黒狐さまと創作狂の高校生

フゥル

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第4話 招待

狂作

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 大きな声で、黒狐さまは言った。
「返事をせい!」
「はい!」
 ツキは、背筋をピンと伸ばし、手を膝に置いて、次の言葉を待った。
「さては、わらわを『使ったこと』があるなぁ~」
「それは断じてありません」
「では、妄想までは……?」
 黒狐さまは、ニタニタしながら、こちらを見つめてきた。
 ツキは無言だったが、黒狐さまは満足した様子で頷いた。
「素直でよろしい。この助平め!」
「自分の存在をアレコレするのにつかわれて喜んだり、自分が乱暴される小説を嬉々として考えるのって、一体どういう神経してるんですか!?」
「今のわらわの体は、唯一無二の大切な身体であると同時に、今まで育成してきた70以上あるアバターのうち一体に過ぎんのじゃ。創造主が丹精込めて造った創作物という意味で、わらわとこの肉体の関係は、おぬしとおぬしが書いたキャラに近い。愛ある二次創作を見たくなるのは当然じゃろう?」
 突然、常軌を逸した返答が帰ってきた。冗談交じりだったらよかったものの、本人の態度からして素で言ったようだった。神の視点と人の視点を自由に行き来する、人間を超越した精神性を垣間見た。
 ツキは唖然としながらも、頭をフル回転させた。自分を信頼して、完全にリラックスしきっているからこそ漏れた言葉。ありがたい。だからこそ、彼女を傷つけるような返答はしたくない。
「言葉を飲み込むのに、ちょっと時間をくださいませんか」
「よろしい。わらわは寛大じゃからな!」
 黒狐の声は、微妙に上ずっていた。危うい言葉を発してしまったことに、気づいたらしかった。
 ツキは考える。何らしらの媒体で、バーチャルアバターを持っていたらわかりやすかったかもしれない。が、あいにくそういったものには手を出していなかった。
 それでも。黒狐さまのスタンスは、愛着のあるキャラに例えればわかる気がする。本編では絶対に起こりえないようなシチュを、IFルートや二次創作として書きたくなることはある。全年齢向けに創ったキャラでR-18妄想することとか。彼女の感覚は、それに近いのかもしれない。
 納得できる答えを見つけられたツキは、心の底から嬉しく思った。
「黒狐さまの言う通りですね」
「じゃろう!」
 ツキは初めて、自分が創作に脳を侵されていることに感謝した。普通の感性から外れているからこそ、黒狐さま心を開いてくれたのだ。黒狐さまのお陰で、今の自分が、少しだけ好きになれた気がした。
 黒狐さまへ報いられるのなら、このポルノを書くのもやぶさかではない。
 ツキは身を乗り出して、黒狐さまへ言った。
「世界観、キャラクター、プロットは先程の物を採用。長さは原稿用紙30枚程度でよろしいですか?」
「文体は?」
「軽め」
「構成は?」
「序破急構成で、前菜5枚、メイン22枚、デザート3枚」
「プレイは?」
「ハードコアで、着衣→口→中。体勢は以前と被らない物を用意します」
 その他にも、様々な事項について真剣に話し合った。
「手早くメインに向かうため、僕の描写は省略すべきです!」
「駄目じゃ。おぬしの描写を抜いたら、緊張感が薄まる!」
「作品の完成度を犠牲にしてもいいんですか!?」
「完成度を決めるのはお主ではなくわらわじゃ!」
 話が二転三転し、喧嘩に近い口論も起きた。
 しかし、お互いへとへとになりながらも、何とかアイデアをまとめることができたのだった。

「からうじて終わったのじゃ~!」
「ありがとうございました。黒狐さまぁ!」
 黒狐さまは一点の曇りもない晴れやかな笑顔で、ぴょんぴょん飛び跳ねた。耳と尻尾、長い髪と豊満な胸が、激しく揺れる。可愛すぎて、観ているだけで、目が潤む。
 ツキは、一人で小説をかきあげた時の、何倍もの幸福の波に打たれていた。感動のあまり、手が震えて、体が熱くなる。もう、嬉しさを抑えきれない! ツキは立ち上がると、両手を大きく広げた。すると、黒狐さまが胸に飛び込んできた。
「こんな遅くまで付き合ってくれてありがたいのじゃ!」
 なるべく彼女の体に触れないよう気を付けつつ、黒狐さまの背中をぽんぽん。
 ゆっくり離れて呼吸を整えた時、不意に疑問が沸いた。 
「あの、ところで黒狐さま? 小説の設定なんですが……」
「なんじゃ」
「僕たちが付き合っていることが前提になってません、これ?」
「それを言ったら、お主も……」
 時間が止まったかのように、黒狐さまの動きが止まった。同時に、黒狐さまの顔がこれまで見たことがないくらい赤くなっていく。汗が吹き出し、涙が滲み、口元がわなわなと痙攣。最後には、指を噛んでそっぽを向いてしまった。その背中から、弱々しい声が聞えてきた。
「ツキの痴れバカものぉ……」
「黒狐さまのアホぉ……」
 ツキも黒狐さまと同じように、捨て台詞を吐くしかなかった。
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