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第五章 夏休み、宙色市歴史探訪
第78話 一日目終了、そしてあの人からの電話
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う~む、何もわからんかった。
七星句に語られた『七つ目石』について、色々調べてみるも進展なし!
気がつけば、空はすっかり茜色。気温も少し下がってきてる。
「今日はここまでかしらね~……」
知りたがりミフユちゃんも、ついに根負け。
これは、さすがにタイムアップ。一日目終了かなー。
「あ、終わりですか? それじゃあ、帰りに居酒屋寄ってきます?」
シイナが、酒を飲むジェスチャーをする。
金曜日の仕事帰りのサラリーマンかよ、おまえはよぉ……。
「このまま直帰でーす。手伝ってくれたお礼に夕飯奢るくらいはするけど」
「え、本当ですか? ど、どこ行きますか……?」
期待を寄せるな。のどを鳴らすな。
「ウチに帰ってお袋の手料理を振る舞ってやろうじゃないか」
「え~、何ですかそれぇ~。自炊なんて私だって普通にしてますよ~」
「バカねぇ、あんた。アキラのお義母様のお料理は、…………スゴいわよ?」
「ええッ、そ、そうなんですか……? ゴクリ……」
何故そこで溜めを作った、ミフユよ。
あと、おまえもご相伴にあずかる気だな。瞳が爛々に輝いてやがるぞ。
「ふ、ふ~ん……? なるほど。それなら夕飯ご一緒してあげてもいいですよ? でも、どうかなぁ。私も色々食べて舌が肥えてるからなぁ。満足できるといいなぁ」
「今のおまえの反応はミフユも通った道だぞ、もはや結末は見えたわ!」
「え、そうなんですか!?」
「あ~あ~あ~、何のことかしら~、全然覚えてないわ~!」
ミフユちゃんは誤魔化し方が下手! 実に下手だなぁ! ワッハッハッハ!
「お帰りですか。随分と長居されておりましたなぁ」
お堂の方に回ると、ジャージ姿の神主さんが話しかけてきた。
「とっても大きな岩で驚きました。見せてくれてありがとうございました!」
ペコリとお辞儀をして、俺は神主さんにお礼を言う。
「ホッホ、構いませんとも。……ところで、なのですが」
「はい、なんですか~?」
「坊やのお名前は、金鐘崎アキラ君、ですかな?」
神主さんが、俺の名前を言い当てる。
その手には薄っぺらい封筒がある。何だ、こりゃどういうイベントだ。
「そうだけど……」
と、俺は警戒度を高めつつ、神主さんにうなずく。
「実は、坊や達がウチに来る前に、男の人が一人で来ましてね。アキラ君にこれを渡すように頼まれてしまいましてね。さっきは忘れていましたが」
言って、神主さんは俺に封筒を差し出す。
シイナもミフユも、怪訝そうな顔でその封筒に目をやっていた。
俺達が来る前にこの神社に来ていた男?
そういえば、神主さんも俺達が来たときに千客万来とか言ってたな……。
「その男の人は、どんな人だったの?」
「ふむ、そうですなぁ。ごくごく普通の男の人でしたな。ただ一点、おかしな点が」
「それは、どんな?」
「その方は、ご自分を『ツリーマン』と呼んでおりましたな」
ツリーマン? 樹木男? 吊られた男?
「そうなんだ。あ、ありがとうございます……」
「いえいえ」
封筒を受け取って、俺達は九ツ目神社を辞した。
そして、石段を下る最中、俺は受け取った封筒の中身を確認する。
「何だ、これ……」
そこに描かれていたのは、文字ではなく絵でもなく、図。
急いで書き殴ったような感じで『△』だけが、大きく描かれていた。
――せめて、日本語にしてほしかったなぁ、って。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
木屋は逃げた。
だから捕まえて、グチャグチャにした。
柳原は泣きを入れてきた。
だから捕まえて、メチャクチャにした。
あの二人はダメだ。あの二人は、もうダメだ。
他の十八人もダメだ。あの十八人は、もうダメだ。
あそこにいた中で、あのアキラとかいうガキに抗えるのは自分だけ。
その薄っぺらい自負だけが、三ツ矢のワルガキとしてのプライドを支えていた。
「……それで、どうなったんだ?」
宙色市内、郊外。
朽ちかけた廃工場で、その男は三ツ矢に先を促す。
屋根に空いた穴から差し込む月の光が、男の姿を闇の中に浮かび上がらせている。
壊れたソファに座る、三ツ矢などよりも遥かに細身で背の低い少年だった。
髪の毛は白に近い灰色。
瞳は、血のような鮮やかな赤。
真夏なのに、真っ白いワイシャツに黒ネクタイ、そして黒のジャケット。
ズボンも黒で、その格好はまるで喪服。対照的に、覗く肌は病的なまでに白い。
蒸し暑い夜だった。蒸し暑い夜であるはずだった。
なのに少年は汗一つかかず、平伏する三ツ矢へと女性のような声で語りかける。
「三ツ矢、それからどうなったんだ? 教えてほしいなぁ」
「は、はいッ、ヘッド! それから気がついたら、お、俺達は道路に寝てて……」
三ツ矢は頭を下げたまま、その少年を見ようとしなかった。
界隈では武闘派として知られる彼も、目の前の相手にだけは逆らえなかった。
――『堕悪天翼騎士団』ヘッド、司馬誡徒。
中学二年生でありながら宙色市の約半分を牛耳る、ワルガキの頂点。
その髪の色と整いすぎた容貌から、近隣では『氷の王子』とも呼ばれている。
まるで女性のようにも見える線の細い少年だが、その存在感は圧倒的だ。
平伏している三ツ矢も、今現在、全く生きた心地がしていない。
のど元に冷たい刃を押しつけられたかのような、本能的な恐怖が心を占めている。
眼前の、繊細な見た目の少年は、その気になれば自分を秒で殺せる。
その確信は、初めて司馬を見たときから抱いているものだ。
「なるほどねぇ、なるほど。ふぅん。変な感じ、か」
「は、はい……」
「それって、こんな感じか?」
と、いう司馬の声の直後、三ツ矢は昼間に覚えた違和感をまた体験する。
「こ、これです! 間違いありません!」
「そう。なるほどね」
無表情だった司馬の口の端が、軽く吊り上がる。
彼は、右手の指にはめた銀のリングをいじくり回している。
「そういえば、ちょっと前にさぁ」
「はい……」
「北村のグループ、何かいきなり全員失踪したじゃん?」
「ええ、そうですね。覚えています」
北村――、北村理史。
宙色市の半グレの中でも有名な男で、様々な組織と繋がっていた自称社長だ。
彼が率いていた組織が、ある日、北村本人含めていきなり消え去った。
宙色市の裏社会では、それなりに大きな噂になった事件だ。
ヤバイ組織に目をつけられただの、夜逃げしただの、様々な説が囁かれた。
しかし結局、真相はわからないまま、今に至っている。
「あとさぁ、芦井組、壊滅したって話、知ってる?」
「はい。それもつい最近の話、でしたね」
芦井組は宙色市に昔から存在した暴力団だ。
大地主である郷塚家と長年繋がっていて、市内に一定の勢力を維持していた。
それが、つい最近解散して、組員はどこぞの組織に吸収されたとか。
だが、それが一体どうしたというのだろうか。
どちらも宙色の裏社会を賑わせた大事件ではあるが、今日の件にどう関わるのか。
「三ツ矢さぁ、もう一回確認なんだけどさ」
「は、はい! ヘッド……!」
「そのガキ、確かに『マガツラ』って言ったんだね?」
「はい、言いました! 俺ははっきりと聞きました、あのガキが――」
「ああ、もういいよ。暑苦しいのは嫌いだ。言ったのを聞いたなら、それでいい」
「申し訳ありません!」
「そうかそうか、マガツラか。それはもう、決定的だなぁ。……バーンズか」
三ツ矢の耳に、司馬がクスクスと笑う声が聞こえてくる。
司馬の言っていることが、彼には微塵もわからない。
だが、その甘く高い声に含まれる喜悦の色だけは、しっかり感じとれた。
「いやぁ、大変なのと当たっちゃったねぇ、三ツ矢。柳原と木屋も。そりゃあ勝てるはずがない。相手が悪すぎたね。三人とも生き残れたのは、とんでもない幸運だ」
「ヘッドは、あのガキのことをご存じなので……?」
ちょっとした好奇心から、三ツ矢は下げていた頭をあげようとする。
だが次の瞬間、見える景色がいきなり変わった。
あれ、と思った。
自分の真下に、司馬がいる。位置関係が変だった。自分の顔の下に、司馬の顔?
「知らなくていいことを知ろうとしたから、罰ね」
言って、司馬は大きく口を空け、ボタボタと滴る何かを飲んでいる。
何を飲んでいる。何が滴っている。いや、そもそも、この状況は一体何なんだ。
混乱から視線をさまよわせる三ツ矢は、ふと見つけてしまった。
自分と同じ服を着た首のない人形が、自分と同じように地べたに座っている。
――え、あれ人形?
そう思ったとき、彼はようやく自分に起きた事態を把握した。
彼は、首を刎ねられていた。そして流れ落ちる血を、司馬に飲み下されていた。
「ィ――――ッ!?」
声は出ない。首だけなのだから当然だ。
死んでいない。首だけなのだから不自然だ。
「大丈夫、あとで蘇生はしてやるからさ。んっ、んっく……」
自分の血が嚥下される音を聴きながら、三ツ矢の意識は無明へと落ちていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
シイナは、結局ミフユの部屋に泊まることとなりました。
理由は、おビール様を飲み過ぎたからです。
「だってこんな美味しいお料理にビールなしとか、罪ですよ、罪ッ!」
はい、ミフユばりの見事な手のひら返しでした。
あいつ一人でどんだけ空けたよ、缶ビール。いや、俺も少しだけ飲んだけどさ。
「えー! シイちゃん泊まるの? やった~! ……って、酒クセェッ!?」
これはタマキの反応です。
バカめ、シイナが理由もなくお泊り会をすると思ったか!
グデングデンに潰れたシイナをタマキに連れていってもらって、ようやく一人だ。
さてさて、改めて本日の成果を振り返ってみよう。
まずは、全てのヒントとなる七星句が明らかになった。
そして今日、そのうちの『1844』と『七つ目石』について判明した。
初日でこれだけ調べられたのは、かなり大きいのではないだろうか。
だが、シイナによって『七つ目石』が儀式魔法の祭器であることがわかった。
ついでに、同じような祭器が市内にまだ存在するだろうことも。
そして帰り際、神主さんから渡された『△』が書かれた紙。
それを描いたのは『ツリーマン』を名乗る謎の男。
いや~、何ぞこれ。
全くわからんぞ、ホント何ぞこれ。
それに加えて、まだ未調査の七星句があと五つ。
宙船坂、観神之宮、鬼詛、カディルグナ、そして――、集。
このうち、鬼詛とカディルグナは異世界の言葉で、意味も何となくわかる。
だが、だからこそわからない。どこにそんなものが関わってくるのか。
「ふ~む……」
自分の部屋で、俺は腕を組んで考えていた。
まぁ、まだ初日だ。
慌てる必要は全然ないんだが、やっぱ気になっちゃうよなぁ、諸々。
「ふぁ……」
と、考えているうちに自然とあくびが出てきた。
午前中遊び倒して、午後は丸々調査に費やしたからなー、そりゃ眠くもなるか。
そろそろ寝るかな~、と思っていたところに電話の鳴る音。
「はい、金鐘崎です」
と、お袋が電話に出る。
オイオイ、この時間に電話かよ。もう午後十時だぞ。子供は寝る時間だぞー。
「――あら、集さん」
え、親父?
七星句に語られた『七つ目石』について、色々調べてみるも進展なし!
気がつけば、空はすっかり茜色。気温も少し下がってきてる。
「今日はここまでかしらね~……」
知りたがりミフユちゃんも、ついに根負け。
これは、さすがにタイムアップ。一日目終了かなー。
「あ、終わりですか? それじゃあ、帰りに居酒屋寄ってきます?」
シイナが、酒を飲むジェスチャーをする。
金曜日の仕事帰りのサラリーマンかよ、おまえはよぉ……。
「このまま直帰でーす。手伝ってくれたお礼に夕飯奢るくらいはするけど」
「え、本当ですか? ど、どこ行きますか……?」
期待を寄せるな。のどを鳴らすな。
「ウチに帰ってお袋の手料理を振る舞ってやろうじゃないか」
「え~、何ですかそれぇ~。自炊なんて私だって普通にしてますよ~」
「バカねぇ、あんた。アキラのお義母様のお料理は、…………スゴいわよ?」
「ええッ、そ、そうなんですか……? ゴクリ……」
何故そこで溜めを作った、ミフユよ。
あと、おまえもご相伴にあずかる気だな。瞳が爛々に輝いてやがるぞ。
「ふ、ふ~ん……? なるほど。それなら夕飯ご一緒してあげてもいいですよ? でも、どうかなぁ。私も色々食べて舌が肥えてるからなぁ。満足できるといいなぁ」
「今のおまえの反応はミフユも通った道だぞ、もはや結末は見えたわ!」
「え、そうなんですか!?」
「あ~あ~あ~、何のことかしら~、全然覚えてないわ~!」
ミフユちゃんは誤魔化し方が下手! 実に下手だなぁ! ワッハッハッハ!
「お帰りですか。随分と長居されておりましたなぁ」
お堂の方に回ると、ジャージ姿の神主さんが話しかけてきた。
「とっても大きな岩で驚きました。見せてくれてありがとうございました!」
ペコリとお辞儀をして、俺は神主さんにお礼を言う。
「ホッホ、構いませんとも。……ところで、なのですが」
「はい、なんですか~?」
「坊やのお名前は、金鐘崎アキラ君、ですかな?」
神主さんが、俺の名前を言い当てる。
その手には薄っぺらい封筒がある。何だ、こりゃどういうイベントだ。
「そうだけど……」
と、俺は警戒度を高めつつ、神主さんにうなずく。
「実は、坊や達がウチに来る前に、男の人が一人で来ましてね。アキラ君にこれを渡すように頼まれてしまいましてね。さっきは忘れていましたが」
言って、神主さんは俺に封筒を差し出す。
シイナもミフユも、怪訝そうな顔でその封筒に目をやっていた。
俺達が来る前にこの神社に来ていた男?
そういえば、神主さんも俺達が来たときに千客万来とか言ってたな……。
「その男の人は、どんな人だったの?」
「ふむ、そうですなぁ。ごくごく普通の男の人でしたな。ただ一点、おかしな点が」
「それは、どんな?」
「その方は、ご自分を『ツリーマン』と呼んでおりましたな」
ツリーマン? 樹木男? 吊られた男?
「そうなんだ。あ、ありがとうございます……」
「いえいえ」
封筒を受け取って、俺達は九ツ目神社を辞した。
そして、石段を下る最中、俺は受け取った封筒の中身を確認する。
「何だ、これ……」
そこに描かれていたのは、文字ではなく絵でもなく、図。
急いで書き殴ったような感じで『△』だけが、大きく描かれていた。
――せめて、日本語にしてほしかったなぁ、って。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
木屋は逃げた。
だから捕まえて、グチャグチャにした。
柳原は泣きを入れてきた。
だから捕まえて、メチャクチャにした。
あの二人はダメだ。あの二人は、もうダメだ。
他の十八人もダメだ。あの十八人は、もうダメだ。
あそこにいた中で、あのアキラとかいうガキに抗えるのは自分だけ。
その薄っぺらい自負だけが、三ツ矢のワルガキとしてのプライドを支えていた。
「……それで、どうなったんだ?」
宙色市内、郊外。
朽ちかけた廃工場で、その男は三ツ矢に先を促す。
屋根に空いた穴から差し込む月の光が、男の姿を闇の中に浮かび上がらせている。
壊れたソファに座る、三ツ矢などよりも遥かに細身で背の低い少年だった。
髪の毛は白に近い灰色。
瞳は、血のような鮮やかな赤。
真夏なのに、真っ白いワイシャツに黒ネクタイ、そして黒のジャケット。
ズボンも黒で、その格好はまるで喪服。対照的に、覗く肌は病的なまでに白い。
蒸し暑い夜だった。蒸し暑い夜であるはずだった。
なのに少年は汗一つかかず、平伏する三ツ矢へと女性のような声で語りかける。
「三ツ矢、それからどうなったんだ? 教えてほしいなぁ」
「は、はいッ、ヘッド! それから気がついたら、お、俺達は道路に寝てて……」
三ツ矢は頭を下げたまま、その少年を見ようとしなかった。
界隈では武闘派として知られる彼も、目の前の相手にだけは逆らえなかった。
――『堕悪天翼騎士団』ヘッド、司馬誡徒。
中学二年生でありながら宙色市の約半分を牛耳る、ワルガキの頂点。
その髪の色と整いすぎた容貌から、近隣では『氷の王子』とも呼ばれている。
まるで女性のようにも見える線の細い少年だが、その存在感は圧倒的だ。
平伏している三ツ矢も、今現在、全く生きた心地がしていない。
のど元に冷たい刃を押しつけられたかのような、本能的な恐怖が心を占めている。
眼前の、繊細な見た目の少年は、その気になれば自分を秒で殺せる。
その確信は、初めて司馬を見たときから抱いているものだ。
「なるほどねぇ、なるほど。ふぅん。変な感じ、か」
「は、はい……」
「それって、こんな感じか?」
と、いう司馬の声の直後、三ツ矢は昼間に覚えた違和感をまた体験する。
「こ、これです! 間違いありません!」
「そう。なるほどね」
無表情だった司馬の口の端が、軽く吊り上がる。
彼は、右手の指にはめた銀のリングをいじくり回している。
「そういえば、ちょっと前にさぁ」
「はい……」
「北村のグループ、何かいきなり全員失踪したじゃん?」
「ええ、そうですね。覚えています」
北村――、北村理史。
宙色市の半グレの中でも有名な男で、様々な組織と繋がっていた自称社長だ。
彼が率いていた組織が、ある日、北村本人含めていきなり消え去った。
宙色市の裏社会では、それなりに大きな噂になった事件だ。
ヤバイ組織に目をつけられただの、夜逃げしただの、様々な説が囁かれた。
しかし結局、真相はわからないまま、今に至っている。
「あとさぁ、芦井組、壊滅したって話、知ってる?」
「はい。それもつい最近の話、でしたね」
芦井組は宙色市に昔から存在した暴力団だ。
大地主である郷塚家と長年繋がっていて、市内に一定の勢力を維持していた。
それが、つい最近解散して、組員はどこぞの組織に吸収されたとか。
だが、それが一体どうしたというのだろうか。
どちらも宙色の裏社会を賑わせた大事件ではあるが、今日の件にどう関わるのか。
「三ツ矢さぁ、もう一回確認なんだけどさ」
「は、はい! ヘッド……!」
「そのガキ、確かに『マガツラ』って言ったんだね?」
「はい、言いました! 俺ははっきりと聞きました、あのガキが――」
「ああ、もういいよ。暑苦しいのは嫌いだ。言ったのを聞いたなら、それでいい」
「申し訳ありません!」
「そうかそうか、マガツラか。それはもう、決定的だなぁ。……バーンズか」
三ツ矢の耳に、司馬がクスクスと笑う声が聞こえてくる。
司馬の言っていることが、彼には微塵もわからない。
だが、その甘く高い声に含まれる喜悦の色だけは、しっかり感じとれた。
「いやぁ、大変なのと当たっちゃったねぇ、三ツ矢。柳原と木屋も。そりゃあ勝てるはずがない。相手が悪すぎたね。三人とも生き残れたのは、とんでもない幸運だ」
「ヘッドは、あのガキのことをご存じなので……?」
ちょっとした好奇心から、三ツ矢は下げていた頭をあげようとする。
だが次の瞬間、見える景色がいきなり変わった。
あれ、と思った。
自分の真下に、司馬がいる。位置関係が変だった。自分の顔の下に、司馬の顔?
「知らなくていいことを知ろうとしたから、罰ね」
言って、司馬は大きく口を空け、ボタボタと滴る何かを飲んでいる。
何を飲んでいる。何が滴っている。いや、そもそも、この状況は一体何なんだ。
混乱から視線をさまよわせる三ツ矢は、ふと見つけてしまった。
自分と同じ服を着た首のない人形が、自分と同じように地べたに座っている。
――え、あれ人形?
そう思ったとき、彼はようやく自分に起きた事態を把握した。
彼は、首を刎ねられていた。そして流れ落ちる血を、司馬に飲み下されていた。
「ィ――――ッ!?」
声は出ない。首だけなのだから当然だ。
死んでいない。首だけなのだから不自然だ。
「大丈夫、あとで蘇生はしてやるからさ。んっ、んっく……」
自分の血が嚥下される音を聴きながら、三ツ矢の意識は無明へと落ちていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
シイナは、結局ミフユの部屋に泊まることとなりました。
理由は、おビール様を飲み過ぎたからです。
「だってこんな美味しいお料理にビールなしとか、罪ですよ、罪ッ!」
はい、ミフユばりの見事な手のひら返しでした。
あいつ一人でどんだけ空けたよ、缶ビール。いや、俺も少しだけ飲んだけどさ。
「えー! シイちゃん泊まるの? やった~! ……って、酒クセェッ!?」
これはタマキの反応です。
バカめ、シイナが理由もなくお泊り会をすると思ったか!
グデングデンに潰れたシイナをタマキに連れていってもらって、ようやく一人だ。
さてさて、改めて本日の成果を振り返ってみよう。
まずは、全てのヒントとなる七星句が明らかになった。
そして今日、そのうちの『1844』と『七つ目石』について判明した。
初日でこれだけ調べられたのは、かなり大きいのではないだろうか。
だが、シイナによって『七つ目石』が儀式魔法の祭器であることがわかった。
ついでに、同じような祭器が市内にまだ存在するだろうことも。
そして帰り際、神主さんから渡された『△』が書かれた紙。
それを描いたのは『ツリーマン』を名乗る謎の男。
いや~、何ぞこれ。
全くわからんぞ、ホント何ぞこれ。
それに加えて、まだ未調査の七星句があと五つ。
宙船坂、観神之宮、鬼詛、カディルグナ、そして――、集。
このうち、鬼詛とカディルグナは異世界の言葉で、意味も何となくわかる。
だが、だからこそわからない。どこにそんなものが関わってくるのか。
「ふ~む……」
自分の部屋で、俺は腕を組んで考えていた。
まぁ、まだ初日だ。
慌てる必要は全然ないんだが、やっぱ気になっちゃうよなぁ、諸々。
「ふぁ……」
と、考えているうちに自然とあくびが出てきた。
午前中遊び倒して、午後は丸々調査に費やしたからなー、そりゃ眠くもなるか。
そろそろ寝るかな~、と思っていたところに電話の鳴る音。
「はい、金鐘崎です」
と、お袋が電話に出る。
オイオイ、この時間に電話かよ。もう午後十時だぞ。子供は寝る時間だぞー。
「――あら、集さん」
え、親父?
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ならば変える。
剣でも戦でもない。
政治と制度、国家設計によって。
秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、
戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。
これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。
戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。
(2月15日記)
連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。
一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(当面、月、水、金、土、日の更新)
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