神の都合と俺の都合

久遠 れんり

文字の大きさ
44 / 55
第二章 異世界暮らし

第44話 魔王様は激怒する

しおりを挟む
「お力終え、感謝する」
 そう言って、大将マクシミリアーノ=ペカルスキーは、かなり引きつった顔で礼を言う。

「ああいえ、すみません。怪我をした兵がいれば治療いたしますので連れてきてください」
 永礼の頭を押さえつけて、詫びをさせながら与野が話をする。

 壊滅状態の戦場。

 だがそこから、怪我を負ったものの逃げ出した魔人族が居た。

 俺達と主に、アキンダリアへ向かい、そこを拠点に復興を始める。

 セコンディーナ王国としても、此処が防衛戦となる。
 今までの、獣人の町から、急速に人の町へと変わっていく。

 近くから、木材を切り出し、永礼君の努力によって乾燥され製材される。

 木は乾燥させないと、仮に家を建てても、乾燥と共に歪み縮み割れる。

「おおい、兄ちゃんこっちだ」
 丸太を担いでゴリラ…… いや業力が、うっほうっほと走り回る。
 向きを変える度に、職人が何人か木材にぶち当たり、ぶっ飛ばされて飛んで行く。

 そんな中で、武神になぜか睨まれる。


 付き合う気も無かったが、委員長からたのまれて彼女をこそっとセフレのように扱っていたらしい。

「久々にどうだ?」
 そう聞かれて、いつもなら嬉しそうに、恥ずかしそうに彼女はてれてれとしながら、うんと答えていた。

 なのに、今回はなぜか冷たい目を向けられた。
 そう彼には理解できない。

「やだ。今は大事な人がいるから。もう相手はしません」
 きっぱりと、断られる。

 移動の時にも、武神と竜司、そして俺、霧霞 悠人は同じグループにいるから、委員長の立ち位置は、俺側に少し寄っていたが、新参者なので、みゆきの横辺りになる。

 だから気がつかなかった。
 委員長のチラ見が、一メートルほど横に寄っただけだ。
 

 失うと、特に興味が無くとも、惜しくなるときがある。
 そう世に言う、ネトラレ……
 他人に盗られると、急に惜しくなるあれだ。

 武神もまああれだ、彼女のことは本気じゃ無かったし、べちゅに気にしないさぁ…… うがあぁ。
 となって、ある日余興のように、俺につっかかってきた。

 だがまあ、周りは皆覚えていた。
 転移してきたとき、訓練中に隊長が瞬殺されていた日々。

 武神もこちらへ来て、修羅の道を進み、強くなった。
 だが、所詮は多少の基本剣技と体術。

 霧霞家に伝わる、一子相伝のわざとは違う。

 復興の中、余興として始まるその戦いは、地獄の様相を見せる暇などなく、瞬殺。

 皆から、集まっていた武神の威厳まで失うことになる。

 そう彼は自分自身ですべてを捨てた。
 ちっぽけな焼き餅で……

「それじゃあ開始。怪我はさせるなよ」
 力の無い、与野のかけ声で勝負は始まる。

 強力な魔法は無し、武器無し、おのれの力のみと言うルール。

 暇をしていた、職人さんや、兵まで集まり、以外と盛り上がる。
 近くで、八重たちが、ソーマと焼き鳥? 謎の串焼きを売り、盛り上がっている。

 古川 竜司は語る。
「けっ、ガキが」
「でも興味あるでしょ」
 美咲に聞かれ。
「まあな」
 と答える。

 実際、竜司は武神を通じて、力の差を見たいと思っていた。
 俺が強いことは知っている。
 素人とは違う、武術。
 本物の強さ。

 だが、この数年で、自分たちも修羅の道を歩んで、自身は付いていた。
 竜司の場合、喧嘩という下地があり、俺のやばさは理解していた。

 立ち会い、次の瞬間に躊躇なく関節を決め、無表情で相手を壊す。
 盗賊との戦闘の中で、幾度もそれを間近で見た。

 だけどそれを見て盗み、自分の中でそれを理解して、自分の物としてきた。
 それは、武神も同じ。
 勇者としての、チート能力は成長をして、皆強くなった。

 多少はそれを思った。
 だが、素人の成長と、達人の成長は、時間軸が違う。
 遠回りせず、必要なものだけを突き詰める。

 いま、かけ声で武神が動き始め、周りの兵達からすると、体がかすむようなスピード。

 悠人は棒立ちで、それを迎える。
 だが、一瞬で武神は地面を滑っていく。

「「「「はっ?」」」」
「一体何があった?」
 見ていた皆が思った。

 武神は悠人を捕まえに行った。
 その手を捕まえ、体を開きながら、武神のつま先を踏んだ。
 それだけだ。

 見ていたものは、悠人が武神の突進を、躱しただけにしか見えなかった。

 武神自身も、躓いたとしか認識していない。

「すまん。勢いが付きすぎた」
 そう言って、肩を揺らし、近寄り投げられた。

 合気道で言う、呼吸投げだろうか?
 そう、組み合うと思った瞬間に投げられる。

 周りの兵から、驚く声が聞こえる。
 幾度も挑戦するが、組むことさえできず、武神も打撃に切り替える。
 だが、すべてが投げられ、疲ればかりが蓄積していく。

 気がつけば、悠人の足元に、円が描かれている。
 そうほとんど動いていない。

「卑怯だぞぉ」
 それが、最後だった。

 数十に及ぶ投げ技、そして今、当て身が繰り出された。
 簡単に投げられるというなら、重心は崩されている。

 防御はできず、筋肉が緩んだ状態で、パンチを受ける。
 その苦しみは……

「ごはあぁ」
 そう、パンチを受けて、空気を吐き出してしまった。
「うぐっ」
 足に来たのか、それだけで武神は立てなくなってしまった。

「終わりだな」
 興味なさそうに、与野が宣言をする。

 まだ、武神は立てない様で、自分の足をつねっている。

 その後、兵達からたのまれて、悠人は体術を教える羽目になる。


 そんな平和な時間は、長くなく、報告を受けた魔王は、怒り狂う。
「わしが行く。人間どもめ、殲滅してやる……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...