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第3章
24.幸せな子ども
しおりを挟む遥可が気を利かせて、子どもをデパートのおもちゃ売り場に連れて行ってくれる。
将大と剛大は2人きりになる。
「あの子が…」
信じられないという目で将大は剛大を見る
「俺が父さんから引き取って育ててるんだ」
嬉しそうに剛大は話す。
「え?あの子は明日海が育ててたんじゃなかったの?なんでお兄ちゃんが引き取ったの?」
将大は混乱する。
「育ててるっていってもまだ半年だけどね」
剛大は恥ずかしそうに笑う。
「父さんの秘書の浦上さんから連絡があったんだよ。子どもを…海大くんを父さんの手から離して欲しい、って」
「海大くんっていうんだね、あの子…それにしても、あの浦上さんがお兄ちゃんにそんなことを頼んでくるなんて…」
将大は複雑な表情で剛大を見る。
剛大はフォローする。
「浦上さん、ものすごく後悔してたよ?将大と明日海さんにフェロモン誘発剤を渡したこと…そのせいで、望んでいない子どもを明日海さんが妊娠したり、将大が絶望して罪を犯したりしたのを見て、考えを改めたらしい。今まで父さんを信じてやってきたけど、父さんがおかしいんじゃないか、って…」
「でも、浦上さんは俺をあの店に引き渡したじゃないか!」
将大は大声を出す。
その後、ハッとして小声で話す。
「刑務所から出たときに車で迎えに来て…でも家方面に向かわないから聞いたら『将大が好きな場所』だって浦上さんは言った。Zのガレージに停められて、俺だけスタッフたちに捕まって連れてかれたんだよ?大きな男たちに担がれて、怖くて助けを求めてたのに、浦上さんはただ無表情に俺を見ていただけだったよ…」
将大の目にまた涙が溜まる。
剛大は悲しげな顔で将大を見る。
「浦上さん、父さんに騙されてたんだよ。将大が出所する直前に『もう将大坊ちゃまを辛い目に合わせたくない』って父さんに直接言ったんだよ。父さんは『分かってる。これからは将大の望むようにしよう。まずは、出所したら将大が望む場所に連れて行ってやってくれ』って言われたんだって」
剛大はため息をつく。
「浦上さん、Zがどういう場所なのかよく分かってなかったらしい…将大が連れてかれたときに初めて気づいたらしいんだけど、その場では呆然と見てることしかできなかった、って。帰って父さんに抗議したら、父さんはこう言ったらしい。『何が悪いんだ?死ぬまで男たちに犯され続けて将大も本望だろ?』って…それで浦上さんは目が覚めたんだって」
あまりに酷い父親の言葉を聴いて、光をなくした将大の目から涙が流れる。
剛大の目からも。
「浦上さんは、まずは将大を助けようと動いたんだって…でも、全く近づくこともできなかったらしい。それで…せめて、将大の子どもだけは不幸にしたくない、って俺に連絡くれたんだ」
「明日海はどうなったの?」
不安そうに将大は聞く。
「元気だよ。海大を出産した後、父さんにいろいろ嫌がらせされて、結局お金貰って海大を手放したんだって…今では番ができて、仕事も順調らしい」
剛大は微笑む。
「そっかー。良かった」
将大は安堵の表情を浮かべる。
「浦上さんから連絡受けて、俺は父さんに直談判しに行った。海大を引き取りたい、って…」
剛大はクククと笑う。
「父さんが俺なんかの言うことを聞くわけないよな。結局、胸ぐら掴んで言っちまったよ。『また俺や将大みたいに不幸な子どもを作るのか?」って。俺の見た目が厳ついのもあって、父さんビビってた」
剛大はシャツの上からでも分かるくらいに太い自分の二の腕をさすって笑う。
「でも、最後は浦上さんの一言が効いたよね。『私も剛大坊ちゃまと同じ意見でございます。40年以上こちらに務めさせていただきましたが、本日付で辞めさせていただきます』って言ってくれた」
「そうなんだ…」
剛大は同情的な声で言う。
「新入社員だった頃からずっと隣で力を貸してくれてた浦上さんに去られたのは、さすがの父さんもかなり応えたみたい…」
「どうでも良いよ。早く死んでくれとしか思わない」
将大は憎しみのこもった目で吐き捨てる。
剛大は困った顔をする。
「父さんに対しては、そう思って当然だと思う。でも、浦上さんのことは、許してあげて欲しいな。本当に反省してたから…退職金も全額将大と海大くんのために渡してくれたし…」
「…そんな簡単に言わないで」
絞り出すような声で将大は言う。
「海大くんのことについては、お兄ちゃんや浦上さんに感謝しかない。お金のことも本当に有難いことだよ。俺が父親失格だから…でも、それと許すこととは別…」
将大の身体が震えだす。
「遥可と会えなかったら…本当に俺は死ぬまで男たちに犯され続けてたんだよ?俺は男とヤるのが好きだけど…毎日クスリ打たれて、何人もの男にモノのように犯されて…弄ばれ、嘲笑わらわれて…やっぱり地獄だったよ。助けを求めたのに、そのまま俺を地獄に送り込んだのは浦上さんだよ。父さんが悪いのは分かってるけど、浦上さんも一生許せないよ…」
剛大を睨みながら、溢れそうになる涙を堪えながら将大は言う。
将大の尋常ではない様子を見て、剛大は頷く。
「分かった。もう将大にこの話はしない。浦上さんにもそのまま伝えとくよ」
剛大が連絡して、遥可と海大が戻ってくる。
しばらく話をした後、別れの時間になる。
「俺と海大くんは今夜ホテルに泊まるよ。明日の朝、3人で家に帰ろう」
剛大が言う。
「おじちゃん、お兄ちゃんも帰る?」
海大が剛大に聞く。
剛大は笑って言う。
「そうだよ。お兄ちゃんも明日から一緒だよ。でもね、お兄ちゃんじゃなくて、パパなんだよ」
「パパ?」
不思議そうに海大が聞く。
剛大は微笑む。
「詳しい話は海大が大きくなってからね」
少し考えた後、海大は小さな手を将大の前に出す。
「パパ、よろしくね」
将大はその手を握る。
「海大くん…海大。よろしくね」
2人で笑う。
将大は海大に見えないようにして、少し涙を浮かべる。
2人と別れた後、将大は遥可と買い物をして、明日からの生活に必要なものを揃えた。
その後、ビルの最上階にあるイタリアンレストランで夕食をとる。
個室をとって、2人きりの空間。
料理を待つ間、将大は昨日借りたばかりのスマホを出す。
「明日帰るときにこれも返すよ」
そう言いながら、将大は画面に釘付けになっている。
その後も、料理を待つ時間が発生する度にスマホを見ているので、遥可は心配になってくる。
メインの肉料理が来たところで、遥可は将大に話しかける。
「将大、何見てるの?せっかく最後の夜で、初めて2人で食事してるのに…なんか深刻な顔をしてるし…」
将大は少し考えて、聞く。
「遥可…どうして昨日俺を抱いたの?」
「は?」
何を今更?と言いたそうな遥可に、将大はスマホの画面を見せる。
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