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第37話 何が賭けだ、ザケんな!
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何が賭けだ、ザケんな!
「一回逃げ帰った雑魚がキメキメで途中乱入してんじゃねぇぞ!」
「言っていることの意味は分かりませんが、介入される側の問題では?」
あっさり言い返されてしまった。
それが、ただでさえ沸騰した油状態の俺の頭に冷や水をぶっかける。
つまり爆発したということだ。
「天の光はすべて星、たった一つの冴えたやり方は、絶滅・殲滅・大撃滅!」
「やめなさいって、橘君。増幅詠唱なんかして、何使う気なの?」
「禁呪」
「やーめーなーさーいってば!」
「いでっ!」
音夢に軽く頭をはたかれた。
クソ、機を逸した。怒りが最高点を過ぎちまった。あ~、何か冷静さが戻ってくる。
「すでに思っていたことですが、騒々しい方々ですね」
「僕達は、大体いつだってそんな感じだよ……」
美崎夕子に抱えられたミツが、力なく苦笑する。
「随分と、痛めつけられたご様子で」
「いやぁ~、気持ちいいくらいボコされたね。指一本も動かせないよ」
「では、このまま運ばせていただきますが、よろしいですね」
「そうだね。賭けのこと、すっかり忘れてたけど、生き残った以上は仕方がないか」
「って、待て待て待て待て!」
何を勝手に二人で話を進めとるか、おまえら。
「そんな女に抱えられてんじゃねぇぞ、ミツ! さっさとこっち来い!」
「いやぁ、だから動けないんだってば……」
叫ぶ俺に、ミツはまるで駄々っ子に諭すかのような言い方をしてくる。
くっ、誰だよ、ミツをあそこまで懇切丁寧に痛めつけたヤツは。
「橘君、現実から目を逸らしちゃだめよ?」
音夢に心を読まれた。おのれ。
「……ごめんよ、トシキ。音夢」
いきなり、ミツが俺達に謝ってくる。
「本音を言えば、君達とまたツルみたい。でも、先約があるのを忘れてたよ」
「何が先約だ、バカタレ! おまえ、どこに行くつもりだ!?」
本気で申し訳なさげに言ってくるミツに、俺は思わず声を荒げてしまう。
すると、ミツはその物言いのままに、告げてきた。
「ねくろしす」
「……何だよ、そりゃ?」
「美崎さんが所属している組織でね、市政府の協力組織だよ」
ミツの言葉に、美崎夕子は空いている片手で眼鏡の位置を直し、
「そういうことですので、市長は回収させていただきますね」
「ふざけんなッ!」
俺は、無詠唱で『空戟』の魔法を発動させる。
しかし、やはり転移。自動反応型の異能によって、美崎夕子とミツはその場から消える。
「無駄です」
声は、俺の背後から。
「私の『昏化能力』――、『影無き傍観者』は最弱ではありますが無敵です。どうか、無意味な努力はおやめいただきますようお願いいたします」
うわぁ。
涼しい顔してバチバチに抜かしやがるな、この女。
「橘君、キレないでね? 最悪、三ツ谷君を巻き込むわ」
「……チッ」
全くもって忌々しいが音夢の言う通りなので、俺は準備しかけてた攻撃を一度やめる。
「御理解いただけたようで何よりです」
「いや、ミツ巻き込む可能性があるからやめただけであって、おまえの能力、別に無敵でも何でもねぇよ。猪口才な能力なのは認めるけど、ぶっちゃけその程度で無敵気取られても、何つーの、こっちとしたら『わぁ、痛い人だぁ。井の中のかわずって言葉を知ってるクセに、自分がそれって気づいてないんだなぁ、可哀相。誰か教えてあげなよ。俺は嫌だよ、痛々しいヤツって見てて面白いし』くらいにしか思わんかなって」
あ、自称最弱にして無敵な美崎夕子のこめかみがヒクッてした。
顔が無表情なままなので、ほんの小さな反応でも非常に目立ってしまうねぇ。ざまぁ。
「橘君、イライラしてるのはわかるけど、それはケチョンケチョンすぎるわ」
音夢が眉間にしわを寄せて咎めてくるが、ただの事実であるからして。
こちとら魑魅魍魎渦巻く魔王軍と二年半もドンパチカマしてきたワケですよ。
自称無敵とか自称最強とか自称究極とかはね、見飽きてるんスわ。
「いいからミツを置いてけよ、秘書女。そしたら苦痛抜きで殺してやる」
「言ってることが邪悪よ、橘君……」
邪悪だろうが何だろうが、邪魔してきたのはこの自称無敵女の方だ。
「――とのことですが、市長?」
「ああ、うん」
促す美崎夕子に、ミツは曖昧に返事をする。
何だその返し方は。何でちょっとンまぬるい目でこっち見てんだ、オイ。
「ごめんね、トシキ」
「それは、何についてだ?」
前置きもなしにミツが言ってきたので、俺は短く問い返す。
「僕は、彼女と行くよ」
俺への返答は、短い質問よりもさらに短かった。
「…………」
「……三ツ谷君、どうして?」
押し黙る俺の隣で、音夢がミツに改めて問う。
「借りがあるんだよ。美崎さんと、彼女の上役には」
「おまえに『好きなことをやれ』、って言ったのが、そいつらなんだな」
「……ああ」
ついさっき、ミツ自身が語ったことだ。
自暴自棄からの行動だったとはいえ、市政府を組織したこいつは、今日まで生き延びた。
今、こうして俺と音夢がミツと会話できてるのも、ある意味ではそのおかげ。
美崎夕子の上役とやらがいなければ、ミツはとっくに死んでた。それは本当だろう。
「俺が、行かせると思うか?」
「僕をここで行かせなきゃ、僕はここで死を選ぶ。と、言ったら?」
この野郎。自分を人質に取りやがった。
「最悪だぞ、おまえ」
「何せ、君の友人だからね。最凶に並ぶなら最悪程度にはならないとね」
ミツがそんな減らず口を叩くが、そういうの笑えねぇから。全く。
「先約で、借りもあって、恩もある。……まぁ、返さないといけないよね」
「わかったわ。行けばいい」
力ない声で言うミツに、音夢が同意してしまう。
驚いた俺は、目を剥いて隣の女を見た。
「おい、音夢、何言って……!?」
「ただし」
音夢は、俺を無視してミツに向かって言葉を続けた。
「もう、誰も食べないで」
それを言った音夢の顔は、至極真剣なものだった。
二つの瞳が、まっすぐに美崎夕子に抱えられたミツのことを見据えている。
「……無理をおっしゃいますね」
しかし、口を開いたのはミツではなく美崎夕子だった。
「それはつまり『食事をするな』と言っているのと同じようなものですよ?」
「同じようなもの、も何も、そのつもりで言ってるのよ」
音夢が、キッパリと言い返す。
「それが三ツ谷君にとって苦痛なら、食べるのをやめればいいわ。それだけの話よ」
「……あなたは、市長のご友人で、恋人とだったとも聞いております」
美崎夕子は、音夢に対してにわかに声を固くする。
「しかしながら、その言いようは、さすがにどうかと――」
「悪いけど、あなたとは話してないの。美崎さん、すっこんでてね?」
しかし音夢はそれを一蹴して、あくまでもミツに向かって言葉を向けた。
「音夢は、僕に地獄を見ろって言ってるのかな?」
今度は美崎夕子ではなく、ミツが応じる。
「ちょっと違うわ」
「ちょっと、っていうのは?」
「人を食べても食べなくても地獄を見るなら、あなたが納得する地獄を選べって言ってるのよ。それくらい、わかるでしょ。あなたは、三ツ谷君なんだから」
「……厳しいなぁ」
ミツが、弱く笑う。
「バカ野郎。音夢はいつだって俺達に優しいだろうが。……ただ、甘くねぇだけだ」
「ああ、知ってるよ。知ってたさ。言われるまでもない」
言う俺に、ミツはクツクツと笑ってため息をついた。
「……あなた方の関係が、掴み切れません」
それに対して、美崎夕子が短く感想というか、疑問を口にする。
「わかりやすい関係さ。僕達なんて」
「いや、まさかおまえに告白されるなんて夢にも思ってなかったけどな、俺は」
俺がツッコむと、ミツが苦笑するのが気配で伝わってきた。
「そろそろ行こう、美崎さん」
「かしこまりました」
命じられ、美崎夕子がミツを担ぎ直す。
「オイ、ミツ。おまえはその『ねくろしす』って組織で、何をやる気だ」
最後に、俺はそれを尋ねる。
するとミツは端的に一言で答えてきた。
「世界を滅ぼすのさ」
そして、その言葉を最後にミツは美崎夕子と共に消えた。
俺は「チッ」と舌を打って、
「やらせると思ってんのか、あのバカ」
「思ってるワケないでしょうね、私達が止めるとは考えてるでしょうけど」
「上等だよ」
どうせ、俺達には時間がある。
だったらおっかけてやろうじゃねぇか、ミツを。そして『ねくろしす』を。
「次は逃がさねぇ」
あと、美崎夕子は次は殺す。
これまで自称無敵をブチ殺してきた身として、それだけは心に決めた俺であった。
「一回逃げ帰った雑魚がキメキメで途中乱入してんじゃねぇぞ!」
「言っていることの意味は分かりませんが、介入される側の問題では?」
あっさり言い返されてしまった。
それが、ただでさえ沸騰した油状態の俺の頭に冷や水をぶっかける。
つまり爆発したということだ。
「天の光はすべて星、たった一つの冴えたやり方は、絶滅・殲滅・大撃滅!」
「やめなさいって、橘君。増幅詠唱なんかして、何使う気なの?」
「禁呪」
「やーめーなーさーいってば!」
「いでっ!」
音夢に軽く頭をはたかれた。
クソ、機を逸した。怒りが最高点を過ぎちまった。あ~、何か冷静さが戻ってくる。
「すでに思っていたことですが、騒々しい方々ですね」
「僕達は、大体いつだってそんな感じだよ……」
美崎夕子に抱えられたミツが、力なく苦笑する。
「随分と、痛めつけられたご様子で」
「いやぁ~、気持ちいいくらいボコされたね。指一本も動かせないよ」
「では、このまま運ばせていただきますが、よろしいですね」
「そうだね。賭けのこと、すっかり忘れてたけど、生き残った以上は仕方がないか」
「って、待て待て待て待て!」
何を勝手に二人で話を進めとるか、おまえら。
「そんな女に抱えられてんじゃねぇぞ、ミツ! さっさとこっち来い!」
「いやぁ、だから動けないんだってば……」
叫ぶ俺に、ミツはまるで駄々っ子に諭すかのような言い方をしてくる。
くっ、誰だよ、ミツをあそこまで懇切丁寧に痛めつけたヤツは。
「橘君、現実から目を逸らしちゃだめよ?」
音夢に心を読まれた。おのれ。
「……ごめんよ、トシキ。音夢」
いきなり、ミツが俺達に謝ってくる。
「本音を言えば、君達とまたツルみたい。でも、先約があるのを忘れてたよ」
「何が先約だ、バカタレ! おまえ、どこに行くつもりだ!?」
本気で申し訳なさげに言ってくるミツに、俺は思わず声を荒げてしまう。
すると、ミツはその物言いのままに、告げてきた。
「ねくろしす」
「……何だよ、そりゃ?」
「美崎さんが所属している組織でね、市政府の協力組織だよ」
ミツの言葉に、美崎夕子は空いている片手で眼鏡の位置を直し、
「そういうことですので、市長は回収させていただきますね」
「ふざけんなッ!」
俺は、無詠唱で『空戟』の魔法を発動させる。
しかし、やはり転移。自動反応型の異能によって、美崎夕子とミツはその場から消える。
「無駄です」
声は、俺の背後から。
「私の『昏化能力』――、『影無き傍観者』は最弱ではありますが無敵です。どうか、無意味な努力はおやめいただきますようお願いいたします」
うわぁ。
涼しい顔してバチバチに抜かしやがるな、この女。
「橘君、キレないでね? 最悪、三ツ谷君を巻き込むわ」
「……チッ」
全くもって忌々しいが音夢の言う通りなので、俺は準備しかけてた攻撃を一度やめる。
「御理解いただけたようで何よりです」
「いや、ミツ巻き込む可能性があるからやめただけであって、おまえの能力、別に無敵でも何でもねぇよ。猪口才な能力なのは認めるけど、ぶっちゃけその程度で無敵気取られても、何つーの、こっちとしたら『わぁ、痛い人だぁ。井の中のかわずって言葉を知ってるクセに、自分がそれって気づいてないんだなぁ、可哀相。誰か教えてあげなよ。俺は嫌だよ、痛々しいヤツって見てて面白いし』くらいにしか思わんかなって」
あ、自称最弱にして無敵な美崎夕子のこめかみがヒクッてした。
顔が無表情なままなので、ほんの小さな反応でも非常に目立ってしまうねぇ。ざまぁ。
「橘君、イライラしてるのはわかるけど、それはケチョンケチョンすぎるわ」
音夢が眉間にしわを寄せて咎めてくるが、ただの事実であるからして。
こちとら魑魅魍魎渦巻く魔王軍と二年半もドンパチカマしてきたワケですよ。
自称無敵とか自称最強とか自称究極とかはね、見飽きてるんスわ。
「いいからミツを置いてけよ、秘書女。そしたら苦痛抜きで殺してやる」
「言ってることが邪悪よ、橘君……」
邪悪だろうが何だろうが、邪魔してきたのはこの自称無敵女の方だ。
「――とのことですが、市長?」
「ああ、うん」
促す美崎夕子に、ミツは曖昧に返事をする。
何だその返し方は。何でちょっとンまぬるい目でこっち見てんだ、オイ。
「ごめんね、トシキ」
「それは、何についてだ?」
前置きもなしにミツが言ってきたので、俺は短く問い返す。
「僕は、彼女と行くよ」
俺への返答は、短い質問よりもさらに短かった。
「…………」
「……三ツ谷君、どうして?」
押し黙る俺の隣で、音夢がミツに改めて問う。
「借りがあるんだよ。美崎さんと、彼女の上役には」
「おまえに『好きなことをやれ』、って言ったのが、そいつらなんだな」
「……ああ」
ついさっき、ミツ自身が語ったことだ。
自暴自棄からの行動だったとはいえ、市政府を組織したこいつは、今日まで生き延びた。
今、こうして俺と音夢がミツと会話できてるのも、ある意味ではそのおかげ。
美崎夕子の上役とやらがいなければ、ミツはとっくに死んでた。それは本当だろう。
「俺が、行かせると思うか?」
「僕をここで行かせなきゃ、僕はここで死を選ぶ。と、言ったら?」
この野郎。自分を人質に取りやがった。
「最悪だぞ、おまえ」
「何せ、君の友人だからね。最凶に並ぶなら最悪程度にはならないとね」
ミツがそんな減らず口を叩くが、そういうの笑えねぇから。全く。
「先約で、借りもあって、恩もある。……まぁ、返さないといけないよね」
「わかったわ。行けばいい」
力ない声で言うミツに、音夢が同意してしまう。
驚いた俺は、目を剥いて隣の女を見た。
「おい、音夢、何言って……!?」
「ただし」
音夢は、俺を無視してミツに向かって言葉を続けた。
「もう、誰も食べないで」
それを言った音夢の顔は、至極真剣なものだった。
二つの瞳が、まっすぐに美崎夕子に抱えられたミツのことを見据えている。
「……無理をおっしゃいますね」
しかし、口を開いたのはミツではなく美崎夕子だった。
「それはつまり『食事をするな』と言っているのと同じようなものですよ?」
「同じようなもの、も何も、そのつもりで言ってるのよ」
音夢が、キッパリと言い返す。
「それが三ツ谷君にとって苦痛なら、食べるのをやめればいいわ。それだけの話よ」
「……あなたは、市長のご友人で、恋人とだったとも聞いております」
美崎夕子は、音夢に対してにわかに声を固くする。
「しかしながら、その言いようは、さすがにどうかと――」
「悪いけど、あなたとは話してないの。美崎さん、すっこんでてね?」
しかし音夢はそれを一蹴して、あくまでもミツに向かって言葉を向けた。
「音夢は、僕に地獄を見ろって言ってるのかな?」
今度は美崎夕子ではなく、ミツが応じる。
「ちょっと違うわ」
「ちょっと、っていうのは?」
「人を食べても食べなくても地獄を見るなら、あなたが納得する地獄を選べって言ってるのよ。それくらい、わかるでしょ。あなたは、三ツ谷君なんだから」
「……厳しいなぁ」
ミツが、弱く笑う。
「バカ野郎。音夢はいつだって俺達に優しいだろうが。……ただ、甘くねぇだけだ」
「ああ、知ってるよ。知ってたさ。言われるまでもない」
言う俺に、ミツはクツクツと笑ってため息をついた。
「……あなた方の関係が、掴み切れません」
それに対して、美崎夕子が短く感想というか、疑問を口にする。
「わかりやすい関係さ。僕達なんて」
「いや、まさかおまえに告白されるなんて夢にも思ってなかったけどな、俺は」
俺がツッコむと、ミツが苦笑するのが気配で伝わってきた。
「そろそろ行こう、美崎さん」
「かしこまりました」
命じられ、美崎夕子がミツを担ぎ直す。
「オイ、ミツ。おまえはその『ねくろしす』って組織で、何をやる気だ」
最後に、俺はそれを尋ねる。
するとミツは端的に一言で答えてきた。
「世界を滅ぼすのさ」
そして、その言葉を最後にミツは美崎夕子と共に消えた。
俺は「チッ」と舌を打って、
「やらせると思ってんのか、あのバカ」
「思ってるワケないでしょうね、私達が止めるとは考えてるでしょうけど」
「上等だよ」
どうせ、俺達には時間がある。
だったらおっかけてやろうじゃねぇか、ミツを。そして『ねくろしす』を。
「次は逃がさねぇ」
あと、美崎夕子は次は殺す。
これまで自称無敵をブチ殺してきた身として、それだけは心に決めた俺であった。
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