泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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月夜に微笑む彼女

第4話 ごめんね

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 多田 和生ただ かずおは、やけ酒を飲み。不機嫌な状態で家路についていた。
 先日まで付き合っていた女から訴えられた。
 警察も動いているようだ。
「ちっ。画像をばらまいてやる」


 そんな時、後方から眩しいライトがやって来る。
 狭い道を、結構な勢いで車が走ってくるのだ。
 ただ、ふらふらと安定していない。
「ちっ危ねえな」
 此処で避けるには、雨水枡が埋めてあるところが少し広い。
 数メートル先に見える、壁の切れ目へ向けて、酔っ払いがふらふらと走る。

 だが、そこにあるはずの蓋、足をつくはずのグレーチングが無かった。
「うわっ」
 彼は、三メートル下へと落下。
 ちくしょう。
 彼は座り込んだ状態。足も腕もおかしい。助けを呼ぼうと叫ぼうとしたとき、車が止まる。降りてきた後、後部座席から何かを取りだしているようだ。外灯の光は逆光だが、そいつの姿が見える。

 丸みのない、ゴツゴツとした石を両手で、腰の前で抱えていた。
 それが、自分に向かって投げられたとき、とっさには体が動かなかった。
 見上げていた顔が伏せられて額の上。前頭骨部分に直撃してしまう。
 自分の歯が、上下で激しくかみ合う。

「がっ」
 そう言ったまま彼は倒れ込み、側にゴツンと石が落ちた音がした。
 彼は全身が痙攣をしていたようだが、やがて動かなくなった。


「奴らの事務所はもっと大きな町ですね。どこかから情報が来て、出張のようです。マンスリーのマンションで、毎晩のように騒いでいますよ」
 報告を聞いて、彼女が固まる。

 前のアパートから見える距離だったようだ。


「こっちへ来てよかったな」
 そう言うと、首振り人形のようにブンブンと首を振っていた。


 あれからも、彼女は俺の体を使ってリハビリをしている。
 話しを聞くと、嫌なのに、時折体が快楽を求めるのだそうだ。


 そんなある日、葛野 一人くずの かずと達が夜中にあわてて車に乗り込む。
 酒を飲んでいたのだが、そんな事を言ってられない。
 上部組織の事務所から連絡が来たのだ。

 どうやら、葛野がやっていた金稼ぎが上に知れたらしい。
 事務所を通さない副業は禁止されていたようだ。

 そして、当然犯罪に当たるものなので、話によっては、事務所にも手入れが入る。
 詳しい情報が書かれた資料が、今日の夕方に事務所へ投げ込まれていたようだ。
 そこから、事務所の方でももめたらしいのだが、さらに上部から呼び出せと命令が来た。

 でまあ、ブラックな企業のようで、夜中になっても呼び出しが来た様だ。

 狭い住宅地から、大通りを抜けて高速へと向かう。
 だが住宅地のよく事故が起こる交差点で、彼等の車は左前輪で何かを踏んであっさりと引っくり返る。
 お仕事がしやすいワンボックスが、あだとなったようだ。

 安物ラジコンに牽引された輪留めが良い仕事をしたようだ。
 速やかに、丁度上になっている左後部の窓を割り、ビールの空き缶とハンカチを使った火炎瓶? が投げ込まれた。中の液体は流れ出て燃え上がる。

 転倒時に車は家の壁へ、それも角っこにぶつかった。
 そう壁の角が、フロントガラスを割った感じで刺さったおかげで、すでにシートとの間で運転手達は潰されている。

 たまたま、葛野は後部座席にいたのだが、シートベルトはしていなかったために後部から前へと飛んで、車の中に入り込んでいた壁に強かしたたかぶつかった。

「いてえ……」
 どのくらいだろう。飛んでいた意識が戻る。
 暑い。
 振り返ると、三列目のシートが燃えていた。
 右側は地面にくっつき出られない。
 前は無理。
 後ろは火事。手を伸ばして、天井になっているドアを開けようとするが、三十キロになると自動で閉まるロックが効いていた。
 まだこの時はバッテリーも生きていたのだが、電動ドアが壊れたのだと判断してしまう。

「ちくしょう。余分な安全装置を付けやがって」
 彼はぼやきながら、ガラスを割ろうと物を探す。
 だが、都合よくそんな物は無い。

 そうこうしている間に、火は天井となっている左のドア側を舐めながら広がってくる。もう開けようと思えば、手に火が付く事を考えなければいけない。
 彼は暑いから、しゃがみ込む。
 上から、溶けたプラスチックが、燃えながら落ちてくる。
 酸欠になり意識がもうろうとする。

「誰か助けろよぉ。俺がナニをしたんだって言うんだ?」
「散々悪い事をしたでしょう。さしずめ恨みの炎よ。時間が短いのが残念だけどね。ゆっくりと味わって……」
 どこかで、そんな声が聞こえた気がした。

「ざけんなよ。くそがっ」
 彼の遺言は、誰にも届かなかったようだ。


 近くでは、住民が叫んでいた。
「ひどい事故で、誰も生きていないようですよ」
 それを聞いて住人達は、正義感に燃えた人が、救助に向かうのを制止する。
 下手に生きていれば、助けた人から金を脅し取るような奴らだ。
「早く助ければ、きっともっと怪我が軽かったなどと言いかねない。

 そこから、一台の軽自動車が静かに走り去っていった。
 彼女は、月明かりの中で、怪しく微笑みながら泣いていた。


「ひでえな。住宅街で車の事故。近くの家、壁とか植木も燃えて大騒ぎだってよ」
「そうなの? 事故をするなら、迷惑をかけないところでして欲しいわね」
 そう言って彼女は、俺のために朝食を作ってくれた……

「これって、朝食だよな」
「うん。ウナギは嫌い?」
 そう言って彼女は笑う。

「いや、好きだけど」
「山芋も体に良いのよ。ほらこっちは牡蠣。亜鉛とか男の人には重要でしょう」
 亜鉛はテストステロンの生成にも関わるため、精力がつくとか。

「どうしたんだ?」
「んー。本気でね。できるかどうかわからないけれど、子どもも欲しいなぁとか。これからのことを考えて、少し前向きに行こうかなと」
「そうか。不安は、多少ましになったのか」
「うん。少しずつね。あなたが助けてくれるんでしょう?」
 そう言って、彼女は嬉しそうに、山芋のとろろ入り味噌汁をすする。

 椀が離れると、少し照れたような嬉しそうな顔。
 だけど…… なぜか、口元から白い液体が垂れる。
「遊んでいると、かゆくなるぞ」
 そう言うと、顔ごと寄ってくる。

 キスをしてと所望。
 どうやら彼女は、朝食前に一戦をするつもりのようだ。


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 お読みくださりありがとうございます。

 最近筆が進まないことがあって申し訳ありません。
 
 
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