黒狐さまと創作狂の高校生

フゥル

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第2話 後編 距離感

ディスコミュニケーション

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 住良木さんはいつものように机に突っ伏していた。
「ちーす。この四日間、僕、どんな感じだった」
「ふぁぁ。男版シンデレラ──魔女欠勤編」
「ただのダメ男じゃねぇか」
「見てる分には笑えたよ」
 一瞬本気で殴ろうかと思ったが、理性で何とかした。
「黒狐さまはいつも通り大盛況か」
「よく疲れないよね。うちには無理だわ」
「……何とか混ざれないかな」
「え、意外。あんた三次元に興味あんの?」
 住良木さんは驚いた様子で、こちらを見てきた。
「たまには美人と話したい日もあるさ」
「あ~! うちの前でそういうこと言う? はたくぞてめぇ」
「せめて、はたく前に言え」
 ほんのり痛い肩をさすりながら、席を立つ。
 黒狐さまに声をかけなければ。でも、彼女は城壁に守られている。自分の対極にいるような、陽気な奴と女子たちだ。人の輪に入ろうと周囲をフラフラしてみるも、そんなスペースはない。
 輪の中に入るのにも勇気がいる。入ったところで何を話せばいいのか。そもそも、黒狐さまと自分、明らかに釣り合わない。相手は推定年齢千歳越えで、かつて平安貴族だった女性。自分よりもふさわしい人はいくらでもいるし、何ならクラスにもいるはずだ。このまま、自然蒸発の方がお互いにとっていいのではないか……。
「あはは。あんたの奇行、マジ笑える」
「ぐっ……」
 認めたくはないが、住良木さんの言う通りだった。
「でもま、あんたにちしゃよくやったほうじゃない? 普段は私以外の女子に、話しかけようすらしないんだから」
「ああ、全く持ってその通りだ」

 授業に身が入らない。暗い気持ちは消えたが、黒狐さまの件が常に頭をぐるぐる回っている。感覚に集中することで、一瞬思考を止められても、またすぐ悩みが浮かんできてしまう。対抗手段がなかった昨日に比べたら大分マシだが、それでも集中には程遠い状態だった。
 うだうだ悩んでいるうちに、一日が終わっていた。帰り際ですら、声をかけられる雰囲気ではなかった。
「結局話しかけられなかった」

 我ながら、何をやっているのかわからない。
 帰り道、二十メートルほど離れて、黒狐さまを追跡。男女計四人と話しており、一向に分かれる気配がない。
 歩道の右側に流れる八号用水路には、桜の花びらが浮かんでいる。その下を黒い鯉たちが泳いでおり、時折バシャっという音がする。用水路の奥は小さな崖になっており、草木が生い茂っている。崖の上には木が植えられており、右一面緑。大部駅近辺に住む人の憩いの道である。
「早く一人にならないかなぁ」
 大部駅前の交差点を通り過ぎた所で、男女一人ずつ抜けた。
 あと二人。彼らが離れたら、黒狐さまに話しかけよう。
 八号用水をどんどん登っていく。あさがお写真館を通り抜け、なぜか妙な所で開いている八百屋を後にする。
 まだ離れない。
 重合用水路に別れを告げ、田原街道の下を通るトンネルを潜り抜けた。
 まだ別れない。
 トンネルを抜けてしばらく歩いた後、遮断機を渡れば、深間神社が見えた。ここで、女子が離れた。
「あと、男子一人」
 田間川岸に出て、少し歩くと、二人はそこで立ち止まった。どうやら、黒狐さまの家の前に着いたらしい。
 家の前で二人はしばらく話した後、別れた。男子はこちらへ引き返してきた。自分の通学路から外れていたのに、遠回りしてまで黒狐さまを送り届けたらしい。気づかれるとまずいので、神社前まで引き返した。
 もちろん、神社裏まで戻った頃には、黒狐さまは影も形も消えていた。
「はぁ……結局ダメだったか」
 小さな一軒家に、『九条』の表札があった。
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