最弱種族に革命を!

ogirito

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レプスウィークス編

兎、隠れる

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6歳なんて歳でカイセルが父とともに採集に出かけられるのは、安全だからではない。
もちろん母親も心臓が止まりそうな勢いで心配していた。
それでも採集に出かけるのは、それが文化であり風習だからだ。
日本で子供が義務教育を受けるように、この世界の、この村ではそれが自然なのだ。


『ォォォオオオオオ!!』


獣のうなり声が遠くまで響き渡る。
この声は聞き覚えがある。
それもそのはず、この声は父であるバンコの声だからだ。

雄叫びに呼応するように、バンコの身体が変化していく。

丸く太くなり、手足からは爪が伸び始める。

人間らしい顔は完全なる兎の顔へと変化する。

バンコは二足歩行する人型の兎から四足歩行する完全な兎へと姿を変えた。
しかし体長は通常の兎サイズではなく、胴体は二メートル程ある。
腹や腕など産毛しかなかった部位までもが漆黒の体毛で覆われ、外見的には巨大な兎である。



『これが《獣化変形ビーストトランス》だ。しっかり掴まっとけよ』


獣化変形ビーストトランス》とは獣人が持つ最終奥義的なもので、姿を変形させるのが特徴らしい。
どんな姿に変形するかは各々で異なるが、人から離れてより獣っぽくなる点では共通しているとのことだ。
その程度の情報しか知らなかった俺が、実際に獣人が体型を変形させるのところを見るのは初めての体験であった。
慌てて俺は首へと両腕をまわすと、手首を掴んで、振り落とされないようにしっかり固定する。



『――――行くぞ!!』



刹那、身体が思いっきり真後ろに引っ張られる。



「うわぁぁああああああっ!」



急発進により仰け反った身体をゆっくりと前へと持っていく。
なんとか体勢を整えると、そのままぴったりとバンコの背中にしがみついた。
しばらくはそうしてピッタリと張り付くように背負われていたのだが、ふとバンコの背中へと意識が向く。
バンコの真っ黒な毛色が視界に入る。
ソヨンは真っ白なのだが、俺は父親のバンコの遺伝子を濃く受け継いでいるのか、漆黒の毛が短く生えていた。
半魔は黒い毛色や肌色をしているようで、その特徴が強く現れているのだとか。
父や母も毛色の話になると悲しげになるし、半魔はこの異世界じゃ差別対象になるみたいだ。



と、途端に何の脈絡もなく地球でのホームレス生活が思いだされた。
同年代の子供には馬鹿にされ、道行く人には汚物を見るような目を向けられる。
瞼の裏からでもはっきり映る侮蔑の瞳、それは自身のよく見る悪夢でのそれ・・と重なった。

もしも、もしも半魔であることが卑しく、罪なことであるなら。

この世界でも俺は、そんな境遇に耐えなければいけないのだろうか。





『……ここら辺かな。カイセル、降りていいぞ』



「うん」


考え事に耽っていると、果樹で生い茂った場所にいつの間にやら到着していた。
俺はバンコの背中から降りると、周囲を見渡す。
家を出てすぐは景色を見る暇もなかったが、なんとなくわかる。
ここは家とかなり離れている。

「父さん、ここ何時もの場所と違わない?」

いつも採集する場所はもっと近場のはずだ。
ここまで時間は掛からなかった。
と、そこでバンコへと視線を向けると、元の人間に近しい外見へと戻っていた。
ほんとにどういう身体の仕組みなんだろうか。
生命ってのは偉大な発明やなぁーなんて思っていると、父が突然に僕の手を掴む。


「――まずい、隠れろっ!」



バンコは俺の手を掴むと、木の陰へと身を潜めた。
ゆっくり覗き見ようと俺は木の陰から身を乗り出すが、すぐに父に引き戻される。
一瞬しか見えなかったが、しかし確かに視界に捉えた。
そこへ現れたのは、緑色の身体に、真っ赤な瞳、手には棍棒を持つソイツは――ゴブリンだった。
それもたった一体の、こちらに気づいていない無防備なゴブリンである。



(あれは……ゴブリン?なぜ俺たちはゴブリンから身を隠しているんだ?)



父であるバンコがどれほどの強さかはわからない。
しかしゴブリン程度の魔物、倒せるのではないだろうか。
ソヨンの話では、バンコは村一番の強さということだったし、実際この一帯に来るまでのバンコの走る速度はなかなかのものだった。
仮にバンコがパワーに自信がなかったとしても、先ほどの《獣化変形ビーストトランス》なるものでヒット&アウェイで圧勝できるのではないだろうか。

と、そんなことを考えている間に、ゴブリンがいくつかのランゴを抱えるとどこかへ行ってしまった。



「よし。今のうちにランゴとキャロントを採集して、すぐに帰るぞ」



「う、うん……」



――直後、四方八方から同時に気配が現れる。
気づけばゴブリンたちに囲まれ、退路はなくなっていた。
明らかに意思疎通の取れたコンビネーション。

(魔物はこんな動きもするのか!)

だが大丈夫だ、ここには村で一番強い父さんがいる。
そう思ってバンコの顔を見やると、額には汗をかき、まるで窮地に追い込まれたかのような表情をしていた。

(どうしてそんな顔を……)

そう思っていると、俺の右手が強く握られる。
バンコの手からは焦燥がはっきり伝わってくる。

「よく聞けカイセル。俺が今から思いっきりお前を投げる」

「え!?父さん何言って……」

「そしたらお前はすぐ起き上がって、とにかく逃げるんだ。村の方向は覚えてるか?」

「覚えてるけど……父さんは?」

「なに……すぐ戻ってくるさ」

恐怖と不安が一気に押し寄せてくる。
バンコの表情が、今生の別れのようだったからだ。



――グガァアァアアアアア!!

どこからともなく、底から響くような唸り声が耳をつんざく。
この耳障りな声には聞き覚えがあった。



(ドラゴンの声だ!)




――ゴァアァアア!




再びドラゴンの声が響き渡る。
それを合図にゴブリンたちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
腰が抜けそうになるのを、なんとか持ちこたえる。
そうして立ち尽くした状態になったところを、バンコに押し倒される。

「なにぼけッとしてる!隠れるぞ!」

そう言われて伏せたまま移動して茂みに身体を隠す。
上空を見上げてみるが、ドラゴンの姿はない。
声もしなくなったし、遠くへと飛んでいったのだろうか。

「グギャアアアァァアアアアア!!」

背後から突如現れた気配に、心臓が跳ね上がる。
ドラゴンの雄叫びは、すぐ背後まで迫ってきていたのだ。
たまらず俺たち親子は絶叫し、絶望した。

「「うわぁぁあぁああ!!」」
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