19 / 118
第三章 リギュウムディ修復
第19話 めぐりあい海
しおりを挟む
「あれ? 美葉ちゃんじゃない。元気?」
望とよく遊んでいた、近所の女の子。
「えと、あれ? おじさん。釣りですか?」
「ああ。いつもの趣味さ」
「お久しぶりです。今何が釣れますか?」
「春だから、何でも。乗っ込みの走りだが、ぼつぼつ。もう少ししたらチヌとか鯛が上がってくる」
へーという感じで、スカリと呼ばれる、魚を生かすために海へ放り込んでいる網を覗き込む。美葉ちゃん、スカートが短いし、お尻も良い感じになっておじさんドキドキするよ。クーラーに座っていると、丁度目の前なんだよね。不可抗力だ。
「アジの刺身を食うか? 釣りたて、捌きたてだよ」
くるっと振り返る。短めのフレアスカートが翻る。
「あー、一口だけ」
「ほらよ」
紙皿へ数きれ放り込み、割箸も付けて渡す。醤油は共有だ。
「あーおいしい、結構脂がのっていますね」
「釣れる旬とは違うけどな。アジは夏の初めだな」
「そうでしたっけ? 昔はよくきたけどなぁ」
そう言って、彼女は春先の海面をぼーっとながめる。
「そうだな。最近釣りはしないのか?」
「どうしても、レディだし。トイレが近くにないと。それにあれ? 誘ってくれなくて?」
そう言ったまま、言葉が止まる。
そうか、この子も普通だから忘れたか。
「そうだな、もう立派なレディだな」
そう言って、にこやかに返す。
「あっうん。ねえ。おじさんと、結構釣りとかキャンプとか、行きましたよね」
「そうだね。最後が、中学校の二年生くらいか?」
「あーうん。でも今思えば、どうして? うちのお父さん、釣りもキャンプも嫌いなんですよね。虫が嫌とか言って」
「家は近いけれど、それで娘を預けます?」
そう言って、変な顔をする。
「聞いていないの?」
「聞きました。私がごねたって、どうしても一緒に行くって」
「なら、そう言う事なんだろう」
そう言って、ニコッと返す。
「この半年、なんだかおかしいんです。何かがなくなったというか、抜けた気がして、喪失感ていうのかな?」
そう言って、悲しそうな顔をして首をひねる。
「おっ、ナマイキに失恋かい? 振った奴を呼んできな。おじさんが三枚におろしてやろう」
「なっこわ。振ったのは私です」
笑いながら返してくれる。
「知っているかい? 死体はね、上がらなければ殺人じゃないんだ」
にやっと笑い、意地悪をいう。
「おじさん、プログラマーですよね」
ジト目頂きました。
「よく覚えていたな。WEB系の軽い奴な」
「はあっ。その軽いノリ。落ち着く。うちはお父さんもお母さんもグチグチとまあ。女なんだからとか、女だからとかまあ、色々と」
「親だからね。心配をしているんだよ。おじさんはほら、他人だから責任ないし」
「ひどっ。そうですかねぇ」
そう言って、刺身を口に放り込む。もぐもぐとしながら、まぶしそうに海を眺めるが、その横顔は寂しそうだ。彼女は、訳の分からない喪失感に困惑しているのだろう。
「お茶いるかい。水筒だから、おじさんと間接キスだけど」
そう言うと、何かを思い出したように、にへらと笑う彼女。
「今更でしょ。昔は、カップラーメンの回し食いとかしたし」
「はっはっ。良い子だ。はいよ、まだ熱いよ」
そう言って、水筒の蓋を手渡す。
「はい」
海を見つめてお茶を飲む彼女。
目の端で、短いスカートが翻る。
ほっとけば良いが、それもしたくないな。
「美葉ちゃん。寂しいかい?」
そう聞いたら、何言ってんのこいつ? そんな顔。
「はい?」
「今、喪失感があって、さみしいのだろ」
そう言われて、思いだしたように、顔が曇る。
「喪失感。あーやっぱり喪失感ですかね。何かこう理由は分からないけれど、何かぽっかりと、なくなった感じがして」
やれやれ、我が息子ながら、望め罪な男だな。
「会いに行っても良いが、もっと辛くなるかもしれないけれど」
確信はないが、なんとなく向こうに居るような気がするんだよな。
「この気持ち、何とかなるんですか? そもそも、おじさんが原因を知っている? 私が寝てる間とかに何かしました?」
そう言って、詰め寄られて、襟元を掴まれる。
ペロッと、間近にきた鼻の頭を舐める。
「ひゃあぁ」
そう言って、彼女は後ろへ下がる。
「おっと落ちるぞ」
手を掴む。
「おばさんに言いつけますよ」
鼻先を、そでで拭いながら、またジト目を貰う。
「冷たいな。君と僕の仲じゃないか?」
「ええ? おじさんは…… あれ、なんで義父?」
昔あっけらかんと言っていた、望君と結婚したら、おじさんはお父さんになるの? 望には結婚どうこうは、言ってなかったようだが、そんな事をこの子は言っていた。記憶に残っていたのか?
「昔は、言っていたねぇ。いつから言ってくれなくなったんだ?」
「えっあれ? どうして、いつから?」
頭を抱え悩み始める。
そして、彼女の頬を、涙が伝う。
「あれ、どうして? 涙が止まらない。ねえ、おじさんどうして?」
「来なさい、ハグしてあげよう」
困った顔で、こっちを真っ直ぐ見てくる。
「変なことしないでくださいね。本気でおばさんに言いますよ」
そう言っているが、上半身はこちらへ向かっている。
「大丈夫だよ。さあ僕の胸で泣きなさい。一回思いっきり泣いた方が良いんだ」
そうして、彼女は泣き続け、俺は通報された。
「うちの馬鹿旦那が、すみませんね」
「いえ、こちらこそ。親を頼らず、余所の旦那さんを頼るなんて。あっお魚ありがとうございました」
そうして、最寄りの警察署から、田倉さんのお母さんに彼女は連行された。
「あーまいった。誰だよ通報するなんて。やだね、ギスギスした世の中」
「彼女結構、影響を受けているの?」
呆れたような顔で、奥さんが聞いてくる。
「そうみたいだね。馬鹿息子のことを、本当に好きだったみたいだね。理に逆らって、記憶の残滓がある。辛いね。神に逆らい貫くピュアラブ。それともすでに身も心も捧げたか?」
「やーねえ。中年は。お・じ・さん」
奥さんが、にまにましなが言ってくる。
「やかましい、まだ四十三歳。ピチピチだよ」
「でっ。どうするの?」
ため息をつきながら聞いてくる。
少し思案をして、ぼそっと答える。
「行ってみようかなぁ」
少し奥さんは驚いたが、不安そうに聞いてくる。
「状態によっては、彼女もっと辛いか、帰ってこなくなるわよ」
やれやれという感じで、そんな、分かりきった忠告をしてくる。
「そうなったら、田倉さんには、悪いが。美葉ちゃんの事を忘れて貰おう」
笑いながら答える。
奥さんからのジト目を貰う。うん、年期が違う。さげすんだ感じが違う。ゾクゾクするよ。
「あなたねぇ。余所様の娘を」
「良いじゃ無いか、慕ってくれて居るみたいだし」
おおうっ。奥さんのこめかみに、ビシッと青筋が立つ。
「あなた本当に、手を出したりしていないわよね。ここは日本よ」
「出さないよ。今世では君一筋」
また、ため息。
「そう、なら良いけど。向こうかぁ、私も行こうかしら。久しぶりに自分の墓参りしないと、あそこ廃墟だからね」
シートを軽く倒して、伸びをする奥さん。
「そうだな。何年ぶりだろう。天音はどうする?」
聞かれて、予想外という感じ。少し驚いたようだ。
「まだ学校は始まっていないけれど、子どもにまで向こうと絡ませる必要は無いでしょ。精霊に目を付けられると、帰ってこられなくなるわよ。あの人達、常識が無いから」
「そうだな。何もかも懐かしい。プラネータ=デェ=ドムン。リギュウムディかぁ」
その晩、何故かずっと苦しかった、胸のつかえ? 重さが軽くなった気がする美葉。つい胸のサイズを確認する。
「なんだかおじさん。すべて知っている感じだった。変なの」
そうぼやきながら、布団へ入る。
胸は軽くなったが、寝ようとすると、山川 全一(ぜんいち)。おじさんのニヤけ顔がまぶたに浮かぶ。
「もう。いい加減にしてよ」
行き場のない怒りを、枕へぶつける美葉だった。
望とよく遊んでいた、近所の女の子。
「えと、あれ? おじさん。釣りですか?」
「ああ。いつもの趣味さ」
「お久しぶりです。今何が釣れますか?」
「春だから、何でも。乗っ込みの走りだが、ぼつぼつ。もう少ししたらチヌとか鯛が上がってくる」
へーという感じで、スカリと呼ばれる、魚を生かすために海へ放り込んでいる網を覗き込む。美葉ちゃん、スカートが短いし、お尻も良い感じになっておじさんドキドキするよ。クーラーに座っていると、丁度目の前なんだよね。不可抗力だ。
「アジの刺身を食うか? 釣りたて、捌きたてだよ」
くるっと振り返る。短めのフレアスカートが翻る。
「あー、一口だけ」
「ほらよ」
紙皿へ数きれ放り込み、割箸も付けて渡す。醤油は共有だ。
「あーおいしい、結構脂がのっていますね」
「釣れる旬とは違うけどな。アジは夏の初めだな」
「そうでしたっけ? 昔はよくきたけどなぁ」
そう言って、彼女は春先の海面をぼーっとながめる。
「そうだな。最近釣りはしないのか?」
「どうしても、レディだし。トイレが近くにないと。それにあれ? 誘ってくれなくて?」
そう言ったまま、言葉が止まる。
そうか、この子も普通だから忘れたか。
「そうだな、もう立派なレディだな」
そう言って、にこやかに返す。
「あっうん。ねえ。おじさんと、結構釣りとかキャンプとか、行きましたよね」
「そうだね。最後が、中学校の二年生くらいか?」
「あーうん。でも今思えば、どうして? うちのお父さん、釣りもキャンプも嫌いなんですよね。虫が嫌とか言って」
「家は近いけれど、それで娘を預けます?」
そう言って、変な顔をする。
「聞いていないの?」
「聞きました。私がごねたって、どうしても一緒に行くって」
「なら、そう言う事なんだろう」
そう言って、ニコッと返す。
「この半年、なんだかおかしいんです。何かがなくなったというか、抜けた気がして、喪失感ていうのかな?」
そう言って、悲しそうな顔をして首をひねる。
「おっ、ナマイキに失恋かい? 振った奴を呼んできな。おじさんが三枚におろしてやろう」
「なっこわ。振ったのは私です」
笑いながら返してくれる。
「知っているかい? 死体はね、上がらなければ殺人じゃないんだ」
にやっと笑い、意地悪をいう。
「おじさん、プログラマーですよね」
ジト目頂きました。
「よく覚えていたな。WEB系の軽い奴な」
「はあっ。その軽いノリ。落ち着く。うちはお父さんもお母さんもグチグチとまあ。女なんだからとか、女だからとかまあ、色々と」
「親だからね。心配をしているんだよ。おじさんはほら、他人だから責任ないし」
「ひどっ。そうですかねぇ」
そう言って、刺身を口に放り込む。もぐもぐとしながら、まぶしそうに海を眺めるが、その横顔は寂しそうだ。彼女は、訳の分からない喪失感に困惑しているのだろう。
「お茶いるかい。水筒だから、おじさんと間接キスだけど」
そう言うと、何かを思い出したように、にへらと笑う彼女。
「今更でしょ。昔は、カップラーメンの回し食いとかしたし」
「はっはっ。良い子だ。はいよ、まだ熱いよ」
そう言って、水筒の蓋を手渡す。
「はい」
海を見つめてお茶を飲む彼女。
目の端で、短いスカートが翻る。
ほっとけば良いが、それもしたくないな。
「美葉ちゃん。寂しいかい?」
そう聞いたら、何言ってんのこいつ? そんな顔。
「はい?」
「今、喪失感があって、さみしいのだろ」
そう言われて、思いだしたように、顔が曇る。
「喪失感。あーやっぱり喪失感ですかね。何かこう理由は分からないけれど、何かぽっかりと、なくなった感じがして」
やれやれ、我が息子ながら、望め罪な男だな。
「会いに行っても良いが、もっと辛くなるかもしれないけれど」
確信はないが、なんとなく向こうに居るような気がするんだよな。
「この気持ち、何とかなるんですか? そもそも、おじさんが原因を知っている? 私が寝てる間とかに何かしました?」
そう言って、詰め寄られて、襟元を掴まれる。
ペロッと、間近にきた鼻の頭を舐める。
「ひゃあぁ」
そう言って、彼女は後ろへ下がる。
「おっと落ちるぞ」
手を掴む。
「おばさんに言いつけますよ」
鼻先を、そでで拭いながら、またジト目を貰う。
「冷たいな。君と僕の仲じゃないか?」
「ええ? おじさんは…… あれ、なんで義父?」
昔あっけらかんと言っていた、望君と結婚したら、おじさんはお父さんになるの? 望には結婚どうこうは、言ってなかったようだが、そんな事をこの子は言っていた。記憶に残っていたのか?
「昔は、言っていたねぇ。いつから言ってくれなくなったんだ?」
「えっあれ? どうして、いつから?」
頭を抱え悩み始める。
そして、彼女の頬を、涙が伝う。
「あれ、どうして? 涙が止まらない。ねえ、おじさんどうして?」
「来なさい、ハグしてあげよう」
困った顔で、こっちを真っ直ぐ見てくる。
「変なことしないでくださいね。本気でおばさんに言いますよ」
そう言っているが、上半身はこちらへ向かっている。
「大丈夫だよ。さあ僕の胸で泣きなさい。一回思いっきり泣いた方が良いんだ」
そうして、彼女は泣き続け、俺は通報された。
「うちの馬鹿旦那が、すみませんね」
「いえ、こちらこそ。親を頼らず、余所の旦那さんを頼るなんて。あっお魚ありがとうございました」
そうして、最寄りの警察署から、田倉さんのお母さんに彼女は連行された。
「あーまいった。誰だよ通報するなんて。やだね、ギスギスした世の中」
「彼女結構、影響を受けているの?」
呆れたような顔で、奥さんが聞いてくる。
「そうみたいだね。馬鹿息子のことを、本当に好きだったみたいだね。理に逆らって、記憶の残滓がある。辛いね。神に逆らい貫くピュアラブ。それともすでに身も心も捧げたか?」
「やーねえ。中年は。お・じ・さん」
奥さんが、にまにましなが言ってくる。
「やかましい、まだ四十三歳。ピチピチだよ」
「でっ。どうするの?」
ため息をつきながら聞いてくる。
少し思案をして、ぼそっと答える。
「行ってみようかなぁ」
少し奥さんは驚いたが、不安そうに聞いてくる。
「状態によっては、彼女もっと辛いか、帰ってこなくなるわよ」
やれやれという感じで、そんな、分かりきった忠告をしてくる。
「そうなったら、田倉さんには、悪いが。美葉ちゃんの事を忘れて貰おう」
笑いながら答える。
奥さんからのジト目を貰う。うん、年期が違う。さげすんだ感じが違う。ゾクゾクするよ。
「あなたねぇ。余所様の娘を」
「良いじゃ無いか、慕ってくれて居るみたいだし」
おおうっ。奥さんのこめかみに、ビシッと青筋が立つ。
「あなた本当に、手を出したりしていないわよね。ここは日本よ」
「出さないよ。今世では君一筋」
また、ため息。
「そう、なら良いけど。向こうかぁ、私も行こうかしら。久しぶりに自分の墓参りしないと、あそこ廃墟だからね」
シートを軽く倒して、伸びをする奥さん。
「そうだな。何年ぶりだろう。天音はどうする?」
聞かれて、予想外という感じ。少し驚いたようだ。
「まだ学校は始まっていないけれど、子どもにまで向こうと絡ませる必要は無いでしょ。精霊に目を付けられると、帰ってこられなくなるわよ。あの人達、常識が無いから」
「そうだな。何もかも懐かしい。プラネータ=デェ=ドムン。リギュウムディかぁ」
その晩、何故かずっと苦しかった、胸のつかえ? 重さが軽くなった気がする美葉。つい胸のサイズを確認する。
「なんだかおじさん。すべて知っている感じだった。変なの」
そうぼやきながら、布団へ入る。
胸は軽くなったが、寝ようとすると、山川 全一(ぜんいち)。おじさんのニヤけ顔がまぶたに浮かぶ。
「もう。いい加減にしてよ」
行き場のない怒りを、枕へぶつける美葉だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
100
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる