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第4話 招待
気の合う二人
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黒狐さまは、何かを思いついたのか、再び笑みを浮かべた。人差し指を立てて、左右に振る。
「では、じゃ。ファンタジー込みで、わらわにしてみたいことを官能小説にしてみよ。具体的な読者を想定して小説を書くのは、基礎中の基礎じゃ」
「じゃあ、どうして官能!?」
「展開が決まっていて書きやすい」
「はい」
「駄文でも熱量でカバーできる」
「ええ」
「そして何より、わらわが読みたいからじゃ!」
「ハァ?」
黒狐さまが首を傾げると、髪に手を通した。濡れ羽色の髪がゆらりとなびく。
「さっきは冗談で言ったが──」
冗談だったのかよ。ツキは、喉元まで登ってきた言葉を何とか飲み込んだ。
「──本気で読みたくなってきた」
「何で?」
黒狐さまは大きく前のめりになり、ツキの方を見た。思わずのけぞったが、さほど距離は稼げなかった。
弧を描く麗らかなまつ毛も、狐由来の縦に割れた瞳孔も、はっきり見える。頬に吐息のぬくもりを、耳に息遣いを、鼻奥にさわやかな甘い香りを感じた。五感を黒狐さまで埋め尽くされ、くらくらしてくる。
「恥ずかしがるツキが、めっっっちゃ見たいからじゃぁ!」
黒狐さまは目を線のように細めた。両手の指を、かぎづめのように立てる。そして、『アア"ア~ゥ~!!』と、威嚇してきた。声質は犬に近いが、声の高さは猫並みだった。ツキは驚きのあまり、座った姿勢のまま跳ねた。
「むっ、むきになってません?」
「なっとらん!」
「ツバかかった、ツバ!」
「わらわからの施しじゃ! 痴れ者!」
黒狐さまは顔を引くと、ゆっくり席に座りなおした。今度は陰鬱なため息をつくと、頭に手を当て、首を振った。
「はぁ~。そんなにわらわを書くのが嫌か。あーあ、わらわ、そんなに魅力ないのじゃ? これでも、最低限のおめかしはしてるんじゃがのぉ~。自信、なくなっちゃうのじゃ~」
まるで駄々をこねる子供だった。自虐の言葉を垂れ流しながら、ちらちらとこちらをうかがっている。
ツキがしばらく黙って様子を見ていると、ぼそりと言った。
「他の男子に慰めてもらおうかのぉ~」
「まってくだ──うぅ!?」
言い切る前に、首根っこを掴まれ引き込まれた。
「なら、書いてくれるんじゃな!」
満面の笑みで言われては、断りようがなかった。
「は、はい……」
黒狐さまは、流れるような無駄のない動作で、制服からジョッターとブランド物のペンを取り出した。ジョッターとは、メモを挟む溝と用紙を数枚ストック出来るポケットがついた文具。お値段は三千円からで、少なくとも高校生向けの文具ではない。
「なんでそんなに楽しそうなんですか!?」
「平安の時分、超正常刺激的な娯楽は、エロしかなかったからのぉ」
黒狐さまは、『現代版源氏物語』とメモに刻んだ。基準が平安。っていうか、黒狐さまの中ではエロ本の扱いなんだ、あれ……。
洗礼された和室で上品な文具を使う、黒髪妖狐。間違いなく絵になるはずなのに、交わされている会話は、子供じみた猥談。シュールすぎて過ぎて酔いそうになる。
「で、シチュエーションは」
ツキは、両手で顔を覆ったまま言った。
「前提条件は三つ。一つ、女子高生+狐という属性は生かしたい。二つ、読者、即ち黒狐さまにスカッとした読後感を味わってらいたい。三つ、実在の同級生や先生とヤってる黒狐さまは書きたくない」
「確かに、いくら公開しないとはいえ、他人は巻き込むのは罪悪感がすごいのじゃ」
「何より黒狐さまにとって実用に耐えうるものを作るとすると、やっぱり架空のキャラの方が都合がいい気がします」
「なんだかんだいって、真面目じゃな、お主」
ツキは手を下にずらして、目だけ黒狐さまに見せた。
「なので、生徒に性的な嫌がらせをする竿役を、か弱い女生徒のフリをした黒狐さまが誘惑し、精気を吸い取って抜け殻にする……みたいなプロットはいかがでしょう。『性欲が強い=精気が強大』っていう設定にすれば『陰の気を持ち、同じく陰の気を持つ女性に化け、精気を食らう』という、妖狐の言い伝えも生かせます。平安時代の行為中は『女は男に逆らわない』が常識なので、鬼畜ハードプレイにも持って行きやすい」
「わらわはおぬしとヤれてなくて欲求不満。竿役はそのことを知っていて、わらわに狙いを定める」
「ただ、黒狐さまはプライドが高いので、簡単には籠絡されません。そこでオジサンは行為の最中に──」
「おぬしの名を出すわけじゃな。わらわは、感じたくないのに感じちゃう。いやだもうだめ叫びながら……」
「そんな感じです」
「おぉぅ、そそられるのぉ。……っておい」
不意に黒狐さまが黙った。
「どうしました?」
「これは、本当に、即興なのか?」
ツキは露骨に目を逸らした。
「では、じゃ。ファンタジー込みで、わらわにしてみたいことを官能小説にしてみよ。具体的な読者を想定して小説を書くのは、基礎中の基礎じゃ」
「じゃあ、どうして官能!?」
「展開が決まっていて書きやすい」
「はい」
「駄文でも熱量でカバーできる」
「ええ」
「そして何より、わらわが読みたいからじゃ!」
「ハァ?」
黒狐さまが首を傾げると、髪に手を通した。濡れ羽色の髪がゆらりとなびく。
「さっきは冗談で言ったが──」
冗談だったのかよ。ツキは、喉元まで登ってきた言葉を何とか飲み込んだ。
「──本気で読みたくなってきた」
「何で?」
黒狐さまは大きく前のめりになり、ツキの方を見た。思わずのけぞったが、さほど距離は稼げなかった。
弧を描く麗らかなまつ毛も、狐由来の縦に割れた瞳孔も、はっきり見える。頬に吐息のぬくもりを、耳に息遣いを、鼻奥にさわやかな甘い香りを感じた。五感を黒狐さまで埋め尽くされ、くらくらしてくる。
「恥ずかしがるツキが、めっっっちゃ見たいからじゃぁ!」
黒狐さまは目を線のように細めた。両手の指を、かぎづめのように立てる。そして、『アア"ア~ゥ~!!』と、威嚇してきた。声質は犬に近いが、声の高さは猫並みだった。ツキは驚きのあまり、座った姿勢のまま跳ねた。
「むっ、むきになってません?」
「なっとらん!」
「ツバかかった、ツバ!」
「わらわからの施しじゃ! 痴れ者!」
黒狐さまは顔を引くと、ゆっくり席に座りなおした。今度は陰鬱なため息をつくと、頭に手を当て、首を振った。
「はぁ~。そんなにわらわを書くのが嫌か。あーあ、わらわ、そんなに魅力ないのじゃ? これでも、最低限のおめかしはしてるんじゃがのぉ~。自信、なくなっちゃうのじゃ~」
まるで駄々をこねる子供だった。自虐の言葉を垂れ流しながら、ちらちらとこちらをうかがっている。
ツキがしばらく黙って様子を見ていると、ぼそりと言った。
「他の男子に慰めてもらおうかのぉ~」
「まってくだ──うぅ!?」
言い切る前に、首根っこを掴まれ引き込まれた。
「なら、書いてくれるんじゃな!」
満面の笑みで言われては、断りようがなかった。
「は、はい……」
黒狐さまは、流れるような無駄のない動作で、制服からジョッターとブランド物のペンを取り出した。ジョッターとは、メモを挟む溝と用紙を数枚ストック出来るポケットがついた文具。お値段は三千円からで、少なくとも高校生向けの文具ではない。
「なんでそんなに楽しそうなんですか!?」
「平安の時分、超正常刺激的な娯楽は、エロしかなかったからのぉ」
黒狐さまは、『現代版源氏物語』とメモに刻んだ。基準が平安。っていうか、黒狐さまの中ではエロ本の扱いなんだ、あれ……。
洗礼された和室で上品な文具を使う、黒髪妖狐。間違いなく絵になるはずなのに、交わされている会話は、子供じみた猥談。シュールすぎて過ぎて酔いそうになる。
「で、シチュエーションは」
ツキは、両手で顔を覆ったまま言った。
「前提条件は三つ。一つ、女子高生+狐という属性は生かしたい。二つ、読者、即ち黒狐さまにスカッとした読後感を味わってらいたい。三つ、実在の同級生や先生とヤってる黒狐さまは書きたくない」
「確かに、いくら公開しないとはいえ、他人は巻き込むのは罪悪感がすごいのじゃ」
「何より黒狐さまにとって実用に耐えうるものを作るとすると、やっぱり架空のキャラの方が都合がいい気がします」
「なんだかんだいって、真面目じゃな、お主」
ツキは手を下にずらして、目だけ黒狐さまに見せた。
「なので、生徒に性的な嫌がらせをする竿役を、か弱い女生徒のフリをした黒狐さまが誘惑し、精気を吸い取って抜け殻にする……みたいなプロットはいかがでしょう。『性欲が強い=精気が強大』っていう設定にすれば『陰の気を持ち、同じく陰の気を持つ女性に化け、精気を食らう』という、妖狐の言い伝えも生かせます。平安時代の行為中は『女は男に逆らわない』が常識なので、鬼畜ハードプレイにも持って行きやすい」
「わらわはおぬしとヤれてなくて欲求不満。竿役はそのことを知っていて、わらわに狙いを定める」
「ただ、黒狐さまはプライドが高いので、簡単には籠絡されません。そこでオジサンは行為の最中に──」
「おぬしの名を出すわけじゃな。わらわは、感じたくないのに感じちゃう。いやだもうだめ叫びながら……」
「そんな感じです」
「おぉぅ、そそられるのぉ。……っておい」
不意に黒狐さまが黙った。
「どうしました?」
「これは、本当に、即興なのか?」
ツキは露骨に目を逸らした。
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