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14 一年経って

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 彼と過ごすようになって、私は徐々に作り笑いをすることが減っていきました。
 そしてその分、心から笑うことが多くなっていったのです。

 きっと私の中にも、呪いはあったのでしょう。
 お父様によってかけられた、貴族の娘は『花』であれ、という呪いが……。
 以前の私は、お父様の自己顕示のための道具に過ぎませんでした。

 でも、それをラングリフ様が解いてくださったのです。
 初めてお会いしたとき、あの人が素顔の私の笑みを求めてくれたことで。

 他に結婚して変わったことといえば、社交の場に出なくなったことでしょうか。
 以前からそうでしたが、ラングリフ様はそちらに顔を出しません。

 それは、やはり彼の呪いが理由でした。
 自然、妻である私も同じくそういった場に出ることがなくなりました。

 結婚して半年が過ぎると、私はすっかり貴族社会から遠ざかっていました。
 だけど、それでよかったのだと今は思っています。

 以前も今も、私は『花』のままです。
 ただ、前と違って今の私はあの方のために咲く『花』でありたいのです。

 ラングリフ様の隣で、あの方の分まで笑っていたい。
 それが、今の私の願いであり、そして生きている理由そのものでした。

 彼のそばにいられるならば、他の方々が私を忘れても気にはなりません。
 社交界に何ら未練はありません。私はそう思っていたのですが――、

「……立食パーティー、ですか?」

 結婚して一年ほど経ったある日、ラングリフ様からその話を切り出されました。

「ああ、俺と一緒に出てほしいんだ」

 ラングリフ様は、非常に申し訳なさげなご様子でした。
 表情はいつもと同じですが、声の抑揚や調子から気持ちは大体読み取れます。

「王都の西に出現した魔物の件は知っているだろうか?」
「はい。聞き及んでいます。とても強い魔物で、街道が封鎖された、とか」

「そうだ。それをやっと討伐できてな。討ち果たしたのが、俺の騎士団に所属している騎士で、その功績から正式に貴族に取り立てられることが決まったんだ」
「まぁ、それはおめでとうございます!」

 ラングリフ様が団長を務める騎士団は、王都周辺の治安維持を任されています。
 騎士団の方々とは今まで何度も顔を合わせており、私も嬉しく思えました。

「立食パーティーは若き英雄の誕生を祝うためのものなんだが、ウチの団員だからな。俺が出ないのでは格好がつかない。それで君にも同行してほしいんだが……」
「何か、問題でも?」

 珍しく歯切れの悪いラングリフ様に、私はそう尋ねます。
 彼は小さく息をついて、やはり気まずげにしながらも答えてくれました。

「パーティーには父上も出席する。と、いうことはつまり――」
「サミュエル殿下とシルティアもその場にいる、ということですね。お父様達も」

「ああ。君にとっては苦痛かもしれないが……」
「いいえ、構いませんよ。私もご一緒させていただきます」

 私は、笑ってラングリフ様にうなずきました。

「いいのか?」
「ええ、大丈夫です。ラングリフ様と一緒でしたら、どこであっても平気です」

「ありがとう、リリエッタ。君がいてくれるなら、こんなに心強いことはないよ」
「どこにでもお連れください。私はラングリフ様の『花』ですから」

 そうして、私とラングリフ様は唇を重ねます。
 彼の腕に抱かれて、私は高まる気持ちに熱い吐息を漏らします。

 ラングリフ様は、私のことを案じてくれました。
 でも、話を聞いているうちに、私は少しずつ実感を覚えていったのです。

 サミュエル殿下も、シルティアも、お父様のことも、もう何とも思いません。
 自分でも驚くくらいに、あの人達のことがどうでもよくなっていました。

 ああ、本当に私はこの一年で変わったのだと実感します。
 これも、逞しい両腕で私を抱きしめてくれている、素敵な旦那様のおかげです。

 一か月後、私は初めてラングリフ様に伴われて社交場へと赴くのでした。
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