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空と都市の支配者 3
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痛い、痛い痛い、いたい…っ。
わけがわからないほどの激痛が全身を走り抜ける。急所ともいえる首を噛まれて殺されるのか。
ノエルは目を見開いた。首筋に生暖かな息があたる。
何が起きているのだと動こうとするものの、力を籠めれば激痛が全身を襲う。
「くっ…ぁ…」
「ディディ、もう十分だ」
柔らかな寝台に押し付けられたまま目だけを動かす。
厳しい顔をしているのは虎の獣族だった。
ノエルを押し付けていた力が和らぎ体を動かすことができた。
「くそ。俺の番はシシリィだけだと決めていたのに」
「お前が決めたことだろう……」
「番…?」
体を起こしてから痛みを感じていた首もとへと手を当てる。
ぬるっとした触り心地と同時に手に生暖かいものがついた。恐る恐る自分の手を見れば赤いものがついている。
「どう、して」
「強めにうなじを噛んだからな。牙で傷ついたんだろう」
腹部に太い腕が回る。抱き寄せられたと同時に肉厚の舌で首を舐められた。
ひぃっと情けない声が出る。
「番の血…甘いんだな」
「やだ…やめろ、なめるな…ぞわぞわする」
ノエルは力の入らない腕でディディエを押す。
ディディエは特に気にする様子もなくノエルの香りを嗅いでいた。
「……シシリィに謝らないとな…あいつを番にするって決めたのは俺なのに、それができなくなっちまった」
ぽつりとつぶやいたディディエの言葉がノエルに突き刺さる。
番とは、獣族と人族の間に生まれる特殊な関係のことである。
この都市内において、獣族はα、人族はΩと呼ばれる特殊な性を持つ。
男女関係なく確定でもつ性であり、成長するにしたがって表に出てくるものでもあった。
獣族の多くは同族で子供を作る。同族同士であれば遺伝子が混ざることなく純粋な獣の血を受け継ぐことができるからだ。
しかし、同族同士での子供ができにくいという問題があった。それはひとえに獣族がαであるということがあげられる。
αは個々の遺伝子が強く、別の遺伝子に対して強い攻撃性を見せる。そのため精子と卵子が結び付きにくいという問題があった。
対し、人族の持つΩは個々の遺伝子は弱いため人族同士での子供はできやすかった。だがΩは数か月に一度、発情期と呼ばれる時期を迎える。
かつて獣族が人の姿を持たず、獣の姿であったときに存在していたものである。
発情期は他者の遺伝子を求め、他者を誘惑する香りを出す。αの獣族にはその香りが強く効く。それも種族を問わない。
番は、αである獣族とΩである人族が結び付くことを言う。
人族の項を獣族が噛み、人族の体内に噛んだ獣族の遺伝子を流し込むのである。そうすると発情期になったΩは己の項を噛んだ獣族にのみ誘惑の香りを出すようになる。
「…俺が、死ねば番の関係は解消されるのだろう」
「だろうな」
「ならば、俺は死のう。俺のせいで、二人の関係が乱れるのはうれしくない…もともと俺の事情に巻き込んでしまったようなものだし」
一度結ばれた番の関係はどちらかが死ぬまで解消されることはない。
番を結ぶとほかのαやΩに対して性交をすることができなくなる。
ディディエは眉を寄せる。低く唸り声を上げた。シシリィならば事情を話せばわかってくれるだろう。
だが、きっとディディエの見えないところで泣く気もしていた。
「ディディエ、シシリィに話せ」
「わかってる…」
「おそらく居間に連れて行っているはずだ」
「あぁ」
ディディエはノエルを振り向かずに部屋を出ていった。
ずきっとノエルの胸が痛む。
どうして痛むのかノエルはわからなかった。
わけがわからないほどの激痛が全身を走り抜ける。急所ともいえる首を噛まれて殺されるのか。
ノエルは目を見開いた。首筋に生暖かな息があたる。
何が起きているのだと動こうとするものの、力を籠めれば激痛が全身を襲う。
「くっ…ぁ…」
「ディディ、もう十分だ」
柔らかな寝台に押し付けられたまま目だけを動かす。
厳しい顔をしているのは虎の獣族だった。
ノエルを押し付けていた力が和らぎ体を動かすことができた。
「くそ。俺の番はシシリィだけだと決めていたのに」
「お前が決めたことだろう……」
「番…?」
体を起こしてから痛みを感じていた首もとへと手を当てる。
ぬるっとした触り心地と同時に手に生暖かいものがついた。恐る恐る自分の手を見れば赤いものがついている。
「どう、して」
「強めにうなじを噛んだからな。牙で傷ついたんだろう」
腹部に太い腕が回る。抱き寄せられたと同時に肉厚の舌で首を舐められた。
ひぃっと情けない声が出る。
「番の血…甘いんだな」
「やだ…やめろ、なめるな…ぞわぞわする」
ノエルは力の入らない腕でディディエを押す。
ディディエは特に気にする様子もなくノエルの香りを嗅いでいた。
「……シシリィに謝らないとな…あいつを番にするって決めたのは俺なのに、それができなくなっちまった」
ぽつりとつぶやいたディディエの言葉がノエルに突き刺さる。
番とは、獣族と人族の間に生まれる特殊な関係のことである。
この都市内において、獣族はα、人族はΩと呼ばれる特殊な性を持つ。
男女関係なく確定でもつ性であり、成長するにしたがって表に出てくるものでもあった。
獣族の多くは同族で子供を作る。同族同士であれば遺伝子が混ざることなく純粋な獣の血を受け継ぐことができるからだ。
しかし、同族同士での子供ができにくいという問題があった。それはひとえに獣族がαであるということがあげられる。
αは個々の遺伝子が強く、別の遺伝子に対して強い攻撃性を見せる。そのため精子と卵子が結び付きにくいという問題があった。
対し、人族の持つΩは個々の遺伝子は弱いため人族同士での子供はできやすかった。だがΩは数か月に一度、発情期と呼ばれる時期を迎える。
かつて獣族が人の姿を持たず、獣の姿であったときに存在していたものである。
発情期は他者の遺伝子を求め、他者を誘惑する香りを出す。αの獣族にはその香りが強く効く。それも種族を問わない。
番は、αである獣族とΩである人族が結び付くことを言う。
人族の項を獣族が噛み、人族の体内に噛んだ獣族の遺伝子を流し込むのである。そうすると発情期になったΩは己の項を噛んだ獣族にのみ誘惑の香りを出すようになる。
「…俺が、死ねば番の関係は解消されるのだろう」
「だろうな」
「ならば、俺は死のう。俺のせいで、二人の関係が乱れるのはうれしくない…もともと俺の事情に巻き込んでしまったようなものだし」
一度結ばれた番の関係はどちらかが死ぬまで解消されることはない。
番を結ぶとほかのαやΩに対して性交をすることができなくなる。
ディディエは眉を寄せる。低く唸り声を上げた。シシリィならば事情を話せばわかってくれるだろう。
だが、きっとディディエの見えないところで泣く気もしていた。
「ディディエ、シシリィに話せ」
「わかってる…」
「おそらく居間に連れて行っているはずだ」
「あぁ」
ディディエはノエルを振り向かずに部屋を出ていった。
ずきっとノエルの胸が痛む。
どうして痛むのかノエルはわからなかった。
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