新しい年、新しい自分、変わる切っ掛けは…… 一つの出逢い

久遠 れんり

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第11話 初めてのドライブ

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 親父さんは、どや顔である車を見せてくる。

「一五〇〇じゃなく、GRは一六〇〇だ。一〇〇㏄の違いだが大きいぞ」
 俺はゲームをしていたし、車には興味を持っているので、そこそこ詳しい。

「これって、かなりいじっていますよね」
「おお判るか、カリカリだ」
 彼は嬉しそうに語る、サブコンがどうとかLSDが入っているから、脱輪しても空回りをしないから、脱出られるとか…… どう考えても、初心者向けじゃない。

「―― 運転に慣れていないし、軽自動車で」
「ああん? 軽だぁ?」
 そう言ってすごまれる。

 だが、次の瞬間、土下座の勢い。
「金があるなら買ってくれ、試乗用に仕入れてから、かみさんの機嫌が悪いんだ。調子に乗っていじったから経費が一千万近いんだよぉ」
 そう言って泣き付いてくる。

 だが俺にそんな事情は、関係ねえ。
「それは大変ですね、軽自動車を」
 ビジネスライクにそう伝えると、滝のように流れていた涙がピタッと止まる。

「ちっ、こっちだ……」
 そこに在ったのは、小さな車。
 だけど、なぜか後部座席にでっかいエンジンが乗っている。
 そして、ロールゲージというパイプが張り巡らされて、シートも一度座るとでられないようなホールド性を持っていた。

「普通の奴をください。これどう見ても怪しいです」
「こいつは、バイクのエンジンを搭載して、百八十馬力だぞ、きちんとバックも出来る」
「公道を走れるのが良いんです。競技用じゃなく」
 そう言うと、むーという感じで案内される。

「我が儘な奴だな。これはどうだ、魅惑のベンチシート。運転中にも、お姉ちゃんにちょっかいを出せる」
 言い方はあれだが、コンパクトで良い感じ。
 だが、不安になりボンネットを開ける。
 そこにはピカピカなパイプ達。
 吸排気系がすごくうねっていて、カタツムリがいた。
 そうターボ。

「すみません、普通の奴を」
「こいつは、百二十馬力まで」
 語り始めそうなので、ぶった切る。

「普通のを」
 結局、普通の純正ターボモデルの四駆。
 最近多い、トールタイプに落ち着いた。
 印鑑証明とか車庫証明とか色々そろえると、一週間くらいで乗れるらしい。

 ベンチシートだし、まあ。

 連絡があって、取りに行く。
 すると、妙に車高が下がり、ホイールが換わっている?
「何かいじりましたね?」
「にゃにも……」
 一見まともに見える。だがグローブボックス内に、謎のスイッチと箱。
 足は車高調のショックと強化スプリング。
 アッパー部はゴム製から、調整式のマウントへ変更、そして太いタワーバー……

 おやっさんをじっと見る。
「スクランブル…… オーバーブーストは三十秒までだ」
 そう言って、笑顔でサムズアップ。

「いや、そんなの頼んでないし」
「ばかやろう、純正は規制されてかわいそうなんだ。それを解き放ってやるのが人と言うものだろう」
 そんな訳の分からない事を言い始めたので諦めた。

 まあ、おまけだと思えば、新車のように磨き込まれてはいたし、ガチガチだった足回りは、背の高い車特有の横揺れがでず、だが段差での突き上げが厳しいので、乗りやすい所で調整をした。
 そして、言うだけあって、キビキビと走る。
 アクセルを抜くと、パシューンとか言うので、元に戻す。

 とにもかくにも、自分の車ができた。
 新品の初心者マークを貼り付けて、ワクワクしながら山のほうへ行っている。
 そう精神的に、大分復活したとは言え、やはり人が多い所は避けてしまう。

 峠には意外と景色の良い所とかに、ぽつんと良い雰囲気の喫茶店とかがあるものだ。
 ただ、雰囲気だけという所も多いが。

 造りはログハウス。カウンターとテーブルが三席。近所の人とかが、趣味でやっているような所。
 こんな所でもレビューがあり、雰囲気良いのオンパレード、当然星は二つ。

 基本、軽食は冷凍、コーヒーはドリップしているようだが……
 そうコーヒーと、冷凍ピザを注文をしてしまった男が一人……
 サンドイッチなら、冷凍じゃなかったようだ。
 レビューは、きちんと読むべきだな。

「まあ、初めてで、無事に此処まで来られたんだ」
 景色を見ながら、ぼーっと雰囲気に酔っていると、奥に座っていたカップルが喧嘩を始める。

「あの女と、まだ切れていなかったのね。信じられない」
 彼女さんはご機嫌斜め、随分お怒りのようだ。

「悪いな、あいつのほうが金稼ぎが良いんだ」
 男は後頭部しか見えないが、きっと悪い顔だろう。

「私だって、体まで……」
 そう言いかけて口を噤む。

 天気のいい山の上、そこそこのコーヒーと、どう味わっても冷凍ピザが台無しだ。
 だけど、そんな所に口を挟むようなことはしない。
 そう俺は意外と根性無し。
 孤独に生きて来たんだ。
 仕方が無いだろう。

「ふざけないで」
 そう言って、お冷やをバシャーっと……
 リアルで初めて見た。

「よし良いだろう。別れてやる」
 男は取り乱すことなく言い放った。

「ふざけないで、それならお金を返してよ」
「ああっ? あれは生活費だ。共有財産だよ」
 そう言って男は出て行く。

 だが、横を通り過ぎるその横顔…… ふと、阿久井じゃないかと思ったが、人違いだと困る。
 それにさっき彼女は、霧掛きりかけではなく、れんと呼んでいた。

 呆然と見送っていた彼女だが、ハット我に返る。
 追いかけるが、呼び止められる。
「お嬢ちゃん、帰るならお代」
 テーブルの上に置かれたレシート。

「ちょっと待って、すぐ戻るから」
 そう言い残して、出て行く。

 なぜか、店長は俺を見るが知らんぞ。

 そして、彼女はすぐに帰ってきた。
 土埃で、膝小僧から血を流して……
「大丈夫かそれ?」
 つい声をかけてしまった。

「ああ、ありがと。痛いわ」
「だろうな。マスター救急箱とかないのか?」
 声をかけると、マスターがカウンターから顔を出して一言。

「あるよ」
 いやな予感と、何か流行なのかと考えてしまう。
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