37 / 166
第三章 宙色銀河商店街懺悔録
第34話 スダレちゃん、大敗北!
しおりを挟む
着いたよ、事件現場だよ!
時刻は午後六時。この時間帯でもまだまだ外は明るいなぁ。
「死体は~、お棺に入れられて、お葬式の会場に運び込まれてたんだよね~?」
「らしいなぁ、よー知らんけど」
斎場の上空で、俺はスダレにそう答える。
「ふみゅ~ん、なぁるほど~」
言いつつ、スダレは空中をクルクル回ったり、グルグル回ったり。
「何してるん?」
「お空久しぶりだから~、た~のし~!」
「ガキかしら。……ガキだったわね」
ミフユがフゥと息をつく。
まぁ、スダレの気持ちもわからんでもない。こいつ、飛翔の魔法使えないから。
スダレを浮かせているのは俺だ。自分とスダレに飛翔の魔法をかけている。
「しかし、今日も普通に葬式やってるな。身を隠さないと、中には入れないか」
見下ろす先の斎場には、喪服を着た人の姿がそれなりに見える。
郷塚家の葬式のときほどの人数はいないが、それでも少なくはない数だ。
死体が消えた現場に行くには、どうしても人の目についてしまう。
そこは『異階化』して、違う階層から現場の葬式会場に入ればいいんだが――、
「や~よ~、ナマの現場を拝みたいの~、『異階』はやなんだからね~」
スダレがこう言ってるから、それは無理。ワガママさんめ。
「仕方ねぇ、『隙間風の外套』使うかぁ」
「まだ暑いのに……」
ミフユが絶望的な声音を出すが、今はスダレにイニシアチブがあるので。
俺達三人は、それぞれの収納空間から、黒い布切れを取り出す。
それは体に羽織るフード付きのマントで、己を透明化させる便利アイテムだ。
ついでに地上からかすかに浮遊して移動できるので、足音も消せる優れモノだぞ。
「ちゃんと着ろよ~」
「わ~い、おパパとおママと潜入ごっこだ~」
「うう、もう暑い。笑えないわねぇ……」
外套を羽織って、はしゃぐスダレと嘆くミフユ。実年齢からすると反応逆じゃね?
俺達は斎場の裏手に降下すると、そこから建物の中へと入った。
前は気づかなかったが、斎場の中は空調が利いているのか、ひんやりとしていた。
俺は記憶を頼りに、郷塚の葬式が行われるはずだった会場を目指す。
そこでは、今日も普通に葬式が執り行われていた。
多数の弔問客がかしこまった様子でいる中、坊さんの読経だけが響いている。
『おパパ、ここ~?』
話し声でバレないよう、魔力を使った通信念話でやりとりをする。
『ここ、のはず』
実際に行ったワケじゃないので確信はないんだけど、合ってはいるはず。
『ふ~ん、どれどれ~』
と、スダレがその場で深呼吸を始める。
スーはー、スーハ―と、その豊かな胸をいっぱいに上下させたのち、
『実によき謎のかほり~、スメル~、フレグランス~。ここに間違いなし!』
『何でわかんだよ……』
『暑い、暑いわ……、汗が止まらないわ……』
ミフユはミフユで完全に茹で上がってるしよ。マジで笑うわ。
『そしたら~』
スダレが、その場で指輪を使って『異階化』を行なう。
すると、俺達三人だけ世界の階層が切り替わり、周りからは認識されなくなる。
状態としては、枡間井未来に行なった『異階放逐』と同じような感じだ。
普通の『異階化』では同じ空間にいる人間は全員巻き込まれる。
しかし、スダレの『異階化』はこうした細かい調整が可能だ。
それはこいつの異面体の能力が『異階化』に密接に関わっていることによる。
「暑かったァ~~~~!」
階層が切り替わった瞬間、ミフユがバッと外套を脱ぎ捨てた。
それを目の前にしているはずの葬式の列席者達は、しかし、気づいた様子もない。
「ビロバっちゃ~ん、出番だよ~」
同じく外套を脱いだスダレの手に、ヒュッと銀色の板みたいなものが現れる。
「何それ?」
「ビロバッちゃん~」
ビロバクサ?
スダレの異面体だが、あれ、ノーパソじゃなかったっけ?
「外だとタブレットPCになるみたいね。便利ね」
「さすがはおママ、わかってる~。それに比べておパパったら~」
……何よ?
「本当に令和の日本人なの~? 明治・大正生まれだったりしな~い?」
「チャキチャキの令和の小学二年生だわ!」
俺がそう叫ぶも、スダレは全く聞く様子もなく、タブレットを操作し始める。
「それじゃあ、謎を暴いてみましょうか~! お~!」
やる気満々でそう言うも、どうせ答えは自分で独占だろ。
スダレが、しばしタブレット画面を食い入るように見つめる。
「お、お? お! おぉ!? おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~!」
あ、何かすごい反応。
「へ~! ふ~ん、あ、そうなんだぁ~! へ~! すごぉ~い、そんなことあるんだぁ~! わ~、勉強になるな~。……えっ、そんなことまで~!? にゃは~!」
「…………」
…………うず。
「うわ、うわうわうわ~! わぁ~、そっかぁ~、そういうことかぁ~! あれがこーなって~、これがそーなって~、そこがああなるんだ~、わ~、わ~!」
「あの、スダレさん……?」
小声で呼んでみると、スダレがキッとこっちを睨み据えてきた。
「や~だよ~」
そして、ベ~ッと出される舌。
「この情報はウチだけのものだもんね~、教えてあげないよ~、っだ!」
「ぐはぁ……!」
「さっきまで全然意にも介してなかったくせに、気になっちゃったのね……」
血を吐かんばかりの俺に、ミフユが憐憫のまなざしを向けてきた。
はい、おもっくそ気になっちゃいました……。
「はぁ~、満足満足~♪ 今日はいい夢見れそうだぁ~!」
一方で、一人で全ての真相を掴んだスダレが、楽しそうなホクホク顔で言った。
ク、クソ、気になる。どうしても気になってしまう。クソォ!
「スダレ、あの、少しだけでも教えて……」
「やだ~」
「じゃあ、ヒント! ヒントだけでも!」
「やだ~」
「もう諦めなさいって……」
好奇心に駆られた俺の肩を、ミフユがポンと叩いてきた。
こうして、俺は別に抱く必要のない敗北感に打ちのめされながら、斎場を去った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
外套を再び羽織って、『異階化』を解除。
そして、俺達は建物の外へ出て、誰もいない裏手へと回る。
必要な用件は全て終わった。
あとはスダレを探偵事務所に送り届け、俺達は家に戻るだけだ。
「そ~だ~、せっかくここまで来たんだから~、結界の拡張、やってっていい?」
「そういえば、ここは読み取りの結界の範囲外だっつってたな」
「そ~なの~」
スダレの異面体の能力を使うために必要な、現実世界の情報を読み取る結界。
それの設置自体は、まぁ、大した手間じゃない。
「何でもいいから早くして~、暑いのよ~……」
ミフユがボヤく。
おまえ、そんな暑いの苦手だったっけ?
「一応、念のため斎場の敷地の外に出るまでは着てよう」
「うぁ~~~~……」
そんな死にそうな声出すなよ。
「じゃあとりあえず、この斎場を起点にして~」
――足音がした。
『念話に移行で』
『は~い』
『暑いわ……』
俺達が物陰に身を隠すと、それからすぐに二人の男がその場にやってきた。
どちらも、見覚えのある顔だった。
『ありゃ、貫満とかいう刑事に、郷塚の家の……』
『貫満隆一と、郷塚賢人だね~。賢人の方は何故かボッコボコだけど~』
『暑い……』
本当に暑そうだな……。ちょっと気の毒だけど、もう少し待ってろな。
「何でついてくるんだよ……」
「そりゃあ、こっちのセリフだぜ、郷塚の坊ちゃん。何でこんなところに?」
「あんたには関係ないだろ!」
「関係あるさ。俺は今、尾行中でね。この前の死体消失事件の犯人の、あんたを」
『えっ』
『えっ』
『暑いぃ~……』
郷塚賢人が、あの事件の犯人……?
「ワケわかんねぇ。何で俺なんだよ。俺みたいなガキに、どうやって……」
「方法なんざ知らねぇさ。何かあんだろ。だが、やったのはあんただ。間違いねぇ」
「どうして、そう断言できるんだよ!」
「目さ」
気色ばむ賢人に、貫満は笑って自分の目を指さした。
「葬式の場で、あんたは郷塚健司に向かってひどく怯えた目をしてた。ありゃ、殴られるのを怖がってた目じゃねぇ。自分のやったことがバレてないか恐れてる目さ」
「…………ッ!」
賢人は言葉こそ発しなかったが、今、確かに身をすくませた。
それを、貫満が見逃すはずがない。
「今、たじろいだな? 俺の言ってることが的外れなら、そんな反応はしねぇよな、坊ちゃんよ。……やっぱあんたなんだな、死体をかっぱらったのは」
「――別に、かっぱらってなんかないよ」
観念したのか、賢人が自ら認めるようなことを言い出す。
俺は、ふとスダレを見た。
『ぶぅ~~~~!』
うわ、すっごい不機嫌。めちゃくちゃ唇尖がってる。ロンギヌスの槍並に。
スダレがこの反応ってことは、本当に賢人が犯人なのか。
「どうやって死体を隠した」
「隠してもいない。ただ、魔法で透明にしただけだ」
……魔法、だと?
「オイオイ、大人をからかうなよ。魔法? 魔法だと?」
「別に信じてくれなくていいよ。けど俺は魔法を使ったんだ。ずっと前に死にかけたときから、魔法を使えるようになったんだよ……」
死にかけたのちに、使えるように。
まさか、賢人は『出戻り』か? ……いや、前世の記憶があるようには見えない。
枡間井未来のように、演技が達者である可能性もあるにはあるんだが。
「どうして、死体を隠したりした?」
「郷塚の家の葬式をブチ壊して、親父を笑ってやりたかっただけだよ」
「そのせいで、そんなツラになっちまったようだが?」
「ああ、今は後悔してるよ。また死にかけるかと思った。……クソ親父め」
腫れた自分の頬を押さえつつ、賢人が恨みを口にする。
「それで、どうするんだよ、刑事さん。俺を捕まえるのか?」
「そうだな、魔法で死体を隠したのが証明できるなら、そうしてぇところだ」
中学生のガキを相手に、貫満はきっぱりとそう告げる。
「だが、まぁ、今回は無理だな。次辺りは、本当に捕まえるかもしれねぇが」
「次って、何だよ……」
「郷塚の坊ちゃんよ、おめーは家族を嫌ってるかもしれねぇが、残念ながら十分に郷塚の人間だよ、おめーも。腹いせ目的で平気で死体をいじくれちまうんだからな」
「仕方がないだろ! 俺が使える魔法は大したことないんだ。俺にできることなんて、イタズラくらいしかないんだよ! それくらい、やり返したっていいだろ!」
「何も、よくはねぇさ。おめーが家族にどんだけひでぇ扱いを受けてようが、そいつを法を破る理由にしちゃいけねぇよ。日本はな、法治国家なんだよ」
「だったら親父を捕まえてくれよ。俺はこんな目に遭ってるんだぞ、刑事さん!」
「同情はするがね。今ンとこ、郷塚健司を捕まえる理由はねぇんだよ。やっこさん、小物のクセに多少頭は回るようでね。法を犯さない以上、俺らは動けねぇんだ」
「何だよ、それ……。何なんだよ……!」
ぶつける言葉の全てをことごとく打ち砕かれ、賢人は愕然となる。
そんな、打ちひしがれる中学生を前に、貫満は表情を変えずに淡々と告げる。
「ガキなら、大人に頼りな。おめーみたいなモンを助ける仕組みが、この国にゃあるはずだぜ。仕返しなんてくだらねぇこと考えてねぇで、さっさと逃げちまえよ」
「……ふざけんな、ふざけんなよ! これまで散々頼ろうとして、でも結局、誰も助けてくれなかったんだぞ、今さら誰に頼れって言うんだよ!」
「それは俺の知ったことじゃないな」
目に涙を浮かべて救いを求め、叫ぶ賢人に、だが貫満の言葉は冷酷だった。
「助けを求めるにしても、正しいやり方ってモンがあるだろうが。おめーはそれもせず泣いて喚いて、幼稚な仕返ししてるだけじゃねぇか。何でそんな情けねぇ野郎に、俺が手を貸さなきゃいけねぇんだ? 俺はおめーの親じゃねぇぞ」
「…………」
最後の最後まで、貫満は何一つ、賢人の求めに応じることはなかった。
もはや、賢人は何も言えない。ただ目を見開き、その場に呆然と立ち尽くすだけ。
「ま、今回は見逃してやるよ。次はねぇからな。じゃあな、郷塚の坊ちゃん」
そんな賢人に軽く手を振って、貫満はその場から去っていった。
そして、スダレが爆発する。
『もぉ~~~~! やんやんやん、やんなのぉ~! 何でウチだけが知ってた情報が、こんなところで明かされちゃうのォ~! やんやんなのぉ~~~~!』
『スダレ、本当に死体を隠したのは賢人なのか?』
俺が確認すると、価値をなくした情報だからか、スダレはあっさり答えてくれた。
『そうだよぉ~、あの子は、死にかけたときに前世の能力に目覚めかけた『出戻りしかけ』なの~。だから、異世界の記憶はないし、異面体も使えないのよ~』
『……『出戻りしかけ』とかあるのかよ』
そんなもの、初めて知ったぜ。だが――、
『あ、おパパ……』
俺は外套を脱いで、物陰から姿を現した。
「おい、郷塚賢人」
「……誰だよ、おまえ」
呼びかけると、返ってくる力のない声。
俺は賢人に向かって手を差し伸べて、自己紹介した。
「俺は、金鐘崎アキラ。傭兵だ」
「傭兵……?」
「郷塚賢人、おまえ、俺を雇ってみないか?」
俺は思った。
こいつを、俺の仕返しに巻き込んでやろう、と。
時刻は午後六時。この時間帯でもまだまだ外は明るいなぁ。
「死体は~、お棺に入れられて、お葬式の会場に運び込まれてたんだよね~?」
「らしいなぁ、よー知らんけど」
斎場の上空で、俺はスダレにそう答える。
「ふみゅ~ん、なぁるほど~」
言いつつ、スダレは空中をクルクル回ったり、グルグル回ったり。
「何してるん?」
「お空久しぶりだから~、た~のし~!」
「ガキかしら。……ガキだったわね」
ミフユがフゥと息をつく。
まぁ、スダレの気持ちもわからんでもない。こいつ、飛翔の魔法使えないから。
スダレを浮かせているのは俺だ。自分とスダレに飛翔の魔法をかけている。
「しかし、今日も普通に葬式やってるな。身を隠さないと、中には入れないか」
見下ろす先の斎場には、喪服を着た人の姿がそれなりに見える。
郷塚家の葬式のときほどの人数はいないが、それでも少なくはない数だ。
死体が消えた現場に行くには、どうしても人の目についてしまう。
そこは『異階化』して、違う階層から現場の葬式会場に入ればいいんだが――、
「や~よ~、ナマの現場を拝みたいの~、『異階』はやなんだからね~」
スダレがこう言ってるから、それは無理。ワガママさんめ。
「仕方ねぇ、『隙間風の外套』使うかぁ」
「まだ暑いのに……」
ミフユが絶望的な声音を出すが、今はスダレにイニシアチブがあるので。
俺達三人は、それぞれの収納空間から、黒い布切れを取り出す。
それは体に羽織るフード付きのマントで、己を透明化させる便利アイテムだ。
ついでに地上からかすかに浮遊して移動できるので、足音も消せる優れモノだぞ。
「ちゃんと着ろよ~」
「わ~い、おパパとおママと潜入ごっこだ~」
「うう、もう暑い。笑えないわねぇ……」
外套を羽織って、はしゃぐスダレと嘆くミフユ。実年齢からすると反応逆じゃね?
俺達は斎場の裏手に降下すると、そこから建物の中へと入った。
前は気づかなかったが、斎場の中は空調が利いているのか、ひんやりとしていた。
俺は記憶を頼りに、郷塚の葬式が行われるはずだった会場を目指す。
そこでは、今日も普通に葬式が執り行われていた。
多数の弔問客がかしこまった様子でいる中、坊さんの読経だけが響いている。
『おパパ、ここ~?』
話し声でバレないよう、魔力を使った通信念話でやりとりをする。
『ここ、のはず』
実際に行ったワケじゃないので確信はないんだけど、合ってはいるはず。
『ふ~ん、どれどれ~』
と、スダレがその場で深呼吸を始める。
スーはー、スーハ―と、その豊かな胸をいっぱいに上下させたのち、
『実によき謎のかほり~、スメル~、フレグランス~。ここに間違いなし!』
『何でわかんだよ……』
『暑い、暑いわ……、汗が止まらないわ……』
ミフユはミフユで完全に茹で上がってるしよ。マジで笑うわ。
『そしたら~』
スダレが、その場で指輪を使って『異階化』を行なう。
すると、俺達三人だけ世界の階層が切り替わり、周りからは認識されなくなる。
状態としては、枡間井未来に行なった『異階放逐』と同じような感じだ。
普通の『異階化』では同じ空間にいる人間は全員巻き込まれる。
しかし、スダレの『異階化』はこうした細かい調整が可能だ。
それはこいつの異面体の能力が『異階化』に密接に関わっていることによる。
「暑かったァ~~~~!」
階層が切り替わった瞬間、ミフユがバッと外套を脱ぎ捨てた。
それを目の前にしているはずの葬式の列席者達は、しかし、気づいた様子もない。
「ビロバっちゃ~ん、出番だよ~」
同じく外套を脱いだスダレの手に、ヒュッと銀色の板みたいなものが現れる。
「何それ?」
「ビロバッちゃん~」
ビロバクサ?
スダレの異面体だが、あれ、ノーパソじゃなかったっけ?
「外だとタブレットPCになるみたいね。便利ね」
「さすがはおママ、わかってる~。それに比べておパパったら~」
……何よ?
「本当に令和の日本人なの~? 明治・大正生まれだったりしな~い?」
「チャキチャキの令和の小学二年生だわ!」
俺がそう叫ぶも、スダレは全く聞く様子もなく、タブレットを操作し始める。
「それじゃあ、謎を暴いてみましょうか~! お~!」
やる気満々でそう言うも、どうせ答えは自分で独占だろ。
スダレが、しばしタブレット画面を食い入るように見つめる。
「お、お? お! おぉ!? おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~!」
あ、何かすごい反応。
「へ~! ふ~ん、あ、そうなんだぁ~! へ~! すごぉ~い、そんなことあるんだぁ~! わ~、勉強になるな~。……えっ、そんなことまで~!? にゃは~!」
「…………」
…………うず。
「うわ、うわうわうわ~! わぁ~、そっかぁ~、そういうことかぁ~! あれがこーなって~、これがそーなって~、そこがああなるんだ~、わ~、わ~!」
「あの、スダレさん……?」
小声で呼んでみると、スダレがキッとこっちを睨み据えてきた。
「や~だよ~」
そして、ベ~ッと出される舌。
「この情報はウチだけのものだもんね~、教えてあげないよ~、っだ!」
「ぐはぁ……!」
「さっきまで全然意にも介してなかったくせに、気になっちゃったのね……」
血を吐かんばかりの俺に、ミフユが憐憫のまなざしを向けてきた。
はい、おもっくそ気になっちゃいました……。
「はぁ~、満足満足~♪ 今日はいい夢見れそうだぁ~!」
一方で、一人で全ての真相を掴んだスダレが、楽しそうなホクホク顔で言った。
ク、クソ、気になる。どうしても気になってしまう。クソォ!
「スダレ、あの、少しだけでも教えて……」
「やだ~」
「じゃあ、ヒント! ヒントだけでも!」
「やだ~」
「もう諦めなさいって……」
好奇心に駆られた俺の肩を、ミフユがポンと叩いてきた。
こうして、俺は別に抱く必要のない敗北感に打ちのめされながら、斎場を去った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
外套を再び羽織って、『異階化』を解除。
そして、俺達は建物の外へ出て、誰もいない裏手へと回る。
必要な用件は全て終わった。
あとはスダレを探偵事務所に送り届け、俺達は家に戻るだけだ。
「そ~だ~、せっかくここまで来たんだから~、結界の拡張、やってっていい?」
「そういえば、ここは読み取りの結界の範囲外だっつってたな」
「そ~なの~」
スダレの異面体の能力を使うために必要な、現実世界の情報を読み取る結界。
それの設置自体は、まぁ、大した手間じゃない。
「何でもいいから早くして~、暑いのよ~……」
ミフユがボヤく。
おまえ、そんな暑いの苦手だったっけ?
「一応、念のため斎場の敷地の外に出るまでは着てよう」
「うぁ~~~~……」
そんな死にそうな声出すなよ。
「じゃあとりあえず、この斎場を起点にして~」
――足音がした。
『念話に移行で』
『は~い』
『暑いわ……』
俺達が物陰に身を隠すと、それからすぐに二人の男がその場にやってきた。
どちらも、見覚えのある顔だった。
『ありゃ、貫満とかいう刑事に、郷塚の家の……』
『貫満隆一と、郷塚賢人だね~。賢人の方は何故かボッコボコだけど~』
『暑い……』
本当に暑そうだな……。ちょっと気の毒だけど、もう少し待ってろな。
「何でついてくるんだよ……」
「そりゃあ、こっちのセリフだぜ、郷塚の坊ちゃん。何でこんなところに?」
「あんたには関係ないだろ!」
「関係あるさ。俺は今、尾行中でね。この前の死体消失事件の犯人の、あんたを」
『えっ』
『えっ』
『暑いぃ~……』
郷塚賢人が、あの事件の犯人……?
「ワケわかんねぇ。何で俺なんだよ。俺みたいなガキに、どうやって……」
「方法なんざ知らねぇさ。何かあんだろ。だが、やったのはあんただ。間違いねぇ」
「どうして、そう断言できるんだよ!」
「目さ」
気色ばむ賢人に、貫満は笑って自分の目を指さした。
「葬式の場で、あんたは郷塚健司に向かってひどく怯えた目をしてた。ありゃ、殴られるのを怖がってた目じゃねぇ。自分のやったことがバレてないか恐れてる目さ」
「…………ッ!」
賢人は言葉こそ発しなかったが、今、確かに身をすくませた。
それを、貫満が見逃すはずがない。
「今、たじろいだな? 俺の言ってることが的外れなら、そんな反応はしねぇよな、坊ちゃんよ。……やっぱあんたなんだな、死体をかっぱらったのは」
「――別に、かっぱらってなんかないよ」
観念したのか、賢人が自ら認めるようなことを言い出す。
俺は、ふとスダレを見た。
『ぶぅ~~~~!』
うわ、すっごい不機嫌。めちゃくちゃ唇尖がってる。ロンギヌスの槍並に。
スダレがこの反応ってことは、本当に賢人が犯人なのか。
「どうやって死体を隠した」
「隠してもいない。ただ、魔法で透明にしただけだ」
……魔法、だと?
「オイオイ、大人をからかうなよ。魔法? 魔法だと?」
「別に信じてくれなくていいよ。けど俺は魔法を使ったんだ。ずっと前に死にかけたときから、魔法を使えるようになったんだよ……」
死にかけたのちに、使えるように。
まさか、賢人は『出戻り』か? ……いや、前世の記憶があるようには見えない。
枡間井未来のように、演技が達者である可能性もあるにはあるんだが。
「どうして、死体を隠したりした?」
「郷塚の家の葬式をブチ壊して、親父を笑ってやりたかっただけだよ」
「そのせいで、そんなツラになっちまったようだが?」
「ああ、今は後悔してるよ。また死にかけるかと思った。……クソ親父め」
腫れた自分の頬を押さえつつ、賢人が恨みを口にする。
「それで、どうするんだよ、刑事さん。俺を捕まえるのか?」
「そうだな、魔法で死体を隠したのが証明できるなら、そうしてぇところだ」
中学生のガキを相手に、貫満はきっぱりとそう告げる。
「だが、まぁ、今回は無理だな。次辺りは、本当に捕まえるかもしれねぇが」
「次って、何だよ……」
「郷塚の坊ちゃんよ、おめーは家族を嫌ってるかもしれねぇが、残念ながら十分に郷塚の人間だよ、おめーも。腹いせ目的で平気で死体をいじくれちまうんだからな」
「仕方がないだろ! 俺が使える魔法は大したことないんだ。俺にできることなんて、イタズラくらいしかないんだよ! それくらい、やり返したっていいだろ!」
「何も、よくはねぇさ。おめーが家族にどんだけひでぇ扱いを受けてようが、そいつを法を破る理由にしちゃいけねぇよ。日本はな、法治国家なんだよ」
「だったら親父を捕まえてくれよ。俺はこんな目に遭ってるんだぞ、刑事さん!」
「同情はするがね。今ンとこ、郷塚健司を捕まえる理由はねぇんだよ。やっこさん、小物のクセに多少頭は回るようでね。法を犯さない以上、俺らは動けねぇんだ」
「何だよ、それ……。何なんだよ……!」
ぶつける言葉の全てをことごとく打ち砕かれ、賢人は愕然となる。
そんな、打ちひしがれる中学生を前に、貫満は表情を変えずに淡々と告げる。
「ガキなら、大人に頼りな。おめーみたいなモンを助ける仕組みが、この国にゃあるはずだぜ。仕返しなんてくだらねぇこと考えてねぇで、さっさと逃げちまえよ」
「……ふざけんな、ふざけんなよ! これまで散々頼ろうとして、でも結局、誰も助けてくれなかったんだぞ、今さら誰に頼れって言うんだよ!」
「それは俺の知ったことじゃないな」
目に涙を浮かべて救いを求め、叫ぶ賢人に、だが貫満の言葉は冷酷だった。
「助けを求めるにしても、正しいやり方ってモンがあるだろうが。おめーはそれもせず泣いて喚いて、幼稚な仕返ししてるだけじゃねぇか。何でそんな情けねぇ野郎に、俺が手を貸さなきゃいけねぇんだ? 俺はおめーの親じゃねぇぞ」
「…………」
最後の最後まで、貫満は何一つ、賢人の求めに応じることはなかった。
もはや、賢人は何も言えない。ただ目を見開き、その場に呆然と立ち尽くすだけ。
「ま、今回は見逃してやるよ。次はねぇからな。じゃあな、郷塚の坊ちゃん」
そんな賢人に軽く手を振って、貫満はその場から去っていった。
そして、スダレが爆発する。
『もぉ~~~~! やんやんやん、やんなのぉ~! 何でウチだけが知ってた情報が、こんなところで明かされちゃうのォ~! やんやんなのぉ~~~~!』
『スダレ、本当に死体を隠したのは賢人なのか?』
俺が確認すると、価値をなくした情報だからか、スダレはあっさり答えてくれた。
『そうだよぉ~、あの子は、死にかけたときに前世の能力に目覚めかけた『出戻りしかけ』なの~。だから、異世界の記憶はないし、異面体も使えないのよ~』
『……『出戻りしかけ』とかあるのかよ』
そんなもの、初めて知ったぜ。だが――、
『あ、おパパ……』
俺は外套を脱いで、物陰から姿を現した。
「おい、郷塚賢人」
「……誰だよ、おまえ」
呼びかけると、返ってくる力のない声。
俺は賢人に向かって手を差し伸べて、自己紹介した。
「俺は、金鐘崎アキラ。傭兵だ」
「傭兵……?」
「郷塚賢人、おまえ、俺を雇ってみないか?」
俺は思った。
こいつを、俺の仕返しに巻き込んでやろう、と。
1
あなたにおすすめの小説
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る
丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。
現代では中世近世史を研究する大学講師。
史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。
ならば変える。
剣でも戦でもない。
政治と制度、国家設計によって。
秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、
戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。
これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。
戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。
(2月15日記)
連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。
一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(当面、月、水、金、土、日の更新)
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる