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08.まだ見ぬ最高傑作
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「人は、ひとりひとりに『成すべきこと』『果たすべき意味』が与えられています。その人のことを『必要としている誰か』、その人によって『実現されるべき何か』は必ずあります。そしてその『何か』は、その人によって発見され実現されるのを待っているのです。お父様はつねにこの『何か』によって必要とされ、それを発見し、実現するのを待たれています。人間はこのことから、つねに人生から『問われている』『呼びかけられている』存在なのです」
「では具体的には、どんな『問い』がなされて、どう『答え』ればいいんだ」
「ちいさいものなら『外で騒いでいる人がいて、創作に集中できない』、『描いている最中に絵の具がきれる』など。大きなものだったら、『親子関係』『不治の病』『天災』『知人の死』……といった具体的な状況として問うてきます。果たすべき意味も、瞬間ごとに変化します。その時その時に出す『問い』に答える手段はただ一つ。良心に従った行動あるのみです」
「『必要としている誰か』もしくは『実現されるべき何か』のために、行動するのか否かを、つねに問われている、と」
そうか、問題の答えではなく、問題文そのものがおかしかったのだ。問うべきは「なぜ生きているのか」、「何の意味があるのか」ではない。「何ができるのか」、「いかに生きるのか」だったのだ。
「そうです。今もお父様は問われています。『余命が一ヶ月と告げられた。そのうえ、今まで人生からの問いに気づけなかった』という状況ですら、人生からの『問い』なのです。人生はお父様に、期待しているのです。今からでも、人生と向き合い、問いに答えることはできます。そうして、気づきと学びを重ね、自己成長を遂げれば、人生に納得できる生き方を貫けるはずです」
表面的に挫折や失敗、不運にみえることも全て、自分の人生に意味を持たせるための問い。もしそうなら「問いに挑戦するだけで、乗りこえたのと同じ意味がある」とも考えられる。「意味が現実に先行すると考えることで、より多様な意味解釈を可能とする……なんてすさまじい思考法なんだ」
「物質主義にとらわれれば『ある親元に偶然生まれ、偶然を生き、偶然死ぬ』と、結論せざるをえません。……残念ながらわたしは、その事実を受け入れられるほど、強くないのです」
レーベンは、両手を広げて、タダノをぎゅっとした。さらに、心臓の音を聞こうとするかのように、顔を胸に密着させた。
「しかしなぜ、そんなに君は必死なんだ。いくら俺が君のお父様だからといって……」
もし「180度の見当違い」が、ほかにもあるとしたら。彼女の正体が、すでに描かれた作品ではなく――。
「ま、まさか」
「そうです。このわたしこそ、お父様によって実現されるのを待っている『何か』なのです」
タダノがここで諦めたら、レーベンが生み出される機会は永遠に失われてしまう。だから、レーベンは必死だったのだ。
「お父様の人生は一度きりで、一日一日が、一時間一時間が、そして一瞬一瞬が、やはり一回きりの機会なんです。そして、わたしたちを生み出しうるのは、今、この時代、この時、この国の、この場所に置き与えられたお父様だけです。お父様の人生が一度きりで、お父様が唯一の存在である以上、誰かが代わりになることはできないんです。一度きりの機会が実現されなかったら、その機会は永久に失われてしまいます。今ここで、ほかならぬお父様が創作すべきだという、一回性と独自性が、使命の絶対性を形成しているのです」
「俺以上の画家はいくらでもいるぞ? そいつらにたのめばいいじゃないか」
「お父様以上の画家がいたとしても、お父様は一人しか存在しません。どんなに優れた母親でも、他の母親の身代わりになって出産を苦しみ抜くことができないように、お父様が生み出す作品も他の画家が生み出すことはできません」
「では具体的には、どんな『問い』がなされて、どう『答え』ればいいんだ」
「ちいさいものなら『外で騒いでいる人がいて、創作に集中できない』、『描いている最中に絵の具がきれる』など。大きなものだったら、『親子関係』『不治の病』『天災』『知人の死』……といった具体的な状況として問うてきます。果たすべき意味も、瞬間ごとに変化します。その時その時に出す『問い』に答える手段はただ一つ。良心に従った行動あるのみです」
「『必要としている誰か』もしくは『実現されるべき何か』のために、行動するのか否かを、つねに問われている、と」
そうか、問題の答えではなく、問題文そのものがおかしかったのだ。問うべきは「なぜ生きているのか」、「何の意味があるのか」ではない。「何ができるのか」、「いかに生きるのか」だったのだ。
「そうです。今もお父様は問われています。『余命が一ヶ月と告げられた。そのうえ、今まで人生からの問いに気づけなかった』という状況ですら、人生からの『問い』なのです。人生はお父様に、期待しているのです。今からでも、人生と向き合い、問いに答えることはできます。そうして、気づきと学びを重ね、自己成長を遂げれば、人生に納得できる生き方を貫けるはずです」
表面的に挫折や失敗、不運にみえることも全て、自分の人生に意味を持たせるための問い。もしそうなら「問いに挑戦するだけで、乗りこえたのと同じ意味がある」とも考えられる。「意味が現実に先行すると考えることで、より多様な意味解釈を可能とする……なんてすさまじい思考法なんだ」
「物質主義にとらわれれば『ある親元に偶然生まれ、偶然を生き、偶然死ぬ』と、結論せざるをえません。……残念ながらわたしは、その事実を受け入れられるほど、強くないのです」
レーベンは、両手を広げて、タダノをぎゅっとした。さらに、心臓の音を聞こうとするかのように、顔を胸に密着させた。
「しかしなぜ、そんなに君は必死なんだ。いくら俺が君のお父様だからといって……」
もし「180度の見当違い」が、ほかにもあるとしたら。彼女の正体が、すでに描かれた作品ではなく――。
「ま、まさか」
「そうです。このわたしこそ、お父様によって実現されるのを待っている『何か』なのです」
タダノがここで諦めたら、レーベンが生み出される機会は永遠に失われてしまう。だから、レーベンは必死だったのだ。
「お父様の人生は一度きりで、一日一日が、一時間一時間が、そして一瞬一瞬が、やはり一回きりの機会なんです。そして、わたしたちを生み出しうるのは、今、この時代、この時、この国の、この場所に置き与えられたお父様だけです。お父様の人生が一度きりで、お父様が唯一の存在である以上、誰かが代わりになることはできないんです。一度きりの機会が実現されなかったら、その機会は永久に失われてしまいます。今ここで、ほかならぬお父様が創作すべきだという、一回性と独自性が、使命の絶対性を形成しているのです」
「俺以上の画家はいくらでもいるぞ? そいつらにたのめばいいじゃないか」
「お父様以上の画家がいたとしても、お父様は一人しか存在しません。どんなに優れた母親でも、他の母親の身代わりになって出産を苦しみ抜くことができないように、お父様が生み出す作品も他の画家が生み出すことはできません」
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