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第五章 ホミネス=ビーバレで再編は進む
第71話 それは、本当に突然
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「ただいま帰りました」
「おう、どうなった?」
「さあ?」
「さあ、だと?」
ここは、マリチオニス辺境伯の執務室。
報告に来た、兵士団長ヒエロス=イウスティツエだが、なんと答えていいものか思案をする。
「辺境伯アーラン=ヤッチマッタナー侯爵は、攻撃をしても歯が立たず、王都へ増援をお願いしに行きました。その前に、勇者は向こうへ寝返り。あーと、まあいいか」
考えた末、ぶっちゃけることにした。
「実は一年くらい前に、うちの鉱山へコーガネーの兵達が来て悪さをしました。報告書は出しましたが、その和睦の時。実はリギュウムディ王国の新王、山川望殿と知りあいまして」
そう言うと、辺境伯は驚く。思いっきり表情が、なんだとぉーと語っている。
「っつ、そっ、そんな報告は、聞いていないぞ」
「ええ。言っていませんから。それに、報告書にも残していません。向こうからのお願いでしたし」
そう言われては、納得は出来ないが反論も出来ない。
「ぬっ。それで?」
「その、山川王。あっ山川が家名だそうです。それで、それからずっと、ミッドグランド王国と関わっていたようでして、多分新王ウーベル=ナーレ殿の即位にも関わっていると思います」
それを聞いて当然驚く。思わず立ち上がっていた辺境伯だが、力を失うように椅子へと座り込む。
「それで?」
「いま、ミッドグランド王国は、そうですね。時代を数百年すっ飛ばした感じとなっています」
「時代を数百年? 想像もつかんな」
「馬車は、魔導自動車になっています。他にも、あらゆるところに魔道具が使われて、夜も明るかったです。清浄な水が二四時間蛇口とか言う所から出るし、もう一つの蛇口からは、お湯も出ます。食い物は美味いし、女性は魅力的。彼らの服は軽くて丈夫。民の服はどうか知りませんが、軍服は矢が通らず、剣でも切れないそうです」
「なんと」
「それで、ですね。此処に招待券があります。名指しで辺境伯をお連れしてくれとの仰せで、今回参加をした兵達も行くでしょうから、皆でコーガネーの国境へ参りませんか? 私も家族を連れて行くので。きっと何時間説明をしても、あの国の現実。姿は通じませんし、見て貰った方が早いです」
「うむ。わかった。いつだ?」
悩みながらも、辺境伯は答えを出す。
「すぐです。明日にでも」
「はっ。明日? それは無理だ、すませばならん仕事が山積みで」
多少うろたえる姿を見せる。
「きっと、そんなもの。どうでも良くなるので参りましょ」
ヒエロスはニヤニヤと、薄笑いを浮かべながら答える。
そうして、翌朝。
奥方や子供達も連れ、書類を抱えた辺境伯一行が馬車で移動を開始する。
その頃、メリディアム国。王都、メドカプティスではブロニスラフ=メリディアム王とアーラン=ヤッチマッタナー侯爵が静に腹の探り合いをしていた。
「では、どうしたいのじゃ」
「軍をお貸し願いたいのです。我が私兵達では、武器の差があまりに大きく、届きません」
「それは、そちのそろえた武器が、良くなかっただけでは無いか?」
この時代、ある程度の専業的組織はあったが、矢などは副業的に作られていた。
「いいえ。そうではありません。上等な品で、矢も基本一〇〇メートルの所、二〇〇メートルは真っ直ぐ飛びます。ですが、相手の矢は五〇〇メートルを越えてきます」
「そうなのか?」
そう言いながら、王は横に控える宰相の顔を見る。
宰相セルファース=バルトシェクはその時、驚きで顔面が崩壊をしていた。
「ごっ五〇〇メートルだとぉ。信じられん」
つい口から、言葉が漏れる。
「それは、すごいのか?」
きょとんとした顔で、聞き返す王。
「ええ。当然です」
そう言われて、王は少しむっとする。
「それは困ったのう。そしてじゃ。アーラン侯爵。そちがいて、どうして勇者を逃がした」
強引だが話を変える。
「いやそれは、その丁度、敵の攻撃範囲に入っておりまして、動けなかったのでございます」
「呪文も唱える暇が無かったと? 娘ダーシャもひどく落ち込んでおる。自身の力が至らなかったと。娘だけの責任か?」
「そっそれは、申し訳ありません」
呪文のことなど、すっかり忘れていた。勇者の安全装置。確かに唱えれば動きは止まったはず。
そうは言っても、ダーシャ様もご存じだったはず。何故私ばかり。あっいや、反省をしていると言っておったな。そこへ、宰相が助け船を出す。
「国軍を動かすのは、王都の守りにも影響が大きゅうございます。貴族連合という形で参加を募り、報償は倒した後の物資の分配でまかなうのはいかがでしょうか? コーガネーを始め、ミッドグランド王国はいま、貴金属や宝石が値崩れをするほど好景気の様でございますから」
「うーん。おお。それは良いな。振れを出し、志願を募れ」
こうして、話がやっとまとまり。殲滅対象達が、勝手に集ってやってくるようだ。
そして。
「いらしゃいませ。ご足労をおかけいたしまして申し訳ありません」
何故か、マリチオニス辺境伯の前で、頭を垂れるミッドグランド王国宰相、セバスン=サミュエル。
「失礼。あなた様は?」
「ご挨拶が、遅れてしまい申し訳ありません。ミッドグランド王国宰相、セバスン=サミュエルでございます」
「これは、失礼をいたしました」
あわてて馬車を降り、頭を下げる、辺境伯。
当然宰相の方が上。
執事のような、行動をする宰相に対して、辺境伯はうろたえる。
何故か、宰相に案内をされて、エレベーターで上階へ上がっていく。
むろん、ヒエロス達は知っている。
到着してフロアに出ると、毛足の長い絨毯が敷き詰められている。
そして、その奥から感じるとてつもないプレッシャー。
この奥に、ドラゴンでも居るのか?
扉が閉じ、体に妙な違和感を感じた。
そして、再び扉が開けば、景色が変わっている。
これは、きっと噂に聞く空間魔法だろう。そう納得した矢先のプレッシャー。
辺境伯は、進みながら自身の足が震えるのを押さえ込む。
やがて到着した様で、セバスンがドアを開けて中へと入る。
「いらっしゃいませ」
そんな軽い声が聞こえるが、年若い男の後ろには、見たことのないような美女が四人ならぶ。
そして両脇には、やはり少し幼い感じの黒髪黒目の女の子。
そのテーブル脇に座る男が、憮然としながら挨拶をしてくる。
「ミッドグランド王国。王ウーベル=ナーレだ。よろしく頼む」
ミッドグランド王国の王が、何故そんな席に?
「はっ。今回はお招きいただきまして、ありがとうございます。メリディアム国辺境伯マリチオニス=ランヴァルドと申します」
形に乗っ取り、挨拶を行う。
「ようこそ。私は、山川望。リギュウムディの国王だ。よろしくね」
ひょうひょうと挨拶をしてくる望に驚き、両脇の妻達の紹介。
そして。
「後ろに控えるのは、四大精霊達だ。力を貸すから、メリディアム国の王にならないかい?」
和やかに、ほんとうに和やかに、爆弾発言をしてきた望であった。
「おう、どうなった?」
「さあ?」
「さあ、だと?」
ここは、マリチオニス辺境伯の執務室。
報告に来た、兵士団長ヒエロス=イウスティツエだが、なんと答えていいものか思案をする。
「辺境伯アーラン=ヤッチマッタナー侯爵は、攻撃をしても歯が立たず、王都へ増援をお願いしに行きました。その前に、勇者は向こうへ寝返り。あーと、まあいいか」
考えた末、ぶっちゃけることにした。
「実は一年くらい前に、うちの鉱山へコーガネーの兵達が来て悪さをしました。報告書は出しましたが、その和睦の時。実はリギュウムディ王国の新王、山川望殿と知りあいまして」
そう言うと、辺境伯は驚く。思いっきり表情が、なんだとぉーと語っている。
「っつ、そっ、そんな報告は、聞いていないぞ」
「ええ。言っていませんから。それに、報告書にも残していません。向こうからのお願いでしたし」
そう言われては、納得は出来ないが反論も出来ない。
「ぬっ。それで?」
「その、山川王。あっ山川が家名だそうです。それで、それからずっと、ミッドグランド王国と関わっていたようでして、多分新王ウーベル=ナーレ殿の即位にも関わっていると思います」
それを聞いて当然驚く。思わず立ち上がっていた辺境伯だが、力を失うように椅子へと座り込む。
「それで?」
「いま、ミッドグランド王国は、そうですね。時代を数百年すっ飛ばした感じとなっています」
「時代を数百年? 想像もつかんな」
「馬車は、魔導自動車になっています。他にも、あらゆるところに魔道具が使われて、夜も明るかったです。清浄な水が二四時間蛇口とか言う所から出るし、もう一つの蛇口からは、お湯も出ます。食い物は美味いし、女性は魅力的。彼らの服は軽くて丈夫。民の服はどうか知りませんが、軍服は矢が通らず、剣でも切れないそうです」
「なんと」
「それで、ですね。此処に招待券があります。名指しで辺境伯をお連れしてくれとの仰せで、今回参加をした兵達も行くでしょうから、皆でコーガネーの国境へ参りませんか? 私も家族を連れて行くので。きっと何時間説明をしても、あの国の現実。姿は通じませんし、見て貰った方が早いです」
「うむ。わかった。いつだ?」
悩みながらも、辺境伯は答えを出す。
「すぐです。明日にでも」
「はっ。明日? それは無理だ、すませばならん仕事が山積みで」
多少うろたえる姿を見せる。
「きっと、そんなもの。どうでも良くなるので参りましょ」
ヒエロスはニヤニヤと、薄笑いを浮かべながら答える。
そうして、翌朝。
奥方や子供達も連れ、書類を抱えた辺境伯一行が馬車で移動を開始する。
その頃、メリディアム国。王都、メドカプティスではブロニスラフ=メリディアム王とアーラン=ヤッチマッタナー侯爵が静に腹の探り合いをしていた。
「では、どうしたいのじゃ」
「軍をお貸し願いたいのです。我が私兵達では、武器の差があまりに大きく、届きません」
「それは、そちのそろえた武器が、良くなかっただけでは無いか?」
この時代、ある程度の専業的組織はあったが、矢などは副業的に作られていた。
「いいえ。そうではありません。上等な品で、矢も基本一〇〇メートルの所、二〇〇メートルは真っ直ぐ飛びます。ですが、相手の矢は五〇〇メートルを越えてきます」
「そうなのか?」
そう言いながら、王は横に控える宰相の顔を見る。
宰相セルファース=バルトシェクはその時、驚きで顔面が崩壊をしていた。
「ごっ五〇〇メートルだとぉ。信じられん」
つい口から、言葉が漏れる。
「それは、すごいのか?」
きょとんとした顔で、聞き返す王。
「ええ。当然です」
そう言われて、王は少しむっとする。
「それは困ったのう。そしてじゃ。アーラン侯爵。そちがいて、どうして勇者を逃がした」
強引だが話を変える。
「いやそれは、その丁度、敵の攻撃範囲に入っておりまして、動けなかったのでございます」
「呪文も唱える暇が無かったと? 娘ダーシャもひどく落ち込んでおる。自身の力が至らなかったと。娘だけの責任か?」
「そっそれは、申し訳ありません」
呪文のことなど、すっかり忘れていた。勇者の安全装置。確かに唱えれば動きは止まったはず。
そうは言っても、ダーシャ様もご存じだったはず。何故私ばかり。あっいや、反省をしていると言っておったな。そこへ、宰相が助け船を出す。
「国軍を動かすのは、王都の守りにも影響が大きゅうございます。貴族連合という形で参加を募り、報償は倒した後の物資の分配でまかなうのはいかがでしょうか? コーガネーを始め、ミッドグランド王国はいま、貴金属や宝石が値崩れをするほど好景気の様でございますから」
「うーん。おお。それは良いな。振れを出し、志願を募れ」
こうして、話がやっとまとまり。殲滅対象達が、勝手に集ってやってくるようだ。
そして。
「いらしゃいませ。ご足労をおかけいたしまして申し訳ありません」
何故か、マリチオニス辺境伯の前で、頭を垂れるミッドグランド王国宰相、セバスン=サミュエル。
「失礼。あなた様は?」
「ご挨拶が、遅れてしまい申し訳ありません。ミッドグランド王国宰相、セバスン=サミュエルでございます」
「これは、失礼をいたしました」
あわてて馬車を降り、頭を下げる、辺境伯。
当然宰相の方が上。
執事のような、行動をする宰相に対して、辺境伯はうろたえる。
何故か、宰相に案内をされて、エレベーターで上階へ上がっていく。
むろん、ヒエロス達は知っている。
到着してフロアに出ると、毛足の長い絨毯が敷き詰められている。
そして、その奥から感じるとてつもないプレッシャー。
この奥に、ドラゴンでも居るのか?
扉が閉じ、体に妙な違和感を感じた。
そして、再び扉が開けば、景色が変わっている。
これは、きっと噂に聞く空間魔法だろう。そう納得した矢先のプレッシャー。
辺境伯は、進みながら自身の足が震えるのを押さえ込む。
やがて到着した様で、セバスンがドアを開けて中へと入る。
「いらっしゃいませ」
そんな軽い声が聞こえるが、年若い男の後ろには、見たことのないような美女が四人ならぶ。
そして両脇には、やはり少し幼い感じの黒髪黒目の女の子。
そのテーブル脇に座る男が、憮然としながら挨拶をしてくる。
「ミッドグランド王国。王ウーベル=ナーレだ。よろしく頼む」
ミッドグランド王国の王が、何故そんな席に?
「はっ。今回はお招きいただきまして、ありがとうございます。メリディアム国辺境伯マリチオニス=ランヴァルドと申します」
形に乗っ取り、挨拶を行う。
「ようこそ。私は、山川望。リギュウムディの国王だ。よろしくね」
ひょうひょうと挨拶をしてくる望に驚き、両脇の妻達の紹介。
そして。
「後ろに控えるのは、四大精霊達だ。力を貸すから、メリディアム国の王にならないかい?」
和やかに、ほんとうに和やかに、爆弾発言をしてきた望であった。
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