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第六章 魔王と獣人族

第102話 知ってはいけない、もの(組織)がある

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 拳に纏った雷は、何故か奴の腹へ、あたる寸前に消滅をする。
 変化をしたモノは魔力ではなく、すでに物理現象なのだが。
 なぜだ。

 自由電子の流れ。
 この世の摂理。

 それに干渉と中和?
 お前は神か。

 そんな事を思いながら、俺との身長差から、必然となるルッジェーロの左脇腹へ拳があたる。
 雷は消えたが、慣性などは消えないようだ。
 同じ物理なのに。

 パシッと言う感じで、当たり。
 なぜか、拳が半分ほどめり込む。

 ルッジェーロは驚いた顔で、一瞬、体がくの字になる。
 反動を付けて、今度は、左の拳を奴の右脇腹へ撃ち込もうとしたが、動くから、もろに肝臓の上へ打ち込んでしまう。
 だが、しっかりと歩幅は整え、踏み込みは行う。
 また拳が、半分潜る。

 くの字だった、ルッジェーロが、お辞儀をするような形になる。
 目の前に来る、奴の顔。

 再び右手を打ち込むが、距離が近すぎ、バックステップをしながらの、ショートフックのようになった。

 だが、ルッジェーロの顔が……
 拳が食い込むと、変な手応えと、崩れていく顔。
「あれっ?」
 こいつ、カルシウムが足りない?

 危なそうなので、拳を途中で止める。
 だが…… ルッジェーロの顔は、ぐるりんと右へ回る。

「うわたっ」
 倒れてくるので、支える。
 図体の割に軽い。
 そっと寝かせる。

 場内は静まりかえり、誰も何も言わない。

「ええと。今何が?」
 司会が変なことを言い出して、やっと会場で、どよめきが広がっていく。

「まーったく見えませんでしたが、攻撃があったようです。ルッジェーロ。ダウン」
 そんな話は聞いていなかったが、審判のカウントが始まる。

 十かと思えば、二十まで数えて、審判が両手を頭上でクロス。

 その後、両手を頭上で振り出す。

「おおーっと。試合終了。ルッジェーロの負けです。誰が予想をしたでしょうか? ルッジェーロの特性は、魔法効果無効という反則じみた能力。それが、鍛え上げられた体と合わさり、誰もまともな攻撃を通したことはなかった。彼に勝ったのは二人。前魔王セルビリ=ムスクルスが、彼の口の中へ爆炎魔法をぶちこみ泣かせたことと。元四天王エリサベト=オードラン様が、彼に触れさせることなく手玉に取り。バランスを崩すことで、ステージ外に彼を転がり落とした。この二回。そしていま…… 今…… 何があったのでしょう? 誰か教えてください」

 アナウンスが困っていたから、審判にさっきのことを説明をする。
 ついでに、我が、リギュウムディの総力を挙げて開発をした録画用魔導具。
 高速度撮影タイプを売り込む。
 ついでに映像用モニターも。

 他にも、荷物を透過する。品名『見えるんです』なども売り込む。
 この見えるんですは、実は出来損ない。
 人間に使うと非常にまずいことになるため、自動でモザイクが掛かる。
 むろん調整で、体の中も見られる。

「えー今。王様。山川様本人から説明がありました。右フック。左のアッパー。そして、右のショートフック。それが、左脇腹。次に肝臓。そして、左頬へとあたったようです。一応、ルッジェーロ。命に問題はないようです」

 説明がアナウンスされると、どわーっと会場内が騒ぎになる。

 大部分が、さっきの試合が、見えていなかったようだ。

「ふっ。物理など俺には効かないぜ」
 そう言って、退場をする望を見つめる目があった。

「お疲れ様」
 美葉が素早くやって来て、タオルと飲み物をくれる。
「ありがとう。だけど、疲れる時間もなかったな」
「そうだね。あっという間だよ。でも、大もうけ」
 そう言って、美葉達は喜んでいる。

 そして、録画用魔導具を四台と映像用モニターが複数台売れた。
「勝負判定に使えます」
 そう言って、すぐに購入が決まったようだ。

 その後、追加でモニターが売れた。スタジアムの外にも設置するそうだ。

 その後、潤沢な予算。そのからくりが、セルビリからそっと教えられる。
「あの賭博。正式な寺銭が五割。その後、勝った方のオッズは調整される」
「つまり変動制だが、一人勝ちとかになれば、寺銭が実質七割とか八割になると?」
「そうだ。魔王が就任をすると、まあ色々と金が掛かる。それ用のプール金だな」
 セルビリの話は、美葉達に教えないでおこう。

「私たちの買い方を見て、後で買った人が結構いたのね」
 そんな事をぼやいていたからな。


「おおっ? ここは?」
「気がついたのか? ルッジェーロ。せっかく苦労をしたのに、二回戦負けとは情けない」
 ルッジェーロと、その脇には王都に巣くう闇家業のボス。ネイト=バーキンが座っている。

「事故を装うって、対戦相手に怪我をさせたり。色々したのになぁ」
 ルッジェーロを、見つめる目はかなり厳しい。

「ガキの頃から面倒を見て、後もう少しだったが、ベスト八にも残れなきゃ、四天王の決定戦にも出られない。今季で終わりだな」
 そう言って、バーキンは椅子に深く座り直すと、細身の葉巻に火を付ける。

「ちょっと待ってくれ。現四天王には特別枠がある」
「今の状態で、出られると思っているのか? 肋骨は折れているし、顔もだ。肝臓もかなりダメージを食らっているそうだぞ」
「そんな」
 病室に漂う紫煙。

 マッチョで、漢らしい看護師(女性)に、蹴り出されることになるバーキン。
 これが元で、バーキンと漢らしい看護師が所属する軍団。紅の薔薇ともめることになる。
 だが、それにより、バーキンは大きく組織を縮小する羽目になる。
「いいか。この世の中には、絶対に関わっちゃいけないものがある」
 彼は臨終の折、息子達に説明をしたそうだ。

「一つは、リギュウムディ王国。ここはまあ、関わってもいいが怒らすな」
「「「はい。親父」」」
 そして、窓を遠い目で見ると、意を決したように言葉を紡ぐ。

「もう一つは、紅の薔薇だ。奴らは市中に潜んでいる。良いか絶対関わるな。関われば人としての尊厳は崩壊し、その深淵を見ることになる。そして、奴らは伝染して増殖をする。いいか、絶対にだ」
「「「分かりました」」」

 そう答えた息子の一人。
 ロドリゲスが着ている、スーツの襟。
 フラワーホールには、珍しい、赤黒いベルベットのような、薔薇が刺さっていた。

「ふふーん、もう遅いわ。親父はあの時に関わってしまった。我らのケッソク尻即は絶対で、その方が閉まりが良いの…… むろん。組織としてね。すべては私が引き継いであげる」
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