新しい年、新しい自分、変わる切っ掛けは…… 一つの出逢い

久遠 れんり

文字の大きさ
10 / 29

第10話 何とかする

しおりを挟む
 考える。

 この年で無職。
 奈木にも笑われた。
「お仕事しないと駄目だよ。つまんないでしょ」
 つまるとか、つまらないとか言う話でもないような気がするが……

 ちらっと、検索をする。
「えーと、中卒……」
 警備員、配管工、料理人、トラック運転手……
「えっ、こんだけ?」
 時期にもよるのだろうが、非常に少なかった。

「なんか無いのかよ」
 アルバイト募集、運転手。
 一回、二十万円から三十万円。
 ただし、歩合制。上記金額は保証するものではありません。

「これって、怪しいだろう。何を運ぶんだよ」
 そうして数日、広大なネットの海を徘徊する。

 資産を増やすなら、資産運用。
 資産運用ならネエサ。新しくなりました。
 イッテコイなら、今だけ節税にもなります。
 満期時にがっぽり取れる、未来の税金のために、さあ今、投資を始めましょう。
 損失は自己責任で……

「なんだこれ?」
 ちょいちょいと見かける証券会社の広告。

 調べていると、ファイヤーとか、トレーダーの文字。
 『私はこれで会社を辞めました。自宅で対人ストレスなく、がっぽりと稼げます。素人でも大丈夫。詳しくはリンク先、先ずはセミナー申し込みをクリック』

 株やFX、金や債権不動産。
「へえ、トレーダーなら学歴も関係なし、家で出来るしなんか格好いい。金も増える。良いかも」
 そう、今はパソコン一つで売買が出来る。

 口座開設を申し込めば良いだけ。
 ただ、スマホが高校の時から更新されておらず、使えねえ……

 一月前に比べると、出歩くのにも大分慣れた。
 『人の目? 自分は自分だし気にしなきゃ良いんだよ』
 そう言って彼女は笑った。

 あの状況はもう無い、誰も俺を気にしていない。彼は自身にそう言い聞かせて外に出る。

 親の事故で、警官に呼ばれたときと違って、ジャージではなく、通販で買ったきちんとした服。
 恥ずかしくはない。

 そう親が死んだとき、着られた服、と言うかサイズの合う服はパジャマとジャージのみだった。
 高校二年から後、寝て過ごしたせいか、身長は十センチ近く伸びた。

 靴も底が崩れてボロボロで、サンダルを履いて出た。
 あの時の視線は、憎悪ではなく、かわいそうな目…… 哀れみをビンビンに感じた。
 まあ警官とかは、あわてて来たのだろうという感じで見てくれたが、市役所にいた一般人は何あれ状態だった。

 まあいい、昔買った記憶のあるショップへ向かう……
 時代の流れか、そこは、ものすごくファンシーな小物屋さんになっていた。
 ええい、電気屋だ。

 大手電気屋にコーナーはあったが、ものすごくやる気がない。
 適当なものを選んで買ってくる。
 ただ帰る時に言われた。
「機種変更とかは、キャリアのホームページでするとお得ですよ。データの移行後に返送するだけですし」
 そう、中に入っているデータ移行をしてくれなかったし、今は有料らしい。

 それもあって、引き取り額の低い、古い方もポケットの中にある。
 楽しかった頃の、ダチとの写真とか……
 一応あるんだよ。

 その足で、大きな車屋へ向かい入ってみる。
「いらっ車いませ」
 妙なアクセントのお兄ちゃんが出てきた。

「車をくれ、免許はある」
 取り出したのは緑帯の免許証。

 それを見て困惑顔。
 気を取り直したようで、再起動をする。
「ご希望の車種とかございますか?」
「いや得には決めていないが、あまり大きくない方が良い。まだ慣れていないんで」
「そうでございますね、ご予算はおいくらくらいでしょうか?」
 彼の顔が和やかだったのは、この辺りまでだった。

 話が進み、なんとなく買おうかと思っていたハイブリッド車。排気量一五〇〇ccクラス。
 最低限の衝突安全性能と、燃費、そして小型。
 先進電子装備。

 そしてだあの顔がやって来た。
「お客様、お仕事は何をなさっておられます? 年収とかを確認出来る源泉徴収票とかお持ちですか?」
「いや会社員じゃ無い、無職だ」
 そうその時はまだ、証券口座も申請中だった。
 素直に、無職と言ってしまった。

 そしてだ、乗り出しといった頃から、気乗りをしない顔になって来た。
 そう新車は、注文後数ヶ月から数年かかるもの。
 俺はすぐに欲しい、そして無職。
 服は通販もので、全身で一万円を少し超えるくらい。

 二十七歳……
 販売員からすると、最底辺の客かもしれない。
 そして、嫌な顔は一瞬で消え、今度は能面となった顔で語り出す。

「街道沿いに、中古車屋さんがあるんです。ご存じですか?」
 あっちの方という感じで指を指す。

「あの、大きい所?」
「ええ、あそこなら…… そうですね、今なら、かなりの無理も通るのじゃないかと思います」
「今なら?」
 おっと、やべという感じで口元を隠す。

「ええまあ、今必死でしょうから…… それに、初心者の方は中古車で練習をして頂いた方が良いですよ。ぶつけると、簡単に修理代が五十万円とか百万円とか掛かりますから…… は、任意保険を必ずかけてくださいね。最近は賠償額がすぐ一億とか行きますので」
 きっと心の声だったのだろう。貧乏人というワードを言いやがった。
 態度の変わった理由が納得出来た。
 無職か……

「そんなにするのか?」
「ええ、まあ」

 店を出るとき、またけっ貧乏人という声が小さく聞こえた。
 もう絶対ここには来ないと決心をする。
 それか、他社の高い車を横付けして冷やかしに来るか?

 そんな事を思いながら、何かと話題の車屋へと足を運ぶが、周囲を囲まれ、店員の必死さが怖くて逃げてしまった。
 確かに、乗り出してから、後日登録変更を行いますとか、代車にドイツ製の高級車をお出ししますとか色々提案をされたが、怖い。
 返すときにぶつけましたね、修理代は幾らですと言われる危険性がありそうだ。

 そしていくつか並ぶ車屋の、一つ、少し規模は小さいがここも整備工場併設のようだ。
「すみません、すぐに乗り出しが出来る車ってありますか?」
 車を洗っていっていたおっさんは、顔を上げ、俺を見るとにやりとニヒルな顔で笑い、ゆっくりと言った。

「あるよ」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

元婚約者が修道院送りになった令嬢を呼び戻すとき

岡暁舟
恋愛
「もう一度やり直そう」 そんなに上手くいくのでしょうか???

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...