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第五章 ホミネス=ビーバレで再編は進む

第81話 アベスカ王国

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 ミッドグランド王国。ウーベル=ナーレは、ちらっと此方を向く。
「ちょっと待って、いただこう」

 謁見の間ではなく会議室。
 陳情に来た、セプタントリオナリス連合国の商人と兵士達。
 代表だけだが、七国で五人ずつ。

「望殿。何とかしてください」
「これは?」
 知っていて、さらっと聞く。
 ちらっと、ウーベル=ナーレは、後ろに立つエリサベトを見る。
 エリサベトはニコッと笑い。肩まで手を上げるのみ。

 ウーベル=ナーレは、軽くこめかみを揉むと、話し始める。
「セプタントリオナリス連合国が、リギュウムディ国王に、国の承認と発展へのてこ入れをお願いしたいとの事です」

 だが、テーブルに積まれた貢ぎ物。
「あれを見ると、発展しているようじゃないか?」
「それはそうですが、これが国としての出来る事。すべてと申すものもいます」
 民のために使えやとも思うが、これを原資に発展させる。まあ間違ってもいないか?
「話を聞いてみるか?」

 そう言って、上座。お誕生日席に向かったが、奥側の真ん中へ向かう。
「使者達はすまないが反対側へ移動して、各自の贈り物を前に据えてくれ」
 訳も分からず。とりあえず移動する。

「さて私が、リギュウムディ王国。国王山川望。山川が家名だ」
「「「おおっ」」」
 場に、そんな声が漏れる。

 そして、貢ぎ物がなく、まともに顔が見られる使者へ声をかける。

「貴国の国名は?」
 目が合ってしまい。商人はあわてる。

「アベスカ王国。エドゥアルト=アベスカ王より依頼された商人で、マッケイ並びにヨゼフそして、マロシュでございます」
 そう言って、額をぶつける勢いで頭を下げる。

「失礼なもの言いになるが、そのアベスカ王国は、そんなに生活が厳しいのか?」
 商人達は、他を見て貢ぎ物。つまり献上品が無い事に気がつき。言い訳をしようとしたが、やめた。
「はい。何もない山間部で、細々と他国へ鉄鉱石や、薬草。そして毛皮を売って暮らしております。大概の儲けは、食料などの輸入で消えてしまい。とても、生活は大変です」

「そうか、どうして国を離れない?」
「それはやはり、ずっと暮らしてきたからとしかいえません。気候風土匂い。やはり住み慣れた土地は離れがたく」
「ふむ。まあ、それはそうだよね」
 少し素が出る。背もたれにもたれ、腕組みをして考える。

「よし。一度見よう。そうじゃないと、話にもならない」

 そして、順に話を聞き、七国を順番に回る事にした。
 先ずは、アベスカ王国。

 その旅が、あんなに面倒になるとは思わなかった。


 さて、アベスカ王国へ来た一同だが。
「スイスとか、こんな感じかな?」
「さすがに、標高二千メートル級の山がぐるっと囲んでいるのはどうなの?」
「規模が小さい。うちの国だと思えば一緒だけれどね」
 国とは言っていたが、かなり小さい。

 中央ヨーロッパの スイスとオーストリアに囲まれた領域に位置する、リヒテンシュタイン公国の百六十平方キロメートルよりは、ましかもしれないが、キプロス共和国が面積では九千五百二十一平方キロメートルだから、島ではなく山に囲まれているとすれば近いイメージだろう。
 ヨーロッパの国々は、以外と小さい。メルカトル図法の罠だ。

「さて、あなたが、この国の王でしょうか?」
「はっ。アベスカ王国。エドゥアルト=アベスカと申します」
「この山の中。農地は厳しいだろうから、主産業は鉱山でしょうか?」
「いえまあ。あまりこの姿を変えたくありませんでな。民には苦労させるが、せめて妻の愛していた景色だけは、変える事なく在りし日を懐かしもうと」
「ほう個人的感情で、民を困窮させるのか?」
 そう言うと、ぐっと言う感じで悔しがる。

「たとえ、亡き奥さんの為とはいえ」
「あーいえ。妻は生きておりまする。ただ」
 宰相なのか執事なのかは知らないが、奥さんを呼びに行ったようだ。
 するとフウフウという声と、熱気がやってくる。

 飾り付けをして、まるでクリスマスツリーのようなものが近付いてくる。
「あなた。この方達はどなた?」
「リギュウムディ王国。国王ヤミャいや、山川望様だ」
 少し考えた後、思いだしたようだ。

「まあ。まあまあ。伝説の。こんなにお若くてかわいらしい方だとは?」
 なんだか、キラキラとした感じで見てくる。

 話が進まないので、奥方に聞く。
「それでだな、少し山を切り開き。農地を増やせば民の暮らしもましになると思うがどうして反対をする? 確かに景観はいい。だが、それも人を集めての話だろ」
「へっ? 反対いたしませんわ? 農地大賛成でございます」
「へっ? 景観を変えるなと」

 宰相? もう執事でいいや。そっと一枚の紙を見せてくる。
 見せられたのは絵で、美しい風景の中で優しく微笑む婦人。
 背後は、後ろの山々だろう。

「旦那様は、思い出の中で暮らしておるのです。美しい風景。そこにたたずむ若き日の、ほっそりとしたエデルガルト様」
 教えられて、まるっと納得をした。

「理解した。フレイヤ。誰でもいい。そこの山。山頂を此処の高さにそろえてぶった切れ。水は引き上げ農地にする」

「なっ。やめてくれぇ。わしの思い出が」
「自分の我が儘で、民を苦しめるな。健康で居られるレベルを超えている。奥方は節制しないと死ぬぞ。痩せろ」
「えっ。この退屈なところで? 食べる事だけが、私の生きがいなのに」
 王と王妃、二人の叫びが山々に響いた。
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