだよね」
「えっそうなの? 私好き。後味が苦くて、白子みたいで美味しいよ。風俗に行かれるとか嫌じゃん」
「えー、飲むの? 変態じゃん」
まあそんな話があると、彼氏も欲しくなるのよ。
今二十四才。
結婚して子どもは急がなくとも…… 高校時代からフリーだもの。エッチなどしたこと無い。だけど看護師という仕事柄もあって知識だけは増えた。
それでまあ、マッチング系のアプリに登録をして、なぜかあっというまに借金を一千万円背負ってしまった……
―― それは一本の電話から始まった。
「ちっ、やかましいな。誰も居ねえのか」
下で、電話が鳴っている。
ドアを開けて、俺は巣から廊下へと出る。
「晩飯がねえ。ついに見捨てられたか……」
いま、夜八時。
いつもなら、おかんの声と共に、夜七時にはトレイにのった食事がドア前に置かれる。
こうなってから…… もう十年。
いつ見捨てられるかもと、ずっと思っていた。それは…… もうずっと前からだ……
この部屋に引きこもったのは、高校二年の時に起こった、ある事件が切っ掛け。
それ以降、周囲の目は俺を性犯罪者として、キツい目で見てきた。
それはある女が、金を欲しさに、俺を誘った詐欺。
それを疑いもせずに、純真だった俺は見事に引っかかった。
むしり取られた慰謝料…… 当然親がだが、学校は退学になり噂となった。近所を歩けば後ろ指、冷たい目線。それから逃れるために、俺は、部屋へと引きこもった。
数週間後、スマホの番号は変えたが、友人からのメッセージアプリケーションで、彼女の狂言という事がバレたと連絡が来た……
妊娠をして、俺からの慰謝料を中絶費用としたらしい。
だがそれからも、本人達の謝罪も無く学校は退学になったまま。被害者の俺に対する救済は一個も無かった。
親も何も言わないから、親はその事実を知らないのだろう。
親父は、結構大きな会社に務め、管理職だからなのか、俺はいないものとされた。
そこから年数が経ち、いつ見捨てられるかと思いながらも、部屋に籠もっていた。
下で鳴っていたしつこい電話が、二度目の留守番電話となった後。音が消える。すると今度は、あの時に番号を変えた後、海外の国番号から掛かる詐欺以外、一度も鳴った事の無かった携帯が鳴る。
通知には、市外局番と一一〇の文字。
当然だが、怖々でる。
「はい。冬野です」
「ああよかった。こちら警察です。冬野 和彦さんの息子さんですか?」
「はい。和彦は父です」
「申し上げにくいのですが、落ち着いて聞いてください。ご両親が事故に遭いまして……」
事故の詳細や亡くなった場所、状況について説明を受けると、俺は言われた病院へと向かう。
その後、テレビを見ていて、近くに遺跡のような廃墟がある、鄙びた温泉へ行きたくなり、先ずは車の免許を取りにいった。
「おー、キュートガール。かわいいですねぇ」
外国人の男性が、突然アナウンサーへと背後から飛びつき、腰を振り始める。
撮影をしている最中に、背後から抱きつかれたアナウンサーは本気で驚く。
彼らは当然エキストラ。
現場は、観光地近くの廃墟で、狙ったとおりだが撮影中は流石にまずい。
「おいカメラ、景色撮れ、音声切れ。おいバイトだろ、しつけとけよ」
ディレクターは振り返り、スタッフに怒鳴る。
現場には、十名ほどの外国人が、原宿辺りで声をかけられて連れてこられていた。
「すみません。おい君達、アナウンサーに絡むな。もう落書きは出来たのか?」
「落書きじゃ無い、アートだ。俺はBanksyを尊敬している。それより、あのキュートガールだ、今晩使って良いんだろ?」
「―― それは、後で交渉しろ」
現場は鄙びた温泉地。
数軒しかない温泉宿がスポンサーとなり、番組協賛となっている。
つまり案件番組だ。
だが今回、温泉はおまけで、実は廃墟巡りと昨今の不景気で、廃墟となった建物が周囲の環境に悪影響だと言いふらすという番組。
過去にどこかで起きた事件を、さもここで起きたと言う体として、夜間には女子アナウンサーやお色気担当ゲストが、廃墟の中でキャアキャア言う。
そう、普通の温泉紹介番組は、秋の初めに撮った。
紅葉がまだ始まって無くって、別の山の画を差しこんだ。
これまた崖の中腹にある洞穴で湧く温泉。そこは混浴で子宝の湯。そこにお色気担当さんが入浴。
アルカリ泉で非常にヌルヌルしていると紹介をしながら、湯船の中で滑って転ぶ。
そして宿から、豪華な料理。
当然普段なら、そんな料理など出ない。
人の減った温泉街としては、期待を込めての番組だったが、予算の都合なのか一本目は良いが二本目は微妙な事になる。
物騒な廃墟が近くにある温泉と紹介されて、誰が来るのか……
「―― へー良いかも」
テレビを見ながら、そんな感想を口にする。
彼女は年末を自宅では無く、カラオケ屋や漫喫を流れ歩き、そして、多目的レンタルブースへと流れ着いた。
ここは椅子では無く、ベッド状の寝転がれるスペースがあった。
そのため、周囲から妙な音、いやくぐもったような抑えた声がするが、ご愛敬だ。
どうして、こんな所を点々としているのか。
それは、職場での他愛ない会話から始まった。
三十を過ぎた既婚者は語る。
「この年で、保育園の運動会とか、行事が多くてつらいわ。子育てはお金がなくとも若いうちが正義ね」
そうぼやく彼女は、お疲れのようだ。
産休から復活をして、いまはシフトが日勤のみという事で来ている。
「旦那さんは?」
「いやそれがさ……」
旦那さんは、保育園の小さなグランドで行われたかけっこで、娘の声援に応えようと張り切り、手を振りながらすっ転んで手を折ったらしい。
「子どもが言うのよ、お父さん頑張れって」
「ああ、それに応えたと」
うんうんと頷く。
「まあ、それは良いんだけどさ、右手を折ったじゃない」
「うんうん」
「すると色々が出来にくいから、手伝わされるのよ」
「あーご飯とか? 新婚気分であーんとかするの? いいわねえ」
「いや、それだけなら良いんだけど、下の……」
彼女の声が小声になると、皆の輪が小さくなり、曝露される。
「ほら、生理中とか…… 男の人って三日くらいで溜まるらしいのよ。それで、自分の手でしていたらしいんだけど、出来ないからって…… その、咥えろって、私、あれ不得意なんだよね」
「えっそうなの? 私好き。後味が苦くて、白子みたいで美味しいよ。風俗に行かれるとか嫌じゃん」
「えー、飲むの? 変態じゃん」
まあそんな話があると、彼氏も欲しくなるのよ。
今二十四才。
結婚して子どもは急がなくとも…… 高校時代からフリーだもの。エッチなどしたこと無い。だけど看護師という仕事柄もあって知識だけは増えた。
それでまあ、マッチング系のアプリに登録をして、なぜかあっというまに借金を一千万円背負ってしまった……
―― それは一本の電話から始まった。
「ちっ、やかましいな。誰も居ねえのか」
下で、電話が鳴っている。
ドアを開けて、俺は巣から廊下へと出る。
「晩飯がねえ。ついに見捨てられたか……」
いま、夜八時。
いつもなら、おかんの声と共に、夜七時にはトレイにのった食事がドア前に置かれる。
こうなってから…… もう十年。
いつ見捨てられるかもと、ずっと思っていた。それは…… もうずっと前からだ……
この部屋に引きこもったのは、高校二年の時に起こった、ある事件が切っ掛け。
それ以降、周囲の目は俺を性犯罪者として、キツい目で見てきた。
それはある女が、金を欲しさに、俺を誘った詐欺。
それを疑いもせずに、純真だった俺は見事に引っかかった。
むしり取られた慰謝料…… 当然親がだが、学校は退学になり噂となった。近所を歩けば後ろ指、冷たい目線。それから逃れるために、俺は、部屋へと引きこもった。
数週間後、スマホの番号は変えたが、友人からのメッセージアプリケーションで、彼女の狂言という事がバレたと連絡が来た……
妊娠をして、俺からの慰謝料を中絶費用としたらしい。
だがそれからも、本人達の謝罪も無く学校は退学になったまま。被害者の俺に対する救済は一個も無かった。
親も何も言わないから、親はその事実を知らないのだろう。
親父は、結構大きな会社に務め、管理職だからなのか、俺はいないものとされた。
そこから年数が経ち、いつ見捨てられるかと思いながらも、部屋に籠もっていた。
下で鳴っていたしつこい電話が、二度目の留守番電話となった後。音が消える。すると今度は、あの時に番号を変えた後、海外の国番号から掛かる詐欺以外、一度も鳴った事の無かった携帯が鳴る。
通知には、市外局番と一一〇の文字。
当然だが、怖々でる。
「はい。冬野です」
「ああよかった。こちら警察です。冬野 和彦さんの息子さんですか?」
「はい。和彦は父です」
「申し上げにくいのですが、落ち着いて聞いてください。ご両親が事故に遭いまして……」
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