10 / 10
第8話 失敗賢者はギルドに戻る
しおりを挟む
ついに外に出ることができた。
「何とも、あっさりしたモンだなぁ……」
見覚えのある裏路地で、俺はそんな感想を漏らす。
足元には、開いたままのアイテムボックスが落ちている。
小屋の中でアルカがパチンと指を鳴らしたら、それだけで出れた。
楽園世界の管理者、っていうのは本当のことらしい。
俺は拾い上げたアイテムボックスを腰に装着して、軽く安堵の息をついた。
「ふぅ、何とかなったな」
何せ、三か月もこれの中にいたのだ。
その間、このアイテムボックスを誰かが拾った可能性だって十分あった。
「あ、こちらでの経過時間は一時間半ほどかと」
そう考えていた俺に、アルカがそう言った。
俺は目をまん丸にひん剥いて、首をギゴゴゴと動かして彼女を見る。
「……どゆこと?」
「エルシオンと現実では、時間の流れる速度が違うんです」
時間の流れる速度、とな。
「現在の比率ですと、外での一分がエルシオンの一日に相当します」
「メチャメチャ流れ速かったんだな、あっち……」
「はい。でも、旦那様は神果の影響で寿命に影響はないかと」
「そうか、神果は不老長寿の効果があるって……、ちょっと待ちなさい、アルカ君」
あっぶなッ!
アルカの言い方があまりに何気なさすぎて、一瞬見逃しそうになってしまった。
「何でしょうか、旦那様」
「それ! その、それ! その旦那様って呼び方、何事!?」
俺が声を荒げると、アルカはポ、と頬を赤らめさせて俺から目を逸らす。
「その、アルカは旦那様の妻となりましたので、呼び方もそれに合ったものを、と……」
くっ、急にモジモジ恥じらいやがって。もう絆されそう。
しかし、俺は何とか気を取り直して、アルカにきっぱり告げようとする。
「あのな、アルカ。俺は別に、結婚したつもりは――」
「え……」
途端に泣きそうになるアルカ。
その大きな瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。ウォアァァァァァ!!?
「………………ま、まずは婚約者から始めるのが、正しい順序だから」
「はい! 旦那様!」
汗ダラダラになって折れた俺の右腕に、アルカが嬉しそうにしがみついてきた。
無理だ……、無理だよ。
あんな顔されたら、断るのなんて到底無理。絶対不可能!
というワケで、何か婚約者ができてしまった。人生何があるかわかんねーな!
あと、その、柔らかい。すごく柔らかい。
何がとは言わないが、今かなり、俺の右腕が幸せ満喫中だ。
「……ふぅ。さて、こっからどうするか」
ひとしきり感触を堪能したのち、俺はここからの行動を考えた。
「ふむ、そうだな。なぁ、アルカ――」
ちょっと思いついて、俺はアルカに一つ確認を取った。
「それでしたら問題ありません!」
俺の右腕にしがみついたまま、自信満々にアルカはうなずく。
「さすがアルカだな。頼もしいぜ」
「えへへへ……」
左手で、アルカの頭を軽く撫でてやる。
身長差もあって、彼女の頭はちょうど撫でやすい高さにあるのだ。
「さて、それじゃあ行くか」
必要な確認も終わった。ここからはもう、やるべきことをやるだけだ。
「旦那様、どちらに行かれるのですか?」
問われた俺は、その建物がある方向を睨んで、口角を吊り上げながら告げる。
「冒険者ギルドだよ」
――と、いうワケで、俺は約一時間半(実質三か月)ぶりにギルドに戻った。
そこで俺を待っていたのは、当然ながら、同業者からの白い目だった。
今の俺には、そんなものでも少し懐かしく感じられる。
「おい、また来たぜ。冒険者志望の失敗賢者が」
「ハンッ、初心者だから優しくしてやんねぇとな。ギルドは優しくねぇだろうが」
そんな声がギルドのそこら中から。
しかしそれもアルカが入ってきた瞬間、ざわめきに変わる。
「な、何だあの女……」
「うおお、ものすげぇ別嬪じゃんか。何であんな上玉が……?」
そういう反応にもなるよなぁ。掛け値なしに絶世の美女だからな、アルカは。
あと、カレ・シャツとかいうのもかなりきわどいデザインだし。
「何事でしょうか。皆さん、アルカを見ています」
当の本人に全く自覚がないのが、ちょっと面白い。
さて、昼時なのもあって、カウンターはガラガラだ。都合がいい。
「依頼、受けたいんだけど」
「またあなたですか……」
対応に出たのはまたしてもリィシアだった。露骨にため息つきやがって。
「先程も申し上げました通り、ギルドから斡旋できるお仕事は一つもありません」
淡々とした物言いながら、声も硬く、言い方もつっけんどん。
俺への苛立ちを隠そうともしない。
「そこを何とか」
後ろから同業共の笑い声が聞こえるが、それを無視して俺は食い下がった。
「お仕事は一つもないと申し上げました。もし、どうしてもお仕事が欲しいのでしたら、御自分で指名依頼でも持ってくればいかがですか?」
返ってきたのが、突き放すようなその言葉。
俺はニヤリと笑う。何故ならば、それこそが俺が欲しかった言葉だからだ。
「じゃあ、そうするわ」
「え?」
呆けるリィシアをよそに、俺はくるりと踵を返す。
そこに見えるのは俺を話題の種にしてバカ笑いしている同業者諸君の姿。
「おい、おまえら!」
俺は初めて、自分から連中に声をかけた。
「あ?」
「何だァ、失敗賢者が」
と、同業者の目が俺に集まったところで、再度声を張り上げる。
「誰か、俺への指名依頼の依頼主になってくれよ。報酬はたんと弾むぜ!」
「「……は?」」
と、同業共は一瞬呆けて、直後に大爆笑。椅子から転げ落ちるやつまでいた。
「無能が祟ってついに失敗賢者が狂いやがったぜ!」
「何が指名依頼だ、笑わせんな!」
「バカなこと抜かしやがって、おまえなんぞにどんな報酬が出せるってんだ!」
ほぉほぉ、なるほど。やっぱそういう反応ね。
だったら見せてやるよ。俺が出せる、チンケな報酬をよ。
「アルカ」
「はい、旦那様」
アルカに合図を送ると、広げた右の手のひらに金色のリンゴが出現する。
それは、エルシオンから転送してもらったモノだ。
俺の右手に注目する同業共に、俺は笑いながら教えてやった。
「報酬は――、神果だ」
「何とも、あっさりしたモンだなぁ……」
見覚えのある裏路地で、俺はそんな感想を漏らす。
足元には、開いたままのアイテムボックスが落ちている。
小屋の中でアルカがパチンと指を鳴らしたら、それだけで出れた。
楽園世界の管理者、っていうのは本当のことらしい。
俺は拾い上げたアイテムボックスを腰に装着して、軽く安堵の息をついた。
「ふぅ、何とかなったな」
何せ、三か月もこれの中にいたのだ。
その間、このアイテムボックスを誰かが拾った可能性だって十分あった。
「あ、こちらでの経過時間は一時間半ほどかと」
そう考えていた俺に、アルカがそう言った。
俺は目をまん丸にひん剥いて、首をギゴゴゴと動かして彼女を見る。
「……どゆこと?」
「エルシオンと現実では、時間の流れる速度が違うんです」
時間の流れる速度、とな。
「現在の比率ですと、外での一分がエルシオンの一日に相当します」
「メチャメチャ流れ速かったんだな、あっち……」
「はい。でも、旦那様は神果の影響で寿命に影響はないかと」
「そうか、神果は不老長寿の効果があるって……、ちょっと待ちなさい、アルカ君」
あっぶなッ!
アルカの言い方があまりに何気なさすぎて、一瞬見逃しそうになってしまった。
「何でしょうか、旦那様」
「それ! その、それ! その旦那様って呼び方、何事!?」
俺が声を荒げると、アルカはポ、と頬を赤らめさせて俺から目を逸らす。
「その、アルカは旦那様の妻となりましたので、呼び方もそれに合ったものを、と……」
くっ、急にモジモジ恥じらいやがって。もう絆されそう。
しかし、俺は何とか気を取り直して、アルカにきっぱり告げようとする。
「あのな、アルカ。俺は別に、結婚したつもりは――」
「え……」
途端に泣きそうになるアルカ。
その大きな瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。ウォアァァァァァ!!?
「………………ま、まずは婚約者から始めるのが、正しい順序だから」
「はい! 旦那様!」
汗ダラダラになって折れた俺の右腕に、アルカが嬉しそうにしがみついてきた。
無理だ……、無理だよ。
あんな顔されたら、断るのなんて到底無理。絶対不可能!
というワケで、何か婚約者ができてしまった。人生何があるかわかんねーな!
あと、その、柔らかい。すごく柔らかい。
何がとは言わないが、今かなり、俺の右腕が幸せ満喫中だ。
「……ふぅ。さて、こっからどうするか」
ひとしきり感触を堪能したのち、俺はここからの行動を考えた。
「ふむ、そうだな。なぁ、アルカ――」
ちょっと思いついて、俺はアルカに一つ確認を取った。
「それでしたら問題ありません!」
俺の右腕にしがみついたまま、自信満々にアルカはうなずく。
「さすがアルカだな。頼もしいぜ」
「えへへへ……」
左手で、アルカの頭を軽く撫でてやる。
身長差もあって、彼女の頭はちょうど撫でやすい高さにあるのだ。
「さて、それじゃあ行くか」
必要な確認も終わった。ここからはもう、やるべきことをやるだけだ。
「旦那様、どちらに行かれるのですか?」
問われた俺は、その建物がある方向を睨んで、口角を吊り上げながら告げる。
「冒険者ギルドだよ」
――と、いうワケで、俺は約一時間半(実質三か月)ぶりにギルドに戻った。
そこで俺を待っていたのは、当然ながら、同業者からの白い目だった。
今の俺には、そんなものでも少し懐かしく感じられる。
「おい、また来たぜ。冒険者志望の失敗賢者が」
「ハンッ、初心者だから優しくしてやんねぇとな。ギルドは優しくねぇだろうが」
そんな声がギルドのそこら中から。
しかしそれもアルカが入ってきた瞬間、ざわめきに変わる。
「な、何だあの女……」
「うおお、ものすげぇ別嬪じゃんか。何であんな上玉が……?」
そういう反応にもなるよなぁ。掛け値なしに絶世の美女だからな、アルカは。
あと、カレ・シャツとかいうのもかなりきわどいデザインだし。
「何事でしょうか。皆さん、アルカを見ています」
当の本人に全く自覚がないのが、ちょっと面白い。
さて、昼時なのもあって、カウンターはガラガラだ。都合がいい。
「依頼、受けたいんだけど」
「またあなたですか……」
対応に出たのはまたしてもリィシアだった。露骨にため息つきやがって。
「先程も申し上げました通り、ギルドから斡旋できるお仕事は一つもありません」
淡々とした物言いながら、声も硬く、言い方もつっけんどん。
俺への苛立ちを隠そうともしない。
「そこを何とか」
後ろから同業共の笑い声が聞こえるが、それを無視して俺は食い下がった。
「お仕事は一つもないと申し上げました。もし、どうしてもお仕事が欲しいのでしたら、御自分で指名依頼でも持ってくればいかがですか?」
返ってきたのが、突き放すようなその言葉。
俺はニヤリと笑う。何故ならば、それこそが俺が欲しかった言葉だからだ。
「じゃあ、そうするわ」
「え?」
呆けるリィシアをよそに、俺はくるりと踵を返す。
そこに見えるのは俺を話題の種にしてバカ笑いしている同業者諸君の姿。
「おい、おまえら!」
俺は初めて、自分から連中に声をかけた。
「あ?」
「何だァ、失敗賢者が」
と、同業者の目が俺に集まったところで、再度声を張り上げる。
「誰か、俺への指名依頼の依頼主になってくれよ。報酬はたんと弾むぜ!」
「「……は?」」
と、同業共は一瞬呆けて、直後に大爆笑。椅子から転げ落ちるやつまでいた。
「無能が祟ってついに失敗賢者が狂いやがったぜ!」
「何が指名依頼だ、笑わせんな!」
「バカなこと抜かしやがって、おまえなんぞにどんな報酬が出せるってんだ!」
ほぉほぉ、なるほど。やっぱそういう反応ね。
だったら見せてやるよ。俺が出せる、チンケな報酬をよ。
「アルカ」
「はい、旦那様」
アルカに合図を送ると、広げた右の手のひらに金色のリンゴが出現する。
それは、エルシオンから転送してもらったモノだ。
俺の右手に注目する同業共に、俺は笑いながら教えてやった。
「報酬は――、神果だ」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる