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レプスウィークス編
兎、悪夢を見る
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風で雑草が一定方向に傾いている。
めいいっぱい息を吸う。
新鮮な空気で胸が満たされ、爽快さが気分をスッキリさせる。
「痛っ!」
なにか小さく硬い物が俺の頭にぶつかった。
足元へと視線を向けると、小さな小石が落ちていた。
誰がなのかと視線を彷徨わせると、兎人族の子供が数人いた。
うち一人が俺に気づいて小石を投げてきたようだ。
「おいみんな、あそこにマゾクがいるぞー」
小石を投げてきた兎人族の呼び掛けで、他の子どもたちも一斉に俺へと視線を向ける。
子供たちはみな俺より四、五歳くらい上だろうか。
彼らの視線からは憎悪や嫌悪といった負の感情が込められていた。
どこか懐かしさすら感じる彼らの視線は、同時に俺が最も恐れるものであった。
「マゾクがなんでこんなとこにいんだよッ!村から出て行けよッ!」
「なに、すんだ!」
「うわぁ、マゾクがこっち見た!あっち行けよホラ」
そう言って子供は再び小石を投げてくる。
マゾク、マゾクと子供たちは口々に言い出した。
子供たちは一斉に小石を投げはじめ、一歳児の俺の身体はあちこちが出血する。
「君たちなにやってるんだ!」
騒ぎを聞きつけ大人の兎人族たちも何人か集まってくる。
た、助かった……。
「コラ君たち!弱い者イジメはやめるんだ!」
「弱い者じゃないよっ!マゾクだよ!」
「なに?魔族?」
成人兎人のひとりがそれを聞いて、俺をじっと見つめる。
俺はキョトンとした顔でその視線を受け止めた。
「――ひっ!なんでこんなところに魔族がッ!」
「ガースさん、あれですよ。バンコとソヨンの……」
「なにっ、あいつらの息子か!」
「えっ、なになに?あいつらこの村にまだいるの?」
「みんな、あいつに関わるんじゃないよっ」
大人たちの様子が一変した。
それもマゾクって言葉を耳にした途端にだ。
(またあの目だ。……くそッ!どいつもこいつも!)
俺は逃げるようにしてその場を去った。
身体は血だらけだった。
このまま帰るわけにもいかない。
俺は母さんとの約束を破ったうえに、酷い目にあったんだ。
――自業自得だ。
***
身体が重いと感じた途端、全身が一気に活動しだし、数秒後には完全に意識も肉体も覚醒していた。
前世で人間だった頃にはうんざりするほど味わった、朝特有の気怠さがない。
前世の記憶もなまじ備わっているせいで、獣人であることを毎朝痛感させられる。
「……またこの夢か」
これは俺が龍との邂逅から数日後の記憶だ。
龍を殺してしまったのは悲しかったが、それ以上に外への欲求も強かった当時、俺は親の言いつけを破り一度だけ家を抜け出したことがあった。
しかしその日に起こった出来事は悪夢そのもので、今でもよく夢に出てくる。
「また悪い夢見てたの?」
横で母のソヨンが心配そうに声をかけてくる。
母さんには夢の内容までは教えていないが、どうやら俺は定期的に悪夢で魘されているようだった。
「だいじょうぶだよ、母さん」と出来るだけ平気な調子で言った。
半魔は侮蔑と嫌悪の対象になりやすいが、だからこそ周りは距離を置きたがるだけで、危害を加えてくることは稀なケースなのである。
よって実際のところ、本当に心配することはないのだ。
(と思ってるつもりだけど、悪夢は見るんだよなぁ)
身支度を済ませ、歯を磨きつつストレッチする。
獣人の間ではストレッチの概念は知られていないらしく、母さんも父さんも不思議そうにそんな朝の光景を眺めている。
ちなみに歯磨きは葉っぱみたいので行っている。
ラリブルという植物らしく、石鹸の代わりに使われたりもするほど殺菌効果が高いらしく、兎人族の村ではよく使用される日常品アイテムだ。
ラリブルを軽く水で湿らせると、歯に当て擦りつける。
口中が一気に泡だらけになり、独特の薬草みたいな香りがツンと鼻を刺激してくる。
歯磨きに気を取られずストレッチも入念に行う。
前歯を磨いている間に両腿両腕、アキレス腱は特にじっくり時間をかける。
「行くぞカイセル」
「むぐっ、もぐもぐふがふが(ちょっと待ってよ)」
父さんのバンコとは毎朝、ともに採集に行くのが日課だ。
ゆえに二人とも朝は早いが、バンコは特に早い。
朝の訓練を済ませた後、川で汗を流しに行き、そこで水を汲んでこなければならないからだ。
兎人族の集落内でもここまで朝が早いのは我が家くらいなものだろう。
俺は急いで水で口をすすぐと、父さんの背中についていく。
橙色ぎみの空はようやく白く照りだし、村も活気づいてくる。
このとき、俺はちょうど六歳となっていた。
今日を境に毎晩の悪夢は消えることとなる。
それはある兎人族との出会いがキッカケであった。
めいいっぱい息を吸う。
新鮮な空気で胸が満たされ、爽快さが気分をスッキリさせる。
「痛っ!」
なにか小さく硬い物が俺の頭にぶつかった。
足元へと視線を向けると、小さな小石が落ちていた。
誰がなのかと視線を彷徨わせると、兎人族の子供が数人いた。
うち一人が俺に気づいて小石を投げてきたようだ。
「おいみんな、あそこにマゾクがいるぞー」
小石を投げてきた兎人族の呼び掛けで、他の子どもたちも一斉に俺へと視線を向ける。
子供たちはみな俺より四、五歳くらい上だろうか。
彼らの視線からは憎悪や嫌悪といった負の感情が込められていた。
どこか懐かしさすら感じる彼らの視線は、同時に俺が最も恐れるものであった。
「マゾクがなんでこんなとこにいんだよッ!村から出て行けよッ!」
「なに、すんだ!」
「うわぁ、マゾクがこっち見た!あっち行けよホラ」
そう言って子供は再び小石を投げてくる。
マゾク、マゾクと子供たちは口々に言い出した。
子供たちは一斉に小石を投げはじめ、一歳児の俺の身体はあちこちが出血する。
「君たちなにやってるんだ!」
騒ぎを聞きつけ大人の兎人族たちも何人か集まってくる。
た、助かった……。
「コラ君たち!弱い者イジメはやめるんだ!」
「弱い者じゃないよっ!マゾクだよ!」
「なに?魔族?」
成人兎人のひとりがそれを聞いて、俺をじっと見つめる。
俺はキョトンとした顔でその視線を受け止めた。
「――ひっ!なんでこんなところに魔族がッ!」
「ガースさん、あれですよ。バンコとソヨンの……」
「なにっ、あいつらの息子か!」
「えっ、なになに?あいつらこの村にまだいるの?」
「みんな、あいつに関わるんじゃないよっ」
大人たちの様子が一変した。
それもマゾクって言葉を耳にした途端にだ。
(またあの目だ。……くそッ!どいつもこいつも!)
俺は逃げるようにしてその場を去った。
身体は血だらけだった。
このまま帰るわけにもいかない。
俺は母さんとの約束を破ったうえに、酷い目にあったんだ。
――自業自得だ。
***
身体が重いと感じた途端、全身が一気に活動しだし、数秒後には完全に意識も肉体も覚醒していた。
前世で人間だった頃にはうんざりするほど味わった、朝特有の気怠さがない。
前世の記憶もなまじ備わっているせいで、獣人であることを毎朝痛感させられる。
「……またこの夢か」
これは俺が龍との邂逅から数日後の記憶だ。
龍を殺してしまったのは悲しかったが、それ以上に外への欲求も強かった当時、俺は親の言いつけを破り一度だけ家を抜け出したことがあった。
しかしその日に起こった出来事は悪夢そのもので、今でもよく夢に出てくる。
「また悪い夢見てたの?」
横で母のソヨンが心配そうに声をかけてくる。
母さんには夢の内容までは教えていないが、どうやら俺は定期的に悪夢で魘されているようだった。
「だいじょうぶだよ、母さん」と出来るだけ平気な調子で言った。
半魔は侮蔑と嫌悪の対象になりやすいが、だからこそ周りは距離を置きたがるだけで、危害を加えてくることは稀なケースなのである。
よって実際のところ、本当に心配することはないのだ。
(と思ってるつもりだけど、悪夢は見るんだよなぁ)
身支度を済ませ、歯を磨きつつストレッチする。
獣人の間ではストレッチの概念は知られていないらしく、母さんも父さんも不思議そうにそんな朝の光景を眺めている。
ちなみに歯磨きは葉っぱみたいので行っている。
ラリブルという植物らしく、石鹸の代わりに使われたりもするほど殺菌効果が高いらしく、兎人族の村ではよく使用される日常品アイテムだ。
ラリブルを軽く水で湿らせると、歯に当て擦りつける。
口中が一気に泡だらけになり、独特の薬草みたいな香りがツンと鼻を刺激してくる。
歯磨きに気を取られずストレッチも入念に行う。
前歯を磨いている間に両腿両腕、アキレス腱は特にじっくり時間をかける。
「行くぞカイセル」
「むぐっ、もぐもぐふがふが(ちょっと待ってよ)」
父さんのバンコとは毎朝、ともに採集に行くのが日課だ。
ゆえに二人とも朝は早いが、バンコは特に早い。
朝の訓練を済ませた後、川で汗を流しに行き、そこで水を汲んでこなければならないからだ。
兎人族の集落内でもここまで朝が早いのは我が家くらいなものだろう。
俺は急いで水で口をすすぐと、父さんの背中についていく。
橙色ぎみの空はようやく白く照りだし、村も活気づいてくる。
このとき、俺はちょうど六歳となっていた。
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それはある兎人族との出会いがキッカケであった。
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