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第3章
18.ホットミルク
しおりを挟む翌朝、遥可が将大のところへ行くと、将大は起きかけていた。
「おはよ。どう、気分は?」
「う…」
将大は怖々と確かめるように自分の身体を触る。
「遥可…」
大きな目を見開いて遥可を見つめる。
「天気良いよ。カーテン開けよ?」
「開けないで。太陽の光が眩しい…」
「何か食べる?簡単なものにはなるけど…」
遥可の言葉に将大は困ったような表情を浮かべる。
「お腹空いてない…」
青白い顔の将大が言うので、遥可は心配になる。
「昨日の昼から何も食べてないだろ?何かお腹に入れなよ」
「じゃあ、ホットミルクを…」
遥可は温めた牛乳をカフェオレボウルに入れて持ってくる。
「ありがとう」
将大はフーッと息を吹きかけてから、ボウルに口を付ける。
チラリと覗く舌の鮮やかな赤色…
「熱っ」
将大は口を離して、再びボウルに息を吹きかける。
ボウルを抱える将大の指は、遥可のものよりも短く筋張っている。
荒れて傷だらけの手。
将大は舌を出して舐めるようにミルクを飲む。
その姿と首輪の組み合わせで、犬みたいだな、と遥可は思う。
遥可によって救い出された、ひとりぼっちの若い犬。
その首輪に鎖を付けて、これから一生お前を奴隷にする、と将大に言ったらどんな反応をするだろう?
遥可は考える。
今回のことに恩を感じて、そのまま服従するかもしれない。
あるいは、絶望して泣いてしまうかもしれない。
あるいは…黙って服従はするものの、永遠に心に鍵をかけて生きるかもしれない…
遥可がそんなことを考えてるとも知らず、将大は話しかける。
「遥可はニューヨークで生まれ育ったんだね?遥可のご両親も柔軟な考え方をしているんだ?」
「別にそんなこともないけど…」
「うちの父親は、地元ではそれなりに名の知れた会社の3代目社長だけど…信じられないくらい古くてガチガチな考え方の人…」
ボウルを持つ手に力が入る。
「『αは世界で一番偉いから、世界を支配していないといけない。αの男はαの女と結婚して、あるいはΩの男女と番になって、優秀なαの子孫を残さないといけない』父さんはいつもそんなことを言っていた」
将大はふふっと笑う。
「父さんの妻…俺の母親ももちろんαなんだけど、運命の悪戯が起こって…5歳年上の俺の兄貴がβだと判明した。そしたら…父さんは今までの溺愛ぶりから手のひら返して、『お前は俺の子供ではない』と言った。怒った母さんは兄貴を連れて家を出た。今じゃどこ行ったかも分かんない…」
「Ωだったらたまに聞く話だけど、βでそれってすげえな」
遥可の言葉に将大は苦笑する。
「勘弁して欲しいよ。おかげで全ての期待はαの俺にいくようになった。でも俺は…αの女性ともΩにも興味がない…ただΩのように犯されたいと欲望する変態αだった…」
「龍我を諦めてからはどうしてたの?」
「父さんの言葉が胸にあったから、表立って誰かと付き合おうとはならなかった。でも、家では隠れてオナニーしてた。最初は指を尻穴に入れて…違和感すごかったけど、だんだん快感に変わっていった。やがて、指では物足りなくなって、ネットで買った玩具でヤるようになった。最初は小さめのバイブで…最後はぶっとくてイボイボのついたバイブで自分を慰めてた…」
そのときの感覚が蘇ったのか、将大は気持ち良さそうな顔になる。
「でも、結局はお父さんにバレたんだろ?」
遥可の言葉に将大は表情を曇らせる。
「うん…あの人サイテーだった。俺の部屋に隠しカメラ設置して監視してたんだ…年頃なのに浮いた話1つない俺を心配してたのかもしいけど…で、俺がオナってるところを見てしまった…」
将大はため息をつく。
「すっげーキレられたよ…父さんからしたら、尻穴で気持ち良くなるのはΩの男と一部の女くらいだと思ってただろうから、まさか自分の息子がそうだとは思わなかったんだろうな。『畜生みたいな真似をするな。お前はお前に相応しいαの女を探して来い。それか適当なΩと番って子供を作れ』って言われちゃった」
「ひどいな」
遥可は将大に同情する。
「父さんはそういう人なんだ、今更変えられないんだ、って俺が大人の対応すれば良かったんだけどさ…でも、あの頃の俺は純粋だったし、父さんに俺のこと分かって欲しい、っていう気持ちがあったから…つい、言っちまった。『俺はαの女と結婚する気はないし、Ωと番になるつもりもない』って…父さんの逆鱗に触れて、全く口も聞いてくれなくなった。…そして、『間違っている』俺を矯正するために、とんでもない手段に出た…」
将大はまだ少しボウルの底に残っているミルクを見つめて唇を震わせる。
「何したの?」
遥可は聞く。
将大は目を伏せて言う。
「父さんは…フェロモン誘発剤を使って、俺にΩの女性を襲わせたんだ…」
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