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第3章
17.初恋
しおりを挟む薄暗い廊下に立ったまま、将大は遥可に話し始める。
「俺さ、すっごいオクテだったんたよね。初恋は中3のときなんだ」
「ああ。教室で理斗が龍我とヤってるのを見たんだろ?」
遥可が言う。
将大は複雑な目で遥可を見る。
「…何?」
「2人がヤってるのを見て、俺が何を思ったか分かる?」
「はあ?」
遥可はイラっとする。
「わざわざ聞くなよ。龍我を刺した後にお前が弁護士に喋ったこと、まだ覚えてるぞ。『龍我に抱かれている理斗の姿が目に焼き付いて忘れられなくなった』つまり、お前も理斗を抱きたくなったんだろ?」
「普通はそう思うよね?」
意味深な顔で将大は言う。
「俺が意図的に誘導したのもあるけどさ…」
「ゴチャゴチャ言ってないではっきり言えよ」
遥可は将大を睨みつける。
将大はため息をつく。
「俺が忘れられなくなったのは、理斗じゃなくて龍我の方。俺は龍我に抱かれてる理斗になりたかったんだ」
「そうなんだ?」
遥可は言う。
「今でも鮮明に覚えてる。教室に忘れ物取りに行って…不思議な音が聞こえてきて…隙間から見てしまった。隅の方で2人…龍我が上で、理斗が下。龍我が理斗の尻にちんこ入れて腰を振ってた。奥に入る度グチャッと音がして、理斗が気持ち良さそうに喘いでた…」
将大はうっとりとした目になる。
「動物みたいな2人を見て…俺も下の人みたいになりたいって思った。俺はちんこを入れるんじゃなくて、入れられたい…心の奥深くに眠る欲望に気づいたんだよね」
「つっても、お前αだよね?身体はΩを抱きたいんじゃないの?」
遥可は聞く。
「うん、俺はαだから、Ωを求める身体の本能もある…嫌になる程Ωのフェロモンに反応する身体がある。でも、心は他の男に抱かれたがってる…そんな感じ」
うーん、と遥可は首をひねる。
「よく分からないな。理斗の制服盗んだのもお前なんだろ?おかしくね?」
盗んだことへの罪悪感からか、将大は俯く。
話し声も小声になる。
「制服盗んだのは、そうしたら龍我に近づくことができると思ったから…」
「龍我の制服を盗めば良かったじゃん?」
「αの男がαの男に惚れるなんておかしいと自分でも思ってたから…」
将大は自嘲気味に笑う。
「龍我には呼び出されて、αとΩの繋がりについて話をされた。こりゃダメだわ、αの俺は龍我の眼中には入らないわ、って思って龍我のことは諦めた…」
「簡単に諦められたんだ?」
「簡単?はあ?」
遥可の言葉に将大は怒る。
「俺がその後どれくらい苦しんだか分かってる?龍我はΩの理斗しか好きにならない。でも、俺は…男のαだけど、誰かに抱かれたい、ちんこ入れられたい、誰かに愛されたい…その思いは日に日に膨らんでいった。でも、男のαはそんなこと思っちゃダメだって気持ちもあって、常に葛藤してた。誰にも言えなかった…」
「クヨクヨ悩むタイプなんだな、将大は。少数派ではあるだろうけど、男のα同士で愛し合ってる人もいるじゃん?」
「そりゃそうだけどさ、うちは…うう…っ…」
突然、将大は胸を押さえてしゃがみ込む。
呼吸が荒くなり、冷や汗をかきながら苦しそうにする。
「どうした?」
遥可は将大に駆け寄る。
「多分…薬…の…離脱症状…」
「ああ、いつも店ではこの時間注射されてたんだな」
遥可は震える将大を抱き上げてベッドに連れて行く。
安心したのか、将大はしばらくして眠りにつく。
そのまま朝まで眠り続けた。
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