出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です

はんぺん千代丸

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第五章 夏休み、宙色市歴史探訪

第79話 この父親、ノーガード戦法すぎる

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 ドアの向こうで、お袋の話し声が聞こえる。

「ええ、こっちは大丈夫だけど、どうかしたの? 何か――」

 すげぇな、親父。
 よくもまぁ不倫して自分を捨てたお袋と電話で会話できるな。

 もう二年が経って、互いに状況も落ち着いてるとはいえ、タフな神経してやがる。
 お袋も普通に受け答えしてるが、これは単にマヒしてるだけ。

 親父が一言でも不倫の件を言い出せば、途端にごめんなさいマシーンと化す。
 そうならないってことは、親父がそれを話に出してないからだろうけど。

「アキラ~」

 という声と共に、俺の部屋のドアがノックされる。

「集さんが、あんたと話したいって」
「あ~? わかった、受話器貸せ」

 お袋から受話器を受け取り、俺は自分の部屋へ戻る。
 そして、何となく、特に意味もなく音漏れ防止の防音結界を部屋に張り巡らせる。

「……もしもし」

 声の調子を整えてから電話に出ると、向こうから少しの沈黙。そして、

『あ~、アキラ、か?』

 ややぎこちない、でも、聞き慣れた声。
 その声を耳にした瞬間に、俺の中に『懐かしさ』がブワッと溢れ出てくる。

「そうだよ、僕だよ。……パパ」

 っとぉ~! 演技じゃなく素で口調が『僕』になっちまったぁ~!?
 クソ、何かものすげぇ恥ずかしい。こっ恥ずかしいッ!

『ああ、アキラの声だ。懐かしいなぁ。久しぶりだなぁ……』

 ちょっと、ちょっと親父、涙声になるのやめてくださいよ!
 本当に特に意味なく、こっちまで鼻啜っちゃうじゃない!

「パパ……」
『ああ、お父さんだよ。うん、本当に懐かしい。声でわかるよ、大きくなったなぁ』

 くぅ、親父の声が嬉しそうに弾んでおる。
 たかがその程度のことで、俺まで何か嬉しくなってるのマジで笑うんだがァ!

『こんな時間にごめんなぁ。ちょっと、急におまえの声が聞きたくなってな』
「そうなんだ……」

 お袋の名前出てこないのは、まぁ、仕方がないね!

『もしかしたら寝てる時間だったか? それなら――』
「大丈夫だよ、今、夏休みだから!」

『ああ、そうか。もうそんな時期か……』
「パパは、お仕事忙しいの? 大丈夫? 病気になったりしてない?」
『もちろん、大丈夫だぞ。パパは体が強いんだ』

 そこからしばらく、俺と親父はお互いの近況報告などをしていった。

『――そうか、学校でも仲のいい子ができたんだな。その子はどんな子なんだ?』
「え~っとね美芙柚ちゃんっていうんだけど……」

『女の子か! っはぁ~、さすがはパパの息子。モテるなぁ、アキラは』
「え、そうなの? パパもモテたの?」

『そうだな、パパも若い頃はそりゃもうモテて、ママにも――、この話はやめよう』
「あ、うん……」

 弾ませてた声を急に重たくするのやめてもらえませんかね?
 いきなり現実に戻ってんじゃねぇ! そういうところが隙があるっていうんだよ!

『おまえこそ、病気とかはしてないか? 大丈夫か?』
「うん、大丈夫だよ。僕、元気だよ!」
『そうか、それならいいんだが』

 電話の向こうから伝わってくる安堵の感情。
 こんな時間に来た電話だから何か重要な話かと思ったが、そうでもなさそうだ。
 本当に、急に俺のことが気になったとか、なのかな。

『ところで、アキラ』
「何、パパ?」

『夏休みってことは、宿題もあるんだろ?』
「あるよ。今は、自由研究やってるよ!」

『お~、自由研究。パパも子供の頃はやったなぁ。何を研究してるんだ?』
「僕はね、宙色市の歴史を調べてるんだよ」

『宙色市の歴史をか! そりゃあ、難しいことをやってるんだなぁ、すごいなぁ!』
「エヘヘヘ……」

 手放しに褒められて、悪い気はしない。それは本当だ。
 親父も、十分以上俺と話して、すっかり緊張やぎこちなさも消えている。

「で、どうしてそこを気にするんだい、

 だから俺は、カマをかけた。
 これで親父が何のことかわからないならば、それはそれで別によし。

 本当にたまたまこのタイミングで親父が電話をかけてきただけってコトだ。
 だったら気にする必要はない。楽しくお話し続行だ。

 しかしそうでなかったら、どうしてくれようか。
 っつーかね、さすがにタイミング的にも怪しいワケですよ、この電話。

 元々、七星句に『集』の文字があって、九ツ目神社でのツリーマンの一件。
 神主さんの話では、取り立てて特徴がない男、とのことだったが。

 そういえば、ウチの親父も見た目は普通だったよな。
 と、思っていた矢先の、その当人からの電話である。どう考えても怪しいだろ。

 ――以上の理由から、俺は親父にカマをかけてみることにした。

 これで何も知らないなら、それでいいんだ。
 むしろ俺は、そうであることを望んでる。親父は無関係なんだ、と。

『え、そりゃあパパの息子がどれだけ頑張ってるか気になってるからだよ! 一日で『七つ目石』まで辿り着けたのは本当にすごいぞ、さすがはアキラだなぁ~!』

 お、親父ィィィィィィィィィィィィィィィィ――――ッ!!?

「…………あの、パパ?」

 せめて誤魔化すとかしらばっくれるくらいはしろよォォォォォォォ――――ッ!

『ん? ……え。……あ! ……ツ、ツリーマンって何のことかなぁ~!』
「遅ェ、さすがにその反応は遅ェよ、親父ッ!」

 ああああああああ、ついつい、口調がいつものに戻っちゃった!
 え~い、もう知らん! ここからは親子としてじゃなく、ツリーマンとの会話だ!

『……いやぁ、まさかバレるとは思わなかったなぁ』
「何故そう思えた。このタイミングでの電話とか、クソ怪しいことをしておいて」

『おまえの声を聴きたくなったって言えば誤魔化せるかなって……』
「無理無理無理無理無理無理無理無理!」

『カタツムリ?』
「やっかましぃわ! ホント、あんたは常にどこかに隙があるなァ!」

 今だって、俺と話してるのが楽しくて無防備になってただけだろ、絶対!

『むぅ、よくパパがツリーマンだってわかったなぁ』
「だってツリーマン→樹木男→樹木→ウッド→うつど→つどう→集、だろ?」

『…………』
「あれ、違った?」

『アキラ、もしやおまえ、天才……?』
「感動に打ち震えて絶句してただけか、このバカ親バカァ!」

 ちくしょう、思いっきりシンラが重なる。やはり血は争えんのか……!

『まぁ、うん。そうだね、パパがツリーマンだ』
「しっかり認めやがったな。……あんた、俺が『出戻り』であることを」

『知ってる。ミフユちゃんのことも、おまえの家族のこともだ』
「そこまで知ってるのかよ」

『ああ、ついでに宙色UJSでのおまえとミフユちゃんのデートのことも――』
「オイ、やめろ! 何でそんなことまで知ってンだ!?」

『ちゃんとミフユちゃんを支えてやるんだぞ。おまえならきっとできるさ』
「うるせぇよ! 人生の先達ヅラしてんじゃねぇ、この覗き魔が!」

 おのれ、顔が一気に熱くなってきたんだが!?
 人のデート現場を覗き込むとか、プライバシーの侵害も甚だしいだろ!

『ま、パパはそういうのがわかる立場にあるんだよ、今』
「立場……? どういうことだよ、教えろよ、親父」

『悪いけど、それはできない。そういう『制約しばり』なんだ』
「何だよ、そりゃあ……」

 しばり? 制約? それとも誓約? 或いは、呪縛?

「あんたは『出戻り』なのか?」
『それも言えない』

 そこも『制約』に関わる部分、ってことか。

『でも、おまえが真相に辿り着いたときには、きっとパパと会えるさ』
「そうかよ。じゃあ少し手伝っていけよ。あの『△』は、何なんだよ、あれは?」

『ああ、あれか。そのままだよ。明日にでもシイナちゃんに聞いてごらん』
「シイナに……?」

 ふむ、それでわかるというのであれば、そうしよう。

『それと、パパから伝えられることを、あと二つ教えよう』
「あと二つ? 何だよ……?」

『まずは、パパの旧姓を調べてごらん。面白いことがわかるぞ』
「親父の旧姓? 金鐘崎になる前かよ」

『そうだ。それと、昼間におまえがブチのめした暴走族』
「ああ、だーくうぃんぐ何たら。それがどうした?」

『あのグループのボスは『出戻り』だ。注意はしておいた方がいいと思うぞ』
「……何?」

 オイオイ、マジか。それはちょっと、さすがに無視できない情報だな。

「あんた、何でそんなことまで知ってるんだ?」
『悪い、それも教えられない。それと、そのボスの能力もわからない』

 しばり、ってヤツですか。
 だが、それでも十分な情報をいただいちまったな。

「貴重な情報ありがとよ、親父。その情報に、俺は何で報いればいいんだ?」
『もし、何かをパパに返そうと思うなら、元気でいてくれ、アキラ』

「あ?」
『おまえも親なら、わかるだろ』

 ……ああ、そう。そういうことね。確かに、一番の報酬はそれか。

「俺が調べてること、全部わかったらあんたに会えるんだよな?」
『ああ、会えるよ』
「じゃあ、待ってな。すぐに会いに行ってやるよ、親父」

 俺がそう言うと、電話の向こうから楽しんでいるような気配が伝わってくる。

『そのときを楽しみにしてるぞ、アキラ』

 そして、電話は切れた。
 色々と隙が多い野郎だが、喋ってみて、やっぱり俺の父親なんだと感じた。

 懐かしさが込み上げてくる。やっぱり俺は、金鐘崎アキラなんだな。
 俺は部屋を出て、受話器を置きに行く。途中、そこにいたお袋に軽く尋ねてみた。

「なぁ、お袋」
「何だい、電話は終わったんだね」

「ああ、終わったけどさ。あのさ、親父のことなんだけど」
「うん」

「親父って、婿入りだったんだろ。金鐘崎姓だったってことは」
「そうだね。それが結婚の条件のひとつだったからねぇ」

「じゃあ、親父が金鐘崎になる前は何て苗字だったんだ? 俺、知らねぇんだよな」
「集さんの元の苗字かい? それだったらソラフネザカだねぇ」

 …………え?

「宙船坂……、が、親父の元々の苗字、なのか?」
「そうだよ。金鐘崎も珍しいけど、こっちも随分珍しい苗字だったね」

 お袋が懐かしむように言っているが、すでに俺は話を聞いていなかった。
 俺達の事情を知り、俺に幾つもヒントを寄越した親父。

 だが、肝心な真相は『制約』があるため話せないと言っていた。
 何だよ、そりゃ。一体どういうことなんだ。

「親父、あんた一体、何者なんだ……?」

 ――明日は、長い一日になりそうだった。
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