最弱種族に革命を!

ogirito

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レプスウィークス編

勝負の行方

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――おい、大丈夫か?

――しっかりしろ、カイ!

「ん……?」

意識が戻ると、俺は地べたに横たわっていた。
アルバの顔が見える。
その整った顔はボコボコになっていて、所々が赤く腫れていた。

「アルバ……傷だらけじゃん」

「ったく、お前ほどじゃねーよ」

アルバに言われて、自分が全身傷だらけだと気づいた。
特に右手の手首が痛い。

「あ、あの……だ、だいじょうぶ、ですか?」

そこには虐められていたロップイヤーの兎人がいた。
同年代か、年下だろうか。
茶色の毛色で髪色は赤茶。
少年のようで、いかにも気弱そうな印象を受ける。


「馬鹿、大丈夫に見えるかよコイツが」

「す、すいません」

丸眼鏡の少年はアルバが突っ込むと、怯えたように謝る。
ただその怯えが、なんとなく俺に対するもののように感じ取った。

(そういえば俺、半魔だっけ)

アルバといると忘れがちになるが、俺は忌み嫌われる魔族の血を半分も・・・持った存在なのだ。
助けた相手に怖がられても無理はないだろう。
もっともアルバはそれに気づいてないようで、「ったくビビリすぎなんだよー。そんなんだからいじめられんだろ?」と辛辣な言葉を浴びせていた。
口調はこんなだが、アルバのこれは一種の照れ隠しのようなものだと、俺は知っている。
意外と人見知りなのだ、アルバは。
俺は思わず微笑んでいた。

「うわっ、カイのやつ怪我してんのに笑ってやがる……気持ち悪っ」

「ど、どこか打ち所が悪かったんでしょうか……あわわっ、どうしましょう!」

……前言撤回、アルバはただ口が悪いだけだ。
そして地味に本気で言っている丸眼鏡くんの発言に傷つく!
と、今度はアルバが声を出して笑い出した。
それに釣られて、俺も大声で笑った。

「あのぅ、ぼ、僕、エイン。五歳です」

「俺はカイセルだ。よろしくな」

手を差し出すが、エインは無言のまま手を持ち上げることはなかった。
握手することも躊躇われるらしい。

「ごめんなさい、僕……魔の人とはあんまり――」

「おいエインてめぇ!」

案の定エインは半魔である俺のことを好ましく思っていなかった。
だがそれ以上にアルバが激昂したことに俺は驚いていた。
普段は俺が半魔であることを微塵も意識させないアルバが、俺よりも怒ってくれたのだ。

「ご、ごめんなさい!ぼ、僕、怖くて!」

アルバがエインに拳骨を加える。
とっさに「やめてよアルバ、俺は気にしてないから」と言いつつ、続けて殴ろうとするアルバを静止しようと腰を持ち上げると、激痛が走る。
どうやら腰も強く打ったようで、起き上がろうとすると痛みが走るようだった。

「いててっ!」

「ばか、無理すんなって。俺が支えてやるからよ」

「ん、ありがと」

と、そこで近くにタンクたちとの喧嘩を思い出す。
同時にタンクたちの姿が見当たらないことにも気づいた。
俺をボコボコにして、帰っていったのだろうか。
気絶してたせいで、記憶が曖昧だ。

「ところで、あいつらは?」

「……帰ったよ。タンクの野郎が『お前らの顔は覚えたからな!』とか言ってたよ」

「……そっか」

「惜敗ってところだったな。お前もいい勝負してたぜ」

「でもアルバは勝ったんだ」

「あったぼうよ!」

そう言ってアルバは右腕に力を込め、コブをつくってはペシペシと叩いた。
アルバの話によると、俺は殴られたら殴り返し、蹴られたら蹴り返しとなかなか奮闘したようだった。
ただ取り巻き連中は俺が全員倒したらしいのだが、タンクには顔面に一発くらわせられ、それで俺は気絶してしまったらしい。

――情けない。

悔しさで胸が張り裂けそうになる。
惨めな顔を見せたくなくて、俺はしばらく俯いていることにした。
アルバも察しは悪くない。
あえて俺に背を向けて、会話を続けた。

「あのタンクは腕っぷしが強くて有名だからな、仕方ねーよ」

「そうなの?」

「〈大樽のタンク〉って巷じゃ有名な奴だったんだが、やっぱ知らねぇか。知ってたら喧嘩しかけるなんてしねぇしな」

「いや、知ってても同じことをしたと思う」

イジメを見逃すことなんて、あのときの俺にはできなかっただろう。
正義感などではなく、完全な自己満足でしかない。
が、だからこそ、見過ごせなかったのかもしれない。
きっと無意識に、イジメられた経験を克服したいと考えていたのだろう。
今なら立ち向かえると、証明したかったのだろう。

だが、できなかった。
立ち向かえても、結局は力がなければイジメられるし、負けるのだ。
俺は逆にそんな悲しい現実を証明してしまったのかもしれない。

「そうだな……お前はそういう奴だ」

アルバは今、俺がどんな相手でも立ち向かっていく勇敢なやつだと、好感度を上げていることだろう。
親友に好かれることはうれしいが、ここで誤解されたくない。
アルバには事実を言いたい気分だった。

「いや、そうじゃなくて。俺は別に正義感とかで助けようと思ったわけじゃなくて……」

そんな高尚な理由じゃない。
もっと自分勝手な理由なのだ。
だがアルバは何も言うな、と手で制した。

「……イジメられた経験があるんだろ?」

「え、どうしてそれを?」

「わかるさ。実は俺も似たような経験があるんだ」

「え?アルバも?」

「ああ。糞親父が酷く乱暴でよ。母さんは病気で死んじまったし、あの家にいる意味もなくなったんで家出しようと思ったのが去年くらいかな」

五歳のときか。
石投げられたり、前世でイジメられてた記憶が夢にでてきて、苦しんでいる真っ最中の時期だな。
だが苦しんでいるといっても、あくまで精神的ダメージの話だ。

「俺の親父さ、人間相手に商人やってたんだ。んで、人間は亜人を見下すもんだから、商売もあまり上手くいかないことが多いのよ。交渉相手に色々言われたなら、その日の夜は必ず俺を死ぬ寸前まで殴り続けてたよ」

アルバは幼少の頃から精神的にも肉体的にも、相当のダメージを負ってきたのだろう。
喧嘩っ早い性格とかもそんな環境が原因なのかもしれない。

「そんときの俺と同じ目をしてたからな。すぐにわかったぜ」

「そ、それで僕のことを助けてくれたんですね!」

ここでエインがようやく口を挟んできた。
が、明らかに発言はアルバに向けられたものだった。

「さすが僕の親友!会うべくして出会ったんですよ僕たちわ!」

エインが勝手にテンション上がっている。
どうやらアルバは勝手に親友認定されているようだった。

「……いや、見捨てようとした」

「え?そんな……」

エインが非道だ、と驚愕を顔全面に表した。
非情だとでも言いたげな様子に、アルバはもちろん、少なからず俺もコイツをぶん殴りたい気分になった。
それにエインは俺が助けたというより、アルバが助けたと思いたいようだった。
それが時折俺たちを不快にさせる。

「カイが率先してお前を助けようとしたんだよ。だから俺は跡を付いていっただけだ」

もちろんアルバは俺が動かなくても、勝手に飛び出しては喧嘩をけしかけ、見事にエインを救っていたことだろう。
だがあえて、アルバは見捨てようとしたと言った。
それが俺のためだということは痛いほど伝わっていたし、だからこそ俺も訂正はしなかった。


「か、カイセルさんが……ですか?」

「そうさエイン。信じられねーか?」

と、エインはさっとアルバの背後に隠れる。
俺のことを思いっきり警戒しているようだ。

「正直言いますと、信じがたいですね……。僕も〈災厄の悪魔〉の噂は聞いています。とても同じ兎人族とは思えない所業をしていると」

「飯を盗み食いしたり、人様の財布盗んだりだろ?別に貧しい地域じゃ今時珍しくもないじゃねーか」

「そ、そうですが……殺しもやってると聞きました」

「そんな噂信じてんのか?嘘に決まってるだろ。だいたい貧民街じゃ殺人なんて日常茶飯事だ。もし仮にだが、噂が本当だとして、こいつだけ取り沙汰されるなんておかしな話だと思わないか?」

「で、でも!悪事は悪事です!許されることではありません、今すぐ村の治安部隊に自首してくださいっ」

こ、こいつ……。
話をちゃんと聞いていたのか?

「それにカイは見てただけで、盗みとか無料タダ食いとか全部俺がやったことだしなー」

「えぇ!?」

「それでも俺に自首しろってのか?」

「いや……それは……」

「お前はなんだかんだ理由つけて、カイを嫌おうとしてるだけだ。そして俺はよく知りもしないくせにグダグダ言う奴は嫌いだし、友達ダチになんかなりたくねぇ。親友なんてもってのほかだ」

「そんなぁ!僕たち親友じゃあ……」

「なーにが親友だ馴れ馴れしい。いつ俺がてめぇの親友になるっつったよ、俺の親友はカイただ一人だ!」

エインは泣き出してしまった。
そして俺もいい意味で泣きそうだ。
アルバは最初こそ頑なに無視を決め込んでいたが、徐々に引き締めていた表情は歪みはじめ、最後には折れた。

「だぁーうっせ!わーったよ、俺とお前は友達ダチだ!ただし条件がある」

「な、なんですか?グスっ」

「カイとも友達ダチになることだ、いいな!」

「は、はい……わかりました」

「よし、なら認めよう。お前は友達ダチだ」

するとエインはすっかり泣き止み、無邪気に喜び始めた。
アルバがたくましすぎてたまにこれも忘れがちになるが、これが本来の子どもの姿なのかもしれない。
俺は前世の記憶もあり、この中じゃ一番最年長みたいなものだ。
だからなのか、エインの無邪気な笑顔を見て、自然と笑みがこぼれた。
助けてあげられて、本当によかった。
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