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第8話 臨海公園
水族園
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臨海公園名物の水族園。ここが今日の目的地だ。
水族園正門をくぐり、右へ曲がる。ギフトショップを通り過ぎると、自動販売機があった。隣には、マグロの模型が縦に置かれていた。背景には定規が描かれており、背比べができる。
「二メートルもあるのじゃ」
「おいしそう」
「食うな」
低木で彩られた道を行くと、チケット売り場が見えた。チケット売り場の奥に、巨大なガラスドームが見える。最初はチケット売り場のすぐ奥に建てられていると、思った。
「あれ、もしかして、想像以上にドーム大きい?」
しかし、チケット売り場を出ると、底には大階段があった。黒狐さまと数えた結果、21段もあった。スロープを抜けるとようやく、ガラスドームの前にたどり着いた。ドームの前は広場になっており、ドームの左右から後方にかけては噴水池で彩られていた。ざっと見積もっても、ドームは地上から二十メートル以上離れており、めちゃくちゃデカい。
「うわぁー、きれいな外観じゃのぉ」
「子供が走り回れるほどの広場がある水族館……じゃなくて水族園なんて、見たことないです。品水は広場ないし、池袋やそらまちは室内ですし」
ドームの中へ入り、エスカレーターを使って二階へ下る。
「あー、涼しいのじゃ~」
「そういえば、狐は放熱が苦手でしたっけ?」
「そうじゃ。人間と違って、鼻づらと、顔面上部、耳、四肢からしか放熱できん。どっちかっていうと、寒冷地に向いた体つきじゃな」
「でも今、人間体ですよね」
「それは言うな」
入って、左に曲がると、一階から二階を跨ぐ巨大水槽があった。水槽の中ではイワシの群れやエイなど、様々な魚が縦横無尽に泳ぎ回っている。スタッフさんによるアカシュモクザメの解説を聞いてから、一階へ降りる。『世界の海』と題された展示室は、地域別に魚たちが展示されていた。
館内は薄暗いため、必然的に黒狐さまと肩を寄せ合うことになった。意図してないとはいえ、水族館というチョイスをした過去の自分をほめてやりたい。
ツキが気になったのはまずオニダルマオコゼだった。全身がコブ状の突起や、くぼみに覆われているのに加えて、フジツボを模した目。どう見てもただの岩にしか見えない。クスリと笑える和名とは裏腹に、刺されただけで人が死ぬ猛毒の棘を持つ、非常に危険な魚。
「岩場にいたら踏んづけそうですね」
「実際、沖縄で死亡例があるらしいぞ」
「こわ!」
その次に、タツノオトシゴの仲間である、ウィーディシードラゴン。茶色のボディで体に海藻に似せた皮弁(皮膚が変形したフリルのようなもの)を持つ。静止していると、ただの海藻にしか見えない。透明な背びれをピロピロ動かし、水中を舞う。ときおり水底に下りては、細い口で、餌を吸い込んでいた。砂ごと吸っているらしく、一突きごとに、砂を吹き出している。
「かわいいですね」
「わらわより?」
「魚介に嫉妬しないでください」
一方、黒狐さまはチリの水槽の前で立ち止まった。ウニとフジツボがひっついている岩場の中を、一匹の魚が泳いでいた。
「これ、カサゴですか?」
「いや、展示されてるのこっち」
『この水槽は大型フジツボのなかまを飼育しています』。
「え、魚メインじゃない?」
「そう。展示されてるのは、この縦長の山みたいなやつじゃ」
「そもそもこれフジツボ? デカすぎません? 船とかにひっついてるあれでしょう? 空き缶大のフジツボなんて、見たことないですよ?」
「世界最大のフジツボで、名をピコロコと言うらしい」
シュモクザメの左右の鼻が、T字の先端についていると知った時以来の衝撃だった。
「この山頂から、白くて透明でピロピロしてる触手みたいなやつって、何なんですかね」
「足らしい」
「足?」
黒狐さまは、解説とピコロコを交互に見ていた。
「エビの仲間らしい」
「エビ? イソギンチャクじゃなくて」
「人間の赤ちゃんみたいに、上下逆さに入って、脚を出してる恰好じゃ」
「エビってことは、するんですか? 脱皮」
「するらしい。この口の部分から、放り投げるんじゃと」
「ええ……。ちなみに交尾はどうやってするんです」
「口からアレを突き出して、隣のフジツボにふりかけるらしい。生まれた赤ちゃんは、水中を漂いながら、足場となる岩を探すんじゃと」
エビ要素が脱皮と、幼少期以外ない件。っていうか、黒狐さまの感性がニッチすぎる。なぜ魚ではなくそっちに行く!
もしかして、あえて自分の興味がなさそうな生き物に目を向け、一緒に付き合ってくれるかを試しているのか? 美術館デートでは、彼氏のモラルや性格を測れるという。まさか、これも黒狐さまの戦略……。
「……いとおかし」
違った。本当に感性がズレてるだけだ、これ。
「ウニがじわじわ動いている様、永遠に見てられるのぉ。なぁツキ」
「え、ええ……」
その後も、黒狐さまが立ち止まるのは、ヒトデやウニ、サンゴといった、動きが緩慢な生き物ばかりだった。
平安女子は、家から出ず、移動は膝立ちでとてもゆっくりだったそうな。もしかしたら、親近感が沸くのかもしれない。
ツキはそんなことを考えながら、黒狐さまについて行った。
水族園正門をくぐり、右へ曲がる。ギフトショップを通り過ぎると、自動販売機があった。隣には、マグロの模型が縦に置かれていた。背景には定規が描かれており、背比べができる。
「二メートルもあるのじゃ」
「おいしそう」
「食うな」
低木で彩られた道を行くと、チケット売り場が見えた。チケット売り場の奥に、巨大なガラスドームが見える。最初はチケット売り場のすぐ奥に建てられていると、思った。
「あれ、もしかして、想像以上にドーム大きい?」
しかし、チケット売り場を出ると、底には大階段があった。黒狐さまと数えた結果、21段もあった。スロープを抜けるとようやく、ガラスドームの前にたどり着いた。ドームの前は広場になっており、ドームの左右から後方にかけては噴水池で彩られていた。ざっと見積もっても、ドームは地上から二十メートル以上離れており、めちゃくちゃデカい。
「うわぁー、きれいな外観じゃのぉ」
「子供が走り回れるほどの広場がある水族館……じゃなくて水族園なんて、見たことないです。品水は広場ないし、池袋やそらまちは室内ですし」
ドームの中へ入り、エスカレーターを使って二階へ下る。
「あー、涼しいのじゃ~」
「そういえば、狐は放熱が苦手でしたっけ?」
「そうじゃ。人間と違って、鼻づらと、顔面上部、耳、四肢からしか放熱できん。どっちかっていうと、寒冷地に向いた体つきじゃな」
「でも今、人間体ですよね」
「それは言うな」
入って、左に曲がると、一階から二階を跨ぐ巨大水槽があった。水槽の中ではイワシの群れやエイなど、様々な魚が縦横無尽に泳ぎ回っている。スタッフさんによるアカシュモクザメの解説を聞いてから、一階へ降りる。『世界の海』と題された展示室は、地域別に魚たちが展示されていた。
館内は薄暗いため、必然的に黒狐さまと肩を寄せ合うことになった。意図してないとはいえ、水族館というチョイスをした過去の自分をほめてやりたい。
ツキが気になったのはまずオニダルマオコゼだった。全身がコブ状の突起や、くぼみに覆われているのに加えて、フジツボを模した目。どう見てもただの岩にしか見えない。クスリと笑える和名とは裏腹に、刺されただけで人が死ぬ猛毒の棘を持つ、非常に危険な魚。
「岩場にいたら踏んづけそうですね」
「実際、沖縄で死亡例があるらしいぞ」
「こわ!」
その次に、タツノオトシゴの仲間である、ウィーディシードラゴン。茶色のボディで体に海藻に似せた皮弁(皮膚が変形したフリルのようなもの)を持つ。静止していると、ただの海藻にしか見えない。透明な背びれをピロピロ動かし、水中を舞う。ときおり水底に下りては、細い口で、餌を吸い込んでいた。砂ごと吸っているらしく、一突きごとに、砂を吹き出している。
「かわいいですね」
「わらわより?」
「魚介に嫉妬しないでください」
一方、黒狐さまはチリの水槽の前で立ち止まった。ウニとフジツボがひっついている岩場の中を、一匹の魚が泳いでいた。
「これ、カサゴですか?」
「いや、展示されてるのこっち」
『この水槽は大型フジツボのなかまを飼育しています』。
「え、魚メインじゃない?」
「そう。展示されてるのは、この縦長の山みたいなやつじゃ」
「そもそもこれフジツボ? デカすぎません? 船とかにひっついてるあれでしょう? 空き缶大のフジツボなんて、見たことないですよ?」
「世界最大のフジツボで、名をピコロコと言うらしい」
シュモクザメの左右の鼻が、T字の先端についていると知った時以来の衝撃だった。
「この山頂から、白くて透明でピロピロしてる触手みたいなやつって、何なんですかね」
「足らしい」
「足?」
黒狐さまは、解説とピコロコを交互に見ていた。
「エビの仲間らしい」
「エビ? イソギンチャクじゃなくて」
「人間の赤ちゃんみたいに、上下逆さに入って、脚を出してる恰好じゃ」
「エビってことは、するんですか? 脱皮」
「するらしい。この口の部分から、放り投げるんじゃと」
「ええ……。ちなみに交尾はどうやってするんです」
「口からアレを突き出して、隣のフジツボにふりかけるらしい。生まれた赤ちゃんは、水中を漂いながら、足場となる岩を探すんじゃと」
エビ要素が脱皮と、幼少期以外ない件。っていうか、黒狐さまの感性がニッチすぎる。なぜ魚ではなくそっちに行く!
もしかして、あえて自分の興味がなさそうな生き物に目を向け、一緒に付き合ってくれるかを試しているのか? 美術館デートでは、彼氏のモラルや性格を測れるという。まさか、これも黒狐さまの戦略……。
「……いとおかし」
違った。本当に感性がズレてるだけだ、これ。
「ウニがじわじわ動いている様、永遠に見てられるのぉ。なぁツキ」
「え、ええ……」
その後も、黒狐さまが立ち止まるのは、ヒトデやウニ、サンゴといった、動きが緩慢な生き物ばかりだった。
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ツキはそんなことを考えながら、黒狐さまについて行った。
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